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小説書き組合コミュのmyself

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URLの方にUPしていましたが
公開設定ミスってた疑惑があがったので
ここをお借りします

僕は今
好きな人と一緒に道を歩いている。
大通りには音もなく、他の通行人さえいない。
あるのは無機物の抜け殻。
そして二人の影。
僕はうつむいたまま黙ってその人の手を握り、歩いている。
会話なんて思いつかない。つまらないヤツ。
「ねぇ、幸せ?」
急に問いかけられる。よかった、会話を切り出すのは苦手なんだ。
「うん。多分幸せ。」
一言つぶやいて、手を握りなおす。なんて暖かい手。
ムードって便利だよね。会話なんてしなくても時間が進んでくれる。
こういう時の言葉を捜すのって苦手なんだ。消しゴムみたいにして消せないから、いつも慎重になってしまうのかもしれない。
「ありがとう。」
怒ったような
どこか悲しそうな声。
そしてもう一つの手が僕の片にかかって
強引に抱き寄せられて
「ごめんね。」
え?
そっと呟かれて

夢から覚めた。
汗がすごい。体が泣いているみたい。
少し目を閉じ、深呼吸。頭から黒い闇が抜けていく。
よし、落ち着いてきた。

いつもこんな夢を見てしまう。
好きな人と一緒に誰も居ない町を歩く夢。
でも、顔が見えない。わからない。
あれは一体誰なのか。顔を思い出そうとするのも最近はやめている。
簡単な理由。
思い出せないんだ。
でも、夢ってそんなものだと思う。
その人を好きだという気持ちはある。
それが誰だかわからないのに
好きなんだ。
でも、なんで誰だかわからない人を好きだってわかるんだ?
簡単な理由。
夢だから。
夢は現実ではないから何が起きてもおかしくない。
何でも出来る。コツさえつかめば空も飛べるかも?
現実を思い通りにするのは、
夢をかなえるのは、
ちょっと難しい。
いや、出来ない。僕にはゼッタイ出来ないだろう。
簡単な理由。
僕は・・・

〜〜〜

「おはよう。」
ドアを開けた瞬間声が飛び込んできた。
コウジの声だ。
彼とはいつも待ち合わせをして学校に行く。トモダチってやつかな。
「おはよう、ごめん。」
「なにが?」
「時間かかっちゃった。遅刻かな。」
ごめん、って凄く便利な言葉だとおもう。
相手をけん制出来て
責任を誰かに擦り付けることもなく
全てを流れに任せることができる。
みんな自分のせいにしたいんだ。
誰かのせいにするから辛くなる。
「飛ばせば間に合う・・・気にするな。いつものことじゃん。」
はい、素朴な友情の出来上がり。
簡単でしょう?料理の出来ない僕でも楽に作れる。やっぱり便利だ。
きっとコウジも分かってるに違いない。
「ところで、今日はお前どうすんの?」
「なにが?」
「昨日の帰りに言ったぞ。ユウキの知り合いがやってる店に行くって・・・」
思い出した。ユウキの先輩の喫茶店に行くって言ったっけ。
「ああ・・・。いいよ、今日は何も無いし。ついていくよ。」
行くって決めていたのに、保留にしてたんだっけ。
「よし、じゃあ・・・授業終わったら校門の前で。ユウキと待ってるから、早いところ掃除すませろよ?」
「ああ、今日僕が放課後当番か。わかった。待たせないようにする。」
「よし、じゃあまた後でな」

そういうと彼は自転車を校舎の裏に止めに行ってしまった。
自転車が階段を登れればいいのに。
僕のクラスは5階。最上階。朝のささやかな拷問。
「ねぇ、コウジ!」
自分でもびっくりするくらいの大声。今日は調子がいいのかな。
「五階まで肩車。」
「んなことしたら・・・」
「なんかまずいかな。」
「確実に遅刻する。」
「じゃあ、肩車お願いね。」
「冗談だろ?」
みんな人の言うことに、人の考えることに、過剰になりすぎなんだと思う。

人に合わせるのが大事だ。
流行は共用しろ。
是非は多数決。
空気を察せ。
馴れ合え。

そういうの、ウンザリする。
というか、無駄だと思う。
でも
無駄に変な噂立てられるのも嫌かな。
とか考えてるってことは
僕も無意識のうちに空気読んで馴れ合ってるのかな。
「うん、冗談」
空気読むのは嫌い。
でも棚に上げる。
コウジの為にも冗談ってことにしておこう。
「ケチ!」
舌を出して階段を駆け上がる。上履きが悲鳴を上げる。
踊り場に差し掛かるときもう一度舌を出して笑ってやった。
だって
コウジの教室は一階のど真ん中。
ずるい。裏切り者だ。

・・・いや。
彼のためということにして、信条をいつも曲げる僕が
本当の裏切り者なのかもしれない。
ごめんよ僕。ボクのせいだ。

結局自分のせいにするのが皆好きなんだ。


〜〜〜

「おい!おそい。」
「ごめんごめん、担任指導。」
朝に引き続き遅刻。
よりによって掃除のあと先生に捕まってしまった。
遅刻しすぎたかな。
「30分も真夏の道路で立っててみろ、悟りが開けるぞ。」
「ごめんごめん。」
「ユウキは先に行っちゃったからな、追いかけるぞ。」
やっぱり。ユウキは待つことが苦手だ。
自分に正直なんだ。うらやましい。
僕は予定があっても待っててしまうだろう。
「わかった。後で僕も謝っておくよ。」
彼の自転車の後ろに飛び乗る。タイヤが少し沈んだ。
雨が降りそう。
「ふりそうだね。」
「ああ、ふられるなこれは。」
坂を下りてユウキの先輩がやっている喫茶店の商店街へ。
商店街はいつにもまして人が少なかった。
雨が降りそうだからだろう。
遠くで雷の音がする。でもなんかいい気分。
もっと早くこいでくれないかな。
そうすれば
もっとスピードがあれば
もう余計なことが全部道に振り落とされそう。

そんな事願ったら
僕が吹っ飛ぶだろうか。
僕は僕を消してしまいたいだろうか。
それでもかまわないかもしれない。
ああ、でも
コウジがいなくなるのは嫌だな。
ユウキと会えなくなるのも嫌だな。
理解者を探すのはいつだって疲れるもの。
友達は作るの簡単でも
親友となるとそうはいかない。
それに
あの夢を見られなるかもしれない。
「次はお前が運転してくれてもいいんじゃないか?」
「うん、いいよ。帰りは僕の家の前までこぐよ」
それくらいワケはない。いつも僕の遅刻を減らしてくれてるし。
それに
後ろに乗るのも結構疲れるんだ。
任せるのも体力が要るってこと。
「お前の力で俺のっけて自転車が動くかな?」
「馬鹿にするな。それくらい出来る。」
自転車を降りて、丁度喫茶店に入ったとき大粒の雨が降ってきた。
帰りには止むだろうか。

〜〜〜

ユウキの先輩のお店は喫茶店と聞いていたが、邸宅を連想させるつくりのドアを開けると、昔の匂いがした。やさしい木の匂い。
外観だけだと、骨董品屋に見える。
カウンターとしゃれた円卓並ぶ空間の向こうには、大きな壷や酒樽が飾られていた。
そう・・・まるで、一昔前のドラマのセット。結構素敵だと思う。
「これが喫茶店?」
思わず声に出してしまった。悪い意味ではない。
「どこからどうみても喫茶店じゃないかしら?カウンターキッチンに、ほら、コーヒーの匂い、するでしょ?」
声のほうを振り向くと、ユウキがいすに座っていた。
「ああ、ごめん。悪い意味じゃなくて」
「いい意味で変ってこと?」
「変じゃないけど」
「気に入ってくれた?」
「うん。」
お世辞ではない。この空間なら時間を忘れることが出来そうだ。
今日は来てよかったと思う。
ユウキが席を立って僕とコウジの前に立って、手招きをした。
「いらっしゃい。こんにちは。」
カウンター席まで案内された時、奥の扉から男が出てきた。
歳は・・・若い。あまり変わらない気がする。
「こんにちは。あなたが・・・」
「そう、私の部活のOBで、この喫茶店のオーナー。」
ユウキが手を指して紹介をした。
「一之瀬だ。よろしく。」
格好いい声。
独特のハスキーがかった声が一層男らしさを引き立てている気がする。
「どうも、俺、上原です。ユウキのクラスメイト。そんでこいつが・・・」
「栗山です。初めまして。」
声が上ずってしまっただろうか。人と話すのは苦手だ。
でも挨拶は社交。ここでしない理由もないし。
「あたしは水上。」
「ユウキは自己紹介いらないだろ。」
「いーのいーの。こういうのってナンか良いじゃん。ドラマみたいで。」
「ユウキは芝居がかった事好きだな〜。」
若干呆れた感じのコウジの声。改めて声を注意して聞いてみるとちょっと低くてどっしりした声。格好いいというより、強そうな声。
「なによぉ。いいじゃん!」
「男と付き合ってるとき、演技だって思われるぞ。」
「大丈夫。演技とすら気づかせないから。」
「本心を見せないのか!そんなんアリかねぇ・・・。」
「出来るオンナはねぇ〜メイクは顔だけじゃないよ?てかコウジ、あんた色々わかってなさすぎ。でもそれがコウジっぽいよね。」
ユウキがコウジの肩をつついて笑った。小悪魔の笑みってこういうのを言うのだろうか。
「おい・・・まるで俺がダメな男みたいな言い方しやがって!」
「事実を言っただけでしょ。だいたいあんた、あたしにばっかり相談してさぁ・・・。」
くくっ、とくぐもった笑い声。ユウキは舌を出してにやりと笑う。
「ほっとけ悪女め。」
「本心打ち明けられないキミに、あたしの事をとやかく言う資格はないですよぉ?コウジ君。」
軽く舌打ちしたコウジは、コーヒーを半分ほど一気にあけてしまう。
当たり前。口喧嘩でユウキに対抗するのは並大抵の事ではない。
しかもストレスという置き土産までついてくる。
それでも必要以上の恨みを買ったりせず、憎めない所が彼女の小悪魔話術、そして魅力なのだろう。
実際彼女が挑発しているときって、結構男子にはツボらしい。
まぁ、コウジは本当に怒っているだろうケド。
「ユウキは、そんなにしゃべるのが上手くていいよね。」
本当にしゃべるのが得意な人って尊敬する。
だんまりしてしまう人間って面倒くさいもん。要するに僕。
「そう?あなただって普通にしゃべれるじゃない。」
「全然、途中で何を言っていいかわからなくなるし。それに言ってから後悔したり、それでまたどもったり。」
「それが普通だと思うぞ。」
コウジが口を挟む。
「だって考えてみろ。みんなセリフ噛まなかったり、口を滑らせてないと思うか?政治家のビックリ発言とか、アナウンサーの放送事故とか・・・」
「世の中ミスであふれかえってる?」
「そーだ、そういうこと。ユウキは演劇部で口が達者なだけ。お前は全然フツーだよ。それに少し口数が少ないとなんかクールだし。」
「コウジもたまには良い事言うじゃん。そうだよ、無口な分いつも人のこと見てるジャン。そういうの、凄いと思う。」
ユウキが笑いながら言う。でも目は真面目だ。
「たまには、は余計だ。」
「うん、ありがとうコウジ、ユウキ。」
「なにが?」
「なんでも。」
ちょっと恥ずかしかった。
ちょっとうれしかった。
笑って窓に目をそらした。
外は激しい雨。さっきより強くなっている。
本当に空が泣いているみたいだ。

なぁ、彼らになら話てもいいんじゃないか?
いや、駄目だ。
僕は普通ではない。コウジもユウキもわかってない。
普通じゃないんだ。
誰も気づいてくれない。
しょうがない、誰も内面は覗けない。
僕自身も。

・・・そういえば、誰かが外見より内面重視で女の子を選ぶ、って言ってたっけ。
ありえないと思う。
見えないものをどうやってみるというのか。
性格?キャラクター?
それは僕にいわせれば内面じゃない。外見だ。
顔や
胸の大きさ
スタイルとかと同じ
外見だ。
内面って言うのは、本当に見えない。そう、心の闇の部分だとおもう。
だってそうでしょう?
性格は演じることが出来ても、
内面は演じることが出来ない。
だって
そもそも
自分でもよくわからないもの。それが僕の内面。
「雨、すごいな。」
コウジがふとつぶやいた。僕は時計を見る。少しぼーっとしてたみたい。ユウキとなんの話をしたのかな。
「あーあ。やだなぁ雨。」
ユウキが伸びをしながら席を立った。キッチンの奥に声をかける。
「一之瀬さん、雨やむまでいてもいい?」
「かまわないよ。」
「ありがとうございます!」
「追い出して風邪でも引かれたら、こっちも困るからね。」
含みわらいをしながら一之瀬さんが何かを持ってきた。
「はい、これはサービス。いつでも来てよ。」
真っ黒なチョコレートケーキ。
飾られたホワイトチョコが綺麗だ。
「わぁ。ありがとうござます!」

何気ない風景。
何気ない会話。
普通の日常。
友達と会話して
お菓子を食べて
一緒に笑って
一緒にしゃべって
もう、笑っちゃうくらいフツーの幸せ。
どうして
僕にはできないのだろう。
どうして好きな人と一緒に歩けないのだろう。
どうして。
なぜ。

「おい、お前泣いてるのか?」
コウジのたじろいだ声が聞こえる。
「ねぇ、どうしたの?大丈夫?」
ユウキまで席を立って僕の隣に来た。
「ごめん、大丈夫。少し疲れてるかも。」
人前で泣くなんて。
格好悪いと思う。
卑怯だ。こうなるのをどこかで予想していたのか。
ごめんね僕。ボクのせいだ。
僕がこんな・・・
「ちょっと、トイレ。」
これ以上、こんな顔みられたくない。
「トイレは、向こうだよ。」
「ありがとうございます。」
一之瀬さんに軽くおじぎをする。
目が合った。
深い目。
「ん?」
「あ、いえ・・・なんでもないです。トイレ、お借りします。」
足早に店の奥へ。もう、こんな顔見られたくない。

〜〜〜

トイレに駆け込み、扉にもたれかかる。
辛い。
苦しい。
さっきの嬉しい気持ちはとうに吹き飛んでしまっている。
でも確かに嬉しかった。
ちょっとだけど嬉しかった。
それを覆す、僕の心の闇。
なんで、僕はこんなに苦しまなければならないのだろう。
なんで、僕はこんなに悲しい思いをしなければならないのだろう。
「なんで・・・」
自分の嗚咽が聞こえる。ああ・・・嫌だ。
あの時もっとコウジが自転車を飛ばしてくれれば。
この嫌な気持ちを置き去りにして
全てと別れて
ただ、普通の平穏を
得ることが出来たかな?

・・・いや、無理だろうね。
スピードだけじゃ、僕の闇は拭えない。
それなのに僕はコウジのせいにしようとしてしまった。最低。
僕の問題なのに、コウジのせいに出来るはずが
そんな資格があるものか。
あるわけがない。
彼は僕を乗せなくても、待っていなくてもよかったのに。
あんな疲れることしなくてもよかったのに。
そういえば、コウジは自転車を二人乗りでも軽々と動かしていたっけ。
上り坂はなかったけど、あんなに安定させるのはすごい力がいるだろう。僕はどちらかといえばやせているけど、人が一人乗ると自転車って走り出しがすごい難しい。
それなのに今日だけじゃなくて、毎日乗っけてくれる。
まぁ・・・つまり
コウジはいいやつってこと。
ユウキも僕を気遣ってくれる。
前のクラスでは、先生との通訳もやっててくれたっけ。

そう。

毎日僕は誰かに依存しているわけ。
それでいて、主義主張だけアピールしてもしょうがないよね。
ああ・・・駄目だ。
苦しい。
君に会いたい。
会いたい?
誰に?
誰だろう、あれは。
夢の中だけで会える・・・
あの人。
なんとなく知っている気がする。でも、顔がわからない。
いや、思い出せないだけ。たぶん夢では覚えているはず。

会いたい。
ここにいるよ。
どこ?
君の前にいる。
「そんな・・・」
顔を上げると、そこに人が立っていた。僕と少しだけ離れている。
ウチの学校の制服だ。
「やっと会えたね。」
「君は?」
おそるおそる、聞いてみる。
ユウキの知り合いだろうか。
ココの店をしってる?演劇部?
「僕?僕はノゾミ。」
ノゾミ・・・。ユウキのクラスにそんな子がいた記憶は・・・ない。
「そう・・・。どうしてここにいるの?ユウキの知り合い?」
後ろを振り返る。
トイレのドアは開いていた。というより、この空間がトイレとロビーをつなぐ空間だというのに、今やっと気づいた。
トイレに入って来た訳ではない。

よかった・・・。
よかった?
なんだか、おかしくなってふきだしてしまう。
「僕も君と会いたかった。」
「え?」
「忘れたの?僕と一緒に町を歩いたじゃない。ほら・・・」
まさか、そんな。
ありえない。
「嘘。なんで僕の夢を知っているの。」
「あれは夢なんかじゃない。事実だよ。」
うそだ。
うそ。
でも・・・
夢の中で聞いた声。
暖かい声。
この声だ。
わかった。僕は、彼に会いたかったんだ。
闇が晴れた。
「どうして・・・。」
僕は言葉が出なかった。
どうして、今ここで出会えたのだろう?
「君が会いたいと言ったからかな?」
彼がくすりと笑いながら言う。
馬鹿馬鹿しい。そんな冗談みたいなこと・・・
でも。冗談でも嬉しい。
だって、会えるはずの無いと思っていた人に会えたんだもん。
「ねぇ。どうしてここに?」
「んー。なんでかな。君がここにいると思ったから。」
「ユウキから聞いたの?」
「いいや?」
「そっか・・・。」

そんなことはどうでもよかった。
ただ、会えたのが嬉しくて
あの時のように
言葉が出てこないだけ。
つまらないヤツ。
「どうして、今・・・なの?もっと前から・・・会いたかった・・・」
駄目だ。涙が止まらない。嬉しいのに涙が出るなんて、変。
ちゃんと言えているかどうかすら、わからない。
「ごめん。遅くなった。」
僕は手を伸ばし一気に彼のところへ駆け寄って
抱き寄せて
「ううん。嬉しい。」
胸に顔を埋めて。
彼の服を涙でくしゃくしゃにしてやった。
待たせた罰だ。
僕が会いたいと知っていながら。
遠くで見てるだけだなんて。
「ありがとう。」
僕の肩を抱いてくれた。
暖かい手。
そう、この手。
「ごめんよ。僕のせいで悲しませて。」
頭のそばで彼の声がする。
「ううん、そんなこと・・・」
もっと。
もっときつく抱いていたい。

もう、お互い何も言わなかった。
どれくらい時間が過ぎただろう、よくわからない。
永遠にも感じられたけど
すぐだったかも。

「僕は君が大切だ。だから、君を壊したくなかった。でも、もういい・・・。僕は君が・・・」
彼は言い終わらないうちに、ゆっくり僕の腕を解き
僕の髪をどかして
静かにキスをした。

空気のような淡い
白い感じ
ゆっくり髪をなでながら
肩へ
腕へ
彼の手が滑っていく。
両手で手を握られた。

「先に行ってる。」
先に?
ああ、そういうことか。せっかちだ。
でも僕のためだ。
優しい。
「待ってて。すぐいく。」

気配が遠ざかっていく。
僕が目を開けたとき、彼はもういなかった。
ドアも閉まっている。
結構経ったかな。
今、何時だろう?
時計を見る。
ケーキをもらってから30分経っていた。
ああ、流石にそろそろ行かないとな。

それにしても
かなりすっきりした気がする。
いや、すっきりしてる。
もう、悩むことも無い。
彼に会えた。
それが嬉しい。

さっきは僕を守ってくれた
僕を一人にしてくれた
この扉。
ありがとう。でも、もう大丈夫。
僕は普通に、笑えると思う。
これから。ずっと。
コウジとユウキと三人で
笑える。

勢いよく扉を開けた。ロビーから空気が入ってくる音が少しした。
皆心配しているだろうか。吐いてるとか思われてるかも?
ああ、でもそれでもいいか。
だって
これは、秘密にしなきゃ。

ほら、好きな人が出来ても
内緒にしたいときってあるでしょう?

〜〜〜

「お、戻ってきた。」
「大丈夫?気分はどぉ?」
二人が口々に聞いてくる。なんだかおかしかった。
「ああ、うん。大丈夫。ごめんね。なんでもないんだ。」
笑いをこらえる。嬉しい気持ちと、秘密を隠すのは難しい。
「ならいいんだ、てっきり俺らが酷いこと言ったのかと思った。」
コウジが目を細めて僕のほうを見る。
「そんな。コウジとユウキには、いつも励まされてる。ありがとう。」
「なんか、照れるねぇ。コウジ?」
「ああ。なんか、らしくないぞ。」
ひどい!
僕はそんなにドライなのだろうか。
事実かもしれないけど。
これからは少しホットになる・・・気がする。
「あ!ほら!」
ユウキが叫んだ。窓をさしている。
「お、晴れてるじゃん。」
コウジが手をかざしながら空を見てる。
僕も、真似をして空を見上げてみた。
雲ひとつ無い快晴。
オレンジ色の夕焼けがきれい。
このお店に合う景色だな、と思った。
また来よう、と思う。次はもっと楽しく。
「よし、じゃあぼちぼち帰るか。お邪魔しました。ご馳走様です。」
運動部男子特有のイントネーションで御礼を言ったコウジは、そのまま外に出て行った。きっと自転車を出してくれるんだろう。
ああ、そういえば僕の番だっけ。
「じゃあ、先輩。また遊びに来ますね。」
そういってユウキもコウジの後に続いていった。
後姿も綺麗だと思う。いいなぁ。
「ごちそうさまでした。」
軽くおじぎをして、出て行こうとしたとき
「いい顔してるね。入って来たときは難しい顔をしてたけど。」
カウンターに頬杖をついて、一之瀬さんが笑っていた。
「ありがとうございます。」
ちょっと照れくさかった。
にやけてしまう。
「またおいで。」
「はい!」
もう一度お辞儀をして
僕はお店を出た。

〜〜〜

「じゃあ、私はこっちだから。またね!」
ユウキが手を振った。
「また明日。」
僕とコウジも手を振る。
ユウキの自転車が見えなくなるまで、見送った。
「さて・・・それじゃ、俺らも帰りますかね。」
コウジが肩を叩いてきた。
「はいはい。」
にやりと笑って、僕は自転車をこぎ出した。
コウジをのせているのに
軽い。
空気に乗っかっているみたいだ。
お店からの帰り道はゆるやかな上り坂だけど、全然気にならなかった。
きっと僕は笑っていたと思う。
自転車をこいでいるとき
ずっと笑っていた気がする。

コメント(1)

〜〜〜

僕の家につく頃には、ちょっと空の青みが深くなっていた。
結構こいだと思う。でも全然疲れていない。
「よしついた。ありがとよ。ま・・・明日は遅刻するなよ。」
コウジの声、大きい。
親にばれたらどうするんだ。もう遅いだろうケド。
「バカ!今日は時間通り起きたことにしたいんだって。」
「んなもん、お前・・・嘘はいけないなぁ?」
声を出して笑っている。
くそ、今に見てろ。
いつか僕が早起きして彼の家のベルを叩いてやる。
「わかったわかった。明日も頼むよ、コウジ。」
「しょーがねぇーなぁー。・・・おい。少しは自分で努力しろよ?」
「ウルサイ!」
舌を出して、そして二人で笑った。
こんな笑えたことは、あっただろうか。
やっぱりコウジはいいやつだ。
ユウキとコウジはこれからも僕の大切な親友。

いつか、二人には話そうと思う。
今日の事。
いつかは分からないけど
その時が来たら
絶対。
信じてもらえるかな。
いや、信じてくれる。
だって、事実だもん。

「じゃあ、またね。」
「おう、またな。」
コウジが自転車にまたがって手を振った。
「バイバイ。」
僕も手を振る。
そして背中を向けて家のドアを開けようとした時−−−
「おい!ノゾミ!」
呼び止められて、慌てて振り向く。
「なぁに?」
少しの沈黙。
「なんでもない。」
「なにそれ。」
「さぁ。」
「バカ。」
笑いながらコウジは家に入っていった。隣の家のやかましい住人。
僕も同じように家のドアを開けた。
「ただいま。」
少し大きな声でリビングに向かって叫ぶ。

少し
少しだけだけど
今日という日が
嬉しかった。

・・・彼に会えるだろうか。
うん、きっと会える。
夢の中で。

〜〜〜

僕は今
好きな人と一緒に道を歩いている。
大通りには音もなく、他の通行人さえいない。
あるのは無機物の抜け殻。
そして二人の影。
僕はうつむいたまま黙ってその人の手を握り、歩いている。
会話なんてない。
なくても大丈夫。
「ねぇ、幸せ?」
急に問いかけられる。
「うん。幸せ。」
一言つぶやいて、手を握りなおす。なんて暖かい手。
会話なんてしなくても暖かい。
嬉しい。
「ありがとう・・・。」
どこか泣いているような声。
そしてもう一つの手が僕の片にかかって
強引に抱き寄せられて

「好きだ。」
そっと呟かれて

「僕も。」
そっとつぶやき返して

また、明日が始まる。
〜〜〜

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