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文芸の里コミュの詩集 「4」

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  ☆

 白百合


笹薮の中の一輪の百合よ
 かぐはしくも夢幻のやうにともつてゐる
白い灯よ

潤ひのない荒野に
 おまへのそのひつそりした姿は
福音となる
 熊笹猛る不毛の地 異邦の民への―――



 雀の洗礼


馬の蹄の跡に溜つた水で
 水浴びする雀よ
自分のものに出来る唯一の宝物のやうにして
 翼を濡らし 頭を潜らせてゐる
時に チユンと賛美を口走つたりして―――

「天の父の許しなしには一羽の雀も地に墜されはしない」

 雀のふるつた翼の端から虹がかかつた



 印


雪原に星の印をつけて
 歩き回る鳥よ
雪が天のものであることを
 印すために
はるかな所より
 訪ねてきた鳥よ

夜 さやけき星の明かりに
 天使たちの足跡が
   ほんのりと黄光つてゐる



 鸚鵡


都会の片隅の喫茶店では
 店先に鸚鵡を飼つてゐた
客のある度に
 狭い篭の中より
バカ バカと呼び掛けてゐた

それでも
 けつこう客は入つた
お世辞を言はないといふので――



 祈りの時


シートベルトに身を固めた人々を乗せて
大通りを 車が流れて行く
歩道には自転車が
 警告ベルで人を押しのけて行く

通りはブーブー
歩道はリンリン

この雑音交響曲の中を
二本足で進むのが
遂に時代遅れとなった
散策は昔語りの夢

郊外へと逃れ出れば
車輪と警笛と排気ガスが
この田舎者めがと襲ひかかる

かうなりや
 侘び住ひの四畳半にしけこむしかないが
この隔絶と幽閉において
今こそ祈りの時だ!

神よ 哀れみ給へ



 姦淫の街


ああ 腐つた魚のにほひのする街だ。
 烏の群がる港町

見よ 貴婦人カモメまでが集つてきてゐる。
 烏の嗄れ声に
   なまめいた啼声を絡ませて――

カモメよ
 いつからおまへは こんな姦淫の町に
  慕ひ寄るやうになつたのだ。



 魚


今海から揚がつたばかりといふ顔をして
 光り耀いてゐる魚よ
おまへはどうして
 そんなにすがすがしい顔をしてゐられるのだ。
今にも笑ひ出さんばかりぢやないか。

ここが天国だと信じこんでゐるわけでもあるまいに。
それとも 
 おまへたちの目に
  天国は近づいてゐるのかね。



 幻の鶴


見よ 一羽の鶴が夕暮れる刈田を歩いてゐる。
あれは 山懐の湿原に 
一羽だけで 仙人のやうにして生きてゐた鶴だ。

鶴は孤高に倦み疲れたかのやうに
その湿原を振返りもせず まつすぐ長い脚を送つて行く。
何といふことだ あんなにも人目を忍んで生きてゐたものが
今は人里に向つて行く。

小一時間後 私はその鶴が小学校のぼろ校舎の屋根に飛び上り
嘴を天に向けて翼を広げるのを見た。
あたかも 十字架のやうに均衡して。
鶴は迫る夕闇を背景に 彫像のやうに動かなかつたが
明朝訪れると きれいに姿を消してゐた。

人に話しても これを信じる者はゐない。
けれども 湿原に今 鶴はをらず 
深更に鉄砲の炸裂音を聞いたやうな気がするから
校舎の屋根に星の光を集める嘴に 照準を定め
誰かが引金を引いたにちがひないのだ。 



 夜更けの路地


夜更けの路地を歩いてゐると
ごみ箱の上に
蛍のやうな青白い光が
二つ並んで蹲つてゐる
こちらの接近を気にして
光は等間隔を保つたまま
漂ひ流れ
しまひに緩急をつけて跳ね
一つの開いた窓に侵入した

それは何と 闇にすつぽり
のまれた黒猫の目なのだ
といふより 猫に入り込んだ
悪霊そのものなのだ
さあ大変
うら若い乙女が 肌も露はに
寝んでゐたらどうなる
乙女はゐなくても
あの家では
以後葛藤が始まるにちがひない

このまま教会の鐘楼まで歩いて
夜更けの街に警鐘でも打ち鳴らさうか――



 翔べない鳥


汝 翔べない鳥よ
嘴をつるはしのやうにして
木をよぢて行く奇怪な鳥だ
だが てつぺんの枝に辿着くや
賛美の歌は忘れない
      チチ  チチ
ハレ ルヤ 父 父
ハレ ルヤ チチ チチ
その姿に似合はない
声の澄んだ美しさよ



 木の実を銜へて


鳥たちは 飛び立つた
木の実を一つづつ銜へて

もうこの地上には
埋める必要なしと
断定したから
遠い天体へと運んで行つた



 青いボールを


青いボールを 天に投げあげては
受け止めてゐる少女がゐる
必ず自分の両手に
戻つてくる安心から
同じ所作を繰返してゐる少女
このやうに
天に召された母が
帰つてこないものかと
自分が天に行くよりも 
母の帰つてくる方を
たやすく考へてしまふ少女



 愛の結晶


もし神がいくたりもおはしましたのなら
地球は 球体としては創造されなかつたであらう。
神々のいさかひのままに歪み崩れて
今頃は宇宙の果てに 燃え尽きてゐるにちがひない。
おお 人類の汚れを抱へつつも
おほらかに耀いてゐる球体よ
何十億年かけての
神の愛の結晶



 落葉焚き


ああ 落葉焚きの寂しい風景だ
散つたうちのどれだけのものが
風に運ばれて天に昇つたといふのか
そこ 生命の河のほとりでは
新しい樹にとりつき
息を吹き返してゐるだらうか
それはどんな色に耀いてゐるのだらう
ここでかつての仲間たちが
紅蓮の炎に燃え立つのを見下ろしてゐるのだらうか
ああ 劫火と永遠の生命を隔てる
深い淵


 天の父よ


父よ 限りなく崇高なる父よ
あなたの愛の御手で地球を掴み
水切りをしてください
大空は水 あの深い透明な青は
清い澄んだ水です
どうぞ そこを潜らせて
我々の腐つた心を洗つてください

あなたはそこから水を降らせ                
ノアを救つたのです
今 我々に必要なのは
あなたの清い水 生命の水です



 シヤボン玉


シヤボン玉

汚れ流して

軽く発つ



 鯰


鯰は身に余る予知能力の故に
ひねもす難しい顔をして泳ぎ回つてゐる。
神が鯰にこんなにも素晴しい能力を
備へてゐるとすれば
人間にどうして与へてゐないと言へる?

預言者は今も語つてゐる。
神の御声を総身に重たく担つて 叫んでゐる。

終りは近い 悔い改めて 神に帰れと。



 森


森 そは人知れず憩へる所
樹間の静まり
葉叢の下の豊けさ
木漏れ日は幽けく
時空を越えて届く
明るすぎず暗すぎず
いのちの洗濯に
程よく調合され
聖霊は流れてゐる
人の目に隠され
しかも確かなしるしとして――



 古里の道


古里の道に立つと
何とも日は明るく照つてをり

ずつとここに住みつづけてきたやうな
変な気分にとらはれる
だが 家を覗くと
見知つた顔が失はれてゐる
そして ガラス戸に映つた自分も
かつての少年ではない
いつたい彼等は どこへ行つてしまつたのか
消えたときの たましひの
ありさまはどうだつたのか
ああ――
と慨嘆するやうな鴉の声
迫りくる山の木立では
蜩の競ひ啼き
昔と同じ声で 
返らぬ時に向つて――



水影


想ひ出の川に魚は走り
澄める水に
いのちは水影のごとく去来する
薄く濃きいのちの宴よ
木漏れ日のさんざめくところ
いのちも旺んに踊つてゐる



 あなたに渡したい本


かつてあなたに
読んで貰ひたい本を
そのときどきの自分の心を
打明けるやうなつもりで
渡してきました
けれども今
心から渡したい本があります
渡せないほど
遠くなつてしまつてゐるけれど
それだけにかへつて
飢ゑ渇きのやうに渡したく思ふのです
バイブル



 人は崇高を呼吸するとき生きる


山巓に深呼吸するとき人は何を見るか
目眩く蒼穹
宇宙の果て
無限のただ中に立つ限りある生命
神の霊気
人は崇高を呼吸するとき生きる



 倉庫


かつて賑はつた
港町
やたら目につく
空の倉庫
餌もないのに
集まつてゐる鳩
いにしへの豊穣を
待つ風にして――



 応答


山彦が偉大であるのは
人の声ではなく
山の応へであるから
山はシオンの山
父なる神の御座



 幻にあらず


誰もゐないはずの
山の一軒家に
灯がともつてゐる

まさか?

トメばあさんは首を振つた
しかし灯は明らかに
しんしんとともつてゐる



 覚醒


いくら人は去つて行つても
神は招いてゐる
そこに気づけば
気づきさへすれば
人の世の苦杯は
何のその
苦しみをバネとして
飛翔せよ
神の国へ



 鳴きもせで


公園の木立より
生れたばかりの蝉が
弾丸のやうに飛出した
旺盛ないのちに
児童公園は狭すぎたのか
あつけなく柵を越え
人家のコンクリート壁に激突
気絶して落ちたところを
下にゐた猫が手を出した



 オアシス


乾ききつた地平に
ひと本の樹が立つてゐる
煌めく噴水のやうに――
そこまで歩けば
緑陰に疲れも取れよう
あるいはほかに休める者がゐて
新しい国の
便りも聞けるかもしれない



 寄留地


薄ぼけた駅舎の軒に一羽の鳩がゐる。
脚にはこの地のものではない印がある。
艶失せ 風体は崩れて 見る影もない。
烏 雀 土地の鳩にも遠慮しつつ
おどおど生きてゐる寄留のもの。
迷ひ鳩
おまへは一本の線路を辿つて
ここまで飛んできたのだな。

みすぼらしい鳥は
一向に飛び立つ気配がない。
汝 寄留の鳥よ
病癒え 疲れが取れたら
思ひきつて出発してはどうだ。
おまへの生れた土地を探して―――
執着駅で行詰れば
海原へ出て飛んで行くのだ。
蜜と乳の流れるおまへの国カナンへ。


  渡り鳥
  行くやいくつの
        村起こし



 七色の橋


もし今 雷鳴が轟いたら
まづ胸に手をやつてみよう
をののきが走るやうなら
すみやかに立ち返ること

もし祈りに生きてゐるなら
雷鳴は祝砲のやうなもの
やがて恵みがやつてくる
七色の橋を渡つて



 世の光


多くの名のなかで その名は光つてゐる
成績優秀なわけでも 
クラスの信が篤いのでもない
取り立てて美貌といふのでもない

それでも その名前は光つてゐる
どうしても 光つてゐる
連なる名のなかより
香りを放つてほほゑみかけてゐる



 永遠の命にあらねば


井戸に月が落ちてゐる
男は起き出すと
冷水を釣瓶に掬つて飲む
月に口をおいて
くくつと卵の黄身をを啜る具合に――
渇きを癒し よく眠るために
明日の活力を得るために

男は夜毎
新しい命を得ようと
水を飲んだ

だが 歳月は男の体の自由を奪ひ
夜の井戸に立つのもままならなくなつた
井戸は忘れ去られ
いや 忘れたわけではないが
老いた男の意識にぽつかりと
空洞のやうに浮ぶだけとなつた



 預言者


夜の路地に拍子木を打ちつつ
告げ回る者がある

 寂しい魂よ 神を賛美せよ
 哀しい魂よ 神を賛美せよ
 苦しい魂よ 神を賛美せよ
 貧しく渇ける魂よ 神を賛美せよ
 すべてすべて 汝の父なる神を賛美せよ

告げる足は遠ざかり
人はさまざまな夢の扉を入つていく
悪夢にうなされ 死の淵より
神を呼び求めた者は救はれる
そしていつの日か
賛美を口にのぼらせてゐる自分に気づく

かうして人は 路地を通つて行つた者が
預言者であつたと知る
 〈終りは近い〉
今もまた預言者が通る



 砕かれた心


魚が清い水に煌めき踊るやうに
透明な霊に流れるのは
何とうるはしい光景だ。
聖霊を父として 身を委ねよ。
美しき献身。
あなたの そして私の砕かれた心。
父なる神のもつとも喜ばれるもの。



 秘訣


愛のないところに住み過ぎて
目がくらむばかりに
愛が眩しくなつた者よ。
あなたのゐる暗がりから
徐々に徐々に出てくるがよい。
さうして これは
ゆるがせに出来ぬ秘訣だ。
教会といふ御翼の陰に入つてしまふこと。



 真実の父


世にある父親たち
娘が教会へ出かけるといつて
咎めたりしてはいけない。
神こそ永遠の父だ。
この方をおいて誠の父はゐない。
聖にして愛の神
創造主
全能の神
あらゆるものの根源
聖霊なる神
自らを妬む神とまで呼び
人類が滅びの神々に走るのを
防ぎ止めようとされた父。
あなたとて
この真実の父の創造になることを
忘れてはならない。
むしろ 娘とあひ携へて
神の門をくぐるべきではないか。



 老鴎


機関室の屋根に
一羽の老鴎が留つてゐる。
羽根は艶なくささくれて
衰へは隠せないが 老漁労長のやうに
充血の眼で 海原を見回すのは忘れない。
魚群を発見するや
羽撃いて海面すれすれに旋回する。
その場所に網を入れると
きまつて魚が獲れ そこから二、三尾が
報酬として与へられた。
老鴎には 自分で魚を獲る力はなかつたから。

海が荒狂つた日の翌朝
老鴎は姿を消してゐた。
風は凪ぎ 澄みわたつた高空を
ひつそりとジエツト機が浮んでゐる。
音もなく 小さく霞んで………
やがて 耀く蒼穹にのまれていく。



 ありてあるもの


うらぶれて
 暗い路地をさまよふ者よ
人気を避けて 
 寂しみに身を寄せる者
どうしやうもなく
 佇む者

吾に来よと
 差し招く声がある
姿は見えねども
 そはありてあるもの



 アイリス


アイリスは聖なる花
さう聞いて求めたのであつたが
日をおかずに萎れ 莟は開かない
聖なる花のゆゑに
このわび住ひを嫌つたのであるか
吾が卑しき性が 高貴な彼女に合はなかつたのか
いや もしかしてこの花は
そのはかなさによつて 朽ちない美を 永遠の生命を
神の御業を告げしらせてゐるのかもしれない



 人はおのおの


人はおのおの
勝手気侭な道を進んで行つた。
自ら生れ 育ち 発展を遂げ
たかのやうに錯覚して―――
勝ち誇り 傲然と驀進して行つた。
だが 前途に横たはつてゐるのは
奈落 闇の闇 また死の淵。

その頃より天の身悶えは起こる。
雷を鳴らし 雹を降らせて―――
民に滅びの道を
行かせたくなかつたから。
それに人は 雷おやぢなどと
揶揄の汚名を被せ
聞き入れるどころか 耳を塞いだ。



 幻を見た


砂浜に立つてゐると 陸地の側から
夥しい大仰な物音が湧き上がる。
空中を渡りの一群がうねつて来る。
群れは連綿と続いて 波打際にさしかかる。
するとこのとき
天の見事な手捌きにかかつたやうに
二つの流れとなる。
一方は愛と情熱の赤 一方は冷めた土色。
鳥の渡りと見たのは 実は落葉の叢がりである。
赤い愛の群れは 雲の切れ目を抜けて
ウルトラマリンの空へ
土色の方は 垂れこめる暗雲へと吸ひ取られていく。



 金魚


祭の露店で 女の子は金魚掬ひをしてゐる。
赤い着物に さらに赤い 金魚の尾鰭のやうな
帯を締めて。
おぼつかぬ手つきで紙の網をつかふもので
すぐ破けてしまふ。
いつたい何枚の網が廃棄されたか。
けれども一尾の金魚の命ははるかに尊い。
子供の祭の小遣で購ひきれるものではない。
それが分つてゐるから
女の子は一尾の小さな命に集注する。

女の子に狙はれた一尾の子供金魚は 
力尽きて つひにビニール袋にをさまつた。
子供の金魚は 家へ急ぐ女の子を
透明な袋ごしに見やる。
すると着物の色や帯のさまが 大きな母親金魚と
そつくりに見えてくる。
子供金魚は親に逆らつて遊び歩いてばかり
ゐた反省が湧いて ビニール袋の中を 女の子
の着物の方へぴつたり寄添つて鰭を動かす。



 地のかほり


淡々しい
ちつぽけな花でも
猛り狂ふ
雑草の中に
ほんのりと匂つてゐるからこそ
美しい
そのけなげな忍耐には
脱帽したい気持になる



 路傍


路傍に瀕死の子雀が佇んでゐる。
もう目は閉ぢられ 車が地響きを立てて通る度に
よろよろつとしては持直してゐる。
この震動では 頭痛もひととほりではなからうに。
もう痛みも感じないほど弱つてゐるのか。

それでも子雀は必死にこらへてゐる。
道の方へ倒れてはならないと。
そのときは 枯草の中へ横たはりたいと。
もし道の側に倒れれば タイヤの下敷きとなり 
仲間の雀や人間に惨たらしさをさらして
迷惑をかける。
子雀はじつと目をつぶつた頭の中で こんな思ひ
をめぐらせてゐたのだらうか。

明くる朝 子雀は枯草のなかに事切れてゐた。
枯草の色と見分けがたく かすかに盛り上つて
ゐるのでそれと知れた。
ときをりそよ風が 子雀の羽毛を逆毛にして通
つてゐた。



 約束


女はひとり
田舎駅の寂しいホームに立つてゐる
駅まで送つて行くときかない腰の曲つた母を
また来年来るからと
おしとどめて
帰りの列車を待つてゐるが
古里もこれで
見納めであると知つてゐる

痩せて顔色すぐれない娘を気づかふ母に
私いたつて元気よ
笑つて背筋を伸ばして見せた女は
不治の病を知つてゐる

女はひとりで
都会へ向ふ列車を待つてゐる
ホームの前の柵には 小さなプレートが
括り付けられてゐる
『神と和解し 永遠の生命を受けよう』
女を古里に連れ戻したのは
この神の約束を見せるためである
列車がはひつてくる
啓示のことばは 夕日を仄かに受けて
明るんでゐる



 徒労と知りつつ


心の傷を癒すのは
メンソレータムをつけるやうなわけには
いきません
お酒をのんでも
ただしびれるだけ
それがわかつてゐても
人はのがれるためにだけ
費消してゐます
一日一日を
人生を



 朝露


病院に棲む雀は
クレゾールの香りに親しみ
病人食にも馴染んでゐる
雀は病人を憐れみ
時折思ひ出したやうに祈りをする
早い快復と
不治の者には天国への旅立ちを
雀が運んでくる朝露は
何よりの妙薬
窓辺で翼をふるへば虹が出る



 宿り


豊漁は
港に群れる鴎のさんざめきでわかる
だが
鴎が騒げば騒ぐほど
啼声は哀しく聞える
ことに宿のない
さまよひ人の耳には
早く見つけなければならない
安息の宿り


 ☆


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