ログインしてさらにmixiを楽しもう

コメントを投稿して情報交換!
更新通知を受け取って、最新情報をゲット!

文芸の里コミュの詩集 10

  • mixiチェック
  • このエントリーをはてなブックマークに追加



   ☆



  毬栗


黄緑色に張りつめ 日に日に膨らんでくるものよ
棘はあつても マリのやうに弾んでくるものよ
汝を見てゐるだけで魂の保養になる
それら棘々は 乙女の胸のごとくに私を刺す
毬栗よ いついつまでもそよ風に張りつめ
青き豊かさのままに 陽を跳ね返してゐよ  



 その先を見よ


山荘の寂池に ひねもす河骨の花を見つめてゐる蛙よ
河骨の葉にならつて水に浮び
黄色の小花に熱つぽい 視線を送つてゐる蛙よ
花の先には 焦げつくばかりの
青空があるばかり
青空を背景に一輪開花の河骨は
高嶺の花といふより
耀ける真昼間の星 
いや 恋の星だ

蛙がいくら見惚れてゐても
河骨はいつかうに応へない
色に乏しい池に 一点の美をそへて
静まつてゐるばかり

蛙よ いつそおまへの視線で
取り澄ました花の冠を射貫いてやれ
ついでその奥の蒼穹を見よ
文字通りの蒼穹を見よ
焦げ極まれる中にあるのは
河骨ではなく 永遠であらう



 行く春


朝顔の 露をいのちと輝かむ

この藍色の燃え尽くるまで



山芋の 疵つけず掘るむつかしさ

かくばかり神は人をはぐくむ



行く春を追つて岬を離る小鳥



  茸


この世のおしまひの季節に
夢が 茸のやうに
頭をもたげてくるのだつたら 
たまらない

茸は所詮 樹にはなれない
夢のままでむなしく消えてしまふ
落葉し 枯れ果て ものみな静止に向かふ頃
叢がり生えてくる茸は
果たせなかつた思ひの
いきどころない
悲しみの発露にも見えてくる



 赤い電車


目の前を赤い電車が走つていく
愛の炎に燃える赤い電車
でも中の乗客は
みんな白々しく冷えて
そつぽを向いてゐる                    



 地の被ひ


雪は地を白くするために降る
りんりんと凍らせるために降る
あらゆるものをおほふために降る
さましきよめるために降る

春となり 雪は融けてしまつても
地は洗はれてゐる
地肌を削り取られるばかりの
傷は残つても
美しく輝いてゐる



 囲はれてゐる人へ


女よ 囲はれてゐる人よ
相手が巨大に見えるのは
想像の落とす影なのだ
影があなたの中に照射してゐるにすぎない
ちよつとした人生の染み
そこにサタンは
巨大な影をもつて侵入してくる



 恩寵の梯子


人はたつた一つの幻を見るために
生れてきたやうなものだ
幻はきまつて
この地平とは切り離された
はるかかなたにある
とても捉へることなどできないほど
隔てられて――
けれども その不可能に
すがりついていかうとするとき
思ひがけずするすると
恩寵の梯子が降りてきたりする



 いつの日か


ある岬の砂浜に 落葉が吹き溜つてゐました。
落葉たちは固まり合つて 息も絶え絶えに話しました。  

「塩は永遠の象徴よ」
「それなら 塩を含んだ海の水を飲んだら 
永遠に生きるのかしら」

落葉は最後の力を振り絞つて 話し合つてゐましたが      日は容赦なく照りつけ 残つてゐた水分も取られて
海の水を含む元気すら失はれ
その場所にぐつたりと眠つてしまひました。

その上を砂が流れ 厚く積つていき
落葉はつひに土に還つていきました。


◇冬木立 鳥の足跡つづきをり



 夜の岸辺


夜 岸辺に泳ぎ寄る魚は
不吉なほど黒い

そして 昼の海からは
想像もつかぬばかり
大きく ものものしい動きをする

寝静まつた陸に
少女をさらひにきた悪魔の影だ



 これも奇跡


時に電車の中などで
悪霊を閉ぢ込めてゐる男に出合ふ。
その者を見ても また目を外らしても
何故さうしたのだと 
言ひがかりをつけてきさうだ。
何しろ 相手は悪霊だ。
悪霊に踏み込まれてゐる者だ。
どんな理由も通用しない。
こんな時は
全能の神に頼んで
救ひを求めるべきだらう。悪魔に勝てるのは 
神のほかないから。
すると奇跡のやうに いや確かに
奇跡は起こつて 悪霊はその人諸共に
すたすたと車両の外れの方へと
退却していく。
それはもう 退却とより言ひやうのない
すごすごとした敗残の後ろ姿のまま――



  ◇

ぬばたまの夜更にふつと
目覚めたり
雷は確かにどよもしてをり



 神の忍耐


何が忍耐強いといつて
父なる神の忍耐にかなふものはない

宇宙の創造に着手したのが
百二十億年前
地球の創造に四十数億年
人間の住める環境をつくり整へるのに
これだけが必要だつた

そして待ちに待つた人類の先祖
アダムは創造された
アダムからはエバも

しかし背きの罪
一度人にはひつた罪は
もう消えなかつた

神はそれを預言しつつ
人類が預言の通りに
罪を犯すのを
黙つて耐へてきた

累累と重なる人類の罪の歴史よ
この罪を帳消しにするために
独り子を世に送らなければならなかつた
これも聖書の預言の通りに

全能なる故に
その通りになつてきた
神のかなしさよ
全能者の 愛のかなしさよ



土壁に鳴く蜩をかなしみて
日はじんじんと
降りそそぐかも



 赤赤と


ストーブを燃やせ
ありとあらゆるものを 投げ込んで
ストーブを燃やせ
身ぐるみ剥ぎ取つて 投げ入れ
ストーブを燃やせ
この厳寒の季節に このおしまひの世に
ストーブを燃やせ
赤赤と燃やせ



 人生の夕拝


晩秋の街路樹の下に
ベレー帽の老靴磨きが坐つてゐる
銀杏の葉は散り
老人の前を流れる
仕事の邪魔になるばかりに――
傍らの金入れ箱には
いささかの硬貨を隠して 銀杏の落葉

日も沈み 人通りもなくなると
靴磨き老人は 腰を上げる
金入れ箱から 黄金の美しい落葉を掴み
後ろポケットに硬貨諸共ねぢ込んで――
安酒場に立ち寄り
チューハイのつもりでワインのおかはり
酔ひも回つて
さて勘定をと取出した黄金の葉は
あらうことか葡萄色に変はつてゐる
度胆を抜かれて 上げた視線の壁には
十字架が光り 
《神は愛なり》
ここはどこだ?
このわしがチュウハイでなく
葡萄酒にあづかつてゐたとは――



 獣道ではなく


獣は 自分以外の動物の死を見ながら
自分が死ぬとは知らない
我々人間にも
さういつたのがゐる
いくら年を取つても
大丈夫このまま続いていくと
惰性のやうに考へてゐる
限りなく生きていくもののやうに
思つてゐる



 頭に弾いた木の実について


それは自然のなせる業にはちがひないが……
梢からまつすぐ
命中するやうに頭に降つてきた木の実
重たく硬い木の実
何か不当な打擲を受けたやうで
穏やかではなかつたが
しばらく経つうちに 木の実の重さ 硬さ
丸さが懐かしく頭に甦つてきた
木の実よ おまへは何が言ひたかつた?



 寂しい運動場


過疎の村の運動場に日が照つてゐる
子供たちが減つて 学校閉鎖となつた
運動場だ
子供らの給食を分けて貰つてゐた雀ば
かり目立つひつそりした運動場だ

雀よ いくら待つても
もう子供たちは帰つて来ない
おまへ達がしよげ返つてゐる時に戻つ
て来た あの夏の休みでも冬の休みで
もないのだ
パン屑 スパゲテイー ハンバーグ
人手によつたそれら効率のよい餌は
もう諦めなければならない

民家といつても 都会に出てしまつて
今はめつきり減つてゐるから
雀よ いつそのこと野に帰れ
それは我々人間が
神に立ち帰るのと同じことなのだ


身一つではるかに行かむ夏野かな



 何か


人は暇になつたら
何かをじつくりやつてみたいと
思つてゐる。
俳句 書道 短歌 絵 尺八 読書 
ダンス 旅行 ………

いざ定年となり
それぞれに取組んでゐるうちに
もつと別な何かが
あるやうな気がしてくる。
それが何か分からないまま
自分が求めてゐたのは
こんなものではなかつた………
そんな思ひの中で 
残された日々が過ぎていくことになる。
その「何か」を見つけ出せたものは
幸ひだ。



里暮れて紅一点の焚火かな



 樹氷


地上の木々が生温いばかりに
やたらいらぬ葉を繁らせ
結局は枯れてしまつたのだとしたら――

樹氷は天国の樹だ
厳しく咎められて 赦され
新しい衣で飾つて貰つた

樹氷の結晶の 煌めくさまは
まさに新しい命に耀いてゐる



 詩集




詩を書いた人も
それを編んだ人も
発行した人も
すでに逝つてしまつた
一冊の詩集

遠い過去から
はるかな未来を語つてくる
不思議な詩集                       
                                                          
落ちて行きながら
最後に落下傘のやうに開いて
空中にとどまつたにちがひない星たち

その星からの
メツセ―ジを聞くやうに
読んでゐる一冊の詩集



重き實を拾ふごとくにことばくる



 どこかに埋もれてしまつた女よ


そんなに深い意味があつて
言つたわけではなかつたのに
そのひと言を 真剣に受け止めて
行つてしまつた女よ

この狭い日本の
狭いといつても
世界に広がつてしまつた日本の
どこをどう捜したらよいか                 
見当もつかずに思案にくれてゐる
あのときはただ
世の中が束になつてかかつてきたから
その腹いせに言つてしまつただけなのに

それにしても どうして私たちの心は
かうも通じ合へなかつたのだらう
あんな取るにも足らないことのために
こんな苦しみを背負はなければならないなんて

もしやあなたも 持つて行きどころのない面当てから
二人のプラスとプラスが火花を散らす具合に
漆黒の世に呑まれて行つたのだらうか
あの無際限に広がる宇宙の結び合へない星々のやうに



 みんな浮浪者


電車に乗れば
きまつて浮浪者がゐる

行先のない者が
架空の目的地にむかつて
電車に乗つてゐる

いかにブランドの逸品を
一着に及ばうと
行先のない者は
みんな浮浪者



 罪


多くの者が集つて
一人の噂をするとき
罪悪のにほひがする
その一人が
集ふものたちの噂をしてはゐないだらうから
自分のことを語る相手もなく
魂だけになつて
一点の灯のやうに
貧しく燈つてゐるだけだらうから



 賜物


海から豊かな獲物を掬ひ上げるやうに
山から豊かな実をもぎ取るやうに
なぜできない?
天から慈雨を
傘を逆さまにして
受けとめること。



                             
 刻を知る


学問を習ひに通ひながら
早く了ればと
ベルばかり気にしてゐる
変な生き物だ 我々は

こんな具合に
どんどんどんどん
人生が切り詰められていつたらどうだ
一体何を知つたといへる



 白梅


白梅が

寝呆け眼に

灯つてゐる



 あぢさひ


羊が濡れて

一固まりに

なつてゐる

丘のあぢさひ



 捧げ物


何も捧げる物がないから
少女は笑顔を捧げた
感謝の笑顔を

しばらくの間
少女はしよげてゐた
笑つて済ましてしまつた気がして
捧げる物のない恥かしさも手伝つて……

少女の笑顔が戻つたのは
前よりも耀いて笑ふやうになつたのは


自然や 街や 周りの人々が
微笑みかけてくるやうに
見えはじめたからだつた

蕾は笑ひながら開いてきたし
芽吹いてくる梢も
小鳥の声も
笑つてゐた



 浜茄子



はろばろと天と地をほしいままに咲く花よ
北の岬の旅にあつて
わたしはおまへを手に入れたが
都会の狭苦しい幽閉の土地では
とてもとてもおまへを咲かせることは出来ないと
やむなく断腸の思ひで
置いて行くことにしたよ

せつかく出合へたおまへと別れるのは
残念でならないが
大らかで粗野なおまへの性質には
この広い晴れやかな砂浜の
海風のびうびう通ふところがふさはしい

わたしは都会のコンクリ―トの一室で
いかなる花も置いたりせず
おまへをはるかに想像して生きていくから
わたしの分も併せて
天真爛漫に咲いてくれ 



 大雪の朝
     ――ポ―の大烏棲みつきて書かせる――


大雪の朝 木戸を押し開くと
戸口に烏が凍え死んでゐた
木戸に押されて むかう向きに雪に
嘴を突つ込んだから
おそらく木戸に向つて 
何か叫んでゐたにちがひない
叫んでゐるうちに 雪と夜の寒さに覆はれ
凍りついてしまつたのだ
それにしても 烏は何を告げにやつてきたのだ

その家の主は烏の処遇に戸惑ひ
昼は日に干し 夜は寒さに凍らせて
天然自然の剥製にした
さて 収穫の秋となり 稔りを目掛けて
雀どもが押し掛けて来ると
案山子の頭にその烏を留まらせておいた

日と風と寒さに鍛へられ ささくれた烏は
それだけでおどろおどろしく 凄く
雀たちを追ひ払つた……
が しかし あの大雪の夜 
しきりに告げようとしてゐた烏の本意からは
大きく外れてゐたかもしれない



 山葵


山葵田に 清き水は流れて
 壮んに
辛さを 醸造してゐる
 妥協のない 辛さ
 毒消しの 辛さ

辛さには
 清さと しみいる冷たさが
なければならない

さうして 何より
 辛さには 信念が必要だ



 初燕


早くも一羽の燕が
 海を越えて来て

展望台から
 こちらの街々を

 偵察してゐる



 律子


旅先の田舎のベンチで
君の名前を見つけたよ 律子
いつたい誰が 断りもなしに
君の名前を書きつけたりしたんだ

(こんな色褪せた おんぼろベンチの
背凭れに 乱暴な稚拙な字で 
ほかの落書とごちやまぜになつて)

それからといふもの 律子よ
君の名前をあちこちで見かけるやうになつた

山で 海で 街で 
木や 砂や 壁に 
君を見るやうになつた

律子よ 君は僕の出掛けて行く先々で
待ち構へてゐたな
時には しよんぼり海を見てゐたり
壁に凭れてゐることもあつたけれど
大抵は隣に気に食はない男がゐたよ

そんなわけで僕の旅はさんざんだつたな



 階段


空に梯子が一つ
 まつすぐ伸びてゐる
そこを白色レグホンが
 一歩一歩昇つていく
飛べない不自由に堪へて
 健気に生きてきたから
今あんなに
 純白に耀いて
恵みの階を昇つていく



 心を


人は心に
 湖を棲はせてゐるから
ときどき森に
 実際の湖を探しに出かける

どうかして
 その澄み具合を見てみたいと……

濁つてゐなければよいがと……
 祈りをもつて
森に湖を探して行く



 蝶


黄蝶は黄色い花に
白蝶は白い花に
それぞれの根源を訪ねて
執着して行つたが……

ある日 ふつと迷ひが解かれて
二匹が空に舞ひ始める
縺れるやうに絡るやうに
恣意的でありながら
   十分な調和のなかに

しまひに 綾なす光線となり
紺青の深みへと吸ひ取られてゆく



 一本道


この世の道ではない
一本の道を通らう
大通りではない
裏通りでもない
山径でもなく
海沿ひの道でもない
求めて行けば
ひたすら追ひ縋つて行けば
ある時ふつと開けてくる
確かな一本の道


  ☆

コメント(0)

mixiユーザー
ログインしてコメントしよう!

文芸の里 更新情報

文芸の里のメンバーはこんなコミュニティにも参加しています

星印の数は、共通して参加しているメンバーが多いほど増えます。

人気コミュニティランキング