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百輝夜行〜Hyakkiyako〜コミュの青空に舞う白い羽

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暗闇の中で声がする、
「……君はなぜここにいるんだい?」
また違う声がする。
『タケルを……タケルを追いかけてきたんです。……』
俺だ、俺の名を呼んでいる。
声は反響するように色々な所から聞こえる。
小さいものから、大きいものまで。
「この花を追いかけてきたと……」
俺を追いかけてきたんじゃないのか?
「アネモネ……」
なんだアネモネって……。
「君が追いかけてきたのは、そのタケル、佐藤健君ではないのだよ」
そうだ、俺はタケルなんかじゃない。世界に必要とされていない。
誰でもない。
元々、俺なんていない。
『間違いありません、そこにいるのはタケルです、タケルにに間違いありません!』
違う、違うんだ俺は、タケルなんかじゃない!
「いや、そこにいるのは君の知っているタケルじゃあない……。そっちに居るのは、そのタケル君かもしれないがね……」

そっち?
そっちってどっちだ?
そもそもここは何処だ?
俺は後ろを振り返る。
風が吹いた。
振り向いた先は青空だった。
俺は空に浮いている。空には太陽があった。優しい温かい光。
その反対側には月があった。
夜でもないのに月……?
青い空に浮かぶ、真っ白な月。
ゾクリ、
背筋に冷たいものが走る。鋭い視線が胸を射抜く。
ドライアイスよりも冷たく、アイスピックのように鋭く。
寒い怖い……。
月に影が映った。人影だ。
誰かが居る、誰だ?
誰かはゆっくり顔を上げる視線が交差する。
笑っている、笑っている、嘲笑っている……。
―……―
見てはいけない、しかし見てしまう。
覘いてはいけない、覘いてしまえば往ってしまう……。
バサッ、
耳鳴りがする。
バサッ、バサバサッ……。
誰も居ないのに、
誰も居ないはずなのに、
俺しか居ないはずなのに、
俺しか居ちゃいけないのに、
この世界には!
目の前に真っ白な何かが、ふわふわと舞っている。

それが起こったのは小学校三年の七月だった。プールも始まり、その日も体育の授業でやった水泳での疲労による気だるさと、プールの塩素の匂いが染み付いた体を、無駄に鞭打って俺は班の連中と教室の掃除当番をやらされていた。
別にやる気はないのだけれど、班長のマリちゃんに叱咤され、俺は必死に雑巾がけをしていた。
俺とマリちゃんと同じ班のやつにセキという奴がいた。いわゆる問題児で、クラスメイトと喧嘩はしょっちゅう、先生に一日八回は怒られ、よく同級生に怪我をさせるし物は壊す。授業もサボるし、ガキのくせにガンをとばす、ひねくれた奴がいた。
学年全体、いや学校全体で問題にあがる奴で校長も説教する始末。
簡単に言ってしまえば悪ガキである。
タバコを吸ってたり、酒を飲んでるというような噂も流れていた。
そんな奴だから、誰も相手をしない。
俺もしないし、マリちゃんも怖がって話そうとはしなかった。
ただ小学校のクラス運行上、必ず何処かの班には属さなけらばならず、俺とマリちゃんの班が割りを食ってしまった。
その日、珍しく機嫌が良いのかセキは俺たちが掃除している所にきていた。
もしかしたら、三日前に起こした問題せいで、先生に無理やり連れてこられたのかもしれない。
そうだとしたらいい迷惑である。
セキは教室の後方の入り口のドアに寄りかかり、入り口を塞ぐ形で座っている。
面倒にかかわりたくない俺達は、無視して掃除に励むことにしていた。
教室の前半分の雑巾がけが終わり、俺達は後方に寄せていた机や椅子を、今度は前方へと寄せ始めた。
今度は後方の掃除をするためである。
マリちゃんはバケツの中の汚れた水を変えにいった。
その間に、俺と他の班のみんなで、いっきに机を前方へと寄せた。
教室の後方に空間が空き、床には埃が舞っている。
はぁ、と溜息を突いて、俺達は箒がけから始めようとした。
その時である。
ハズレくじを引いたのは、マリちゃんだった。
教室を出て水道まで水を変えに行ったマリちゃんは、教室の前方に寄せられた机のせいで、前方の入り口から教室に入れなくなってしまっていた。
教室に入るための二つの入り口のうち、残されたのは後方の入り口だけである。
しかし、そこには……。
「やだよ、なんで俺がどかなきゃいけないんだよ。どうしても通りたければ、通してくださいセキサマ。何でもいたしますわ、って土下座しろ。ハハッ」
何も知らずにいた俺が、そんな声を聞き振り向くと、マリちゃんが後方の入り口で、セキに捕まっていた。
後方の入り口を陣取っていたセキに、マリちゃんは通れないから通してと言ったらしい。だが、セキはそれを面白がって拒んだ。
なかなか通してくれないマリちゃんは、仕方なく無理やり通ろうとした。
できるだけ席に体が触れないように……。
けど、これがまずかった。
「てめぇ、俺様の断りもなしに勝手に通ろうとするな!」
そう言ってセキは、マリちゃんを押した。
後ろに尻餅をつくマリちゃん。持っていたバケツはひっくり返り、入っていた水が床へと投げ出される。
それに当たってマリちゃんの服も水浸しになってしまった。
一瞬にして、沈黙が教室を張り詰めた。
セキは笑っている。
マリちゃんは、目を潤ませてセキのことを睨んでいる。
バシッ、
雑巾がセキの顔を直撃した。
セキが雑巾の投げられた方へと振り向き、その相手を睨みつけた。
睨みつけられたのは、俺だった。
俺の怒りは臨界点を軽く突破していた。
火山爆発もいいところ、おそらく九年生きてきて、本気でキレたのはこれが初めてだろう。
俺の両コブシはワナワナと震えている。
俺はセキに睨まれていたが、俺も睨み返していた。セキが口を開く。
「てめぇ、何すんだ。俺様にこんな汚ぇのをぶつけやがって!」
セキは落ちた雑巾を踏み潰し俺へと向かってくる。俺は後ずさりもせずに睨み返し続け、怒りを言葉にした。
「キサマが邪魔なんだよ!失せろ馬鹿。掃除しない奴は出てけ!」
「テメェ、俺様に向かってキサマとか馬鹿とか言っていいと思ってんのか!」
セキは俺の襟首を掴んだ。しかし俺のほうが背が高いため俺はセキを見下ろした。
「お前が『セキサマ』って呼べって言ったんだろ。ただ、キサマは背がないから、『セ』抜かして呼んでやっただけだよ」
「てめぇ!」
セキは怒りが頂点に達したらしく、俺に襲い掛かった。俺は顔を殴られたが。同じように殴り返す。
あとは無様子供の喧嘩。髪の毛引っ張り、爪で引っかいたり、蹴って殴って押し合って。
他の奴らはただ見ているばかり。
ただ俺の方が体格がでかい為、いつの間にかセキを押し込めていた。
その時、
「もうヤメテ」
天使の声がした。
俺にははっきり聞こえた。
声のほうを見ると、マリちゃんが両耳を押さえ、目を瞑り他の女子生徒に支えてもらいながら叫んでいた。
俺は刹那にして理性を戻した。
しかし、その手が緩んだ瞬間、追い込まれた犬は最後の手段に牙をむいた。
腕力で勝てないことがわかると、俺の腕へと思いっきり噛み付き、歯を食い込ませた。
「痛っ」
俺は呻いた鋭い痛みが、腕に食い込んでいく。
痛くて痛くて、俺は流石に目に涙を溜め始めた。
その衝撃的な展開に、それまで傍観していたクラスメイトも現実に引き戻され、俺からセキを引き剥がしに入った。
ふっと目の端にうつったマリちゃんは、驚きと心配で、また目の端に涙を溜めている。
俺は歯を食い縛りながら、泣かないように、痛みに耐えていた。
そこにやっと、事を聞きつけた担任と幾人かの先生方々がやってきて、俺はセキの牙から抜け出した。
腕を見ると、見事にくっきりと残ったセキの歯型が、青黒く凹凸をつけていた。
俺は直接的痛みから解放され、直後に涙が止まらなくなった。
先生方に引き離されていくセキは俺を見ながら笑っている。
『どうだ、俺は強いだろ!』
そう言いたげだ。
俺は泣きながら、そんな奴に向かって声を張り上げた。
「セキ!俺はお前が怖くて泣いてるんじゃない!痛くて、腕が痛くて泣いてるんだ!」
セキはキョトンとした顔で俺を見つめる。
担任が大丈夫かと俺の傷跡を見た。予想以上に俺の傷が酷いのを確認すると、クラスメイトに保健室に連れて行くように言った。
俺はクラスメイトに引きずられながら、教室を出ようとした。
しかし、俺は興奮していた。
あんな奴に、あんな奴に、俺は負けない!
『女の子を泣かしちゃいけないんだぞ!』
俺は強く強く叫んだ。
教室を出て保健室に向かう途中。
俺は泣きながら大声でそう叫び続けていた。

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