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ウキクサコミュのウキクサの本 #002 エスプレーソ

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いまいる場所をどんなに愛しているとしても
ここではないどこか遠くへ
ふと出かけてしまいたくなる夜が
 
たまに、あります  


この場所に別れを告げて出て行くのではなく
ちがう景色のある町に住む友人の家のドアを叩くように

そっと


それは、たとえば
降りしきる雨に閉じ込められてしまった夜に。



『つむじ風食堂の夜』 著)吉田篤弘


「すべて平等に雨が降ってる」

 それは、前の日から考えておいた
 雨の日のデートにおけるとっておきのセリフのつもりだった。
 正確に言うと、すでに一週間くらい前から準備していて、
 そのセリフを彼女の前で言いたくて、
 それこそ雨乞いまでしていたのだった。

「そうね」

 こちらの意に反し、彼女はやはりどこか遠くの世界の方へと
 視線をさまよわせ、それから、

「でも、雨って、そのうちやむからいいんじゃないの?」

 さも当たり前であるようにそう言った。

「え?」

「だって、やまない雨ってないわけでしょう?
 やむって知ってるからいいんじゃない?
 こんな調子でずっと降っていたら、
 女の子はみんな前髪がおかしくなるもの」


(『つむじ風食堂の夜』筑摩書房刊 「エスプレーソ」より抜粋)



やまない雨がないことが安心であるように、
帰れる場所があるから、
「ここ」ではない「どこか」に行きたいと
安心してそう願うのかもしれません。


どこにでもありそうで、
でもどこにあるか判然としない町で、

一見ごくふつうだけど、
なんだかちょっと変わり者の住人たち
(屋根裏に住み、雨降りの研究をする先生や、
星屑の絵を描くように果物を売る青年、
いつも遠い場所へ想いを馳せている帽子屋や、
眉間に深いシワを寄せながら、素直になれない劇団女優―)が

だれにでもあるような、
でもとっておきの

ひそやかでやわらかな日常を生きている。




たとえば
降りしきる雨に閉じ込められてしまった夜

「つむじ風食堂」のドアをそっと開けるように
ページをゆっくりと繰ってみてください。


ありそうでなさそうなその町は
不思議な親近感をまとってこちらに寄り添い、
あなたはいつの間にか看板猫のオセロの頭を撫でながら
寡黙な店主に「クロケット定食、ひとつ」と頼んでいることでしょう。



かたわらにはどうぞ、エスプレーソをご用意の上、
お出かけされることをオススメします。





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コメント(6)

michiquitaさん、はじめまして。今晩は。
コメントお寄せくださって、ありがとうございます。
あなたが初めてのお客様ですよ。

単行本と文庫本、けっこう好きずきが分かれるようなので、
2通り掲載しました。正解だったようで、よかった。

そうですね、猫の喉でも撫でながら、
スプーンやフォークを使う時間は
目の前の料理よりも温かなものかもしれません。

そういう場所、いくつかあると、
雨に降り込められる夜も安心ですよね。

また、いらしてくださいね。
お湯を沸かして 紅茶を淹れよう
ロバート・ジョンソンのテープを聴こう

・・・と口ずさみたくなるね。

昨日は雨どころか、福岡ではみぞれが降りました。

こんなきれいな雨の日には
だれにも訪ねられたりしたくないもんです。

とはいいつつ、
こっちはここのところ連日連夜の快晴で、
夜にエスプレーソな気分にも
なりゃしません。

雨の日の楽しみはゆっくり掃除すること。
雨の日の楽しみは長靴を履くこと。
雨の日の楽しみは少しお昼寝ができること。

存在感のある単行本が好きです。
妻は小さな文庫本が好きです。
しおりは自分で結んだ水引のしおりを愛用しています。

おともは、プレーンなソーダかコーヒーが欲しいです。



なべさん、はじめまして。今晩は。
コメントお寄せくださって、ありがとうございます。

雨が降っているというだけで、
いつもよりものんびりと生活することを許されちゃうあのかんじ
わたしはとっても大好きです。
(まぁもともとみんなに呆れられるほどのんびりな性質ですが笑)

雨や雪はいろんな音を吸い込むので、
そのぶんひとつのことに集中できるのかもしれませんね。


わたしも、どちらかといえば単行本を好みます。
でもたまに、文庫の身軽さも憧れます。
どちらにもあるそれぞれの利点や魅力を、
それぞれあいしています。

しおりを自分で結ばれるなんて、すてきですね。
ページをほどくのがますます楽しくなりそうです。
まねしてみようかな。

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