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小説書き組合コミュのついてない日

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 別サイトで公開した作品を手直ししたものです。
 とあるサイトにある『ランダムお題ジェネレータ』で出した、3つの単語を用いて書いた習作です。
 今回使った単語は『住宅街』『撃つ』『栗』
 かなり軽いノリですが、お読みいただけたら幸いです。


『ついてない日』

 気がついたら、俺は周囲を敵に囲まれていた。
「まったく、今日はついていないぜ」
 そう毒づきながら、手にしたSIGザウエルの弾倉を取り替える。残弾は残り少なく、敵の工作員はまだたっぷり残っている。
「ほ、本当にたどり着けるんだろうね!?」
 俺の後ろに隠れている小太りの中年男が、怯えた表情と声でそう尋ねてくる。まったく、それは俺の方が聞きたいところなのだが、しかし仕事柄そんなことを口にするわけにはいかない。
 だから、俺は精一杯不敵な表情を浮かべて言ってやった。
「俺に任せろ。絶対ショウエイマートの本部までお前さんとその書類を連れていってやる」
「うう……」
 小太りの中年男は、情けない声を上げると手にしていたアタッシェケースを両腕で抱きしめた。いい年こいて泣きそうなツラなんかするなよなぁ。
 そう、今回の俺の任務は、この荒事とは無縁そうなスーツ姿の中年男――こう見えても部長の肩書きをもってやがるんだが――と、彼の持つある“情報”をショウエイマートの本部まで無事に運ぶことだ。途中、同業他社の妨害工作があった場合は、実力をもって排除すること――俺の上司であるショウエイマート駅前南店の店長は、いつもどおりのしかめっ面で俺に命じた。まあ、店長のしかめっ面は今に始まったわけじゃないんだけどな。去年近くに競合店が出来てからこっち、店の売上は下がる一方だからだ。店長も本部からいろいろ絞られているんだろう。
 おっと、俺の紹介がまだだったな。
 俺は普段、ショウエイマート駅前南口店っていうスーパーマーケットでほうれん草を売り場に出したり、胡瓜を袋詰めしたり、トマトをラップで包んだりする日々を送っている、まあ、いわゆるスーパーの青果担当の店員というヤツだ。ちなみにショウエイマートは全県に店舗を二〇軒ほど展開していて、地元でもけっこう名の知れた企業なんだぜ。
 だけど、ショウエイマート駅前南口店の青果担当ってのは実は表の顔。俺の本当の担当は、ショウエイマートに関わるあまり表沙汰にできない仕事――例えば競合店の販売情報を盗んだりとか、同じく競合店の優秀な従業員を暗殺したりとか、そんな非合法な活動を行う企業工作員なのさ。
 何をバカなことを、なんて思うかもしれねぇな。でも、これが真実なんだから仕方がない。それに、非合法の企業工作員を雇っているのは別にショウエイマートだけじゃないんだぜ。さっきも言った近くに出来た競合店――イトユーだって工作員を雇っているんだ。しかも、向こうは全国規模の大手スーパーなもんだから、俺ら地方の中堅スーパーとは比較にならないくらい大量の工作員を囲ってやがる。
 でもって、なんで俺がついていないかっていうとだな……その“俺のスーパーとは比較にならないくらい大量の工作員”が、俺たちのことを何としても仕留めてやろうと躍起になって追いかけてきているからなんだ。
 もちろん、あいつらの狙いは俺が守っている部長の肩書を持つ中年男。より正確に言うなら、中年男が手にしているアタッシェケースの中身だ。それだけの価値あるものがこのアタッシェケースの中に入っているわけだ。もちろん、何が入っているかは絶対の秘密で、部長殿は俺にさえ教えようとしない。まぁ、実のところ中身の想像は大体ついていたりするんだがな。
「おっと!」
 背後から近づいてきた工作員に向かってSIGザウエルを撃つ。三発。九ミリの弾丸を身体に食らった工作員が悲鳴を上げながら地面に倒れる。素人が。死ぬときにも声を出さないのは工作員の基本だろう?
「ま、こんなところで隠れていても仕方がないな……行くぞ!」
 俺は背後で震えている部長殿に言うと、身を隠していた塀の裏から飛び出した。その後ろを、アタッシェケースを両腕で抱えた部長殿があわてて追いかけてくる。呆れるくらい遅いスピードでだ。まったく、本部所属の連中も身体を鍛えるようにあとで店長に進言しておかなきゃいかんね。こんなんじゃ命がいくつあっても足りねぇぜ。


 奴らも、さすがに住宅街のど真ん中では派手な真似は控えた様だ。駅から住宅街までの比較的民家がまばらなところじゃ、奴らなりふり構わず撃ってきやがったからな。つーか、人間二人を殺すのにRPG-7を持ち出したりするか普通?
 まあ、愚痴っていてもしょうがない。とりあえず追いかけてきた連中の半分は何とか倒したが、それでもまだ十人近い工作員が残っている。ここはさっさとケツをまくって本部に逃げ込むのが吉だ。
「さて、どうしたもんかな」
 本部までの距離は約五〇〇メートル。間にあるのは見通しのいい直線道路のみ。普通であれば歩いて一分とかからずにたどり着けるんだが、多分敵どもは道路に沿ってそこかしこに待ち伏せているだろう。普通に走ったんじゃ蜂の巣にされて終わりだな。あ、いや俺一人だけなら何とか突破できる自信はあるが、この見るからに運動神経が皆無そうな部長殿を連れてとなるとなぁ。
「まあ、最悪お前さんの持ってるアタッシェケースだけでも本部に届けられればいいんだけどな」
「そ、そんなぁ」
 俺の意地悪な言葉に、部長殿の顔がたちまち青ざめる。実のところ、俺の上司も同じような事を言っていたんだけどな。ま、要するに任務の優先順位ってヤツだ。とはいえ、やっぱり護衛の対象が途中で殺されてしまったらさすがの俺も寝覚めが悪い。つーか、俺の工作員としての評価にも大きく関わってくる。
「そんな情けない顔しなさんな」
 俺はとりあえずそう言って部長殿を安心させると、懐から携帯電話を取り出した。
「ここは素直に援軍を呼ぶことにする。ちょっとばかり予算オーバーになるかもしれないが、まあ、上も大目に見てくれるだろう」
「え、援軍?」
「そ。腕のいい運び屋さ」
 携帯電話のボタンを押しながら、俺はふと思った。あいつ、今レジのシフトに入ってなければいいけどな……


 運の悪いことは続くもので、俺が呼び出そうとした運び屋は、ただいまレジにて接客中のためすぐには動けないということらしい。
「まったく、本当についていないぜ!!」
 電信柱を遮蔽物にしながら、俺はSIGザウエルを連射する。なかなか道路に飛び出してこない俺たちに業を煮やした敵どもが、次々と姿を現して俺たちのほうへ向かってきたのだ。
「うわっと!!」
 敵の放ったSMGの一連射が、俺の頭の上を掠める。まったく、大手と零細じゃ人数だけじゃなく火力まで段違いらしい。とりあえず弾が飛んできた方向へ数発撃ち返した俺は、電信柱を背に座り込むとSIGザウエルの弾倉を交換した。
「これが最後の弾倉だな」
 呟く俺。この最後の十五発を撃ち尽くしたら、残る武器は俺自身の肉体――徒手空拳のみとなる。もちろん、殴り合いにおいてもそんじょそこらの奴らに負けない自信はあるが、しかし相手がSMGを装備した工作員の群れとなると話は別だ。つか、普通はそんな状況になったら降伏を選ぶものだろう? 
 だが、悲しいかな俺も相手も非合法の工作員。白旗を振ったところで容赦なく俺と部長殿を撃ち殺しちまうに違いない。俺も相手が降伏したなら情報を聞くだけ聞いて始末するだろうからお互い様なんだけどな。
「畜生、早くこねぇかな!!」
 盛んに射撃を浴びせてくる敵工作員に応射しながら、俺は祈るように呟く。神様仏様。だが、日ごろ不信心な俺が急に祈りを捧げたところで神様もはた迷惑なだけだろう。そんなわけで、俺の真摯な祈りも空しく、迫ってきた敵工作員の胴体に弾丸を三発撃ち込んだところで愛用のSIGザウエルは打ち止めとなってしまった。
「くそっ、弾切れだっ!!」
「ど、どうするんですっ!!」
 部長殿が蒼白な顔で俺の服の袖を引っ張る。そんなの俺の方が知りたいっつーの。
 こちらが弾切れになったことに感づいたのか、敵の工作員どもがSMGを構えながらゆっくりと包囲を狭めてくる。極めて慎重に、だ。まったく厭味なくらい優秀な工作員連中だぜ。どうせ勝負はついたんだから油断くらいしてくれりゃいいのによ。
 とはいえ、そんな後ろ向きな感想を抱いたところで状況が好転するはずもない。俺の悪運もここまでだって神様がいうんなら、仕方ねぇ、覚悟を決めるか。
 俺はブーツから細身のナイフを引き抜くと、背後でうずくまっている部長殿に振り向いた。
「いいか、俺が敵どもを引き付けるから、お前さんは俺が合図したら死ぬ気で本部まで走れ」
 そこから先は部長殿の運次第だ。ま、日ごろの行いは俺なんかに比べたら百万倍もいいだろうから、神様もちょっとは微笑みかけてくれるだろう。
「は、はい」
 部長殿がこくこくと頷く。みっともないほど膝を震えさせながら。俺は部長殿の肩をぽんと叩くと、再び視線を前の方に向けてナイフを構えた。とりあえず指揮官を潰せば、多少なりとも隙ができるはずだ。頭にきた部下どもが我を忘れて俺に射撃を集中させればくれればなお良い……いや、俺は蜂の巣になっちまうんだからあまりよくねぇんだけどな。
 だが、俺の悪運はかろうじて残っていたようだった。
 死を覚悟した俺の耳に、聞き覚えのある排気音が飛び込んでくる。やったぜ、まさに捨てる神あれば拾う神ありってヤツだ。一度は神様に見放されかけた俺たちに、別の女神様が救いの手を差し伸べてくれたのだ。3.8リッターV型六気筒エンジン搭載の4WDを操る、とびっきりキュートな女神が。
「おっ待たせーっ!!」
 底抜けに明るい声と共に、俺たちの目の前にパジェロが滑り込んできた。運転しているのは、ショウエイマートの制服を着た若い娘。ショウエイマート駅前南口店の新人レジ係にして、俺も一目をおいている腕利きの運び屋だ。見た目も言動もまだまだ子供っぽいが、車の運転に関しちゃこいつの右に出るヤツはいねぇ。
「助かった!」
「いいから早く乗って!」
 運び屋はサイドウインドウからイングラムMAC11を乱射して敵の工作員どもを牽制している。俺はアスファルトにへたり込んだ部長殿の身体を引っ張りあげると、互いにもつれるように車内に転がり込んだ。もちろん、部長殿の持つアタッシェケースも一緒にだ。
「出せ!!」
 ドアを閉めて叫ぶ。運び屋はこくんとうなずくと、ギアをローに入れてアクセルを目いっぱい踏み込んだ。
 パジェロは派手にタイヤを軋ませながら急発進、敵工作員の包囲網を強引に突破する。あとはひたすら逃げの一手。後ろから工作員どもがSMGをさかんに撃ってくるが、全速力で遠ざかる車にそうそう弾丸は命中するものじゃあない。ふん、ざまーみろってんだ。
 遠ざかる工作員どもにリアウインドウ越しに“べろべろばぁ”をした俺は、改めてシートに座りなおすと鼻歌交じりでハンドルを握る運び屋に不満を表明した。
「来るのが遅えぞ」
「仕方ないでしょう、レジ業務から抜けられなかったんだから」
 新人だから交代してくれって言いづらいの、と彼女は愚痴る。まったく、こっちはあと五分遅れてたら死んでいたんだぜ。店長ももう少し融通を利かせろってんだ。


 銃痕だらけのパジェロで本部敷地に飛び込んだ俺たちは、待ち構えていた本部の人間に部長殿の身柄とアタッシェケースを引き渡した。これで任務完了。後で俺が勝手に運び屋を呼び出したことについて店長が二言三言文句を言うだろうが、まあ、そいつは軽く聞き流しておくことにする。どうせ予算オーバーで頭を悩ますのは店長だ。俺の知ったことじゃあない。
 え、アタッシェケースの中身は何だったかだって?
 決まっているだろう。来週の月曜日に放送される、お昼の情報番組で取り上げられる食材についての情報さ。
 いいか、その番組を見た奥様方は、夕方になるとこぞって番組で取り上げられた食材を買いに来る。で、前もって番組で何が取り上げられるか分かっていれば、俺たちも事前にそいつを仕入れできて売り逃しをせずに済むって寸法さ。本来ならばそのテの情報はTV局も部外秘にしてるんだが、うちの部長殿はわざわざ東京まで出向いて情報を掴んできたのさ。
 で、月曜日に番組で取り上げられる食材は“栗”
 そんなわけで、本部から店に戻ってきた俺は、バックヤードに隣接する作業場でひたすら栗を袋に詰める作業をしている。傍らには俺の身長ほどに積み上げられている膨大な栗の山。報告その他を終え、へろへろに疲れた身体を引きずって戻ってきた俺に、店長はこの栗の山を明日の朝までに全部袋詰めしろって言いやがったんだ。
 まったく、今日は本当についていないぜ。

コメント(2)

栗(笑)
今や情報は最大の武器なので書き様によってはシリアスにもなり得る展開ですが、「スーパーマーケット」「栗」とかでかなり軽い話に…。

援助の子が来る辺りがちょっと強引で雑な感じもしますが、この軽快さは好きです。
おもしろいです(笑)。
こういう感覚は好きですね。
ちょこっと気分転換に読むのがいい感じ。

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