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文芸の里コミュのはなむけ、ではなしに

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◇元旦早朝、彼は鶯の声を聴いた。
まさか、首を傾げて受け付けないでいると、
神の声が降り注いで、確かに鶯が鳴いたと告げた。
めでたい初音である。

◇二日後、彼は寂しい湖畔のホテルに単身で投宿していた。ここでも早朝、鳥の声に起こされた。そっとカーテンを開けると、岸辺を小夜千鳥がよちよち歩いていて、時折立ち止まっては鳴いた。その立ち居の姿が愛らしかった。ちっ、ちっと頭の芯を覚ましてくる声も美しかったが、背景となる湖の澄んだ輝きも美しかった。湖心に目をやると、白鳥が一羽冴えて浮かんでいた。

◇ホテルの後ろも湖になっていた。こちらの湖からも、鳥の声は沸いていた。とりわけ彼の意識を揺さぶってくるのは、ブッポウソウの声だった。この声を聴くと、彼はこうしてはいられない、闘わなければ、という思いにかられ、大都会に舞い戻った。

◇鉄筋コンクリートの一室に閉じこもっていると、これも信じられないようだが、時折、鶏が時をつくるのだ。地下や地上に張り巡らされたさまざまな管や線を伝って、建物から建物へ、部屋から部屋へと送られてきた生身の雄鶏の声だ。あのペテロが、鶏が鳴く前に、あなたは三度私を知らないと言う、とキリストに言われ、その通り否定して鶏に鳴かれてしまった、その鶏である。
私は以前、この鶏こそやがて現れるキリストの比喩であると、父なる神から教えられていた。私はそれをある教会の牧師に語った。イースターに配られる卵を前にしてだったと思う。時をつくる雄鶏がキリストなら、復活祭に配られる卵も大きな意味を持ってくるのである。さあ、そんな話は聴いたことがないなあ、後から調べてみるよ、と牧師は言ったが、調べた結果を彼の口から聞くことはなかった。御霊があれば、神の即答を得られるはずなのである。直接声を聴くことは無理でも、回答を求めて祈れば、夢、幻、その他さまざまな日常の事象を通して、教えられるはずなのである。
神はその一件によって、牧師に御霊がないことを私に教えた。そして私は間もなく、その教会を離れた。

◇秋深く、愁いて岸壁に坐す女は、魔法の杖を持って、この街へ帰ってきた。
またすぐにも旅立とうとしている彼女を、無言でつれなく送り出すのに、忍びなかったから、彼は言葉をかける。かけることにした。もしそうしなければ、再びこの街に帰って来られそうもないほど、疲れ、憔悴しきっているようだったから、彼は言葉をかけた。
異教の地ではなく、約束のこの地へ舞い戻るようにと。
それは二年前から、彼が神に言われていて、果たさずにきた言葉だった。はなむけではなく、迎えるための。


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