ここ数年、アメリカの消費者(特に女性)は魚を食べることは危険だという警告責めに遭っている。これらの警告の多くは大抵疑わしい情報源−「巨大魚」産業を糾弾する自称環境保護団体や活動家−によるものであるが、一部は政府が混乱のもととなっている。 2004年にFDAとEPAが妊娠中又は妊娠を予定している女性に対してある種の魚の摂取を制限するように共同で警告を発表した。多くの女性は助言に従ったが、 一部は不幸なことに魚の種類を見分けることができなかったり正確な重量がわからないため全ての魚を食べることを避けた。 The Lancetの最新号に発表された論文で、魚の摂取を制限するより魚を食べることを推奨することの健康への好ましい影響を示している。この11000人以上の妊娠女性について調査した研究では、妊娠中の魚の摂取が少ないと子どものIQや社会的行動指標などが低くなることを見いだした。この証拠は最近の環境団体による反魚警告に反するものである。 全ての魚には水銀やPCBなどの汚染物質がいくらかは含まれる。しかしこれらの物質は子どもや胎児に有害影響を与える量ではなく、著しく用心深いEPAの提唱する「参照用量」は10倍の安全係数を使用しているため参照用量で有害影響が起こる可能性は極めて低い。新しい報告では、こうした微量の汚染物質の影響は小さく、魚を食べることの全体的好影響を明確に示している。 魚に含まれる胎児の神経系発達に必須の脂肪酸は、同時に心疾患予防作用もある。 悲しいことは近年の非科学的警告により多くの子どもたちの脳機能が低く生まれてしまったことである。今後FDAやEPAがもっと魚を食べるように女性に勧めることを希望する。
■[論文][汚染物質]母親のシーフード摂取は子どもの発達に有益である Maternal seafood consumption benefits children's development 15-Feb-2007 http://www.eurekalert.org/pub_releases/2007-02/l-msc021407.php Lancetの今週号に発表された論文によれば、妊娠中の母親がシーフードをたくさん食べた方が食べない場合より子どもの神経機能発達が良好である。シーフードは胎児の脳の発達に必須のオメガ3脂肪酸の主な摂取源であるが、米国では微量の汚染物質汚染を避けるため妊娠女性は週に340gまでにシーフード摂取を抑えるよう助言されている。 Avon Longitudinal Study of Parents and Children (ALSPAC)コホート研究の解析の結果、週に340g以下のシーフードしか食べない場合、340g以上食べる場合より言語IQが最低四分位になるリスクが増加する。さらに母親のシーフード摂取の少なさはその他の社会発達指標の低下リスクと相関する。 米国の妊娠女性への助言を支持する根拠は見つからなかった。 The Lancet 2007; 369:578-585 Joseph R Hibbeln et al. Maternal seafood consumption in pregnancy and neurodevelopmental outcomes in childhood (ALSPAC study): an observational cohort study コメント The Lancet 2007; 369:537-538 Gary J Myers and Philip W Davidson Maternal fish consumption benefits children's development この論文は政府機関にとって重要であろう。全ての魚には微量のメチル水銀が含まれるが、同時に必須の栄養素も含まれる。これまで妊婦が魚を食べて子どもがメチル水銀中毒になった事例は日本にしかないが、アメリカ人の2/3は毎年1000-100000人の米国人の子どもが魚によるメチル水銀中毒になっていると間違って信じている。 世界中の規制機関がメチル水銀については魚を食べることを薦めるべきか制限すべきかの板挟みに悩んでいる。米国で発表された高濃度のメチル水銀を含む魚を避けるようにという助言は結果的に全ての魚の摂取を減らした可能性がある。Hibbelnらの研究はこのことが子どもたちの脳の発達を妨げている可能性を示唆している。