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こころとサイエンスコミュの[長文]偏頭痛の新薬を目指して

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[長文]偏頭痛の新薬を目指して

<前兆から痛みまで偏頭痛の医学的な謎がようやく解明されつつある
D.W.ドディック(メイヨークリニック) J.J.ガーガス(カリフォルニア大学)のレポートから>

偏頭痛に苛まれている3億人以上の人にとって、この頭痛は耐え難い拍動性(はくどうせい:ズキンズキンする、或いは心臓の拍動に伴い痛みが変化する)の痛みが特徴だ。

偏頭痛の苦しみを知らない人にとって一番近い経験といえば、重度の高山病かもしれない。吐き気や光に対する過敏を伴って、焼きごてをあたられたような頭痛が生じ、とても起きてはいられない。

歴史の記録によれば、人類は少なくとも7000年に渡ってこの病気と付き合ってきた。しかし依然として誤解が多く、疾患として十分に認識されず、適切な治療が行なわれていない病気だ。

事実、偏頭痛に苦しめられながら治療を受けようとしない人は多い。そうした人の多くは、医者はほとんど役に立たないか、あからさまに疑いの目を向けて敵意のある態度をとるものと考えている。しかし、ようやく、偏頭痛にしかるべき注目が集まり始めている。

その背景には複数の疫学研究によって、このタイプの頭痛がいかに多く、日常生活をいかに困難にさせているかが明らかになったことがある。

世界保健機関(WHO)のある報告は、偏頭痛を日常生活に支障をきたす四大慢性疾患の1つであると形容した。さらに米国で懸念されているのは、偏頭痛が原因となる経済損失(労働損失、障害給付金、医療費など)が年間107億ドルにも上ることだ。

そして何よりも、遺伝子や脳画像、分子生物学などの研究から偏頭痛についてのさまざまな新事実が明らかになり、関心が高まってきた。研究成果の内容はさまざまだが、目指す方向はほぼ一致し、互いに補強しあっているようだ。偏頭痛の原因の根拠にたどり着き、頭痛の予防や発作を止めるより良い治療法を開発できそうだ。

<痛みの原因を突き止める>
■偏頭痛は単なる頭痛以上のものだ。激しい痛みといくつかの独特の段階を伴う。
■かつては血管の病気であると考えられたが、最近の研究では神経系の病気としてとらえられ、皮質に広がっていく神経細胞の興奮の波とかかわりがあることがわかった。

■偏頭痛の根源は、脳幹の機能不全にあるかもしれない。
■偏頭痛を患う患者の2/3は15〜55歳の女性であることから、エストロゲン(女性ホルモン)がなんらかの役割を果たしているのかもしれない。
■偏頭痛の痛みの原因をめぐって議論が続いているが、数々の発見によって新たな治療法の開発が可能になりつつある。

<血管ではなく神経系の病気>

偏頭痛の原因に関する考え方が説得力をもつには、多岐にわたるさまざまな症状を説明するものでなくてはならない。偏頭痛の発生頻度や持続期間、発作のきっかけ、自覚症状は、人によって大きな差がある。発作の頻度は月に1〜2回という人が多いが、患者の10%は1週間に1回の頻度で発作を起こし、20%は発作が2〜3日間続く。また1か月に15日以上発作が生じる患者も14%いる。

多くの場合、痛みは頭の片側を襲うが、つねに片側だけというわけではない。偏頭痛になりやすい人は、さまざまな状況が引き金になる。飲酒、脱水、身体運動、月経、情動ストレス、天気の変化、季節の変化、アレルギー、睡眠不足、空腹、標高の高い場所、蛍光灯のちらつく明かりなどだ。

1980年代頃までは、ニューヨーク・プレスビテリアン病院のウォルフ(Harold G.Wolff)をはじめ数人の医師の観察結果と推測に基づいた「偏頭痛の痛みは脳の血管の拡張と伸展からきており、その信号を伝達するニューロンが活性化されるときに痛みが生じるという血管説」が幅をきかせていた。

脳の血管が収縮して血流が低下したあと、血管が拡張・伸展するときに痛みが生じるとウォルフは考えた。

しかし、脳スキャンから得られた新しい観察結果によって、血管の変化に関する見方が変わった。多くの場合、痛みが生じる前には血流の減少ではなく増加が起こることがわかった。血流が約4倍に増えるのだ。もっとも、痛みが生じている最中は血流は増加しない。

それどころか、循環血の量は正常値か、むしろ減るようだ。血流に関する認識が変わっただけでなく、偏頭痛の原因に関する見方が変化した。現在では、偏頭痛は神経系の最も原始的な部分、脳幹から起こるとする説もある。

<偏頭痛がたどる4つの段階>
多くの頭痛と違って偏頭痛にはいくつかの独特の段階があるが、患者がそれらすべてを経験するとは限らない。これは偏頭痛の理解を妨げる原因の1つだ。
(数字はそれぞれの段階を経験すると回答した患者の割合)

□前駆症状期 … 60%
典型的な特徴:集中困難、疲労感、あくび、光や音に対する過敏性
持続時間:2〜3時間から2〜3日間

□前兆期 … 30%
典型的な特徴:閃光(せんこう)や光の幻視が生じ、そのあと光って見えた幻覚が同じ形のまま暗く見えることもある。
持続時間:20分〜1時間 

□頭痛発作期 … 100%
典型的な特徴:耐え難い痛みがあり、光と音に対する過敏性、吐き気、嘔吐を伴う。痛みが頭の半分に及ぶこともある。
持続時間:4〜72時間

□発作消退期 … 70%
典型的な特徴:光や身体の動きに対する過敏性が持続するほか、極度の眠気や疲労感、意識の集中困難が見られる。この段階を「ゾンビ期」と呼ぶ患者もいる。
持続時間:2〜3時間から2〜3日間

<脳の中で嵐が起こると>
この新たな見方は、偏頭痛を2つの側面から調べた結果として得られた。1つは痛みの前に生じる「前兆」(患者の30%に見られる)、そして「頭痛」そのものだ。

前兆(aura)という後は、てんかん発作の直前に生じる幻覚を指す言い方として2000年近く用いられてきた。偏頭痛のさまざまな前ぶれを指すようになったのはここ100年くらいだ(偏頭痛を患う人はてんかんを起こすことがよくあり、また逆にてんかん患者には偏頭痛持ちの人が多い。その理由は現在研究中)

最も一般的な前兆は、チカチカした星や火花、閃光、稲妻、幾何学的な模様といった幻視で、その後、その輝く像が同じ形のまま今度は暗く見えることがよくある。身体の片側にピリピリ感または脱力感(あるいは両方)が生じたり、うまくしゃべれなくなったりすることもある。
通常、こうした前兆は頭痛の前に生じるが、痛みがある間ずっと続くこともある。
(左の写真)

前兆は「皮質拡延性抑制」から生じるようだ。
皮質拡延性抑制は、19世紀の医師リーヴィング(Edward Lieving)が自署の中で偏頭痛の原因であると予測した「ブレインストーム(脳の中の嵐)」の一種だ。1944年に生物学者レアン(Aristides Leao)がこの現象を動物で最初に報告したが、実験によって偏頭痛と結びつけられたのはつい最近のことだ。

皮質拡延性抑制というのは、皮質(灰白質)の非常に広い領域にわたって、特に視覚を制御する部位にかけて、神経細胞の強い興奮が波のように広がっていく現象だ。
(真ん中と右の写真)

この過興奮期の後に、比較的長期に及ぶニューロン(神経細胞)抑制の波が続く。この抑制期中、ニューロンは“仮死状態”にあり、興奮することはできない。

ニューロンの活性は、チャネル(チャンネルのこと、特定の物質だけを通過させるために特殊化した縦方向の通路)とポンプ(イオンを交換する働きをもつ)を介して細胞膜の内外を行き来するナトリウムイオン、カリウムイオン、カルシウムイオン、の綿密に動機された流れによって制御されている。

ポンプは、細胞中のカリウムイオンの濃度を高い状態に、ナトリウムイオンとカルシウムイオンの濃度を低い状態に保つ。

開いたチャネルからナトリウムイオンとカルシウムイオンが細胞内に流れ込み、細胞の内側が外側と比べてまさに帯電(脱分極化)すると、ニューロンが「発火(インパルス)」して神経伝達物質を放出する。

正常な場合には、その後、細胞が一瞬、過分極の状態になり、平常時よりも電位が下がる。カリウムイオンが急激に細胞外へ送り出された結果、細胞内が外側と比べて強い負になるのだ。

過分極が起きると、ナトリウムチャネルとカルシウムチャネルが閉じ、発火直後のニューロンは休止状態に戻る。しかし、ニューロンが強い刺激を受けると、そのあと長時間にわたって過分極の状態から抜け出せなくなることがある。これが抑制状態だ。

偏頭痛の痛みが始まる前に起こる血流の変化は、皮質拡延性抑制の特徴である過興奮に続く抑制によって説明できる。

ニューロンが活性化されて発火する際には大量のエネルギーを要し、血液が必要になる。前兆の生じている患者の脳スキャンがとらえているのは、この状態の脳の様子だ。その後、抑制状態になると、ニューロンは落ち着いてあまり血液を必要としなくなる。

前兆の根底には皮質拡延性抑制があるという考え方を裏づける研究データはほかにもある。高度な脳画像技術で観察すると、脱分極の波が認められる時期と前兆の経験がぴったり一致する。この電気的な波は1分間に2〜3mmの速度で皮質を移動するが、前兆としての幻視は、ちょうどその速さで皮質野に興奮が広がっていくときに生じるものと一致する。

前兆として視覚や知覚、運動感覚などに次々に異常が生じるのは、「脳の嵐」が皮質を通過するのに伴って、それらの感覚にかかわる皮質領域が順々に影響を受けているためと考えられる。

輝くものが見える幻覚の後に経験する暗点は、過興奮を起こした視覚皮質領域のニューロンが続いて抑制されることと合致する。

<偏頭痛はイオンチャンネル病>
(イオンチャネルとは、細胞の生体膜[細胞膜や内膜など]にある膜貫通タンパク質の一種で、イオンを透過させるものの総称)

なぜ一部の偏頭痛患者には皮質拡延性抑制が起こるのか。複数の遺伝学的研究から、その手がかりが得られている。ほぼすべての偏頭痛は多数の遺伝子がかかわる多因子性(原因が多い)の病気と考えられる。

糖尿病やがん、自閉症、高血圧をはじめ多くの病気がこのグループに入る。こうした疾患は家系内で遺伝する。一卵性双生児は2人とも偏頭痛である可能性が二卵性双生児よりはるかに高い。

このことは、偏頭痛の背景に強い遺伝的要素があることを示している。
しかし、この病気がたったひとつの遺伝子変異によって引き起こされるものでないことは明らかだ。むしろ、多数の遺伝子変異を受け継ぐことで羅漢しやすくなるようだ。

個々の変異が発病に影響する割合はおそらくわずかだろう。また一卵性双生児でも「不一致」が見られ、一方が偏頭痛を患っても、もう一方は患わないということが時にあるため、遺伝要因以外の要素も作用していると考えられる。

どの遺伝子変異が偏頭痛やその前兆を起こしやすくするかはわかっていないが、家族性片麻痺性偏頭痛というまれなタイプの偏頭痛を患っている患者を対象にした複数の研究から、ニューロンのイオンチャンネルとイオンポンプの欠陥が前兆と痛みをもたらすことが示された。

家族性片麻痺性偏頭痛を引き起こす強力な遺伝子変異が3つの遺伝子で見つかっているが、これらはいずれもニューロンのイオンチャネルとイオンポンプをコードする遺伝子だ。

これらの遺伝子に変異が生じると、神経細胞の興奮性が高まる。おそらく、遺伝子がコードするイオンチャネルとイオンポンプの性質が変わるためだろう。

以上の研究データは、偏頭痛をいわゆるイオンチャネル病の1つとする見方を強く裏付けている。イオンチャネル病は、イオン輸送系の障害で生じる病気を指す新しい考え方だ。不整脈やけいれん発作などもイオン輸送系の障害が原因となる。

イオンポンプとイオンチャネルの不全が偏頭痛の前兆を生み出す唯一の原因かどうかは、はっきりわかっていない。また、家族性片麻痺性偏頭痛にかかわる3つの遺伝子の異常が一般の偏頭痛にかかわっているかどうかもわかっていない。

しかしそれでも、ここで述べた遺伝学的な研究成果は、皮質拡延性抑制とイオンチャネルの異常の間にかかわりがあることを示しており、新薬開発の重要な手がかりとなる可能性がある。

<痛みを引き起こすのは? シナリオ1 、皮質犯人説>
前兆と皮質拡延性抑制のかかわりについての理解が進む一方、偏頭痛特有の痛み?前兆を経験する人も経験しない人も感じる頭痛?についても研究が進んできた。

痛みの直接の出所は明白だ。脳のほとんどの領域は痛みの信号を記録もしなければ伝達もしない。痛みの信号を担うのは「三叉神経系(さんさしんけいけい)」と呼ばれる神経網だ。
三叉神経系のニューロンは、脳を取り巻く髄膜のほか、この膜に入り込む血管から痛みの信号を運ぶ。三叉神経網に入った痛みの信号は脳幹を中継して視床に伝わり、皮質感覚野に送られて痛みを感じる。
しかし、何が最初に三叉神経を活性化するのかをめぐっては議論が続いている。基本的には2つの考え方がある。

1つは皮質拡延性抑制が三叉神経を直接刺激するという考え方だ。過興奮性の波は皮質を移動するにつれて、イオンのほかグルタミン酸塩や一酸化窒素などの神経伝達物質の放出を引き起こす。こうした化学物質は、三叉神経が痛みの信号を伝えるよう仕向けるメッセンジャーとして働く。

動物実験から皮質拡延性抑制が実際にこのようにして三叉神経を活性化することが確認できた。

前兆を経験しない患者で起こっていることについても、この考え方で説明できるかもしれない。こうした人たちでも皮質拡延性抑制は起きているが、症状をもたらさないような領域で拡延性抑制が生じているため、痛みが出てくるまではわからないのだ。

人によっては、拡延性抑制が皮質下領域で生じていて、三叉神経を刺激しているケースもあるかもしれない。この場合には、患者は前兆を経験しないだろうが、基本的な生理学側面は前兆を経験する人と同じと考えられる。

この仮説を裏付ける十分な証拠もある。実験動物では、皮質下領域に拡延性抑制が引き起こされることがある。
さらに、前兆のない偏頭痛患者でも、前兆を伴う患者と同様に、皮質の興奮とそれに続く抑制を反映するような脳血流の変化が見られる。前兆の見られない人でも、血流が大幅に増加したあと、正常に戻るが減少するのだ。

このことから考えられるのは、偏頭痛の根源には皮質拡延性抑制があるが、拡延性抑制が視覚症状を引き起こし、それを前兆として感じるのは一部に限られるという可能性だ。

むしろ、疲労や集中困難といったはっきりとしない症状を引き起こすもかもしれない。前兆を経験する患者のほとんどは、時として前兆なしで発作に見舞われることがあるが、この点についても説明がつくだろう。

<痛みを引き起こすのは?シナリオ2、脳幹犯人説>
偏頭痛の痛みの根源を皮質や皮質下の拡延性抑制ではなく、脳幹に置いている研究者たちもいる。

脳幹とは、身体と脳からやってくる情報が行き交う場所で、多数の路線が集まる大きな乗り換え駅のような場所だ。覚醒、光と音の知覚、脳の血流、呼吸、睡眠、覚醒周期、心血管機能、さらに前述の痛み感受性の制御センターでもある。

PET(陽電子放射断層撮影)によって、偏頭痛の発作中と発作後に脳幹の青斑核,縫線核,中心灰白質の3つの神経細胞群(神経細胞学でいう[核])が活性化されることがわかっている。

この仮説によれば、この3種類の核の異常な活性が2通りの方法で痛みを引き起こす。正常な場合には、これらの核は三叉神経のニューロンを抑制し、「発火するな」という信号を送り続ける。

ところが、核が誤った振る舞いをすると、ニューロンを抑制する能力が損なわれ、三叉神経のニューロンは髄膜が痛みの信号をまったく送っていない場合でも発火するようになる。

そうした状況では、髄膜や血管からの信号入力がないのに、脳幹の三叉神経が痛みのメッセージを皮質感覚野に送る。また、この3種類の核は拡延性抑制を誘発するかもしれない。

痛みの根源が脳幹にあるとする研究者たちは、前兆を含む偏頭痛のさまざまな症状はこの3つの核の働きと結びつくと考えている。

これらの核には光や音、におい、痛みなど皮質感覚野に到達する感覚情報の流れを制御するという重要な役割がある。これらの細胞群の機能が損なわれることで、偏頭痛患者が光や音、においに過敏になる理由が説明できるかもしれない。
さらに、こうした細胞の活性は個々人の行動や情動(感情の動き)によって調節される。これらはいずれも偏頭痛をを誘発することがある因子(要因)だ。

脳幹のこの3つの核は、辺縁皮質と辺縁傍皮質という2つの領域からのみ入力を受ける。この2つの領域は、覚醒状態、注意及び気分を調整する領域だ。辺縁皮質は、脳幹との接続を介して皮質の他の領域に影響を及ぼす。

情動ストレスと心的ストレスがきかっけとなってどのように偏頭痛を引き起こすのか。偏頭痛が起こっているときはなぜ気分が揺らぐのか。さらに偏頭痛とうつ病や不安障害にはなぜ関連があるのか(偏頭痛患者では、他の人よりうつ病と不安障害が生じやすい)。
こうしたことについても説明がつくかもしれない。

さらに、痛みの経路、概日リズムおよび睡眠、覚醒周期の調整には縫線核ニューロンがペースメーカーになって、自発的に活性化することが不可欠だが、この活動は縫線核ニューロンのイオンチャネルが完璧に働くことと、他の脳領域に神経伝達物質ノルアドレナリンとセロトニンを放出することによっている。

こうしたメカニズムは進化の古い段階からあったもので、セロトニンは心の安定にかかわっていると考えられているが、偏頭痛ではこれらが乱れている。

<新たな治療法に期待>
今のところ、偏頭痛の予防薬は数種類しかない。これらの薬はいずれも、高血圧やうつ病、てんかんといった他の病気の治療薬として開発されたものだ。

偏頭痛専用の薬ではないため、患者の半数にしか効果がなく、効果がある患者でも五分五分の割合で効いたり効かなかったりする。副作用も見られ、重い症状が生じたケースもある。

他の病気の治療薬として開発されたことを考えれば、意外な話ではないだろう。
これらの降血薬や抗てんかん薬、抗うつ薬のメカニズムに関する最近の研究から、これらの薬剤に皮質拡延性抑制妨げる作用があることがわかった。

このため、こうした薬が前兆の有無と問わず偏頭痛を予防できるという事実は、皮質拡延性抑制を偏頭痛の一因とする考え方を支持している。この研究成果を下敷きにして、研究者たちは皮質拡延性抑制の阻害に的を絞った新薬を研究している。

現在、前兆の有無と問わず偏頭痛患者を対象にして、こうした薬剤をテストしているところだ。
これらの薬はイオンチャネル一種「ギャップジャンクション」を阻害することで、ニューロン内にカルシウムイオンが流れ込むのを防ぐ。

発作中に用いる薬も、予防薬と同じく問題を抱えている。このタイプの薬剤はトリプタン系と呼ばれ、冠動脈はじめ全身の血管を収縮させるため、使用が著しく制限される。
この治療薬は、血管の拡張が痛みを引き起こすのだから、痛みを緩和するには収縮が必要だといった誤った発想に基づいて開発された。

しかし、トリプタン系の薬が偏頭痛を和らげるのは別のメカニズムによると今では考えられている。

三叉神経が痛みの伝達分子「カルシトニン遺伝子関連ペプチド」を放出するのを妨げて、信号が脳幹に伝わらないようにしているらしい。
この結果、三叉神経が脳幹のニューロンの痛み伝達網と交信するのが阻止される。

このメカニズムが解明されたことによって、カルシトニン遺伝子関連ペプチドが着目されるなど、薬剤開発の可能性が広がった。

痛みを発生させる神経伝達物質の作用を阻止する数種類医薬品が現在臨床試験中だ。
これらの薬剤は動脈を収縮させないようだ。

また、髄膜の三叉神経と脳幹の三叉神経核との交信を遮断するため、三叉神経のグルタミン酸塩や一酸化窒素といった他の神経伝達物質を標的にした治療薬も考えられている。

こうした化合物は、血管を収縮させることなくニューロンに作用することで、特に発作中の偏頭痛を抑えるべく設計された初の治療薬になりそうだ。

さらに薬物療法以外の取り組みも検討されている。たとえば、前兆の有無と問わず偏頭痛の治療用に、磁気刺激の短時間のパルス(衝撃電波、ごく短時間だけ変化するもの)を送る機器の効果が評価されている。この技術は経頭蓋(けいとうがい)磁気刺激法(TMS)と呼ばれる。皮質拡延性抑制を遮断することによって、痛みの発生や進行が抑えられるのではないかと考えられている。

□TMSとは、経頭蓋磁気刺激法(けいとうがいじきしげきほう、Transcranial magnetic stimulation)は、TMSとも略され、急激な磁場の変化によって弱い電流を組織内に誘起させることで、脳内のニューロンを興奮させる非侵襲的な方法である。この方法により、最小限の不快感で脳活動を引き起こすことで、脳の回路接続の機能が調べられる。 

治療法や予防法の伸展は、何百万人もの人々の痛みから解放するだけでなく、偏頭痛に対する周囲の態度を変える突破口にもなる。
今後この病気は、もはや「想像上のもの」ではなくなるだろう。

参考にしたサイトと文献
・樋口脳神経クリニック
http://www.hgc-ncl.com/hishitu.html 
・日経サイエンス2008年11月号
・「新脳の探検(上)(下)」フロイド・E・ブルーム著 講談社

コメント(3)

新薬は皮質拡延性抑制の阻害に的を絞り、痛みを発生させる神経伝達物質の作用を阻止するというメカニズム。

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