ログインしてさらにmixiを楽しもう

コメントを投稿して情報交換!
更新通知を受け取って、最新情報をゲット!

文芸の里コミュの詩集 14

  • mixiチェック
  • このエントリーをはてなブックマークに追加




   ☆



 瞳の形


宇宙は強ひていへば
瞳の形をしてゐやう
小鳥から人間まで
その瞳は
そつくり円らな形をして
同じ宇宙を映してゐるから。

瞳が捉へた世界に
生きる我々は
まさに空漠たる瞳の中を
巡つてゐるやうなものだらう



 崖つ縁の十字架


線路に面した崖つ縁に
 十字架の墓標が七基ほど並んでゐる
走る電車の中からは
 十字架が霊園の外れに押しやられ
 崖から迫り出してきてゐるやうに見える

といふより ここがキリスト教信者の
 霊園で 際まで十字架が押し寄せて
 きてゐるかのやうにも見える
実際はほんの一握りの十字架が
 崖つ縁に立つてゐるに過ぎないのに
辺鄙な場所にあることで
 毅然として神の民の栄光を現してゐる

通勤電車の窓からこれを見て
 自分も神の民の列に加はらうとする者が
 一人でも出てくれば
 天では歓声が揚がるだらう



 木


木は電柱のやうに立つてゐるのではない

木 は 必 ず   
         両 腕 を 
              
              広 げ て
                
                立 つ て ゐ る     



 イスカ


民衆は あの栄光の鴇を
 待つてゐたのに
 渇望してゐたのに
現れたのは一羽の crossbill
 イスカ
枯枝に留まつた
 みすぼらしきイスカ



 占領


ひよつこりと
 山峡の里にでたら
 村はカナカナの声に占領されてゐた

村そのものは
 不気味なほど静まり返つて
いつたいこの静寂はどこからくるのだらう

昆虫の命の旺盛さに
     打ちのめされ
村人は 季節はづれの
 冬眠に入つてゐたのだ
山に果物は稔つても
     穫る者もなく



 今鳥歌ふ


新しき歌を歌へと
 ダビデ詠む
その新しき歌今鳥歌ふ


椎の実にいのちの入れば
 栗鼠の眼の
生き生きとして運び去りにき                


 鈴蘭             


 鈴蘭の              

   音色は聖く            

 青白き階             

   のぼりゆくは           

 乙女の視線



 旗


岩つつぢは

絶壁に

勝利の旗かざす

愛の旗



 渡り


しばらくは

空澄みわたる

雁が音の後                         



 試みに


冬木に石

弾かせてみよ

試みに

いのち知るべし



 美しき光景


野に捨てられた アルミ缶の蓋が
朝日に 天然ダイヤの輝きを  放つてゐた
その反射光を辿ると 近くの墓地の墓標の一つに
届いてゐた それも もつとも貧相な墓標に
飾りの花も 石の輝きもない
枯草の中の一基の朽ち石を
一心に暖め 照らしてゐた



木の実


樫の実は 散弾のごとく しきりに大地を撃つてくる
これではかなはないと 栗鼠や小鳥は逃げを打つ
狂騒して弾け跳んだ他の木の実は
大地に深く抱き取られ
いづれ約束の芽を伸ばしてくるだらう

時の飾りのごとく地に弾き跳んだ実は
舞ひ戻つた小鳥たちの餌となる



 つるはしを振るふ男


少年がそこを通ると
村の男がつるはしを振るつてゐた。
何のためにつるはしを使つてゐるのかは
 分からなかつたが
風に靡く夏草を挟んで
何時も何時もつるはしを振り下ろしてゐた。
多分道をつけてでもゐたのだらう。

間もなく少年は村を離れ
二十年ほどして訪れてみると
道など何処にもなく
男も他界してしまひ
枯れ切つた草のなかを
鶴が餌を物色してゐた
丁度あの男がつるはしを振るふ恰好で。
少年は理解した。
つるはしの名が 鶴がくちばしを振り下ろす
ところからきてゐるのだと。

男が生きてゐれば老人になつて
力瘤を入れずにつるはしを使ふやうに
鶴はゆつたりと自然に地をつついてゐた。          



 天を衝く


ひと夏の命と知りて
 鳴く蝉の
声きはまりて天を衝くなり


白く白く
命の道ののびゐたり
幻ならぬしるしなりけり


 山栗


毬栗が黄緑色に膨らんで
山の稜線を彩つてゐる
棘の一本一本は張りつめても
刺々しさはなく
光と風と大気に円く包み込まれて
和んでさへゐる
さうしてなほも膨らんでくる
未来の充実を
腕のやうな細い枝に抱へて
差し出してゐる                      



 石くれてゆく


ぬるき水に
手足のばして浮く蛙
憎くもあれば石くれてゆく


枯原を飛べない鳥の
 駆けゆけり
草の頭の動くあたりを


 梅

ほんのりと
他界よりきて
梅の花咲く



 教会

教会は建つ

落葉の吹溜りに



 牛


初時雨だ。
牛は見てゐるぞ 小屋の窓から。
ぬくぬくと 白い息吐いて。  



熟柿


いま退院してきた男が 庭の柿の木を見上げた。
今にも落ちさうに 枝に取り付いてゐる  
たつた一つの熟柿。

それは 切除してきた自分の病巣だ。
納屋からスコップを持出すと
 熟柿の下の地面を掘つた。
幹を蹴ると
脇腹の手術の跡に
引きつるやうな痛みが走つた。

柿の実は枝を離れ
すつぽり穴に吸ひ込まれた。

腐乱の実は形をとどめない。
その上に土をかけ
やうやく清々して
男は家に上がつて行つた。



 燕


燕が飛来するのは

日の跳梁する真昼

彼らは故郷があまりに 耀いてゐたものだから

夜になつてもまだ

明るさのなかを飛んでゐる                 



 小豆


小豆の莢を揉むと
固い小さな生きものが
弾け跳ぶ
天然のあづき色
としか言ひやうのない
艶めかしい健気な飛礫



 水芭蕉


水芭蕉は湿地に生えて
長く白い花は
水に浮んだヨットの帆
たえず水は溢れて
帆は風を受けて漂つて行く
かの国へ



 頬白


久しぶりに故郷を訪れたら
白樺の木のてつぺんで
頬白が得意絶頂に唄つてゐた

かつて舌足らずな
幼い歌を聴かせたものだから
今こそ上達したところを
示さうとして
小さな体を揺すり
力一杯の声を響かせてゐた



 蕨


蕨の萌える丘は

発光体のやうに

明るくなつてゐる


暖かや羊とろりと眠る牧



 果実の絵


絵皿が岩に砕けて
 絵の檸檬がすつぽり
   少女にはひつた。 

(すつぱい!)
 とは叫ばなかつたが
確かに少女は
   泣きさうになつてゐる。



 道の呟き


この道を多くの人が通つて行つたが
結局 一人として
戻つてくる者はなかつた

送り出したものからすれば
寂しいことだが
寂しいには違ひないのだが
決して あの哀れな冬の蜂のやうなさまで
帰つて来てもらひたいとは思はないのだ           



 村の灯


大枯木に蛍が留まつてゐると見たのは
遥かな村の灯なのであつた

もうそこには家などないであらう
村さへも消えてしまつてゐるであらう

そこから淡い光の影だけが届いてゐる



 朝顔


朝顔の花は

祈りとひとつに

開いていく


ひとつの息で脹らませる

紙風船のやうに                      



 シャボン玉


清い水から生まれたものが御霊
汚れた水から出たのがサタン
聖霊の満ちた大気では
ともに透明に澄んで見えるが
しかし 真に美しく透明なのが御霊
汚れたのがサタン



 蝶と土蔵


土蔵の壁には日が強く当たつてゐる
 日の中に一匹の蝶が留まり
ゆつくり羽根を開閉させてゐる

ほかに 寄り付ける
 場所はなくなつたから
土蔵が崩れ一緒に土に還るまで
 しがみついてゐようと……

ゆつたりした羽根の開閉は
 いのちのいとほしさのやう



 街灯


いくら燈り点しても
人はやつてこなかつた
寄つてくるのは虫ばかり
虫はべたべた纏はりつくだけで
私の注意を聞かうとしなかつたから
みな堕ちて死んでしまつた

一方人は
私の腕の届かない暗がりを
ハイエナのやうに通り過ぎてゐた              



 向日葵


向日葵は びつしり
弾丸を詰め込んで
終末戦争に備へてゐる

いざ 開戦となれば
愛の冷えきつた者に向かつて
弾丸は四方へ
飛出していくだらう



 新ジャガ芋


新ジャガは固くしまつて
可能性に張り詰めてゐる
若者がそれを食べれば
たちまち満腹して
夜 大きな夢を育てるだらう
鳥となつて羽撃くか
黒蝶を追つて壮途につくか

新ジャガは大地に埋める
一粒の大きな種子だ



 飛躍


蝶とむくつけき昆虫が
ごつちやになつて
吹き飛ばされて行く。
空中を一方向に
平行移動するやうに。

蝶はいつ飛躍をして
その流れから抜け出すだらう。



 蛙


池のあつい水に
蛙が浮んでゐる。
手足を伸ばし
平たくなつて。

蛙の怠惰は相当なものだ。
水澄ましが鼻にのつても
微動だにしない。

これでは浮き葉も顔負けで
びし!
と大葉をもたげて蛙を打つた。

蛙はこれを偶然と見たから
依然同じ姿勢で浮かんでゐる。



 春の恵み


雪間から
雪間へと
汚れた毛の
兎が
顔をのぞかせた
ばかりの
蕗の薹を
食べあさつては
移つてゆく
雪の上に
大きな足跡をつけて



落葉


教会堂
裏庭に
落葉しきりにして
鐘は鳴る



カケス


雪の日
山から村に
カケスが降りて来て
農家の窓を覗いてゐる



うすびかり


鴎舞ふ
か細き声に
うすびかり



夏鴨


夏鴨は
湖心へと
水を漕ぎゆく





つばくらめ
頭頂髪に
南風






腹這ひ
清水含めば
砂に牛の足跡



時鳥


昨今の時鳥
行く春を追ひ
都会まで






緑の最中に

苺が燃えてゐる

火をつまんでは

少女は口にはふりこむ



 蟻と靴

蟻は自分の数百倍の黒靴を
親と勘違ひして這ひ登る
登つたら最後
黒靴の上を忙しなく這ひ回る
古里に戻つた子供のやうに

黒靴は歩いてゆく
その靴の上を
まるで永遠に回る                      
太陽の惑星のやうに走り回る

茶色の靴に出合つたときは
悪魔と見てか
咬みつくのだ



 森の中


日盛りを避けて
森に入れば
小径があつて
いづかたへと続いてゐる
木漏れ日に眼が怪しくなつた頃
幻のやうに湖が現れる
周囲を映したみどりの湖
暗く耀く心の奥の湖


 
 翡翠新生



かわせみの

  水をくぐれば

 身に余る

魚さずかりて

   木ぬれに還る



 珈琲店


他のどこにもない
この店の
雰囲気を
呑むのが
好きだ
霊の
泉が
湧いている
珈琲店



 階段



空に梯子が一つ
 まっすぐ伸びている
そこを白色レグホンが
 一歩一歩昇っていく
飛べない不自由に耐えて
健気に生きてきたから
今あんなに
 純白に耀いて
恵みの階を昇っていく



 山小屋



山小屋の煙突から煙がまっすぐ昇っている

何と多くの下界を省略しきって昇っていくのだろう



 水鳥


霧が晴れてゆく
湖の奥から
水鳥が生まれてくる

霧がひくのと
同じ速度で
姿を現してくる



 ひまわり


ひまわりは

駝鳥のような脚をして

太陽電池を支えている

もう花びらは一つもないが

悲観などしていない



 木立


冬木立

しずまり

怒り貌して

啄木鳥精勤



   ☆

コメント(0)

mixiユーザー
ログインしてコメントしよう!

文芸の里 更新情報

文芸の里のメンバーはこんなコミュニティにも参加しています

星印の数は、共通して参加しているメンバーが多いほど増えます。

人気コミュニティランキング