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マイケルアリアス Michael Ariasコミュのマイケル・アリアス(監督) 続き

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―― どの辺から「ああ、俺でいいんだ」という感じになったんですか?
アリアス いやあ、それは意識してないね。初号試写の時なんて、僕も西見さんもすっごく気持ち悪くなっちゃって。
―― 2人で?
アリアス みんなでしょう。オールラッシュの時も、冷や汗かきながら観てた。押井守さんだったかな、「自分の作品は作ってから10年間は観ない」って言ってて、それは凄くよく分かります。終わった直後は、自分で上手い下手なんて絶対に判断できないと思う。きっとそれぐらい経ってやっと距離感ができて、自分にとってその作品がどういうものか分かるんじゃないかな。
―― どういうところがよくないと思われたんですか?
アリアス 早送りで観ているような気分だったんですよ。こんなにアップテンポなはずじゃなかったのに、いつのまにか映画が終わってしまっている、みたいな。今はもう、試写会とかで10回くらいは観ているので、少しずつ普通に観られる状態にはなってきているけど。
―― 確かに、あの全3巻の原作を111分の映画に凝縮する過程で、かなり苦労したという話は聞きました。
アリアス (原作には)おいしいエピソードもいっぱいあるし、かっこいいアクションもいっぱい見せたい。でも、動の部分があれば、同じくらい静の部分がないと成り立たない話だし、それがテーマでもあるから。アンソニー(・ワイントラーブ)君と一緒に脚本を書いている時点では、最初は町をヒーローにして、群像劇みたいに様々なキャラクターを前に立たせようとしたんだけど、そうすると凄く長い作品になってしまう。その後、やっぱりクロとシロを前に出そうという事になって、構成は同じにしながら、バランスとか配置は全部変えていった。
 さらに、その英語のシナリオを日本語に訳すのも大変で。ディテールが飛んでたり、台詞がおかしくなってたり。アニメーションの場合は特にそうだけど、アメリカと日本では脚本の書き方も違うから。そういう「正しいイメージに戻す作業」が凄く長かった。
―― 映画全体のビジュアルについてお訊きしますが、過度にスタイリッシュな感じではなく、基本的に暖かみのあるナチュラルな質感ですよね。登場人物の服や背景美術の色が前に出てくる、非常に「素直」な映像という印象を受けました。それは最初から求めていたスタイルなんですか?
アリアス パイロット版でやったような、クールな映像にはしたくなかった。なるべく自分の好きな感触を出したくて……昭和初期の印刷物、美人画とか、薬箱の絵とか、子供の絵本とか。あの手作り感をどう出せるか、というのは、日々みんなに投げかけていました。
 例えば(デジタルペイントの)ベタ塗りじゃなくて、セル塗りの絵の具のムラみたいなのがパカパカする感じ。そうすると昔の手作りっぽいよさが出るかな、って。それは過去のSTUDIO4℃作品でもいろいろ実験していて、前から頭の中にあったものです。色も原色じゃなくて、ちょっとくすんだ感じの色。昔の2色印刷でしか出ないような、パレットの幅は狭いんだけど独特な、懐かしい色遣い。そういうのが出せないか、とはよく話し合ってました。
―― なるほど。
アリアス いろいろなところで素材感みたいなものが出せるといいな、って。線にも少し遊びがある方がいい。美術の背景にしろ、CGにしろ、直線はなるべく使いたくなかった。画面全体が少し湾曲しているとか、魚眼レンズ風のイメージになっていたりとか。
 カメラワークも、カメラを持った人間がいると想像できるくらいの映像にしました。今までのアニメーションでは、(手ぶれ表現は)キャラクターの見た目からのイメージでしか使ってなかった。この作品のは、言ってみればホームムービーみたいな雰囲気。角を曲がった時、カメラがガタガタ揺れたりする。それがあってこそ、手作りっぽい感じが出る気がして。もちろん、シーンによってはちょっとスタイリッシュな感じにもしてます。特に蛇のシークエンスなんかは、カメラワークも手ぶれじゃなくてステディカム風に、少しクールにやろうとか。
―― 基本的には、自然な温もりのある世界ですよね。
アリアス 町の雰囲気で言うと、今回は特に乗り物がいっぱい出てくる。路面電車とか、ボンネットバスとか、トラックとか、三輪車とか、何百台も道を走ってる。あの辺もなるべく、手描きの感じを入れたかった。西見さんは「CGではできない」って言ってたけど、僕とCGI監督の坂本(拓馬)君、安藤さんの3人は、わりと確信犯だった。目にもの見せてやろう、って感じで。
 最初は久保さんの描いた車輌デザインをもとにキッチリした形で作るんだけど、その後で全ての線に歪みをつける。それをコマごとにほんの少し遊ばせたり、踊らせる。そうする事によって、手描きみたいな勢いが出てくるんです。
 CGの部分も、1コマじゃなくて2コマだったり、場合によって3コマもある。やろうと思えば全部1コマでつけられるんだけれども、そうすると何でもヌルヌルしたCGっぽい映像になっちゃう。なるべくそこにひとひねり入れて、素材感みたいな感触をつけていました。
―― これだけ雑多な世界観なのに、統一感があるのは凄いですよね。
アリアス 最初に何カットか作って、みんなに見せた時、この映画の目指すターゲットが分かったんです。
―― それは冒頭の追っかけのシークエンスですか?
アリアス 作り始めてすぐに取りかかったのは、太陽を背にしたカラスが町にダイブして川の上を飛んでいく、タイトルが出るカット。その前のシロがマッチを持ってるカット。あと、シロがクロに蹴りを見せて「シロ、宇宙一の蹴り持ってる!」って言うカットとか。
―― 結構、バラバラに。
アリアス うん、いろいろなシークエンスから。7、8カットくらいかな? イメージ開発という意味でもね。西見さんと久保さんと浦谷さんが原画を描いて。久保さんはずっと(タイトルシークエンスの)カラスばかり描いてた(笑)。1分近くずっとカラスが飛んでて、しかも確か全原画だったから、何百枚も描いてたね。
―― あそこだけでも相当な長さのカットですよね。
アリアス 本当に、10人ぐらいで3ヶ月、あのカットだけをやってました。だから、ここがうまくいけば、いろいろな事が見えてくるというカットだった。手ぶれ映像にしても、空撮の表現にしても、CGと手描きが融合したジオラマ風の背景にしてもね。みんなでそのカットを試写室で観た時、「俺達が作っているのはこういう映画だ」って、そこからシンクロしたんだよね。
―― なるほど。
アリアス 早い段階からそういう大変なカットを先にやれたから、みんな自信を持って進めたんじゃないかな。やっぱり、いろいろ話し合ってても、実際に絵にならないとどういう作品なのかは見えてこない。
―― オープニングからいきなりクライマックスの話になっちゃうんですが、クロとイタチが対峙するシークエンスは、映像的にもの凄い事になってますね。あのイメージはいつ出てきたんですか?
アリアス いちばん最後ですね。
―― シナリオ段階の最後?
アリアス いや。シナリオも納得いかないまま、原作の展開も納得いかないまま、でも始めないといけないから、とりあえず他のところをどんどん作っていった。あそこだけはコンテもなくて歯抜けだったんですよ。
―― 子供の城でのスペクタクルあたりからブッツリなかったんですか?
アリアス いや、前後とか間のインサートはあったんだけど、クロの心象風景は全部ない。自分としては、ここまで観てきた映像とは全く違う、観ている人を裏切るような感じにしたかった。子供の城がファイナルステージかと思ったら実は、みたいな(笑)。マクロじゃなくてミクロ、みたいなね。
 木村さんによく見せていたのは、電子顕微鏡の写真。あの限りなく細かいディテールがいっぱいある世界に、もの凄いスピード感があって、クロとシロがそこにいるような映像にしたかった。でもどう作っていったらいいのか。みんなに迷惑かけるぐらい粘って、結局何も提示しないまま進んでいた。
 森本さんにもその部分の絵コンテを頼んでいたんだけど、なかなか上がってこない。いろいろ他の仕事で忙しかったし、やっぱり森本さんの考えていた『鉄コン』じゃないという事もあって、最後まで完成しなかった。
―― 森本さんの描いた部分は残っていないんですか?
アリアス ある意味ね。最初に森本さんの描いたラフな絵コンテがあって、それと自分が描いた絵コンテもあって。やっぱり森本さんの描くイメージは格好いいから、いいところを自分の絵コンテの流れに突っ込んで、最後の何カットかだけ久保さんに絵コンテを描いてもらいました。それでも、それは流れでしかなくて、どういう絵にするかはまだ分からなかったんだよね。
 その間、効果だとかスピード感だとか、テスト的な映像はみんなに見せていたんだけど、いい加減もう映画館が空いちゃうくらい時間がなくなってきて(笑)、そろそろ作らないとまずい雰囲気になってきた。それで、どういう絵にするかは後々でいいから、とりあえず今までの作り方、手法を全部ひっくり返して、素材段階でぶち壊して違うものにしようと決めたんです。
―― 具体的には?
アリアス まず、原画をお願いしていた久保さんの発想で、動画を入れないで全原画にして、鉛筆で描かずに全部ボールペンで描こう、と。ボールペンで描くと線の質も違うし、それ以上に間違ったら直せない。久保さん、ヘッドフォンでアフリカの音楽かなんかを大音量で聴きながら、毎日ほとんど人と喋らないでゴリゴリゴリゴリ、ずっと原画を描いてた。ある時、メイキングのスタッフが現場に来て、久保さんが描いてる絵を後ろからこっそりカメラで撮ろうとしたんですよ。それに気づいた久保さんがブチ切れて、「俺達、絵を描いてるんだから!」って言って、ダーッていなくなっちゃって、現場に3日間戻ってこなかった。
―― 凄いエピソードですね。
アリアス それぐらいの緊張感で描かれた原画が、元々の素材としてまずあった。美術に関しても、木村さんがいろいろと考えてくれてました。人間の内側が画面に直結したような、オーガニックな、限りなく細かいディテールがある世界。具体的にどうやって作ったかというと、例えば大きなセルにシンナーとかで薄めた絵の具を垂らして、他のセルとサンドウィッチにして、乾いたら剥がして、また違う素材を塗って、ドライヤーで乾かしたり。そうやって何枚もの大判のセル画を描いて、高解像度で取り込んで、どこに寄っても面白い絵になるようなものをたくさん作ったんです。
―― それであの異様な、人知を超えた映像になってるんですね。
アリアス でも、例えばイタチが地面の上に立ってるとか、空があるとか、そういう立体感は出さないといけない。その絵のいろいろなところを見て、ここは空にしようとか、ここは地面にしようとか、レイアウトの構図になんとなく似ている部分を拾って、ちょっと歪ませてパースをつけたりしていました。
 そういう素材はたくさんあったけど、それでもどんな映像にするかはまだ誰も分からない。だから最初のうち12カットぐらいは自分が引き受けて、特殊効果もCGも塗り方も、コンポジットまで全部1人で作った。でも、このまま監督がそれだけやってると、映画自体が完成しない。それで、CGI監督の坂本君と、マツ(・アンドレン)君というスウェーデン出身のCGアニメーターに、とりあえず素材があがったらどんどんイメージどおりに組んでいってほしい、と発注したんです。
―― 大変な作業だったでしょうね。
アリアス 今考えると、作品のいちばん最後になって、やっとあのクライマックスができ上がったというのは、ちょっと美しい話だと思うんだけど。当時はみんなパニックになってる(笑)。自分も昼間はアフレコとかポスプロをやって、夜は寝ないでそのシークエンスの絵を作っているような状態。アフレコもそこに関しては絵がひとつもない状態で録ってるんですよ。
―― 本当にいちばん最後だったんだ。
アリアス 音響や音楽もアドリブというか、ファイナルミックスの時に映像を観ながらギリギリで仕込んでいる感じだった。昼間はロールのミキシングをやりながら、夜は作曲家がまだ埋まってないところの音楽を作ってる。終わった時はもう、エドさん(エド・ハンドリー。音楽を担当したPlaidのメンバー)もかなりやつれてて、目の下にクマができてました(苦笑)。
 あのシークエンスは、僕も客観的に観て面白いと思う。原作にはない、映像ならではのパワーがあるというか。作り始めた時には、ああいう映像になるとは思ってなかった。
―― 自分でも、あんなものが出てくるとは思ってなかったですか?
アリアス それこそ、自分の中のイタチと対面したみたいだったね(笑)。久保さんも木村さんも、イメージをうまく具体的な素材にしてくれた。あれぐらい巧い人達だから、試行錯誤するにしても、普通の人とは全然やり方が違う。やっぱり新しい映像を作るには、とにかくどの段階においても冒険していないと、見た事のないものにはならないんだって事。それが分かってる人達なんですよね。また一緒に仕事ができたら、最高。


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