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クラシックマジック研究コミュのマックス・マリニ Max Malini

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MALINI, MAX (1873-1942)
ポーランド生まれ。幼い時にアメリカに移住。
15才の頃、セイデンという大道マジシャンに師事。
酒場などでの下積みを経て、上量階級でのパーティーなどに招かれるマジシャンとなり成功した。アメリカ大統領やヨーロッパの王侯貴族のみならず、南太平洋の島々の王族とさえも付き合いがあったとも言われている。
クロースアップマジックにおいて最も成功した偉大なるマジシャンであろう。
大道具全盛の大魔術時代においてカップアンドボールなどで上流社会を席巻し、半ば伝説にさえなった実在の人である。
得意技は、カードスタブ、袋玉子、チンカチンク、ビルインレモン、などなど。
これらは、バーノンが実演をした『スターズオブマジック』(http://mixi.jp/view_bbs.pl?id=5948696&comm_id=236730 )やギャンソンが著したマリニの本“Malini and His Magic"などに解説されている。

金持ちになるコツは? と人に聞かれれば、
「金持ちと付き合う事さ」

パームをするタイミングについて、もし観客がずっと手元を見ていたらどうするのか? と聞かれれば、
「目をそらすまで待つさ」

有名な話としては、大変高価なテーブルにカードスタブを行い、ナイフで傷つけてしまった。悲鳴を上げる持ち主に平然と、
「かの有名なマックス・マリニが付けた傷と言えば良い。(さらに価値が上がるであろう)」

数々の逸話に事欠かない。世界を巡り各国の王様や貴族にマジックを見せて来た男。なんと戦前に日本にも来て天皇陛下にすらマジックを見せたという。
幼い頃の高木重朗氏はその頃のマリニに出会い、マジックを見せてもらっという話だ。

本名はマックス・カーツ。
リッキー・ジェイのおじいさんの名前もマックス・カーツだが、全く関係はない。

袋玉子
http://mixi.jp/view_bbs.pl?id=1633121&comm_id=236730

カップ&ボール
http://mixi.jp/view_bbs.pl?id=1451497&comm_id=236730

ダイ・バーノン
http://mixi.jp/view_bbs.pl?id=9097292&comm_id=236730

ネイト・ライプチッヒ
http://mixi.jp/view_bbs.pl?id=9529332&comm_id=236730

コメント(58)

ポーランド生まれなのでてっきりポーランド人かと思っていましたが、どうもユダヤ人のようです。
お金というものに対しての執着心、名声に対しての功名心、それらの固まりであったと思われるマリニ。ユダヤ人だと思うとなんか納得ができます。
He rarely did tricks for anyone unless it meant either money or some other personal gain. A good lesson for todays magicians.

こんな記事を見つけました。これを読むとユダヤ人だと思いますね。
ステレタイプで申し訳ありませんが。また、後の表現がおもしろいですね。
のんちゃんさんへ
プロですね〜。この文を読むとそう思います。
自身のマジックの希少価値というものを一番良く分かっていたのでしょう。プロとして普段無料でマジックを見せていたらいざお金をもらうときに困ってしまいますよね。
私を含めて現代のプロマジシャンは,アマチュア上がりがほとんどでしょう。そうなるとついお金と関係なく演じてしまうことが多くなってしまいます。
ということは、マリニの半ば伝説になっている道ばたでとっさに演じたマジックにしてもパーティー会場で即席に演じた話にしても、次の仕事に繋げるための計算された即席マジックだったのでしょうね。やっぱり凄い人です。
かのバッキンガム宮殿では代名詞とも云えるカードスタブを演じました。
マリニの場合はなんと10人の観客にカードを選ばせ、目隠しをしてからテーブル上にあるカードを1枚ずつそれをナイフで刺してゆく、というものです。
もちろん最後のカードは失敗し、テーブルにぐさっと刺してドラマチックにテーブルを傾けると1枚だけ残っている、というものです。
同じことの繰り返しだけを10回繰り返しても退屈させないのはエンターテイナーとしての実力でしょう。
おっ、この「繰り返し」の件、そそられるではないですか。
誰かこの話しにのる人いない?

ちなみに謎掛け、ここに見るタイプの、そして話題にしたいタイプの「繰り返し」と、実によく話しのネタになるコインズアクロスでの「繰り返し」は、次元、というか位相が異なる。さて、いかに。
じつはバーノン自身もそれに対してある疑問を抱いていた可能性があります。
というのもバーノンがこのカードスタブを演じるときは、3人の観客だけなのです。
初コメントですあせあせ(飛び散る汗)

>S原さん

必ず来る“最後”がある。
ということですかね?自信ないですけど…あせあせ(飛び散る汗)

観客にもわかる明確な終わりがあると、観客自身が盛り上がりやすいように思います。
あ、コインズアクロス(僕自身は演じられないですが)でも、演出次第でどうとでも出来るのかな…?

なんか中途半端な答ですいません。
>おっ、この「繰り返し」の件、そそられるではないですか。 誰かこの話しにのる人いない?

確かに面白いテーマです。このマックス・マリニのトピックよりも『研究の雑談Today』の方がふさわしいかと思いますが、いかがでしょうか?
バーノンとマリニが最後にあったのはカルフォルニアのハリウッド・ルーズベルト・ホテルの中でした。このホテルにあるナイトクラブのオープニングセレモニーに呼ばれ仕事をしていたのがバーノンだったのです。
予想以上に反響が良く、バーノンはたくさんのマジックを演じなければなりませんでした。得意のカードアップザスリーブ(袖に通うカード)を含め大人数にも通じるカードマジックとしてカードスタブを演じたのでした。
このハリウッドルーズベルトホテルに招待されていたのがマリニであり、偶然にもバーノンのマジックを目撃したのでした。
バーノンの演技の後にマリニはやってきました。そしていきなりこう言ったのです。
「バーノン! わしゃ、お前さんにわしのトリックをやって欲しくはないぞ!」
「ど、どういう意味ですか? マックス? 私はあなたのトリックは演じていませんよ。」
もちろんバーノンにとってはまったくもってチンプンカンプンな言われ方でした。
「お前はカードスタブをやった!」
「え? マックス、あれはあなたのトリックじゃありませんよ。だってあなたが生まれる前から存在していてちゃんと本にも解説されているトリックじゃないですか。」
当時のマジックの解説本にも必ず書かれているトリックの一つだったようです。Divining Cardと呼ばれていました。ダウジングロッドのようにナイフを扱い、観客のカードを刺した、と思われます。
「1枚だ! そのトリックは!」
言い訳をするバーノンの言葉を遮るようにマリニは続けました。
「10枚じゃないだろ!」
「え? マックス…、私だって10枚はやってませんよ。」
「バーノン、君は1枚じゃないだろ、それ以上の枚数のカードを使ったじゃないか。それ以上の枚数を使った時点でもうそれはわしのトリックなんじゃよ!」
結局のところ、マリニの剣幕に押されバーノンは約束するはめになりました。
マリニの生きている限りカードスタブは演じない、と。
そしてバーノンは約束を守って封印し、終生カードスタブを演じることはありませんでした。
グレート・トムソーニ曰くは、ロシア系ユダヤ人だとのことです。
チンカチンクと呼ばれる有名なマジックもじつはマリニ考案である、との事です。本人は角砂糖を使ったとも王冠を使ったとも言われています。
「クロースアップ マジック」(松田道弘 金沢文庫)の解説のところには
は「チンカチンクはマリーニによって有名になった」とかかれていますので
どうもオリジナルではないのではないかと思いオリジナルを調べていますがまだわかりません。私は前からビールの王冠でやっています。とにかくパームがしやすいですので。現象からすると「コイン・アッセンブリー」と同じですので、オリジナルのヒントはその辺にありそうな気がしますが。
同感ですね。マリニの性格上それを考案したとは思えないんですよね。コインアッセンブリーの方が古いんでしょうか? コインアッセンブリーの歴史も意外と謎ですね。コインのチンカチンクは、王冠のチンカ・チンクをヒントにデビットロスが作り上げたものですし、ピックアップムーブを使ったものはアル・シュナイダーですよね。と考えるとマリニのチンカチンクより古いのは、ハンカチを使ったコインアッセンブリーなんでしょうか。
『スターズ・オブ・マジック』こそがおそらく現在のチンカチンクを最初に発表した書物かと思われるのですが、いかがなのでしょうか?
タイトルが”マリニ・ベイのチンカチンク”となっています。
これを改めて読み返すとモハメド・ベイ(レオ・ホロウィッツ)が考案しマリニが得意技にしていた、と受け取れるのですがどうなんでしょうか?
「スターオブ・マジック」のホロイッツの手順はマリニのチンカチンクを見て
自分の手順をマリニに見せたところマリニからこの手順を自分が現役でこのマジックをやっている間はルーティーンを公開しないでくれと頼まれ、マリニがなくなるまで公開されなかった。「スターオブ・マジック」で初めて一般に知られるようになったということです。これがいつ頃作られたのかなど現在「Magic Cafe」に質問していますが、まだ誰からも返事をいただいていません。
Fred Kaps のチンカチンクのビデオがあるそうですが、まだ見たことがありません。真鍮の重いキーブを使ってやっているそうですが、どなたか知りませんか?
マリニは「Chanky Chank」といっていたそうです。これはアジア人種を見下した
表現です。このトリックはもともとが日本の天皇陛下の家族のストーリーがあったようです。
詳しくは後日。
のんちゃんさんへ
楽しみにしてます。そういえばマリニは2回ほど来日しています。皇族にマジックを見せたはずです。ということは天皇陛下にもマジックを見せた、ということなんでしょうか?
>「スターズ・オブ・マジック』こそがおそらく現在のチンカチンクを最初に発表した書物かと思われるのですが、いかがなのでしょうか?

私もそう思っていますたが、なんとSachsの「Sleight of Hand]に”SUGAR"というタイトルでかかれてあります。。初版1877年に載っているかどうかはわかりませんが、第二版が1885年ですから当時マリニは12歳ということになります。もし初版に載っているとすると100%マリニのオリジナルではありません。第二版でも12歳ということですのでほとんど可能性はないでしょう。

この”SUGAR"の解説には4個の角砂糖をひとつは日本の天皇、2個目は皇后、三個目はその娘、4個目は首相ということで意味づけ、これらの4人が民衆に隠れて旅をするそして一箇所に集まるという話をしながらやっていたそうです。
>なんとSachsの「Sleight of Hand]に”SUGAR"というタイトルでかかれてあります。

サック(サキ)の本を読んでびっくり! 確かに書かれていました。イラストがないので見過ごしていました。
チャプター3(P39)に”ジャパニーズ・シュガー・トリック”として紹介されていますね。
角砂糖は大変パームし易い、と述べられていることもあり王冠やコインでチンカチンクを行うのは後年のようですね。モハメド・ベイ(ホロウィッツ)も砂糖で行っていましたし。
1970年代から頻繁に来日しているグレート・トムソーニ(ジョニー・トンプソン)師もシュガーキューブという角砂糖を使って独自の手順をレクチャーしていました。ただこの時代においても砂糖を使うのは時代遅れだとトムソーニは述べています。
T・Aウォーターの『マジック事典』のチンカチンク(CHINK-A-CHINK)を紐解くとマリニの名前は出てきません。
考案者の名前としてレオ・ホロウィッツがクレジットされています。そして初出典は『スターズ・オブ・マジック』になっています。
ボールや角砂糖(シュガーキューブ)、サイコロなどが用いられたと述べ、またビールビンなどの王冠ではじめたのはゴッシュマン、小さな貝殻ではじめたのはダグ・ヘニングであるとも書かれています。
ふとこのチンカチンクってもともとはコインアクロスの様なものだったのではないか、と思いました。ごく単純にエキストラの角砂糖を持っていればそれを両の手でパームしていけばなんとなくマジックが出来る、と考えていくのは自然なことなのではないかと思います。あるいはカップ&ボールのカップを使わない亜流として自然に生まれたのかもしれません。
サキ(Sachs)の『スライハンド(SLEIGHT OF HAND)』に記載されていますので,ホロウィッツはマリニのチンカチンクになにかしらの独自性を付け加えチンカチンクと名付けたと考えられるのではないでしょうか。
マリニはこれを「chanky chank」と呼んでいたことからすると、chink a chinkというようになたのはホロイッツからではないのでしょうか。
スター・オブ・マジックによると特筆すべき点は、両手を一切交差させることなく、また、いかにして、右手のある角砂糖を左手に投げ、4個しかないことを何度か行うことによって右手が空であるように見せることである。そして最後にポケットから余分の角砂糖を数個取り出すことで、魅力的でかつ不思議なマジックにしている。とあります。ということは両手を交差させない点、そして特筆すべき点のところがホロイッツのオリジナリティーではないでしょうか。

なお、ホロイッツがモハメッド・ベイと名前を変えたのはバーノンの奥さんが彼に彼の唇がエジプト人に似ているのでエジプト人の名前に変えたらと提案したことから名前をホロイッツからモハメッド・ベイにしたそうです。
>ホロイッツがモハメッド・ベイと名前を変えたのはバーノンの奥さんが

そうだったんですか!
バーノンの奥さんの影響力というものはすごいですね。

>両手を一切交差させることなく、

という事はホロウィッツ以前は手が交差してしまう、という事なんですよね。このチンカチンク独特の4つを正方形に並べるスクエアフォーメーションというのはマリニ以前からあったのでしょうか?

>右手のある角砂糖を左手に投げ、4個しかないことを何度か行うことによって右手が空であるように見せることである。

これは通常コインなどで行われるユーティリティムーブですよね。この改め法をバーノンはカップ&ボールでも用いています。当時流行の技法だったのか、はたまたバーノンが影響を受けたのか。
>
このチンカチンク独特の4つを正方形に並べるスクエアフォーメーションというのはマリニ以前からあったのでしょうか?

Sachsの「Sleight of Hand」に載っているSugerのおき方が同じですのでマリニ以前からあったのだと思います。
「マリニーがハーフダラーを使ったコイン奇術をやる時、どうするか。マリニーはポケットからコインを取り出すようなことは決してしない。その友達をわざわざバーに誘って、五十セントとわかっている飲み物を注文し、そのおつりを受け取ってから、その五十セントを使って奇術をやったという。」

近藤幸三著『奇術 その魅力 その世界』P33
「真物のマリニー師が再度来朝したのは大正十五年だったと思う。横浜のニューグランド・ホテルで公開され、私は見物に行った。その時は老齢で舞台でもよぼよぼしていたが、奇術は上手だった。」

松旭斎天洋『奇術と私』p326
「明治四十年ごろに外国から魔術師マリニーが来朝した。国籍不明のこの人は東京丸の内有楽座で興行したが、その時の呼び物はなんといっても不思議なトランクであった。
 これを見て天一先生も早速、道具を作り天勝と二人で上演して好評を博した。この魔術は天勝を袋に入れ、これをトランクに納め、錠前を掛けてロープで縛り、カーテンを掛けてその外へ首だけ出していて、天一先生がワンツースリーと言うと同時に首を入れる。天一先生は消えて、天勝が外に出ているという魔術。
 この魔術は、とても客受けが良いので、天一先生が陰退後は、天勝天二天洋も上演し、またその後は、奇術師でちょっとした者はみな演じていた。」

松旭斎天洋『奇術と私』p324
明治40年(1907)ころに来日ということは、マリニが34歳ころと考えられ、再来日が大正15年(1926)ということは53歳くらいと考えられます。
第一章 マックス・マリニという人物
(原著:ダイ・バーノンとされる文章をもとに再構成)

生い立ちと渡米
マックス・マリニ(本名:Max Katz Breit)は、1873年、当時のオーストリア=ハンガリー帝国領で、現在のポーランドとオーストリアの国境近くにある町オストロフ(Ostrov)に生まれました。 幼少期に家族とともにアメリカへ移住し、ニューヨークで育ちます。

少年時代の修業
12歳で曲芸師として活動を始め、15歳頃にはニューヨークのボウリー地区でバーを経営していた奇術師・火喰い芸人・腹話術師のプロフェッサー・サイデン(Professor Seiden)の弟子となります。 ここでマリニは、後に代名詞となる「カップ&ボール」を含むスライハンド(手練手管)の技術を学びました。

20代前半は大道芸や酒場での演技に明け暮れます。酒場は酔客や騒音など演技環境が劣悪でしたが、この経験が「どんな状況でも演じられる」強靭な舞台感覚を育てました。 この頃、後にボードビルで名を馳せるコメディマジシャンエミール・ジャロウ(Emile Jarrow)やプロフェッサー・ウォルターズとも交流しています。

上流社会への進出
20代半ばになると、マリニは活動の場を一変させます。 酒場や大道から離れ、富裕層や社交界の集まりでのプライベート・エンターテイナーとなり、アメリカとヨーロッパの上流階級にその名を広めました。

彼の顧客リストには、歴代アメリカ大統領(マッキンリー、ハーディング、クーリッジ、ルーズベルト)や英国王室(エドワード7世、ジョージ5世、ジョージ6世)、さらには日本の貴族院、シャム(現タイ)国王など、錚々たる名前が並びます。 ホワイトハウスやバッキンガム宮殿での演技はもちろん、各国の王侯から贈り物を受け、特にシャム国王から贈られた宝石をあしらったシャツは特別な場で着用していました。

人柄と外見
マリニは小柄でずんぐりした体格、そして非常に小さな手を持っていました。 服装は常に最高級で、声はしわがれていましたが威厳があり、外国訛りのある独特な英語を話しました。 初対面の印象はオペラ歌手や指揮者のようで、その存在感と自信は圧倒的でした。

宮廷でのユーモア
ロンドン滞在中、常連だったレストラン「ロマノズ(Romano’s)」の仲間から、王族の前での作法について冗談交じりの助言を受けます。 「王に呼ばれたら必ず跪くんだ」「王を“神聖で偉大なる我らの王”と呼べ」「宮殿では後ろ向きに歩くんだ」――。 マリニはすべて真面目に「わかった、覚えておくよ」と答えました。 後日、王の前での演技を終えたマリニは、仲間にこう語ったといいます。 「君たちの冗談を全部信じると思ったかい? 私は宮廷作法を知っている。王が“素晴らしい!”と言ったとき、私は跪いてこう言ったんだ――“神聖で偉大なる意味なしのトミー”とね。」

技術と哲学
小さな手ゆえに、カードをパームすると端がはみ出してしまうため、彼は別の方法を工夫しました。 マリニの演技はシンプルで直接的、流れが明快でしたが、その裏には強力なミスディレクションが隠されていました。 彼の信条は「観客が手を見ているときには絶対に技法を使わない」。 観客の注意が逸れるまで待ち、もっとも予想されない瞬間に技法を行うのです。 この理論を彼は短く「It’s the Eye(目だよ)」と表現しました。 つまり、観客は演者の視線の先を見る――その瞬間に秘密の動作を行う、ということです。

バーノンとの出会い
著者(バーノン)が初めてマリニを見たのは少年時代。父の所属するクラブのロビーから、ドアの隙間越しに演技を盗み見たのが最初でした。 年月を経てニューヨークのウォルドルフ・アストリア・ホテルで再会し、旅の話やトリックを見せてもらう機会を得ます。 マリニは通常、裕福な人や自分に利益のある相手にしか演技を見せませんでしたが、バーノンは何度も会い、そのたびに影響を受けていきます。

晩年と死
晩年、病により体が弱り、最後の舞台は椅子に座ったまま兵士や水兵のために演じられました。 1942年10月3日、ハワイ・ホノルルで死去。享年69歳。 マジック界は、もっとも偉大な人物の一人を失いました。
第2章 マリニのフル・イブニング・ショー
会場と舞台構成
マリニのフル・イブニング・ショーは、格式あるホテルのダンスホール(ballroom)を会場に行われた。 ホールの一端に合わせて、数フィートの高さの即席ステージ(platform)が設けられ、その片側はパーテーションで仕切られ、マリニの控え室として使われた。 ステージは地元の花屋から贈られた花々で美しく飾られていた。これらの花は、マリニが花屋にマジックを披露したお礼として、しばしば無償で提供されたものである。

演壇中央には大きなテーブルが置かれ、その上には6組のデック、2つのタンブラー、2本の銀製テーブルナイフが整然と並べられていた。これらは第一幕で使用される道具である。

第一幕
前奏曲が流れ、白い美しい衣装に身を包んだマリニが登場。 冒頭の口上は極めてシンプルで、「特別な道具や装置、アシスタントは使わない」という事実に観客の注意を向けるものだった。

演目1:シルクの消失と再出現
胸ポケットから白いシルクを取り出し、古いタイプのランプ筒かガラス製チューブに入れる。両端を手で押さえ、「1、2、3」と数えると同時にシルクは消失。 間を置き、シャツの襟元から再びシルクを取り出す。

演目2:カラーチェンジ
左手を握り、その中に白いシルクを押し込むと、手の下から小さなアメリカ国旗が現れる。軽妙な台詞とともに演じられるシンプルな変化現象。

演目3:浮遊(タバコとナイフ)
観客からタバコを借り、さらにもう一本を求めるが、二本目が差し出される前に一本目から二本目を“取り出す”マニュピレーションを披露。 二本のタバコをタンブラーの上に置き、手をかざすとタバコが掌に貼り付く。観客席に降り、「Go」の合図で床に落とし喝采を浴びる。 続けて銀製ナイフでも同様の浮遊現象を行う。

演目4:タンブラーの通過と消失
二つのタンブラーを使い、一方がもう一方を通過する現象を見せ、最後は空中に投げて視界から消す。

演目5:カードマジック
ここからが第一幕の白眉。 6人の男性観客をステージに招き、それぞれに新品のデックを開封・シャッフルさせ、1枚選んでポケットに入れてもらう。 全員のカードがハートのクイーンであることを示し、「すべての男性は女性を愛す」という前口上を証明する。 続いて、観客にカードをピークさせ、空中から取り出す、観客の手の上でカードを変化させる、観客のポケットからカードを出すなど、多彩なカード当てを披露。

演目6:目隠しカードスタブ
観客に8〜10枚のカードを選ばせてデックに戻し、シャッフル後、テーブルに散らす。 目隠しをしたマリニがペンナイフで突き刺すと、それが宣言されたカード。 最後の一枚はテーブルごと突き刺し、他のカードを落として残ったカードが正解という劇的なクライマックス。 このトリックは長年マジシャンにも謎とされた。

第二幕
衣装を黒いニッカボッカ、黒ストッキング、黒マントに替えて登場。

演目1:エッグバッグ
フランス人や他国のマジシャンを真似しながら、卵が出たり消えたりする現象を観客参加で繰り返す。最後は女性の髪から卵を出現。

演目2:切って元に戻るリボン
二人の少年をアシスタントに、リボンを切って結び、再び元に戻す。

演目3:コインゲーム
右手の指をハンカチで縛り、人差し指の上にクオーターを乗せ、ハーフダラーで叩くがクオーターは落ちない。観客の少年に挑戦させ、賭け金を変えながら笑いを誘う。

演目4:お札とレモンと卵
借りた5ドルと10ドルを消し、レモンから5ドル、卵から10ドルを出現させる。 場合によってはカードスタブに匹敵する効果を上げた。

演目5(追加の場合):ボタントリック
アシスタントのコートのボタンを噛み切り、即座に元通りに縫い付ける。

第三幕
中国服で登場し、東洋の霊媒師チン・リン・フーを演じる。

演目1:水入りボウルの出現
大きなフォーラードを広げて持ち上げると、水で満たされた大きなボウルが出現。 再度行うと、金魚入りの背の高いボウルが現れる(重量約23kg)。

演目2:ものぐさなトリック(The Inertia Trick)
5つのタンブラーの上にトレイを置き、その上にカード筒と卵をセット。 カード投げなどを見せた後、トレイを叩き落とすと、卵だけがタンブラーに落ちる。 これがショーのフィナーレとなる。

補足
演目の順序は状況により入れ替わることがあり、バーやディナーショーでは追加演目も行われた。 続く章で、ここで紹介された各トリックの詳細な解説が行われる。
マリニのフル・イブニング・ショー構成分析表
幕 演目名 演出意図・狙い 技法分類 観客参加 備考
第1幕 シルクの消失と再出現 冒頭で視覚的インパクトを与え、観客の注意を集中させる 基本消失法+ボディロード なし シンプルで即効性のある現象
カラーチェンジ(シルク→国旗) 色変化で驚きと笑いを誘う カラーチェンジ(パーム+ロード) なし 台詞と動作のテンポが重要
浮遊(タバコ) 借り物を使い即興性を演出 マニュピレーション+粘着 gimmick あり(タバコ提供) 「Go」の合図で落とすタイミングが笑いを生む
浮遊(ナイフ) 道具を変えて現象の幅を見せる 同上 なし 銀製ナイフで視覚効果増
タンブラー通過と消失 物体透過と消失で変化をつける カップ&ボール系原理+スイッチ なし 消失は投げ上げ型
6人参加カード当て(全員Qハート) 大人数参加で舞台を広く使う フォース(複数デック) あり(6人) 前口上と現象がリンク
カード出現(空中から) 素早いビジュアル出現 パーム+プロダクション あり 技法を見せない自然さ
観客の手でカード変化 観客の手で起こる現象で強い印象 ダブルリフト/トップチェンジ あり 触覚的サプライズ
思ったカードの出現 メンタル風演出 フォース/コントロール あり 観客のポケットから出現
目隠しカードスタブ 第一幕のクライマックス ブラインドスタブ+コントロール あり(複数人) マジシャンにも謎とされた
幕 演目名 演出意図・狙い 技法分類 観客参加 備考
第2幕 エッグバッグ コメディと国際色の演出 エッグバッグ原理+演技術 あり(複数人) 各国マジシャンの物真似
切って元に戻るリボン 古典的復活現象 カット&リストア あり(2人) 少年アシスタント使用
コインゲーム ゲーム形式で笑いを誘う パズル系 あり(2人) 賭け金変化で笑い
お札とレモンと卵 異種融合の出現現象 ビルスイッチ+ロード あり(2人) シンプルだが効果大
ボタントリック(追加) 即興風の驚き スイッチ+ロード なし 衣服を使った演出
幕 演目名 演出意図・狙い 技法分類 観客参加 備考
第3幕 水入りボウル出現 大型プロダクションで驚き ロード+カバー なし 2回目は金魚入りで重量感
ものぐさなトリック フィナーレの一斉現象 タイミング+物理原理 なし 卵がタンブラーに落ちる瞬間が決め所
分析ポイント
構成の緩急:第1幕は小道具中心でテンポ良く、第2幕はコメディ色を強め、第3幕で大型現象を投入して終える。

観客参加の配置:各幕に必ず観客参加型を入れ、舞台と客席の距離を縮める。

技法の多様性:スライハンド、セルフワーキング、物理原理、大型プロダクションをバランスよく配置。

演出の一貫性:「特別な道具を使わない」という冒頭の宣言を貫き、借り物や日用品を多用。
第三章 マリニの手法
ここでは、マリニがイブニングショーで実際に行ったマジックの方法を解説します。

まず強調しておきたいのは、これらのマジックの効果は、単にトリックの仕組みだけで成り立っているわけではないということです。 マリニの個性、間の取り方、そしてプレゼンテーションが大きな役割を果たしていました。 彼は常に非常にゆっくりと演技を進め、その落ち着きと自信が観客の信頼を引き寄せました。

演技中によく口にしたのは、

「正直に申し上げます。紳士淑女の皆様、今から少しだけ騙し申し上げます。」

また、拍手を受けた際には両手を上げて、

「これは大したことではありません。ただのウォーミングアップです」

と軽くいなすこともありました。 演技前にはオーケストラに「静かなワルツを」と頼むのが常でした。

第一幕
シルクの消失
ガラスチューブに入れたシルクが消える現象。 マリニはシンプルな引きネタを使っていました。左腕にバンドで紐を固定し、肩を通して右袖から輪を出す構造です。シルクを輪に通して筒に入れ、数を数えながら両手を前に出すと、輪が引かれてシルクが袖に引き込まれます。 冒頭に行うため、腕の可動制限は問題になりません。演技途中で行う場合は、紐の取り回しを工夫する改造法も紹介されています。

カラーチェンジ
消したシルクの複製を襟元から取り出し、同時にベスト下から小型のハンカチチューブを取り出します。中には小さなアメリカ国旗が仕込まれており、手中でシルクを国旗に変化させます。

浮遊(タバコ/ナイフ)
タバコの浮遊はギミックを使わず、マリニの脂性で湿った肌質を利用して軽い物を掌に貼り付ける方法。借りたタバコの背後に自分のタバコをパームして重ね、両手を離して見せます。 ナイフの浮遊は刃に指を当て、中指と薬指で軽く圧をかける一般的な方法です。

タンブラーの通過と消失
通過現象はカップ&ボールの原理。消失は投げるふりをして右手にパームし、コート下や観客の陰から再出現させます。小さな手でも、投げる動作のミスディレクションで隠しきりました。

カードマジック
6組の新品デックを観客に配り、シャッフル後に全員にハートのクイーンをフォースしてポケットに入れさせます。 続いてピークしたカードをサイドスリップでトップにコントロールし、様々な方法で出現させます。フォースはリフルフォースを使用。

目隠しカードスタブ
マリニの代名詞的傑作。複数の観客に自由にカードを選ばせ、返す位置をコントロールして選ばれたカード群をボトムに集めます。 目隠し後、観客にデックを3分割させ、パケットの位置と枚数を誘導。ナイフで枚数を数えて目的のカードを突き刺します。 残りのカードも、ナイフ先端を常に選ばれたカードに触れさせながら混ぜることで位置を見失わず、順に当てていきます。 最後の1枚はテーブルに突き刺したまま残し、他のカードを払い落としてから明かします。 非協力的な観客にも対応できるリカバリー法や、演技後に結び目の移動(スリップノット)を加える演出も行っていました。

ポイント
・演技のテンポ:常にゆっくり、観客の注意を自在に操る。
・ミスディレクション:視線誘導や会話で手元から目を逸らす。
・柔軟な対応:観客の行動に応じて即座に方法を切り替える。
・追加演出:本編の後に小技を加え、不思議さを増幅。
第三章 マリニの手法 パート2
エッグバッグの位置づけと比較
評価: エッグバッグの名手として、マックス・マリニ、ホレース・ゴールディン、アーノルド・デ・ビエールの3名を挙げるのが通例。

比較例: カーディニは「ゴールディンのフル・イブニングにおける最高の演目はエッグバッグだった」と語った。大型イリュージョンを凌駕する完成度。

演出の違い:
ゴールディン: ハゲ頭のアシスタントの頭上でコメディ調に展開。

マリニ: バッグを「雑に叩かない」。丁寧で大事に扱う所作を貫き、上品さと不思議さを同居させる。

道具仕様と理由
バッグの素材・サイズ・構造
素材: 薄手の黒布(ウールのような厚手はNG。大きく重く見え、隠しを疑われやすい)。

サイズ: 片手を差し入れて指が十分に開け、袋全体を平らにできる程度。

補足: マリニは手が非常に小さかったため、相対的に小ぶりのバッグを使えた。手が大きい演者はサイズ調整が必要。

構造: 片側が二重になり、内側の角に三角の切り欠き(秘密の出入口)。
目的: 卵が二重布の間をスムーズに出入りできること。
扱い: 裏返す際、切り欠きは常に「後ろ側」にくるよう保持。必要に応じて親指で切れ目を自然にカバー。
図参照: Fig.6a(サイズ感), Fig.6b(二重構造と切欠き), Fig.6c(折りたたみ保持)

基本手順と中核コンセプト
導入から最初の消失
導入: 卵を丁寧に袋へ。「秘密の入口に押し込む」ような雑な動きはしない。

見せ方: バッグを軽く撫でるように叩いて(slight stroking)、空である印象を与える。
裏返し操作: 裏返すために手を入れる動作の中で、卵を二重布の中へ移動させ、袋口側の角へ「落とす」。

この「裏返しと同時進行」の移動が核。
繰り返し: 裏表の入れ替えを何度か行い、「一晩中でもやれる」と軽いジョーク。

フラット化: 手を袋中で完全に平らに開き、卵は手の下(中指と薬指の間、または親指と人差し指の間)を通る。袋面が平坦に見えるため、中身がないように感じさせる。

折りたたみ保持と観客検査
折り込み: 袋を折りたたみ、そこへ卵を隠す(Fig.6c)。

検査1: 観客の右手で袋内を触らせ「何もない」感触を認識させる。

検査2: 次の観客の左手で同様に探らせると「卵を見つける」ことが起き、笑いと不意打ちを両立。

コンビンサーとあらため技法
ピンチ・バニッシュ応用(両手クリーンの示し方)
状況: 観客が「手の下に何か隠しているのでは」と疑うとき。

方法: コインのピンチ・バニッシュに類似。卵は滑るため、ごく軽い圧で二重布の内部を手から手へ「跳ばす」(Fig.6d)。

効果: 片手ずつ空を示せる。単純かつ強力なクリーンさの演出。

ねじりあらための改良
旧来法の問題: 角をねじる方法は、卵を握り込みで保持する必要があり、膨らみや不自然さが出やすい。

マリニ法: 卵を一方の角に置き、対角の別角を両手でつまんでねじる。

結果: 中央に来る別の角に卵が自然に隠れ、見た目は左右の角を軽く摘んでいるだけ。袋中央に膨らみが出ず、中空に見える(Fig.6e)。

パター(話術)とキャラクター演技
模倣と自己開示のミックス
模倣: 「フランスのマジシャンは卵をベストの下に隠す」など、各国マジシャンのやり方をデフォルメして再現。

自己開示の嘘: 「他のマジシャンは親指でこう押さえる」と見せかけ、実は裏返しで内側に送って取り出す…と“説明”する。

決め台詞: 「彼らは詐欺師ですが、私は“ほんの少しだけ”しか騙しません!」

皮肉とユーモアで観客の“理解のつもり”をかく乱。構造上の矛盾をパターで先回りして無力化する。

消失から出現へのクライマックス
疑似トスと折り畳みカバー
所作: 左手に袋、右手に卵。30cmほどの短い投げ渡しを数回繰り返す。

3回目の瞬間: 袋を折り、卵を折り目の下に通してカバー(Fig.6f)。

観客は右手が空であることを見る。左手も、袋が広げ直され平坦な見かけになるため「卵は消えた」と感じる。

チェンジオーバー・パーム: 公明正大に袋を手渡すふりで、袋の陰に卵を取り、右手へシフト。

出現: 髭や女性の髪から卵を取り出してフィニッシュ。

「舞台上の空間」から「観客の身体」へと出現位置を移すことで、“自分事化”による驚きを最大化。

運用上のヒントと注意
バッグを叩かない: “叩くほど空”という理屈は通じるが、下品に見える上、懐疑を招く。マリニは「撫でる」に留めて上品さを優先。

素材の説得力: 薄手の黒は「軽さ」と「無防備さ」を演出。重さ・厚さは禁物。

サイズ最適化: 指が完全に伸び切り、面が平らに見えることが最優先。手の大きさに合わせて製作。

視線設計: 模倣・台詞・笑いで観客の視線を顔へ集め、手元操作はその“陰”で行う。

テンポ: 常にゆっくり。笑いの“溜め”を作ってから不思議を起こす。

検査者の選び方: 右手・左手と交互に触ってもらい、発見の役割を分散。自然な偶然性とドラマを醸成。

まとめ
マリニのエッグバッグは、道具の工夫と“丁寧すぎるほど丁寧”な扱い、そして観客の「理解したつもり」を逆手に取るパターで成立している。
真の核は、二重布と切り欠きを活かした「裏返し内での移動」、折りたたみとチェンジオーバーによる「フラット化の錯覚」、そして“観客の身体からの出現”という体験の切り替え。
叩かない。急がない。見せかけの説明を重ねて、疑いの視線を骨抜きにする。これがマリニ流のエッグバッグである。
マリニ流エッグバッグ 台本
【開幕・導入】
(舞台中央に立ち、黒い薄手のバッグを手に)

「紳士淑女の皆さま、今から少しだけ…ほんの少しだけ、あなた方を騙します。」

(軽く笑いを誘いながら、バッグを両手で広げて見せる。布は薄く、軽やかに扱う)

【卵の投入と最初の消失】
左手でバッグの口を開き、右手で卵を丁寧に入れる。

※秘密の切り欠きにはまだ入れない。あくまで「中に入れた」印象を与える。

バッグを軽く撫でるように叩き、空であるかのように見せる。

裏返す動作の中で、卵を二重布の中へ移動させ、袋口側の角に落とす。

視線は観客の顔へ。手元は見せない。

【裏返しと平坦化の繰り返し】
バッグを何度か裏返し、

手を袋の中で完全に平らに開き、卵は中指と薬指の間を通す。

観客からは袋が完全に平らに見える。

【観客検査】
観客Aに右手で袋の中を探らせる。

観客Bに左手で探らせると、卵を発見。

笑いと驚きが起きる。

【コンビンサー(両手クリーン)】
卵を二重布の中でピンチ・バニッシュの要領で片手から片手へ“跳ばす”。

両手を順に空に見せる。

【ねじりあらため】
卵を一方の角に置き、対角の角を両手で持ってねじる。

卵は中央の別角に隠れ、袋は中空に見える。

【パター:各国マジシャンの真似】
【折りたたみと消失準備】
袋を半分、場合によっては1/4に折り、卵を中指と薬指で挟んで保持。

もう一方の手で袋の上を撫で、完全に平らに見せる。

【クライマックス:消失と出現】
左手に袋、右手に卵。30cmほどの短い投げ渡しを2回繰り返す。

3回目の瞬間、袋を折り、卵を折り目の下に入れる。

ドラマティックに右手を上げて投げるしぐさ。

観客は右手が空、左手の袋も平らに見える。

袋を手から手に渡すふりでチェンジオーバー・パーム。卵を右手に移す。

【締め】
(卵を高く掲げ、軽く会釈)

「…ほんの少しだけ、でしたでしょう?」
第三章 マリニの手法 パート3
第三幕の幕開け ― 中国服と大型出現
第三幕、マリニは豪華な刺繍を施した中国服姿で登場します。 舞台中央に進み出るや否や、ほとんど間を置かずに二つの大型プロダクションを連続で披露します。

巨大な水入りボウルの出現

水入りシリンダー(円筒形容器)の出現

いずれも満水で、二つ目のシリンダーには金魚が泳いでいる場合もあり、その重量感と存在感は圧倒的です。 方法はここでは詳細に触れませんが、図(Fig.11)を見ると、吊り具と特製カバーを用いて舞台上に隠しておいた大型容器を一気に出現させていることが分かります。

演出上のポイント

技術的には高度なスライハンドを要するものではなく、マリニ自身も「難しい演技ではない」と認めていました。

しかし、視覚的インパクトが非常に強く、観客の記憶に残るため、必ずショーに組み込んでいました。

衣装と演目の組み合わせにより、異国情緒と豪華さを一気に演出します。

クライマックス ― 「ものぐさなトリック(The Inertia Trick)」
第三幕の締めくくりは、マリニのショーの代名詞ともいえる「ものぐさなトリック」です。

現象
テーブルの上に 5つのタンブラー を等間隔に並べます。

その上に 薄いトレイ を置きます。

数枚のカードを丸めて筒状にし、トレイの上に置き、それぞれがタンブラーの真上に位置するようにします。

各筒の上に 卵 を1個ずつ置きます。

演者がトレイを叩くと、トレイと筒は飛び去り、卵だけがそれぞれのタンブラーの中にストンと落ちます。

難易度と方法
見た目は非常に難しそうに見えますが、実際はシンプルな物理原理で成立します。

コツは「トレイ全体を叩く」のではなく、トレイの角の一つを右手の人差し指で鋭く横から弾く(Sharp blow)こと。

この一撃でトレイは回転しながらタンブラーの上から外れ、卵はその場に残って真下のタンブラーに落ちます。

卵が正確にタンブラーの真上にセットされていれば、ほぼ確実に成功します。

数分の練習で習得可能ですが、舞台上ではあくまで「難しそうに見せる」演出が重要です。

マリニの演出
実際にトレイを叩く前、マリニはカードを手に取り、シャッフルやカット、華やかなフラリッシュを披露して観客の期待を高めます。

彼はブーメランカードの名手でもあり、カードを回転させて空中に投げ、手元に戻す妙技を見せることもありました。

これらの余技は直接トリックに関係しませんが、観客の集中を高め、クライマックスの瞬間をより鮮烈にします。

演出意図のまとめ
大型出現で第三幕の冒頭から視覚的に圧倒し、舞台のスケール感を最大化。

ものぐさなトリックは、物理的には単純でも「精密さ」と「タイミング」が要求されるように見せ、観客に「どうやって?」と思わせる。

前振りとしてのカードフラリッシュやブーメランカードは、マリニの多才さを示すと同時に、観客の視線と心理を巧みにコントロールする役割を果たしている。
第四章 バーのマリニ
バーという舞台
マリニのいくつかの有名なトリックは、格式あるホテルや流行のバーで生まれました。 彼はそこで、裕福で影響力のある客と自然に繋がり、マジックを通じて関係を築きました。

ニューヨークの老舗ホテル「ウォルドルフ・アストリア」のバーには、長らく「この石はマックス・マリニの魔法で出現した」と銘打たれた大きな石が展示されていました。 1921年頃の出来事で、当時のバーテンダーたちは今も彼の話とマジックを鮮明に覚えているといいます。

重要な点 マリニの印象を決定づけたのは、トリックの仕組み以上に、彼の人柄・演技・タイミングでした。

自然発生するマジック
マリニは「いかにも準備してきた」ような見せ方を嫌い、状況や環境を最大限に利用しました。 他のマジシャンのように、ポケットからコインを取り出して始めることはしません。

例えばハーフダラーを使いたいときは、バーやレジで客が釣り銭を受け取る瞬間を待ち、

「そのコインを貸してくれたら、ちょっと面白いものをお見せしますよ」 と自然に切り出します。 こうして、すべてが偶然のように見える流れを作っていました。

コインフォールド
概要
小さな紙でコインを包み、途中で密かに抜き取ってしまう古典的なトリック。 マリニはこの中で、心理的な注意誘導を極めて効果的に使いました。

演出の流れ
観客の興味を引きつけてから、ポケットから20ドル金貨を取り出し、検めてもらう。

「この金貨でマジックをお見せしましょう」と宣言。

よく知られた折り方で紙に包む(C. Lang Neil『The Modern Conjuror』掲載の方法)。

数人の観客に、紙越しにコインの存在を感じさせる。

密かにコインをフィンガーパームに移す。

紙をゆっくりと細かく破り、コインが入っていない紙片を米式痰壺(Cuspidor)に捨てる。

観客は「まさか20ドル金貨を捨てるはずがない」と思い込むが、実際にはマリニは後で痰壺から回収していた。

心理的効果 「そんなことはしないだろう」という常識を逆手に取る。 捨てる動作が大胆であればあるほど、観客は疑いを捨てる。

Water from Cane(杖から水)
概要
少年でも覚えるような単純な原理を、マリニは一流の演目に昇華しました。

準備
休憩中にトイレで小さなトイレットペーパー片を丸め、水に浸す。

それを耳の後ろに隠しておく。

演技
バーで客と談笑しながらストレートのウィスキーを注文。

「やっぱり水が欲しいな…いや、いいか」とつぶやく。

杖を手に取り、髪をかき上げる動作で水を含んだ紙玉を取り出す。

杖の先端から約15cmの位置に紙玉をセット。

杖の先をグラスの上にかざし、指で紙玉を押すと水滴がウィスキーに落ちる。

観客が杖を調べても何も見つからず、不思議さが残ります。

コインからの水滴
同じ原理をコインで応用。 コインをつまむと水が滴り落ちる現象で、マリニは

「見てください、イーグルが泣いています」 と洒落を交えて見せました。 コインの表裏を言わず、「こちらは女性、こちらはイーグル」と説明し、観客の視線をデザインに誘導します。

まとめ
環境利用: 道具を持ち込むのではなく、その場にある物や状況を活かす。

心理戦: 観客の「常識」を逆手に取り、疑いを封じる。

即興性: 準備はしていても、あくまで偶然のように見せる。

演出力: 単純な原理でも、所作・台詞・間で一流の演目に仕立てる。
バーでのマリニ(続き)
◆ Coin Vanish(ガラスディスクを使ったコイン消失)
発案者:片腕のマジシャン、マック・マクドナルド。右手を失い、左手のみで演じた。

道具:

ハーフダラー大の金属ディスク(観客に調べさせる)

同サイズの透明ガラスディスク

底に浅い凹みのあるグラス(ジガー)

原理:

金属ディスクを観客に渡して調べさせる間、ガラスディスクをフィンガーパーム。

グラスを受け取る際、ガラスディスクを底の凹みにセット(透明なので見えない)。

観客にグラスをハンカチで覆わせると、近くの金属ディスクも覆われる。

ハンカチ下でグラスをスライドし、金属ディスクをグラスの下に移動。代わりにガラスディスクを観客に握らせる。

「3つ数えたら落として」と指示。落ちる音は金属ディスクが下で鳴らす。

ハンカチを外すと、コインは“底を貫通”したように見える。

二回目の演出:ガラスと金属を再び入れ替え、今度はコインがグラスにもテーブルにも残らず、机の下から出現するオチ。

◆ ウィスキーと水の交換
現象:ウィスキー入りのグラスと水入りのグラスを名刺で口を塞いで重ね、名刺を少しずらすと液体が入れ替わる。

特徴:誰でも一度で成功できる物理現象。初見の観客には強烈な印象。

◆ 磁気を帯びたタバコ巻紙(静電気トリック)
演出:

杖を椅子の背にバランスさせる。

観客からタバコ巻紙を借りる(またはタバコを半分に切って紙を取る)。

紙を袖に擦りつけ、杖先に近づけると杖が紙に引き寄せられるように動く。

秘密:紙と一緒に琥珀製の櫛やタバコホルダーを手に隠し、琥珀を擦って静電気を発生させている。

◆ グラスいっぱいのビール出現(帽子の下)
流れ:

バーで観客と談笑中、ウェイターが忙しいタイミングで自分でドリンクを取りに行くふりをし、ビールも注文。

ビールグラスをジャケット下に隠し、左腕で押さえたまま長時間待機。

観客に頼まれて帽子とコインを使った表裏当てを演じる。

3回目に帽子を持ち上げる際、膝に隠したビールを帽子内にロード。

帽子を置き、持ち上げるとコインの代わりにビールが出現。

◆ 破って復活するストロー袋
準備:訪問先ホテルのストロー袋を事前に入手し、小さく丸めてポケットに忍ばせる。

演出:

実際にそのホテルでドリンクを注文し、同じデザインの袋付きストローを受け取る。

袋の広告に驚くリアクションを見せ、外して丸める。

「これでマジックを」と言い、事前の袋とすり替えて“切って復活”の手順を行う。

効果:完全な即興に見えるため、強烈な印象を残す。

◆ コインの交換(銀貨と銅貨)
現象:観客の手の中の銀貨と演者の銅貨が入れ替わる。

マリニの方法:

銅貨を右手にクラシックパーム。

銀貨を右→左へ軽く投げ渡す動作を繰り返し、観客には両手を見せている錯覚を与える。

最後に銀貨をフィンガーパームし、右手の銅貨と入れ替えて左手へ渡す。

同じスイッチを繰り返し、演者側のコインも変化させる。

◆ ウィスキーの消失
現象:観客の前に置かれたウィスキーが、一瞬で空になる。

秘密:

2杯のウィスキーを注文。

会話中に観客の注意を別方向に向け、自分のグラスを一気に飲み干す。

空グラスを観客の前に置き、観客の満杯グラスを自分の前に移動。

「飲もうか」と促すと、観客は自分のグラスが空であることに驚く。

ポイント:大胆さと自然な所作で成立。見た者は強烈な印象を受け、長く語り継がれる。
この時八雲が持っていたのは、250ドル。全額を日本円にして当時の為替相場で250円ほど。現在の貨幣価値で約600万〜650万円になる(『日本銀行百年史 資料編』日本銀行 1986年)。かなり手持ちがあるように見えるが、当時、外国人が日本に滞在する場合の滞在費は高額だった。

横浜の外国人居留地にあった横浜グランドホテルの滞在費は、一月あたり2食付きで58ドルとされている。

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