妄想作家の書き殴るコミュコミュのクリスマスが来る前に【28】後編

ほんの数時間前まで

互いの体温と吐息を感じながら、絡み合うようにして眠っていた



「彼女」が俺の家に来て２週間近く

寂しがり屋で甘え上手な「今の彼女」は
決まって俺に寄り添うように眠り、俺が『おはよう』と言うまで離れなかった





………昨日までは…


『………リンネ…？』


その問い掛けに答えが無いのは
冷え切ったベットが物語っていた







AM ６：28

早朝の 刺すような冷気がリンネを包む


「は−−−っ」


冷たい指先に息をかけると、そのままテツヤに買ってもらったマフラーに両手を添える

『……暖かい…』

マフラーに触れた両手に力が入り、瞳を閉じる


『ヤダよ……手放したく無いよ………！！』


とめどなく溢れる涙をふくと、彼女は決意した表情で歩きだした

と
不意に彼女を呼ぶ声が、頭に響いた

（……何処に行くの…？…カリン）

「その名前はヤメて、『カンナ』！……私は『リンネ』よ！」

（………認めたく無いキモチはわかるよ…私が…そうだった……
でも私達は『リンネ』が自分を思い出そうとして造った仮の人格なの！
私達じゃ『リンネ』にはなれなぃ！）

「勝手な事いわないで！！
私は私よ！！
『リンネ』が起きないなら、私が『リンネ』になる！
ソレで良いじゃない！」

（無理なのカリン…わかって！？
私達は『リンネ』が思い出したい一心で産まれているの！
『リンネ』が思い出したぃキモチを失ったら私達は存在出来ないの！
私達は思い出すキッカケを探して彼女を起こすしか無いのよ！）

『ふざけないでッッ！！』


「カリン」は思わず声を張り上げた
出勤途中の人々が振り返る
が、足を止める者はいなかった


一・人・の・女・を・除・い・て・は

『！？……あのコは…！！』



カリンは周囲を気にせずにしゃがみこんだまま呟いている

「……ふざけなぃでよ…
……じゃあ私はどうなるのよ…！？？
『リンネ』が目覚めたら……、タカシが……いぇ、テツヤが好きな私はどうなるのよッッッッ！！！！！！」

（カリン…！！）

「嫌よ！！！
私は消えたくないっ！！！
私は……私はテツヤを…今の生活を手放したく無いのっ！！」

（カリン…、カリン……！
ごめんね？…私が弱かったばっかりに…私が『リンネ』を起こせなかったばっかりに………！
ごめんね、ごめんね……！！！）

「……………いいのよ、カンナ…貴女には感謝してるの…」

（……え…！？）

「貴女のおかげで…私はテツヤに会えたんだから…」

（カリン…）

「私は私を譲らない、この幸せは私の物よ！」

（カリン！？何処に行くの！！？
…貴女まさか……）

「……明日、パラダイス・タイムで目覚めても……『リンネ』に思い出すチャンスなんて与えない…！
『リンネ』が消えても、私は私を失わない！！」

（カリンっ！！待ってお願い待って！！？）



カンナの叫びを無視し
カリンは電車に飛び乗った





PM ３：18


『どういう事だ……！？
テツヤ！！』

息を切らせたタカシは、家のドアを開いたまま問い掛ける

『………電話で言った通りさ タカシ…、リンネさんがいなくなった…』

靴をはいたまま部屋に入り問い詰めるタカシに
テツヤは ゆっくりと顔を上げてから答えた



『お前が悪いんだ…タカシ』

『なん…だと……！？』

『オマエは！！リンネさんが記憶を無くしてから何度見舞いに行ったッ！？？
俺は毎日行った！！
…リンネさんはなぁ！！
毎日・毎日「大事な事が思い出せない」って泣いてたんだ！！』

『！！！…………リンネ…！』

『俺がどんなに慰めても彼女を救えなかった…！
そして…現実から怯え、眠り続ける日が１月続いた……それでも俺は通い続けた！！
そして８月８日……「カンナ」が目覚めた…』

『！！』

『……ショックだったよ…絶望して夢の中に閉じこもっても尚…リンネさんは裏切ったお前を思い出そうとしてたんだ…！』

『………！！』

『…男の嫉妬はみっともない、そんな事はわかってる…
でも俺は……お前が許せなかった！！！
数えるほどしか見舞いに来なかったお前に、リンネさんを渡したくなかった！！』

『テツヤ…！！お前ッッ…！！！！』

タカシがテツヤの胸ぐらを掴む！
が
テツヤも怯むそぶりを見せない！！

『お前に俺を責める資格があるのか！？
記憶を無くした途端に逃げ出したお前に！！』

『俺はもう逃げない！！
例え許されなくてもリンネを戻すんだ！！！』

『信じられるのか……？
その言葉は？』

『何…？』

『お前は…リンネさんを………………』


そこまで言うと
テツヤは目を閉じ、ひと呼吸置いてから再度タカシを見つめて問い掛けた


『リンネを、救えるか……？
タカシ』


テツヤの、哀しい程に真っ直ぐな目は、何かを悟っている

タカシは掴んだ両手を放すと立ち上がり、背を向けた


『俺はもう……大切な人を裏切らない！！
リンネも…
お前もだ…… テツヤ』



『………頼む』



震えるテツヤの声に、タカシは振り返らず家を出た






PM 4：31


パラダイス・タイムまで 後 ７時間半……

まずはリンネを見つけなければ

何処にいる！？？

タカシは思い当たる場所を回る事にした

















（お願いカリン！！リンネちゃんを悲しませないで！！
記憶が戻らなくても良いから！
せめてリンネちゃんをタカシさんに会わせてあげて！！！）


PM 11：38


「嫌よ……！！！
私は消えないっ…！！」


（お願い！！！もうリンネちゃんが起きちゃう！！
ここじゃリンネちゃんはタカシさんと会えない！！）

「……会わせない…！
記憶は取り戻させないッッ……！！！」

（カリン！！！）

「黙って！カンナ！！
私はリンネ！！何度言わせるの！！？」



　　　　ドクンッッ…



「（ッッッッ！！？）」


ゆっくりと、抗え無い程の強い感情が動き出す

「…これは……まさか」
（……ダメ…！まだダメ！！
カリン！！早く！！！戻って！？）
「私はリンネ！！！何度言わせるのッッ！！！！」



　　　　　ドクンッッ！



「（ッッ！？？）」





　　　　リ…ン…ネ…？



（カリン！！私と代わって！！早くっ！！？）
「嫌ッッ！私は誰にも譲らないッッ！！
来ないで！来ないでッッ！！」
（カリン！！！）
「私はテツヤと一緒にいるの！！！！タカシには会わせないッッ！！！！」



　　　　　　！！！

　　　！！！タカシ！！！

　　　ドクンッッ！！！！！


「（ッッ！！！！）」
「嫌あああァァァッッ！！！！！！！」



PM ０：００

12月16日、日曜日


運命の１日が始まった


　　　　　　　　　つづく



　　　　『次回　予告』

遂に目覚めたリンネ！！最後のパラダイス・タイムで待つ、彼女の運命は！？
タカシはリンネに会って記憶を取り戻させられるのか！？
残されたテツヤは！？
カリンの儚い思いは！？

最後の、そして新たな始まりの１日に待つ結末は！？？
以下 次号！！！