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「セユ」コミュのEpisode14:ミヲ03

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 あたしはキチジョウジの我が家から新宿へとアシを運んだわ。東口から三丁目を抜けて歌舞伎町へ。いつもの散歩コースとおんなじ。というか、通勤路とでも言えばいいのかしら?まぁいつものように歌舞伎町へ来たの。
 そしてまっすぐに行きつけのポルノショップに入ったわ。店頭に飾ってあるポスターのボンテージ姿のSMの女王様に一度会ってみたいわね。あんなの着たくて着てる人いるのかしら。まったく、男の業って泣けるわね。みっともない。
 そのポルノショップの名前は未だに知らないわ。ただ店員のチャンさんが随分親切なのよ。自分じゃ日本人の血が入ってるって言ってたけど100%嘘よ。どう見たって不法滞在のガイジンさんね。まぁどっちでもいいけど。
 その店に入ってあたしはチャンさんに軽く挨拶したわ。チャンさん黒いタイトなデニム履いてて、上は黒いシャツ。いかにもそっちの道は知ってるんだぜってフンイキ。身長はそんなにないわね。170無いくらいかしら。あたしが高めのヒールはいたら並べるわね。
 歳は三十台くらいかしらね。ガイジンさんの歳は分からないわ。とはいえ、歌舞伎町で日本人探す方が最近は難しいけど。
 チャンさんはいつもみたいに気軽にあたしに挨拶したわ。下心無しの挨拶。きっとよっぽど色んな人間の性欲に接してきたからかしら。チャンさんの中で性欲ってたんなる生理現象くらいのものに還元されてるみたい。だからあたしを見る94%の男が見せるあの下心が秘められたキモチワルイ目の輝きがない。性欲のオーラが出てない。いい男よ。まぁ顔は最低だけど。
 その挨拶ってのもいつもどおり。チャンさんはあたしの首についた時計を跪いて読み上げるの。「10時半ですね。」だって。こういうのを大真面目でやってくれる人って結構少ないのよ。あたしがどんなに真剣に聞いても皆いい加減に答えるから。自分の首についてる時計の指す時刻を尋ねるのがそんなに不自然かしら?
 自然よね。もちろん。だって自分からは読めないんだから。あはは。

あたしはこの前注文してたアレが入荷したか聞いたわ。それが目的でわざわざここまで来たんだから。いくら通勤定期持ってるからって面倒なのよ。けっこう。
 チャンさんはもったいぶって黒い箱に入ったそれを持ってきたわ。大きさ、そうね、小学校の頃にみんなが使ってたソプラノリコーダーを五本束ねたくらいかしら。

ソプラノリコーダー。
そういえばあたしの笛は教室中の男子がこっそり舐めてたわね。あたしはそれを知ってたから使う笛は別に持っていて、机の中の笛の吹き口のところにはその日の気分で色んなもの塗ってたわね。おばさんの吸ってる煙草の吸殻をコップに入れてさ、そっからニコチンを抽出するの。それをすこし笛の吹き口に塗るのよ。
おかげであたしの小学校のクラスメイトは何人か保健室に運ばれたわ。あはは。男ってなんであんなに馬鹿なのかしら。

チャンさんはあたしに尋ねた。
「中身のカクニンはいいのカイ?ミヲちゃん?」
 そのイントネーションと発音どうにかならないの?なんて野暮な台詞は吐かないのがあたしの美学。素敵でしょ?おばさん仕込みよ。
「結構よ。貴方を信用してるから。」
 これを言う時の首の角度、目線の角度、目に入れる光の量。完璧。無意識にこれができるなんて、我ながらできた女だわ。まぁチャンさんにやっても仕方ないんだけどね。これで世の中のインポテンツの男の三割くらいは救える自身はあるわよ。あはは。ロリコン限定かもしれないけど。
 とはいえ、その時のあたしの格好はけっこういい加減だったから、やっぱり三割は無理かしらね。
黒いタートルネックにヒョウ柄のジャケット。赤のタータンチェックのマイクロミニスカート。そして大好きな白黒のボーダーのハイソックス。今回の白いブーツの底は結構薄め。2cmくらいかしら。そんでダークグリーンのベレー帽。
いい加減とは言え。それでも世の中のインポさんの1割くらいは反応するかしら。顔はいいからね。あたし。それに男の人の性欲って結構強いから。なんかあたしには見えるんだ。性欲ってヤツのオーラが。あはは。
チャンさんにはそれが全然見えないから安心してこうやって誘惑できるのよ。

さ、あたしがこれだけのことを考えるのにも時間は全然かかってない。あたしはアタマの回転がものすごく早いの。これだけ考える間にチャンさんがしたのはうなずくだけ。みんなあたしみたいに時間をユウコウに使うべきよ。おかげで時差修正に時間がかかるわ。太陽系で一番自転が遅いのが金星だって知ってるかしら?諸君。

 あたしは黒い箱を受け取った。でもチャンさんも好奇心ってやつは持ってるのね。
その黒い箱に手を伸ばしたあたしの手には、オープンフィンガーの黒い手袋がしてあったんだけど、チャンさんはそれを外していいか?って聞いたわ。
 チャンさんの方を見たけど、性欲を表すオーラも何も見えなかったからあたしはどうぞって軽く言ったわ。いいのよ。減るもんじゃないし。

 あたしは黒い筒を自分の黒と紫のボーダーがフクザツに入り乱れた模様のトートバッグに入れて、左手の手袋を外してチャンさんに見せてあげたわ。
 手の甲には切り傷が、そうね、14箇所くらいかな。あらゆる方向に入っていたわ。くもの巣みたいに。あ、全部ふさがってるからご安心を。それとクレーターみたいな火傷の跡。いくつかには黄色くかさぶたがあるけど、いくつかはまだ湿ってる。まぁいわばオジサン方のセブンスターとかマイルドセブンとかのキスマークね。あはは。
そして左手首には切り傷が7箇所。一番新しいやつはまだ乾いてなかったわ。包帯巻いても良かったんだけど、ヒョウ柄のジャケットに全然似合わないからやめといた。

「なかなか仕事ネッシンですね。」

 チャンさんはにんまりと笑った。うーん。素敵。服全部脱いであたしの体の傷全部見せてあげたいな。左のおっぱいの下の6個の十字傷とか、右のフトモモのあたりにある、このまえオジサンにかけられた熱湯でできた火傷とか全部みせてあげたいな。きっとチャンさんはもっと誉めてくれるだろうな。
本当に、このいい加減な日本語のお兄さんみたいな人ばっかりだったらいいのにな。この歳の女の子がマルメン吸ってるってだけで色々説教するオジサンって多いから。そんなオジサンの周りには、下卑た性欲のオーラがみなぎってるんだから、やってられないわよね。

チャンさんは手袋をまたはめてくれた。ありがとう。
「今日もお仕事?」
「まさか。気分ののった日にしかシゴトしないの。今日はお買い物に来たのよ。マルイワンで洋服買うの。ここに来たのはついでよ。ついで。」
 チャンさんは特に興味もなさそうに、黒い箱の中身の注意事項を教えてくれたわ。
「電池に気をつけてね。けっこうこれ電気使うから、マメに電池換えなきゃイザって時に使えないよ。あとね、センタンの部分は自由に交換できるからね。今その箱の中には五個くらい入ってるよ。新しいの入ったら教えるよ。」
「ふーん。すごい。男ってこういうことには本当に想像力豊かね。よっぽどたまってるのね。うふふ。」
 あたしは箱をゆすってみる。音はしなかった。きっとスポンジとかプチプチとかできっちり包んであるんだ。まったく。コイツを使うオジサンを思うとゾクゾクした。
「男ってさ、これ使う時に優越感感じるんだよね。」
「3流の男は特にね。」
 あはは。馬鹿みたい。
「そういう男を崩していくのって快感よね。あたしはただあたしのオリスの示す時刻が知りたいだけなのにさ。妙に関係を求めるなんて。」
 チャンはにこやかにあたしを見つめた。大人の視線。この目を持つ人ってなかなかいないのよね。あたしのケイケン上。あたしを見る視線の8割は性欲。1割は侮蔑。ハラショー。
「男は関係しようとしてセックスしてるのさ。サイショのうちはセックスしてるだけで満足するんだけど、シダイにそこに意味を求める。女と違って子供産めないからね。悔しいんだよ。だから女に対して優位に立とうとする。特にダメな男ほどそうしたがるのさ。」
 ふーん。あたしからすると、男の性欲なんて吐き気の対象でしかないんだけどね。憐れな生物。自己満足のセックスばっか。まぁあたしにしたってセックスに関していい思い出無いけどね。あはは。
 そういえばあたし、男とシアワセなセックスしたことないな。ま、いいか。あたしは歌舞伎蝶なんだから。
「ありがと。お代はこれで。」
 あたしはいつかのオジサン、顔も思い出せない、がくれたクレジットカードで支払いを済ませる。黒いカード。あんたも幸せね。カードさん。あのオジサンは偉そうにオメガの新型ムーブメントについて語ってたけど、結局あたしのオリスの首時計の前にはあんたの持ち主様もただの歩いて話すおちんちんだったんだから。
 ん?男なんてみんな歩いて話すおちんちんか。あはは。
「毎度ありがとう。一つだけおせっかい言わせて貰っていいかな、ミヲちゃん。あのさ、もし君が顔に傷を付けられたら、その男にはヨウシャしちゃダメだよ。」
「分かってるわよ。もしあたしの顔に傷つける男がいたら、あたしはその男を殺さないわ。」

 そう。このクレジットカードもいつまで使えるのかしら。あたしは今までに何人殺したのかしら?歌舞伎蝶はどうやら疫病を撒き散らすみたいね。

 はぁ。この歌舞伎蝶を飼う資格がある人間なんて、このジゲンに住んでないんだから。あたしと同じジゲンに住んでる人間いないかな。そしたらあたしは飼われてもいいな。同じ恒星系を回れるのってどんな感じだろう。きっとすごくスイート。
 そしたらどんなことだってしてあげるのに。決して殺さずに。或いは愛してあげてもいいわ。まぁあたしには愛がどういうものかよく分からないんだけどね。おばさんがいなくなる前に教わっておけばよかったかしらね。あはは。

 チャンさんはクレジットカードをあたしに返す。あたしは店を出る。
 まずは他の人との時差の調整が急務かもね。みんなは太陽系に住んでる。あたしは?アルファ・ケンタウリじゃないことは確かね。月?それも悪くないわね。

 そう。あたしは時折自分が月で生まれた気がするのよ。ムーン・チャイルド。素敵。

 さて、あたしはコマ劇場前でジッポを取り出し、マルメンライトに火をつける。おばさんが残して行ったジッポには、あたしの手描きの蝶々が書いてあるの。紫とピンクで描いたカラスアゲハ。オイルにすこしコロンを混ぜてあるから火をつけるだけで素敵なにおいがする。
 なんでマルメンライトにしたんだっけ?思い出せないや。おばさんのヴァージニア・スリムとは違った味が欲しかったのかもね。

 煙を一直線に吐き出す。あたしは道行く人の性欲のオーラがあたしに集まるのを感じる。この瞬間に、このせまい広場に存在するいくつかのおちんちんがいっせいに首をもたげる。素敵。全然素敵じゃない。素敵。

ああ、なんともハラショーね。
あれ、これ誰の口癖だったかしら。思い出せないわね。
さ、買い物に行かなきゃ。このクレジットカードが生きているうち

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