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文芸の里コミュの詩集 15

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  ☆



 詩人


ことばを 果物屋の店先に並べていく
一つ腐敗が入れば
たちまち全ての果物に及び
屑籠に放り込むしかない

したがって
果物屋の店先は
一瞬 色とりどりに埋められることはあるが
たいていは綺麗に片付いていて
何を商う店かも分からない



 窓



窓は

雪景色を眺めるためにあるが

たまには

室内を覗きにくる鳥もある



 浜茄子


浜茄子は
海と空をほしいままに
砂をかぶって
小刻みに震えている

あまりの広さと自由

そのせいか
実は堅くしまって
意志は強固



 入り江の光景



眼下の入り江に
十数隻の小舟が浮かんでアワビ獲りをしている
…………と見たのは
イルカが白い腹を見せて
日光浴をしているのであった

暫くして目をやったときには
海原は何事もなくびょうびょうと凪いでいた



 夜の公園


夜の公園に
隣接する動物園から咆哮が伝わってくる
ライオンだ

ライオンの咆哮は
公園の静寂を
稲妻のように駆け抜けていく

これでは他の動物たちも
安眠できないだろう

街は一日の活動を停止し
公園を彷徨うものも絶えた
真夜中の公園

その外灯の下のベンチに
何やら蹲っているものがある
形からして人間でも動物でもない

あれは動物園を逃げ出してきた 何かの霊だろう



 神秘


人はどうして高峰へ 高峰へと目指すのだろう
そこに神秘があるからと言われれば
肯けないわけでもないが
解明できないものを神秘というなら
この地上にも ごろごろ転がっているではないか

そう反問すると こんな応えが木霊のように返ってくる
そこにあるのは 世俗を離れた次元の高い神秘であると
しかし我々世俗のものは
登山家が眉を歪めて下界を見下ろしているのを
容易に想像することもできるのだ


それに対して 高いところから地上を眺めると
今まで気のつかなかった地球が見えてくるなどと
よく聞く言葉でやんわりと逃げられてしまうのだ

ところがある時 一人の登山家が双眼鏡を当てると
天から下界に梯子が掛かって
天使たちが昇り降りしているのが見えた
さっそく下山すると 登山家は目撃現場へでかけて行った

何とそこは教会で
彼が不思議な光景を見ていた ちょうどその時刻
一人の敬虔な信徒が召されて行ったということだった
あれはまさに 生きたまま天に連れられて行ったのだ



 路傍の詩人


麒麟は高木から
多くの葉っぱを舌に絡めとっていく
我が内なる詩人は
貧しく疲弊していて
自然の中を伸び伸びと闊歩するなどままならず
地面に落ちている枯葉など拾い集めて
つたない言葉に変換し
鉛筆を舐めなめ ノートに置いていく
いつか押し花として開花することもあるかと



 アート


風景画を描こうと
キャンバスを抱えて勇んで行くと
風景がどんどん逃げて行った

こうしてはおれぬと
手早く写真に撮ったが
現像してみると
納めたはずの風景がなかった



 旅先の光景


港町の教会の外壁に
夕日がぎらついていた
どうしてあんなに照り返しが強いのかと
気にしていると
いきなり出航の銅鑼が鳴って
慄然とした

寄る辺ない 彷徨い人の我々も
出航するには
港がなければならないだろう



 旋律


鍵盤の上を白い指がなぞっていると思っていたが
実際は
白い指が跳ねていた

どうしてこんな錯覚をしていたのだろう

諸人よ
ピアノに合わせて
新しき歌を唄え



 林檎園


林檎園沿いの道を
馬車が通った
馬車の上から子供らの手が伸び
馬方の手が伸び
馬の口が伸びて
林檎をあさった
林檎の樹が 嵐のように鳴動した

馬車が通りすぎた後には
林檎は一つも残っていなかった

こんな夢を見ていた男は
夢から覚めた頭で考えた
どうしてあの馬車の一行は 今日まで
林檎のあることに気づかなかったのだろう



 抽象


教会の屋根の十字架に
三日月が掛かって
風変わりな抽象図形になった

十字架を抽象と見て
神の怒りをかった

遠い日



 ひとり旅めぐり


たったひとりをこよなく愛するものが
ひとり旅に出て
たったひとりを愛するものに出会えば
意気投合して
そこから愛が芽生えもしようが
所詮ひとりを愛するものの性
たちまち愛ならぬ火花を散らす確執となり
ああ損したとばかり
本来のおのが姿に目覚めるが
またの日ひとり旅に出て
同じことの繰返し
それにしても なぜ性懲りもなく
ひとり旅に出ては ひとりを愛するものに
出会おうとするのか
これもまた人間の悲しい性か



 めんどり


めんどりの

瞳に入っているのは

丸ぽちゃの雛だけではない

薮に身を潜める

悪魔が入っている



 笑うべからず


海が太陽を呑込んで
しゃぶり尽くし
月を吐き出した

と どこかの阿呆が言った



 終着駅


終着駅のホームから
私は見たのだ
線路の枕木の間に
溝鼠と土鳩と雀が
一緒になってパン屑をあさっているのを

ここまで落ちぶれれば
種族の違いも 力の差も プライドも
あったものではない
追いもせず 追われもせず
仲良くというのでもなく
まったくありきたりの風景のように
枕木の間に形の違う嘴と口を突っ込み
形態の異なる肢を並べて
パン屑をあさっている

うらぶれたさもしい図のようでいながら
日常茶飯の安らぎもあって
無干渉でいながら
互いの零落を認め合っている

ホームの庇の間からは
かろうじて彼等に届く
小春日も降っている



 夜明け


夜明けは近いか、と訊いたら
――近い――
と相手は言った
あんまりあっさり応えるので
何故それが判る
と少々向きになって食い下がった
すると相手は
にべもなく言ってのけたものだ
――日が沈んで随分になる――



霧の中から


沈黙の海霧の中から
にゅうっと現れてくる
物の輪郭
輪郭はやがてくっきりと
船体を現さないではおかないだろう

自分は知らないなどと
言わせないためにも
紛れもない形を
取ってくるだろう



日の中に


影の中から日の中に
舞い上がった蝶は
一見
霊のようにも見えたが
私の視界を確かに擦って行った
生きた実体であった
いや 今はじめて生きたものとなって
大気の中を舞い踊った

せせらぎを伝い
沢を渡り
崖ぶちすれすれに飛んで
近いうちに山巓を越えるだろう
そうやって
あらゆる困難を
美しく切抜けて行くだろう



丘に立つ墓標


丘に立つ墓標を後に
とぼとぼと家路を辿る
先立たれたものの
後姿が寂しい

墓標はそれを見送って
立っている

後姿が
まさに夕靄にのまれて
消えてしまいそうになった時
墓の傍らの樹から
言付けを持った小鳥が飛び立つ



菫に寄せる哀歌


電柱下の掌ほどの地面に
可憐な花を寄せ集め
行過ぎる車の排気ガス濃厚な風に
小柄な身を揺すっている
菫よ
元来野のものであるおまえたちが
どうしてこんな狭小な場所に
置かれなければならなかったのか

とかく言う私も
田舎育ちで 質朴な野の香りも健康さも
十分知っているつもりだが
そこでは身過ぎ世過ぎが出来なかったから
出奔して このとおりアスファルトの道に
靴すり減らし
そうでないときは
コンクリートの一室に寝に帰っているだけ
といった現状だ
ともに文明社会の痛手を被っているが
仰ぎさえすれば視線の届く青空だけは
今も昔も変わらぬ共有財産とは言えないか
むしろこういった報われぬ現状にあればこそ
天を仰ぐ心も芽生えるのかもしれない
お互い そう信じて頑張ろうではないか
菫よ



兵士の述懐


銃を向ける敵兵に
Bは「撃つな」と言った
敵兵は
「撃つのは至上命令だ」と言って
Bを狙いつづけた
一分 一分二十秒……と長い時が流れても
銃声は起らない
「なぜ撃たない」
と訝るBに 敵兵は
「至上命令の出所が変わった」
と洩らし 的を大きく逸らして一発銃声を轟かすと
茂みに消えて行った

Bはそこで軍服を脱ぎ捨てて川に入り
頭だけ出して河童のように流されて行った
戦争のない国まで流れ下って
上陸すると
Bは鍬を手にとって
農夫になった

見逃してくれた敵兵を
撃つかもしれないと思うと
兵士にとどまっていることは出来なかったと
Bは語った



別れ


そして私には
あなたにかかわる
どのような手だても
残されていなかったから
そっと
白い百合を置いて
帰ってきたのだった



雀は


雀は人のこぼしたものを拾い
靴の跡に溜まった雨水を
いちいち天を仰ぎつつ
掬って呑んでいるから
生きる いや 生き残る

健気であり その清貧さは
見上げたものだから 生きる
いや 生き残る

雀よ そのしたたかで かつ質素な生き方を誇れ
しかし誇らないから生きる
いや 生きて永遠に残る



ボート


湖心から湖畔へと
一艘の無人の白いボートが
静々と漂って来る
寄せくる波に身を委ねて
従順な驢馬のように
いったい何を載せるつもりなのだろう
あるいは誰を
そして
どこに連れて行くつもりなのだろう

白いボートは細波に揺すられながら
徐々に徐々に湖畔によってくる
辺りに人影はなく
岸に柳が一本
人待ちふうに立っているだけ
ひっそりした深山の湖に
始動の気配を見せているのは
唯一ボートのみ
いったい誰を乗せるつもりなのだろう



名残


名残とは
すでに実体が通り過ぎてしまった後に
どうしようもなく残っている
気配のようなものだろうか
しかしこれからここにやって来るであろう
未来が
何故かそこにあったように思えてならないというのは
不思議というか
懐かしいというか
奇妙な感覚だ

冷静に考えれば
筋道の立たない 錯綜したものに思えなくもないが
やはりそのようにして
待ち望まなければならないのだろう
すでに見たことがあり
今も見ているかのように――






森がいくら密度をこめて
風を封じ込めようとしても
風は造作もなく抜け出て行くだろう
どんなに小さな隙間からでも
抜けて行く
そうするのが風の使命だから
風は森羅万象を愛さずにはいられないのだ
ひねくれて孤立する一本の木にも
はびこって一瞬を謳歌する雑草の上にも
農繁期というのに
舟をこぎつつ木魚を叩く寺の住職にも
洟垂れ小僧の上にも
風は遍くめぐって行くだろう
ときに疾風怒涛となって
手痛い打撃を被ることはあっても
それもまた風の性質のうちで
気に染まなかったから怒ったまでのことだ
決して風の気紛れではない
風の願いはいつも
白雲の浮かぶ下をのんびりと
思いのままに漂って行くことなのだ






ビルの谷間を
こちら側からあちら側へ
あちら側からこちら側へ
スモッグに煙った狭い空間を
鳩が羽搏いている
灰色のビル群そっくりの
灰色の鳩は
それだけで都会の保護色になっている

もうずいぶん前から
一羽の鳩がビル最上階の
裏側に当たる小窓にとりついて
建物の中を窺っている
どこといって取柄のない
塵埃にくすんでしまったビルの
これまた薄汚れた一つの小窓にすぎない
どうしてあの鳩は選りにも選って
そんな窓に執心しているのか
そこに住む人間に届ける
どんな使命を帯びてきているというのか

小窓は依然暗く閉ざされたままで
鳩の自ずからなる姿が映っているに過ぎないだろう
やがて日が傾いていけば
小窓に夕日がぎらついて室内を赤く染めるだろう
すると人の心に何らかの感応があって
鳩を招き入れるのだろうか
そういった一瞬の時を信じて
鳩は裏窓の一つに執着しているのだろう



 パンの香り


電車を待ってホームに立つと
駅ビルの排気口から
パンの香いが立ち昇る
ふくよかな香りは食欲をそそって
パンのイメージが花のように開く
あんパン・ジャムパン・クリームパン・メロンパン
通勤時間と重なり
ほとんど条件反射のごとく胃を刺激してくるが
これがもっと深部の
魂の渇きにまで届いていくには
いったいいかほどの時間が必要なことか
人はみな飢えた魂を抱えながら
表層の空腹のところでとどまっている



不自然な位置


展望台に立つと
私はいつも
見られているような気がする
だから
すぐ引っ込む



 緑の家


緑の蔦で家を覆えば
それですむと思うか
それは室内の暗黒を喜ばせるばかりだ
闇に閉ざされ
病みついてしまう前に
外の明るみへと
這い出て来なければならない
人は蒼穹を呼吸してこそ生きる


 
 象


平原を行く象の群れは
なぜかいつも
夕日を背負っている
象よ
夕日をいずこへ
運んで行こうというのか



 唐辛子


唐辛子畑に
実が赤く熟せば
平和の銃弾を栽培している私からすれば
頼もしい限りだ
蛇でも狐でも山犬でも
どこからでもかかってこい
いま少しすれば
熟しきって実は自ずから弾く



対話


雪に閉ざされる田舎の冬は
牢獄だ
と一人の老人が言った

他の老人が
都会に住んでいると
夏だって牢屋だ
と言い返した



 蘇り


砂丘の一点に
一リットルの水を滴らせば
水は砂粒を伝って
みるみる下降して行く

すると水の滴りに逆らうようにして
明るみへ明るみへと
這い登ってくるものがある

天真爛漫な命そのものといった顔をして
ひょいと外界へ躍り出た



  ☆

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