ログインしてさらにmixiを楽しもう

コメントを投稿して情報交換!
更新通知を受け取って、最新情報をゲット!

文芸の里コミュの詩作の準備 4

  • mixiチェック
  • このエントリーをはてなブックマークに追加




 ☆


 茸


この世のおしまひの季節に
夢が 茸のやうに
頭をもたげてくるのだつたら 
たまらない

茸は所詮 樹にはなれない
夢のままでむなしく消えてしまふ
落葉し 枯れ果て ものみな静止に向かふ頃
叢がり生えてくる茸は
果たせなかつた思ひの
いきどころない
悲しみの発露にも見えてくる



 恩寵の梯子


人はたつた一つの幻を見るために
生れてきたやうなものだ
幻はきまつて
この地平とは切り離された
はるかかなたにある
とても捉へることなどできないほど
隔てられて――
けれども その不可能に
すがりついていかうとするとき
思ひがけずするすると
恩寵の梯子が降りてきたりする



 これも奇跡


時に電車の中などで
悪霊を閉ぢ込めてゐる男に出合ふ。
その者を見ても また目を外らしても
何故さうしたのだと 
言ひがかりをつけてきさうだ。
何しろ 相手は悪霊だ。
悪霊に踏み込まれてゐる者だ。
どんな理由も通用しない。
こんな時は
全能の神に頼んで
救ひを求めるべきだらう。悪魔に勝てるのは 
神のほかないから。
すると奇跡のやうに いや確かに
奇跡は起こつて 悪霊はその人諸共に
すたすたと車両の外れの方へと
退却していく。
それはもう 退却とより言ひやうのない
すごすごとした敗残の後ろ姿のまま――

ぬばたまの夜更にふつと
目覚めたり
雷は確かにどよもしてをり     



 神の忍耐


何が忍耐強いといつて
父なる神の忍耐にかなふものはない

宇宙の創造に着手したの百二十億年前
地球の創造に四十数億年
人間の住める環境をつくり整へるのに
これだけが必要だつた

そして待ちに待つた人類の先祖
アダムは創造された
アダムからはエバも

しかし背きの罪
一度人にはひつた罪は
もう消えなかつた

神はそれを預言しつつ
人類が預言の通りに
罪を犯すのを
黙つて耐へてきた

累累と重なる人類の罪の歴史よ
この罪を帳消しにするために
独り子を世に送らなければならなかつた
これも聖書の預言の通りに

全能なる故に
その通りになつてきた
神のかなしさよ
全能者の 愛のかなしさよ


土壁に鳴く蜩をかなしみて
日はじんじんと
降りそそぐかも



 赤赤と


ストーブを燃やせ
ありとあらゆるものを
投げ込んで
ストーブを燃やせ
身ぐるみ剥ぎ取つて
投げ入れ
ストーブを燃やせ
この厳寒の季節に
このおしまひの世に
ストーブを燃やせ
赤赤と燃やせ



 みんな浮浪者


電車に乗れば
きまつて浮浪者がゐる

行先のない者が
架空の目的地にむかつて
電車に乗つてゐる

いかにブランドの逸品を
一着に及ばうと
行先のない者は
みんな浮浪者



 罪


多くの者が集つて
一人の噂をするとき
罪悪のにほひがする
その一人が
集ふものたちの噂をしてはゐないだらうから
自分のことを語る相手もなく
魂だけになつて
一点の灯のやうに
貧しく燈つてゐるだけだらうから



 捧げ物


何も捧げる物がないから
少女は笑顔を捧げた
感謝の笑顔を

しばらくの間
少女はしよげてゐた
笑つて済ましてしまつた気がして
捧げる物のない恥かしさも手伝つて……

少女の笑顔が戻つたのは
前よりも耀いて笑ふやうになつたのは
自然や 街や 周りの人々が
微笑みかけてくるやうに
見えはじめたからだつた

蕾は笑ひながら開いてきたし
芽吹いてくる梢も
小鳥の声も
笑つてゐた



 母牛の悲しみ


子牛を熊にやられた雌牛がゐた
乳搾りの若者は戦場に取られてゐたから
母乳は溜まつて張るばかり

母牛は山へ子牛を探しに出掛けた
張りに張つた大きな乳房に
ぶらぶら体をもつていかれながら
母牛は山の嶺に乳を滴らせて歩く
草花は思ひがけないミルクの贈り物に
元気づいたが
すぐ母牛の悲しみを理解した

……花の精でいつぱいにして
母牛を包んでやつた
母牛の体は 飛行船のやうに
空中に浮んだ

そこからなら山全体を一望にでき
子牛も易々探し出せるはずだつた
が、母牛は一体何を見てしまつたのだらう
そのまま気絶してしまつたのだ
その母牛を
迅い気流が高みへ高みへと
さらつて行つた

いつか神の定めの時
母牛はすつきり目醒めて
そこで子牛と遇ふだらう

それが何時などと
話好きな小鳥さへ口を挟むことは出来ない
凡てを計画された父なる神だけが
御存じなのだから



 夏の海の光景


ある日 男の中から貧弱な鳶が翔び立つて行つた。
その鳥は 残されたもう一人の男を鳥瞰するのに
余念がなかつたが………
これではいかぬとばかりに 頭を捻つた。

かうして欝屈した彼は 明るい夏の海へと引き出
 されて行く。
足には水上スキ―があり 桁外れな牽引力が働い
 て軽々と海原を滑つて行く。

そのまま眼を中空へやると 透明な糸で彼を牽い
 て行くのは
見よ かつて彼の中から出ていつた貧しげな鳶で
 はない。
金色に耀いて壮途につく堂々たる鳥の姿だ。

するとあのときの鳥影は何であつたか。
この日の預兆だつたのだらうか。
人はだれも 現状の侭とどまることは出来ないだらう。



 健在者


 山また山を越えた草深い村里に、男がたった一人で庵を結んでいた。
 老人は死ぬなり、都会の病院に入るなりして、村にはいなくなり、
若者は村を捨てていって、Uターンなどという現象は、この村に限ってなかった。

 そうやって、一人だけ取り残された男は、見捨てられた農地の、
地味豊かな処だけを摘み食いするようにして、農作物を植え、自給自足の生活をしていた。
 一人暮らしとあって、身だしなみもあったものでなく、ぼろ服をまとい、髭はのばし放題。日焼けした肌は荒れて、皺も寄っていたが、足腰はしっかりしており、まだ壮年の域にあるのかも知れなかった。

 男には都会への誘惑は起きなかったのか。それを問い質す者さえ村にはいないのである。たった一人の住人ともなれば 至極当然。
 学校はとうの昔に廃校となり、一日一往復のバスもストップした。
それもまた当たり前の話である。

 さてその山里の一軒家が火を噴いた。火の不始末を注意する者もいなかったのだから無理もない。
 男は慌てて火の見櫓を目指して駆け出した。人っ子一人いない谷間の村に、半鐘を響かせていったいどうするつもりだったのだろう。
 彼が生まれ落ちる前から建っていた火の見櫓に、慈母に寄せるような信頼があったのだろうか。
 かくして村里には、一軒の家もなくなった。数年前までは空き家がかろうじて建っていたが、豪雪の重みに堪えきれず、家の形をとどめえないほどに押し潰されていた。

 そのときから男は火の見櫓を常住の場と定めて、下りて来ようとはしなかった。村に一軒の家もなくなったとあれば、火の見櫓の務めも完了したわけで、家居としても何ら不都合はなかった。

 男は時に、双眼鏡のように掌を丸めて村を睥睨していたが、それを知っているのは、向かい合わせた山の樹に留まる鳶とか、火の見櫓の近くを飛び交う鳥だけだった。あるいは巌の牡鹿が、頸を傾げて見下ろしていたかもしれない。



 粉雪


粉雪がさらってゆくものは
甘い想い出と
酩酊
ちりちりと刺して
冷ましゆく

かかる仇討ちに遭う
いわれはなけれども



 美しき棺


棺がいくつも積み重なっている と見たのは錯覚で、
水揚げされたばかりの大きなブリの木箱なのであった。
敷き詰めた氷の上に寝かされた 輝けるブリ。
人類の饗宴のために送り出される
希望の光にまとわれているブリ。
形も大きさも拮抗しながら
ひとの棺は何故こうはいかないのだろう。
水揚げならぬ 天揚げとでも名付けられる
新しい命の弾ける 棺があっていいはずなのに。



 毛嫌い


天使という言葉を嫌う男がいて
そのものはどうしてか
頭を坊主にしてあった
坊主にしてあったから
天使を嫌ったのか
天使が嫌いだったから
頭を丸めたのか
そこから私の懐疑は
限りなく続いて

幸か不幸か
ついにその男が嫌いになった


 椿


椿の落ち重なっている径を
車輪が行けば
赤インクが滲む

―決して
血となって流れてはならない―

悲壮な祈りをこめて
苦しみをこらえている



 草笛


ふる里の

丘に坐って

破れかぶれの草笛を吹くと

得意絶頂の鳥が黙った



 蜩


あの蜩は

黄昏にやってきて

啼きやまないのだ



 背泳の不幸?


背泳の泳者は
日輪を
一つずつ抱え込んでいく

初っ端からこれだと
もう栄冠など
目には入らない



 柵の外


栗林は豊穣を抱え込めずに

柵の外に

実を

弾き飛ばしている



 浮き寝鳥


浮き寝鳥は
空にいるときよりも安らかだ
水に浮いて
空をゆく夢を見ているから 



 枯薄


枯薄は
しなやかなりし頃を
バネにしているから
ぎごちなく揺れても
決して倒れはしない



 残り鴨


沼に夕日の耀く頃
 きまつて 慌てる鳥がゐる

頚を伸ばし 重い身体を引摺つて
 水面を掻き乱すが
翼が身体を 空中に支へはしない
水は血飛沫のやうに 跳ねとぶのみだ

翔べない鳥 残り鴨
おまへに今 もつとも必要なもの
 それは観念と休息

十分休んだら
 百八十度の転換をして
向う岸へ滑つていくこと
 慌てることはない
水と風に委ねて
 ゆつくり泳いでいくことだ



 行く春


樹に葉が繁つてゐれば
 慈愛を感じる
と彼は語つた。 
梢に陽が煌めいてゐれば
 愛だと。 

そこに鳥たちがきて
 声の色づけをすれば
愛の二乗だ。

やがて小鳥たちが
希望へと翔んで行つた後に
一本の古木が立つてゐる。



 帰省


古里を持たぬ子供らが
 大きくなつて
古里に帰つて来たときは悲しい

古里にはやつぱり
 樹があり 林があり 山があり
丘があり 火の見櫓が立つてをり
 日のあたる原つぱがあつた
そして 多くはない人々を容れる
 集会所とか 小学校とか 教会が
あつた………

それらすべてを
 取り去つたやうな
いや はじめから存在すらしなかつた
 それでもそこを古里と信じ込んで
帰省して来る子供たちが悲しい



 逆転


人が影と共に
あるいてゐるやうに
光と一緒に歩いてゐるとは思へないものか
そんな逆転は
人生に起こらないものか
逆立ちをすれば
手で天を支へてゐるやうに………



 ひとりぽつち


どうしてかうも
人は人をおいていくのか
その結果
おいていかれた者も
おいていつた者も
ひとりぽつちとして
取り残される

ひとりぽつちは
荒野を彷徨つていくしかない
すさみきつて……

待ち構へてゐるのは
野垂れ死にか
熊の餌食

それでも人は人を
おいていかうとする
まるで
熊の本能が潜んでゐるかのやうに



 光の如く


結局は
この小さな(聖書)に
いのちのすべてが
こめられてゐると
知るとき
悔悟と期待が
一時に押し寄せる
光の如く




 陶器を焼く


人よ
もし山に篭もることになれば
赤々と火を熾して
陶器を焼かう
君の人生には通用しなかつた
もつとも愚かなやり方で
聖なる陶器を焼かう



 献上


たとへ
体内に不治の病巣が
日々大きくなつてゐたとしても

それは
体内に果物を育てるやうなものだ
瑞々しく立派に育てて
潔く献上するとき
その人はパラダイスにゐるだらう



 栗の実


風のない日

しきりに

栗の実は落ち

やはらかき地に

はまりこむ



 小蟹


我々が一生かけて
紡ぎだすものなんて
たとへそれが
名にし負ふ芸術品であらうとも
海を背にした小蟹が
浜辺で泡を吐出してゐるやうなもの
精一杯自分の力で
泡を吐いてゐるつもりでも
絶えず寄せてくる波を
かぶつてゐなければ
たちまち炎天に干されて
仰向けになるだらう

一生かけて吐き続けた
泡は跡形もなく
背景には 宇宙が
心憎いばかりに澄んでゐる



 茄子


露に濡れ光る
 茄子の紺色
この新鮮な
 艶めきのまま
保つておかうとしたら
 即刻 食べてしまふしかない
情けないことだ
そして哀しいことだ



 もう鴎をうたはない


鴎よ 私はおまへを見損つてゐた。
ついこの間の報道番組で
現場証拠としておまへのことを
見せつけられたのだが
おまへは北海道のある島で
今ではそこにしか棲めなくなつたといふ
あの憎めない 剽軽もののオロロン鳥から
彼等が雛鳥に与へようと
一日がかりで苦心惨憺して獲つてきた魚を
あつさり横取りしてゐたではないか。
そればかりではない。
おまへたちはオロロン鳥の卵を盗んで飲込み
餌探しに沖へ出てゐる親鳥の帰りを待侘びる
オロロン鳥の雛を襲つて
残酷にも頭から飲込んでゐたではないか。

いにしへの歌人の心をとらへてきた如く
世に染まらず漂ふ気高い鳥と信じてきたのに
そして天の翼を持つ鳥の列にも加へてきたのに
おまへたちにいつから
蛇の残酷な血がはひつてゐたのだ。
鴎よ もうおまへたちの歌はうたはない。
分つてしまふともう うたへはしないのだ。



 風景


思へない とても思へない
この荒れ果てた野を
モーセに率ゐられた一行が
渡つて行つたとは。

隕石のやうな石が一つ
怒つたやうに
熱くほてつて置かれてゐた。



 夢の隔たり


夢は 人それぞれ
どうしてかうも違ふのだらう

君の夢と 僕の夢を
入れ替へたとしたら
内部分裂を起こして
収拾がつかなくなるだらう

腎臓と肝臓の移植は可能でも
人の夢を
夢を見る心を
取り替へるなど出来るものではない

ああ 心と心を仕切る
人と人を分かつ
夢のやうにも
遥かな遥かな隔たり



 いのちの灯


この土地が
  海のやうに
青空や星や月を
  映さないからといつて
卑しめてはならない

何といつても
  この土地には
人間が住んでゐる
  夜の闇しか映さない
土地ではあつても

消し去つてはならないと
  灯をともしてゐる
絶え絶えな
  人間のいのちと交感して



 おとなうものは


まったく
思いもよらぬ形で
あなたはノックされている
つれなく締め出してから
もしやあれがそうだったのかと
歯軋りして悔しがっても
遅いのだ
きたるべきものは
それらしい姿をとらない
用件すら告げずに現れ
そして離れていくだろう



 無人駅


世紀末の
悪魔の雄叫びにも似た災禍がふりかかって
この村でも一人の少女が
O157の食中毒で死んだ
少女は無人駅から分校に通っていたから
この駅も寂しくなって
誰もホームにいない日も多くなった

そんな誰もいないホームに
少女の代わりのように
一匹の兎が立つようになった

人のいないホームに電車は停まらないが
兎の労をねぎらって
運転手は白手袋の手で
さっと挙手の礼をしていく
兎は後ろ脚でぎごちなく立ち
おや、という顔を振り向けている



 イスカ


民衆は あの栄光の鴇を
 待つてゐたのに
 渇望してゐたのに
現れたのは一羽の crossbill
 イスカ
枯枝に留まつた
 みすぼらしきイスカ



 牛


初時雨だ。

牛は見てゐるぞ

小屋の窓から。

ぬくぬくと

白い息吐いて。



 熟柿


今退院してきた男が
庭の柿の木を見上げた。
今にも落ちさうに
枝に取り付いてゐる
 たつた一つの熟柿。

それは 切除してきた自分の病巣だ。

納屋からスコップを持出すと
 熟柿の下の地面を掘つた。
幹を蹴ると
脇腹の手術の跡に
引きつるやうな痛みが走つた。

柿の実は枝を離れ
すつぽり穴に吸ひ込まれた。

腐乱の実は形をとどめない。
その上に土をかけ
やうやく清々して
男は家に上がつて行つた。



 シャボン玉


清い水から生まれたものが御霊
汚れた水から出たのがサタン
聖霊の満ちた大気では
ともに透明に澄んで見えるが
しかし 真に美しく透明なのが御霊
汚れたのがサタン



 向日葵


向日葵は びつしり
弾丸を詰め込んで
終末戦争に備へてゐる

いざ 開戦となれば
愛の冷えきつた者に向かつて
弾丸は四方へ
飛出していくだらう


  ☆


コメント(0)

mixiユーザー
ログインしてコメントしよう!

文芸の里 更新情報

文芸の里のメンバーはこんなコミュニティにも参加しています

星印の数は、共通して参加しているメンバーが多いほど増えます。

人気コミュニティランキング