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文芸の里コミュのSF「未完」 言葉を奪われた小綬鶏 ・ 梟の来訪

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◇言葉を奪われた小綬鶏


 翌日、僕と小綬鶏は梟のいる森には寄らず、まっすぐ啼きウサギの棲む岩山に向かって歩みを進めていた。
 ナップザックにはラスクと紙カップのジュースを入れて背負い、腰には繋ぎの釣竿をつけていた。小綬鶏はその繋ぎの竿が気になるらしく、僕の歩みにつれて竿の頭が傾いだりすると、さっと草原に逃げ込んだりした。動物にとって、長い棒状のものは、いつ振りかかってくるか分からない危険物なのであろう。そんなことから、目立たないように身の脇にさしていたが小綬鶏が警戒しているのは明らかだった。
「そんなにびくびくするなよ。これはおまえたちを打つものじゃないんだ。魚を釣る道具さ。二本繋いだって、二メートルちょっとだ。昨日下の谷川を鮎がすいすい上って行くのを見かけたからね。久しぶりに鮎釣りをしようと持ってきたのさ。釣れたらおまえにも食べさせるよ。魚を釣るのは銃で鳥を撃つのとは違うんだ。撃って落すんじゃない。釣り上げるんだ。魚が流れを上って来るんだ。泉に口を置いて綺麗な冷たい水を飲むように、流れを遡ってくる魚のいのちにあずかるんだ。神の本にも、魚を取って食べてよいと書いてあるよ。
 僕はそう言って、釣竿を繋ぎながら、せせらぎへと谷を下りて行った。
 このときは僕が小綬鶏より先になっていた。魚釣りなど、ちょっとこいの目的には入っていなかったので、一歩遅れるのは当然といえる。啼きウサギをサポートしようとしている小綬鶏にすれば、釣りなど寄り道だったのだ。
 渓流の飛沫がかかる近さまで来ると、水音とは違った妙な音が、せせらぎの伴奏のように耳に弾いていた。どうも音源は岩山の方らしい。瀬音の上を伝うようにして流れてくるのだ。まず小綬鶏が足を止めて、聞き耳を立てた。
ー何、この音?−
 小綬鶏に言われて、僕も足を止めて、音に耳を傾ける。せせらぎの中に、チョット、チョットと急くような声が入っている。またそれを追いかけて、コイ、コイと突き上げてくる音も混じっている。しかも短音ではなく、声は複合されている。小綬鶏に目をやると、表情が掻き曇って、にわかに険しくなってくる。押し寄せて届く声を繋げると
ーチョット、コイ、チョット、コイー
と聞き取れる。それが一匹や二匹ではなく、数匹、いや何十匹もの啼きウサギが、声を揃えて合唱しているのだ。これではまるで蛙の合唱だ。正しくは主役を蛙から啼きウサギに変えて、声を張り上げている。しかし、チョットコイの主役はここ、僕の目の前にいるのである。その十八番のキャッチフレーズを奪われた小綬鶏は、潮垂れてしまって、啼きウサギのいる岩山へ向かっていく元気もなくしてしまっている。
 僕はそもそもこんなことになった原因が自分にあったことを忘れていた。昨日襲ってくる雷雨を目前にして、小綬鶏に騙されたと錯覚し、口止めされていた「ちょっとこい」を叫んで回ったことが、こんな不幸を招いてしまったのだ。僕は小綬鶏を慰める言葉もなく、啼きウサギの棲む岩山の方へ目をやっていた。
 このときである。後方からものものしく羽音が迫って、それはすぐ頭上に来ていた。羽ばたく音と同時に、声が降りかかってきた。
ー啼きウサギにチョットコイの合唱をされたりすると、大変なことになる。小綬鶏に油断があったね。ウサギたちをいさめて、すぐ止めさせなければー
 そう叫びつつ岩山に向かって飛んでいくのは、森に棲むあの梟だった。
 梟の声に小綬鶏は色めき立ち、たちまち奮起して羽根を引き締めると、精悍な鳥になって岩山へと歩き出した。渓流を鮎がぴちゃぴちゃ水を鳴らして遡っていくが、釣りどころではなくなっていた。僕は釣竿を畳んで腰につけ、小綬鶏の後につづいた。
 梟が消えて四、五分もすると、啼きウサギの合唱はぴたりとやんだ。突如現れた大きな鳥影に怯えて穴に逃げ込んだか、梟の説得を聞き入れて静まったか、そのどちらかに違いなかった。
 合唱が潜まってからは、渓流を遡る鮎も勢いを減じて、先走っていく感じはなくなっている。僕と小綬鶏は上の山道に這い登るのももどかしくて、渓流沿いに草の中を歩いていたのだ。道のないところを進むのは骨が折れて、上の山道に出た方が、ずっと捗々しく進んだかもしれない。小綬鶏の足は草の中を歩くのに相応しくできているからいいようなものの、ズボン姿の人間の脚では、草や蔓が絡まって、歩きにくいことこの上もなかった。
それでも二十分もすると、啼きウサギの棲む岩山に辿り着いていた。岩山は昨日とはうって変わって、岩石ではなく、柔らかな生き物の気配に彩られていた。色こそ岩石と変わりはなくとも、硬い岩の鋭角ではなく、柔らかな肉の塊が二本の耳を立てて、一方向を向いて坐っていたのだ。猫が手をついてお坐りをするように。もっと端的に言えば、コーラスをする蛙を少し大きくしたような形で、それこそめったに見ることのない、啼きウサギの纏まった構成だった。臆病な啼きウサギが、こんなに群れて岩山の舞台に登場するなど考えられないのだ。
 岩山の上には、一本の古木が立っている。木といっても枯木で、一枚の葉もついていない。幹も半ばで断ち切られ、二本の太い枝が、やはり半ばで切断されて、過去落雷にあったと思われる。古木の全体の色合いは、岩肌の色とよく似ている。その古木の右の枝に梟が留まって、居並ぶ啼きウサギを見下ろしている。威厳を示すために、一羽だけが高い所にいるのではなく、おそらく全体をよく見るためと、自分の声が通るという利点から木の上を選んだのであろう。というより、梟は自分が棲んでいる森が馴染みになっていて、ここに来ても自然に木の上を選んでしまったのかもしれなかった。
 その梟の目には、たった今岩山の麓に到着した僕と小綬鶏も入っているようだった。僕から梟が見えるということは、梟からも見えるということだ。思いなしか、梟は僕のほうを注目しているようだ。梟が急遽ここに到来しなければならなかった要件は、すでに啼きウサギたちに告げてしまった後といった印象だった。
「そんなわけで」
 と梟は言葉を継ぐためのアクセントを一つ置くと、第二段を語り始めた。
『あなたたち啼きウサギが、チョットコイなんて、小綬鶏の鳴き声を真似る必要なんかこれっぽっちもなかったのです。多くの生き物の目につく、こんな素晴らしい岩山の頂を与えられているんですからね。ここでさらに生き物を集めようとして、チョットコイなんて叫んだら、どういうことになると思いますか。山に偏りができて、自然の平和が維持できなくなってしまうのです。それでなくても山の頂は酸素が少ないのです。限られた小数の生き物がひっそりと生きるように創造されているのですよ。換言すればあなたたち啼きウサギにぴったり合うようにできているんです。そのあなたたちが今、チョットコイなんて叫びだしたのは、平和すぎて、その幸せに倦んだ頭が、不幸の暗黒に引きずられたからに違いありません。今こそあなたたちは、頭を切り替えるべきです。ここからの目に見える世界に見切りをつけて、目に見えない第二のいのちに目覚めるべきなんです。そのためには現実の水ではなく、霊の泉から水を汲む必要があるのです。
 幸い私,この梟はその使者として遣わされた鳥です。その私の耳に、この異常さが伝わってきたことは不幸中の幸いというものでしょう。この岩のすぐ下には人間もお見えのようですから、人様へ向けた神の並々ならぬ配慮もありやと見受けられます。使者たる私の務めも急遽重くなってきたようですね。その人様とのお話もありますので、ちょっと失礼」
 そう言って梟は古木を飛び立ち、岩山の突端に来て留まった。しかしその折も折、僕のすぐ横のささやかな水流から、一尾の鮎が空中に跳ね上がり、小石の上に落ちて魚体をぶつける鈍い音を発した。その一連の動きに誘発され、僕の関心はもっぱら一尾の鮎に向けられていたのだ。周囲の水を集めてせせらぎをなす渓流は、頂になるほど水嵩が減り、遡ってきた鮎も途中で幻滅して引き返して行き、ここまで上ってくる魚は数少なかった。跳ね上がって落ちてもぴちゃっという音は沸かず、石に頭をぶつけて気絶する惨めさだった。僕はその一尾が蘇って少ない流れに戻り、豊かな渓流へと泳ぎ下ってゆくのを見届けてから顔を上げた。
 岩山の突端には一羽の梟を中心にして、何十匹もの啼きウサギが取り囲み、僕と小綬鶏を見下ろしていたのだ。
「モシモシ、そこのお方。私の声が聴こえますか?」
 と梟は呼びかけていた。鮎に気を取られていた僕の様子をどう考えてか、梟はそんな風に叫んでいた。
「聴こえますとも。どうぞお話ください」
 僕はそう言いながら、ナップザックからラスクを取り出し、それを流れを成さない湧き水に浸して小綬鶏の前に差し出していた。小綬鶏はこれほど多くのものに、自分の鳴き声を盗られてしまった思いに意気消沈して、近くに梟がいても、慰められないほど打ちひしがれていた。
「その前に、小綬鶏くんが相当力を落してしまった様子なので」
 僕は言って、もう一枚ラスクを取り出し、水に浸し小綬鶏の前においた。それを啼きウサギは匂いで嗅ぎ取ったらしい。はじめに出した一枚では何物とも識別できないでいたものが、今や高級な食品と捉えたらしく、彼等の身じろぐ気配が、ラスクを持つ僕の指に電流のごとく伝ってきたのだ。
「山の生き物は私の所轄にあたりますが、その分までしていただいては、かたじけない」
 梟があまりにも申し訳なさそうに言うので、僕としても事の発端に言い寄らないでは済まなくなった。
「実は昨日の午後、小綬鶏君とはぐれてしまいましてね。
チョットコイどこ行った。そう叫んで探し回ったのがチョットコイを広める原因になってしまったらしくて」
「なるほど、それでぴんときましたわ。一匹の小綬鶏から、ここまでにわかに広まるには、当方にも不審があったのですよ。人間様のあなた様からだとすれば納得できます。大納得です。それでよい機会ですから、あなた様のお耳に入れておきたいことが多々あるのですが、よろしいでしょうか。お時間を頂いても」
「いいですよ、暇人ですから、どこでなりと」
「ではお言葉に甘えて、当方から伺わせていただきます。お住まいはどの辺でありましょう。明日にでも飛び立ちたく思います」
 梟が急かすように言うので、僕は杓子定規に役所で聞かれたとき応えるように所番地を言った。しかしそれでは山を住処とする梟に伝わるとは思えなかったから、
「この山の麓に沼がありますね。その沼のかたわらの一本道を十五分ほど町寄りに歩くと、コウノトリが巣をかけている大きな松があります。その松の木のすぐ前が僕の家です。巣立ち間際の雛鳥がいて、親鳥が神経質になっていますので、飛び回ったりしないで、まっすぐ玄関のドアを叩いてください。
 もし小綬鶏が僕の家へ一度でも来ていたら、彼女が梟を案内して来ただろうに、そうではなかったことが残念だった。
 梟が僕に親しく接近してくるのを見て、小綬鶏は元気になっていく様子だった。梟とパイプが繋がったので、これ以上岩山にいても意味がないと思えたから、僕は山を下ることにした。小綬鶏にどうするかと訊くと、彼女も啼きウサギの郷をひとまず離れると言った。小綬鶏が啼きウサギに寄せていた思いは、梟が訪れて来たことで、一時に解決してしまったのだ。小綬鶏が落ち込んだ事由の中には、そんな一気に解決したことから来る疲労のようなものもあるのかもしれなかった。
 一緒に途中まで山を下って来ながら、小綬鶏は彼女自身のことで、語れないでいる大きな心配事があるような口振りだった。何かと訊くと、この次にすると言ったので、僕もそれ以上追及するのは差し控えた。明日梟に会って、動物たちとのこれからの展望を大掴みにしてからのほうが、よいと思えたのだ。
 小綬鶏とはその次の日、つまり僕が梟に会った翌日にいつもの沼で再会すると約束して別れた。別れた後、チョットコイがどこに行くのか訊きそびれたが、何か予定があるようには見受けられなかった。敏捷果敢な鳥に見えても、案外孤独なのかもしれなかった。そう考えると、つい寂しさから、小綬鶏が、チョットコイと呟いてしまうのも判る気がしてきたのである。人間に限らず、生き物というものは、大方寂しい存在なのかもしれないと思えてきた。人間の住む都市に限らず、山の生き物までが、似たような悩みを囲って生きていくことを考えると、このまま明け暮れして、やがて暮れて行くのはたまらない気がしてきた。


◇梟の来訪


 翌日僕は梟の訪れを待って、テレビもつけずにいた。ドアをつつく音がしたら、すぐ跳んで行き、迎えなければならないと思った。ぐずぐずしていたら背後からコウノトリに襲われないとも限らないのである。コウノトリをそれほど冷たい鳥とは思いたくないが、子育て中の鳥は得てしてそういうところがあるのである。
 去年の今頃、僕は陸橋を渡り終えて階段を下りてきながら、鴉の襲撃を受けて、頭に足の爪痕を残されているのである。そのときは何故襲撃してきたのか、鴉の意図が読めずに困惑したものだが、少ししてテレビで子育て中の鴉の被害妄想によるものと分かって、ほっとしたのであった。それでもまたいつ襲われるかも知れず、帽子をかぶるようになった。今度は雛を孵して育てる巣材として帽子を奪われる新たな不安も湧いて来たが、そんなことを考えていたら、切りが無さそうだったので、そのまま被りつづけた。そうして雛が大きく育った頃を見計らって帽子を脱ぎ払った。
 ぽつぽつと屋根を雨粒が打つような音がしばらくして、止んだ。
 僕は首を傾げ、さては今のが梟の嘴がドアを叩く音だったのではないかと、玄関へと急いだ。果たして梟の二度目のドア叩きが開始されるのと同時に、
「これはこれは梟さん、遠い所をお出かけいただきまして……」
 そう言って僕はドアを引いて開き、自分の目の高さより上を見やったが、何もなく、まったくの空虚そのものであったので、さては諮られたかと下に目を落すと、ドアの前の地面に梟が立っていた。
 そうか、木がないので地面に足を置くしかなかったのか。そう察して、梟を屋内へ招き入れた。
「木のない世界って、勝手が狂わされた気がするものですね」
 と梟は言って、入って来た。三和土の絨毯に足を擦って拭くと、ビビビと翼を使って廊下を低く飛び、その先の居間のソファに留まった。僕は主より先に家の中枢へと入り込んで行く客を追って進む。
 梟は長いソファの背凭れに留まっていた。僕は梟と向い合わせになり、シングルのソファに腰を下ろす。梟はレースのカーテンに嘴を向けて、開口一番こう言った。
「あのカーテンは、霞網とは違いますよね。もし霞網なら、私はここで家ごと捕獲されてしまうことになりますので、念のためにお訊ねするのですが……」
「ここに家の主がいるのに、どうしてそんなことをするもんですか。レースのカーテンは太陽光線を遮るためであって、ついている花の模様はただの飾りですよ。そもそもレースのカーテンをしているということは、森の木々が強烈な太陽光線を遮断しているのと変わりありませんね。安心してください。ここには森にあるような木々がないので、レースの布がその役を担っているのです。しかし森の中よりは明るいですよ。夜活動する梟さんには、レースで日を遮るくらいでは足りませんね」
 僕がそう言うと、梟は首をぐるぐる回しているうちに室内の雰囲気に慣れてきたらしく、
「私は普通言われている常識的な梟ではなく、夜となく昼となく、昼夜にわたって活動できるのです。昨日あの白昼の岩山の頂でも、私が平気で動いていたのはご存知ですよね」
 僕は自分の迂闊さに気づいて、梟に謝った。
「そうでした、そうでした。僕としたことが、何と言ううっかりミスでしょう。あの白昼炎天の明るさのなかで、堂々と説教されている梟さんを拝見していながら、愚かな疑念を抱いたりしまして」
「いえ、そんなに謝られても困ります。昼夜分かたずといっても、やはり夜の方が向いているのは確かなのですから。実際昨日、あなた様は小綬鶏に何か与えていましたが、それがどんな形状のものか、しかとは見えなかったのです。ただしきりに自分もそれに与りたいと、欲望が膨らむばかり。そのときふと閃いたのが、お宅に伺えば同じ食物に与り、味見ができるという見通しだったのです。そして本日、それを楽しみにして来たのですよ。いやお恥ずかしい話ですが……」
 梟は言って、操り人形のようにコクリと頭を下げた。
「お安いことです。他には何もありませんが、あのラスクだけは常時確保しておりますので、お出ししますよ」
 僕は言って、食品の棚からラスクの包を持ってきてテーブルに置いた。
 梟はソファの背凭れの上から、腰掛ける位置に飛下りてラスクを近くからしげしげと見やった。香りを嗅いでみたりもした。
「どうぞ召し上がってください。喉につかえるといけないから、飲み物があったほがいいですね」
 そう言ってグラスにミルクと、ワイングラスに赤ワインを注いできて、梟の前に置いた。
「これはまた珍しい、赤ワイン。聴いてはいたのですが、山では手に入らないシロモノでして。山葡萄を啄ばんで我慢しておりましたよ」
 梟はそう言って、嘴にラスクの一枚を摘むと、赤ワインに浸して口に入れた。同じようにして三枚のラスクを食べると、いかにも満足したような寛ぎを見せてしんみりと語った。
「食パンの薄切りを焼いたラスクと葡萄を原料としたワインを飲食できたら、後は何もいりませんよ。これこそ文化の原点ですからね」
 なるほど梟らしいことを言う。僕は感心して聴いていた。梟の大きな丸い目はさらに大きく見開かれ、彼女が地上に遣わされた使命について諄々と語っていった。梟は飲み慣れないワインが効いたらしく、その酩酊も手伝って滑らかな口調になり、自分が地上に遣わされている重責について、淀みなく吐露していった。彼女がこの世に送られてきた最大の理由は、人間と動物の間の垣根を取り除いて、その教えを人間に教えることであった。単に人間と動物が仲良くするというようなものではなかった。動物はあくまでも人間のために創造されたものであり、動物を通して人間を目覚めさせることを目標にしていた。その教えが強固に梟の中に居坐っていて、それが理解できるまでは、梟の思いが蟠ってしまい、僕の中に融け出てこなかった。その原因は僕のほうにもあって、そもそも梟を野ネズミを丸呑みにする残忍さを隠し持っていると思い込んでいたが、実際は野ネズミなど一匹も食べたことがないといわれて、認識を改めなければならなかった。この女王然とした梟は、生まれたときから草や木の実や果物ばかりで生きてきたが、すべての梟がネズミを丸呑みにしないわけではなく、野ネズミを常食にしている梟は存在するし、途中から植物性食品に変わって行くものもあるとのことだった。いずれにしても、動物を通して人間が学ぶということは、同じ姿かたちをしている人間にも、二種類あるということなのである。この認識に至るということは怖ろしいことだが、突き動かされるようにして梟はやって来たのである。
 このSF小説は、梟の口述に基づいている。神に遣わされた梟が神経を過敏なほど働かせて語って行ったからには、僕も書かなければならないだろう。SF小説と銘打ちはしたが、どんな小説になって行くか、僕にも予測がつかない。

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