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文芸の里コミュの詩作の準備

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  ☆


 詩を書き始めた頃の幼く拙い作品ですが、どうもそれをさらけ出してしまわないことが、今詩を書けない原因となっているようですので、ここに貼り付けることにしました。
 以前京都(?)発行の某誌に書いたと記憶していますが、彼女が精神病院に入院し、見舞いに行く電車の窓から、落葉のように詩の言葉が降ってくるという経験があって、ああ詩というものはこうして訪れるものなんだ、そう考えて、詩に信頼を寄せたのが、詩を書く動機です。
 彼女には御霊が下って、あまりの衝撃に、精神科のお世話にもなったのですが、それからの彼女は大きく変えられ、御霊との応答が頻繁になっていきました。私にも少しは神の声が聴こえてはいましたが、彼女ほど激しく臨んではこず、自分ははたして救いに与っているのかと、不安になったものです。
 彼女に詩を見せると、彼女はその詩を即御霊に訊いて、神の語る感想をノートに書き取っていました。
 今回ここに貼り付けたのは、その彼女が選んだ詩です。私からすれば、いくら御霊の感想が下地になっているとはいえ、満足のいくものではありません。神の愛は、憐れみを基本としています。彼女に語った御霊も、落ち込んでいた私をおだてて、詩を書かせてやろうとする憐れみに根ざしていたと思われます。2002年に彼女は召されました。今は御霊を通して、天界から語ってきます。
 旧かなであったり、そうでなかったり、誤字脱字、その他多くの間違いがあると思います。詩を書けない焦りから、読み返す余裕がなかったというのが、正直なところです。あと、三、四回つづき、その後は彼女が見ていないものも、貼り付けていきますが、誤字脱字その他、同前にご容赦ください。



  ☆


 山の教会


緑のうねりの中に

白く十字架が光つてゐる

こんなところに教会がと

ほつとする



 信仰


三十年前の顔は
泣いてゐる
二十年前の顔は
歯を食ひしばつてゐる
十年前の顔は
諦めたやうにぼうつとしてゐる
そして今の顔は……
綻んでゐるやうに見える



 祈り


なかなか心が美しくならないから

せめて下着を替へて祈らうと思ふのだ

それでも神は

そんな心をよしとしてくださる



 光の衣


ぬくもりの恋しい季節だ
雲を割つて
ふはーつと日の光が射してくる
天の衣としか言ひやうのない
このおほらかなあたたかさ
こんな光のなかを
どこまでも
さすらつて行きたい



 羊


イエスの一雫でもいい
愛があつたら……
それが出来ないから
神は代りに 動物を置かれた
鳩の純真 犬の忠実 羊の質朴
鳩は数千キロをまつしぐらに飛び帰り
犬はあばら家の貧しい食事にも
逃げはしない
羊は飼主に委ねきつて草を食むばかりか
赤裸に毛を刈られて
人をあたためる



 軽い心


吾が魂はシヤボン玉となり

空に昇り

透明な青空に溶け

そこから下界を見てゐたい



 御国に逝つた少女


アパートの中庭で 少女たちが縄跳びをしてゐた
中の一人がお使ひを頼まれ 抜けて行つた
 ーー帰つたら またかててねーー
と言葉を置いて
女の子はその途中でトラックに轢かれた
縄跳びで頭が回つてゐたのか!

女の子は息を吹き返さず
仲間たちは青ざめ臆して
めいめい家に閉ぢ篭もつた

その夜 縄跳びをしてゐた庭のその箇所に
小さな虹が架かつた
あたかも縄の放物線を描いた具合に
だが その虹を見た者は一人もない―――



 ハレルヤ


吾キリストに導かれたり
されば吾もキリストのごと導かん
されどそはむつかしければ
ただ ハレルヤ アーメンとのみ
唱へたり



 日の出


小鳥はまだ明けそめぬ闇のうちより
啼き始める
辺りを憚るやうに
ほとんど囁くばかりのくぐもり声で
それは天与の美声を押し殺した 呟きだ

野の鳥よ
これはおまへたちの 
日の出を待つ祈りなのか

やがて夜は白みはじめ
第一声より二時間もしてから
朝日は確実に昇つてくる



 安息日


日曜日の朝
教会へ向ふ道はどこもここも工事中
厳粛は雑音に
まつすぐな神の道は
曲がりくねつた遠回り道となる

日本人はどうしてかうあくせくと
働くのだらう
七日ごとの安息日は
みんなみんな教会に行くやうになればいい
さうなれば 貿易マサツだつてなくなるよ
根本は
本当の神を崇めないからなんだ
日曜日に臆面もなく働いたりして
その結果
天国に持つて行けないお金は たまる たまる



 クマゲラ絶命


 久しぶりに帰つた山の家で、男は独りで寝起きをしてゐた。
 老父母は相次いでみまかり、二人の生活の跡が家具や調度らに染みついて残つてゐるばかり。
 都会に戻るのも億劫で、車に積込んできた雑多な食糧で食ひつなぎつつ、夜となく昼となく寝てばかりゐた。
 前方は山がうねり登り、後ははるかに農家の二つの屋根がのぞく。聞えてくるのは、梢を鳴らす風の音と野鳥の囀りくらゐ。
 
 その中に一つだけ「びいーん」と弓を射るやうな妙な音の入つてゐるのに気づいた。
 気づくと それがいつも耳につくやうになつた。響いてくるのは、 近くの木立かららしい。
 男が起き出して庭へ出てみると、クマゲラが一羽、目を怒つたやうに見開き、赤い頭を電気震動のごとくに降り立てて、枯れ木立の細い幹を穿つてゐる。
 立木は堀返され、穴がぼこぼこ穿たれて、地面には木屑が積もるほどになつてゐる。

 クマゲラは、男を視野に入れたまま作業を続けた。
 二十分もした頃、ひょつと幹を裏側に回つて、またつつきはじめる。
男は付合ひかねて 家にしけこむ。

 鳥の木をつつく音は、初めの「びいーん」と唸りをあげる威勢のいい響きから、「ヅヅヅーン」といふやうな低音に変つていつた。
 いくら木をつつくのが専門の、キツツキ科のクマゲラとはいへ、ばててきたのに違ひないのだ。

 クマゲラの木ほじくりは、それから何日か続き、さらに調子が落ちて、別な響きに変つてきた。つつくといふよりは、ごそごそと掻回し、 削ぎ落すらしい音になつてゐた。

 晴れ渡つた秋の朝、その音もきれいに止んで、それからは静まりつぱなしだつた。
 男が外に出てみると、木立の根元にクマゲラが仰向けになつて硬直してゐた。体は半ばまで木屑に埋まるやうにして。

 夜になり 何気なく枯れ木立に目を這はせていくと、一つだけ幹を貫いてゐる穴がある。穴は斜めに抜け、その向うの藍色の世界に星が入つてゐる。
 何かのサインでもあるかのやうに、そこから爽やかな冷気が男の中に浸入してきた。



 蟹


日本海の荒海の磯に
月光青白くぬめつて
ぞぞぞぞ ぞぞぞぞ
蟹が這ひ上がる

かくも夥しき霊のものが
どこに潜んでゐたといふのか
うからやからは夜陰に紛れて
岩場を狂つて這ひ回る
ぞぞぞぞ ぞぞぞぞ

蟹よ おまへたちはいつたい
何を探してゐるのだ
扁平な甲羅には
悔恨といふ苦いしるしが張り付いてゐる
それが一つ一つ人の貌をしてくる

するとこのものたちは
地獄の底から這ひ出てきたのか
夜を待ち ひつそりと上がつて来たのか

しかし蟹たちよ
おまへの尋ねるものは そんな所にありはしないのだ
しかも日のあるうちに求めなければならなかつたのだ
命の道といふのは
残念ながらおまへたちのやうに
後戻りしてどうなるものでもない
光に向つて前進することだつたのだ

いとしくも哀れな蟹よ
私はおまへを慰める言葉を一切持たない
月はさう囁いて ほろりと落涙し
雲の裏側に隠れて行つた



 エミユー


 その頃、私はよく動物園を訪れた。
 豹や縞馬やペンギンを見て、魂が安らぐといふわけではない。ほかに彷徨ふ場所をもたなかつたのだ。

 エミユーは、長い頚を自在に操つて、私を足の先から頭のてつぺんまで調べ上げた。顔を覗き込む、伸ばしたエミユーの頚は、私よりも上にあつた。
 そこから、怒つたとも興奮したともつかぬ目付きで睨み据ゑた。エミユーの前には、もつと多くの人がゐたが、彼女が見るのは私だけだつた。

 次に訪れたときは、まだ離れてゐるうちから私を見つけて、囲ひの中を接近して来た。そして前と同じ、調べ上げる動きをした。
 これはエミユー特有の、親愛の仕草だつたかもしれない。一体このエミユーは、私を何と思つてゐたのか。
 遠い豪州の地に別れてきた同胞と勘違ひしたといふのか。しかし私は、彼女のやうなスマートな足も頚も持つてはいない。そして少なくはない見物客の中から、私を選び出したといふのが解せなかつた。
 餌をやるでもなかつた。私は懐手に陰欝な顔をして立つてゐるだけだつた。
 三度目もエミユーは 激しく頚を振る動きをして私を迎へた。

 二年の時を挟んで、私はエミユーの前に立つてゐた。この間に私の心は大きく変つてゐた。
 人生の無惨を知り尽くし、その谷底から万物の創造主を仰ぐやうになつてゐた。
 私はまう鬱々とはしてゐず、したがつて、あたたかな心でエミユーに与へるパンを手にしてゐた。
 けれどもどうしてか、彼女は私をまつたく無視して、といふより眼中にもおかず、囲ひに嘴をつけるやうにして目紛るしく歩き回り、別の相手を物色してゐた。
 目は血走り、エミユーの孤独はますます研ぎ澄まされて、動物園の雑踏のなかに、彼女と同質の孤独の病んだ魂を探し出さうとしてゐた。



 少女の詩


頭をつかひ過ぎて病院にはひつた
学校で 頭はつかふほど利口になると
教はつたけれど
私は脳病院にはひつた
ここでは 私に従ふものは一人もゐない
いえ 池の家鴨はいふことをきく
家鴨よ 私について来い

この家鴨のやうに 私は
神様について行かう




 小さな十字架


入院中の精神病院を
教会だと
信じ込んでゐる少女がゐた
少女なりに 魂を綺麗にして
くれる所だかららしい
病院の壁には
ちいさな十字架が掛けてあつた



 手を洗ふ少女


いくら石鹸をつけても
まうそれ以上は白くならないのに
手を洗つてばかりゐる少女がゐた
世の波に堪へきれない
繊細な神経だから
神が見かねて
病院に閉ぢこめたといふのにーーー



 神在りて


釣糸は手繰られていく
四十年前の糸に 
魚が連なり銀鱗を煌めかせる
 少年の日々の 目くるめく豊穣さよ

釣糸は手繰られていく
年経るにつれて
魚影は色褪せ 目に見えて減つていく

それからは不漁 不漁……
この不毛の夥しさよ
連綿と空の釣糸は連なり
むなしさのいまはとなり
手応へがある
紛れもなく一匹が上がつてきたのだ
形はよくないが
魚は魚だ

この魚は私自身である
そして糸を引いてゐるのは
創造主 大いなる神



 足跡の絵本


 雪の上には、さまざまな動物の足跡が散らばつてゐる。
 特に堅雪の上に、ふはつと淡雪が薄く降つたときの足跡が面白い。どんな動物が通つたか、はつきり分かるから。
 うさぎ りす きつね いぬ ねこ すずめ からす ………そのほか限りない生き物たち。
 足跡は 同じ所をくるくる回つてゐたり、ジグザグに歩いたり、大きく跳んだりしてゐる。
 小鳥の足跡なんか、ちよんちよんとはねてゐたと思ふと、急に空に消えてゐたりする。ねずみは、長く点々がつづいて、いきなり雪に潜つてゐる。

少年は、足跡から生き物の活動を想像するのが楽しかつた。それで 何時間も、足跡を追つて行く。 
少年の心には、足跡から、絵本が出来上がつていく。続いてゐた、りすの足跡が、木の根元で消えてゐたら、幹を這ひ登つたからだ。
 見上げても、すでにりすはゐない。それは、木の洞に潜つたからだ。 その中には小さなストーブが赤々と燃えてゐるだらう。母りすがパイを焼いてゐるかもしれない。

 この日も少年は足跡を辿つた。
 足跡はうさぎだ。今通つたばかりのやうに、毛でこすつた跡まで残つてゐる。
木立のない平原で、足跡は消えてゐる。潜つた穴もない。
――きつねに殺られたな――
 しかし、きつねの足跡がないのだ。
 少年の心の絵本は、目まぐるしく交錯する。
 足跡ではなく、雪が大きく押しつけられたらしい跡があつた。そこからしばらく、雪をこすつた跡が、帯になつてゐて、消えてゐる。
 陸から狙はれたのでなければ、空からだ。少年は虚空に目を凝らす。 翔ぶ鷲の姿はどこにもない。
 けれども少年の絵本には、大鷲がうさぎを爪で抱へこみ、雪原を引摺りながら飛んで、やがて高く舞ひ上がる光景が出来上がつてゐる。

 少年はうさぎが、鷲に殺されてしまふとは考へなかつた。大鷲は天からの使者で、天国へ運ばれて行つたのだと信じた。
 こうでなければならないのは、少年は昨年、愛する妹を交通事故で失つてゐるからだ。



 風景


冬木立

しずまり

怒り貌して

啄木鳥精勤



 曇天に太陽がいつぱい


一夜のうちに雪は都市をおほひ
なほ降りつづいてゐる
広場や公園に棲む鳥たちは
餌が雪に埋まつてしまひ 大慌て
椋鳥は十数羽が一団となり 街中へ食料探し
に飛び立つた

道 建物 屋根 電線………すべて雪化粧して
一つとして食べ物など目につかない
食ひしん坊の椋鳥が こんなに長時間
胃を空つぽにしてゐたためしはない

電線をくぐり 高架橋を飛びこし 建物の間を
数時間は経巡つてゐた
そのとき ビル群のあはひに 朱色の丸いもの
が いつぱい目に飛び込んだ 
一本の裸木に 柿が鈴なりになつてゐる
ビルの狭間に 一軒だけ残つてゐる平屋の庭である
「太陽がいつぱいよ お母さん」
雪を初めて体験する椋鳥の子は さう叫んだ
その子供に向つて 母鳥はこんな説明をしただらうか
「あれは 柿といつてね こんな時のために神様が
とつておいて下さつたお恵みですよ」 



 楽園便り


朝、床の中で聞き慣れない鳥の声を耳にしてゐた。
どうも、一番近い樹に来てゐるらしい。
うとうとしながら捉へた啼声の内容は、
ざつと次のやうなものだ。

……私は神の国からやつて来たんですがね。そこでは、
  鳥や動物の肉なんか食べませんよ。 かはいい生き物は
  いつぱいゐますけどね……             
  食べ物は植物です。果物は年中実つてゐて、そこからも
  いでくればいいんです。
  人間は何も食べなくても、永遠に生きるんですがね、
  愉しみのために食べるんです。
  野には、地球の羊やアヒルに似た生きものが
  たくさん遊んでゐますよ……

鳥の声が、しなくなつているのに気づいて、起き出すと、
樹に鳥影はなかつた。
別の樹に移つたのかと、耳を澄ますが、
雀や椋鳥は啼いてゐても、先程の声はない。
 


 教会の屋根


前の雑木林から 山鳩の番が
やつてくるやうになつて 随分になる
家の主は 日々献立を変へて
食物を与へてゐたが
ある日ふつと
ほつそりした雌が一羽だけでやつてきた

主が餌を与へても
頚を傾げてゐるだけで 食べようとしない
餌を見るだけは見るが 
いちいち 頚を傾げてゐる

山鳩の雌は ゐなくなつた亭主を探してゐたのだ
 家の主が 日々変つた物を食べさせてくれるもので
あるいは 消えた亭主を出してくれると
期待を寄せたのかもしれない

だが山鳩よ それは期待のし過ぎといふものだ
 創造主でもない落ちこぼれの人間に
何ができる          
山鳩の妻君よ おまへの亭主は
もしかすると召されて
聖霊の働きを
仰せつかつてゐるかもしれないぞ

 バイブルには
〈聖霊が鳩のやうに下つた〉
とも書いてあるからね

行つてごらん 教会の屋根に
目印は おまへの瞳のように輝いている
十字架だよ



 蟹の夢想


孤独の蟹が 真夜中の砂浜を
遠く歩いて行く
月の影を従へて
遠く歩いて行く

海は離れ 代つて草原になる
潮の香りがうすれ
鄙びた中に 草のにほひがしてくる
蟹は孤独の影を引摺つて行く

いつか海の波は
草原の穂波と代つてゐる
薄に行手をはばまれ
蟹は佇む

さうやつて ふつと頭上を仰ぐと
薄の穂越しに
月が皓々と浮かんでゐる
蟹は月の邪魔をする薄を
持前の鋏で刈る

刈取つた薄を横抱きにしたまま
さやかな月影を眺めてゐると
何とはなく 月が古里に思へてきて
涙の代りにばぶばぶと唾を吐出す

そのうち眠つてしまつたらしく
蟹は白昼の明るみに目を覚ました
久しぶりに故郷の月に戻つた夢想に
咽せ返りながら 
潮がみちて岸の近くなつてゐる海へ―――
蟹はすたすたと帰つて行く



 窓辺の少女


青桐を透かして 初夏の陽が揺れる
 郊外の住宅地
ひとりの少女が窓辺に立つて
しやぼん玉を飛ばしてゐる  

この家に 少女はひとりだけ
父親は若い女と出奔
母親は悲しみが過飽和となつて
精神病院に入つた

少女の沈んだ心では友達も寄りつかず
また ひとりでゐるはうを好んだ
水玉は はかなげに脹らみ
空中に放たれてゆく

母親の治りは 器の石鹸水が
減つていくほどにももどかしい
それだから 早く飛ばしてしまはう
と思つてゐるわけではない

少女はただ
しやぼん玉を飛ばしてゐるだけ
神よ 受け止めて下さい
少女の無心の願ひ―――                  



 白樺


牧場に白樺が一本立つてゐる
夏の盛り 牛たちには唯一の緑陰となる
親牛たちが売られていき 
孤児となつた仔牛たちは 白い幹を親代はりにして 
体をすり寄せ 押しつけ
角生えそめるむず痒い頭を擦つたり 幹の皮を齧つ
てしまふのもゐる

白樺はどんな手荒な扱ひにも
鷹揚に優しく葉をゆすつてゐる

季節は廻り 白樺は落葉して 雪に埋められた
仔牛たちも牛舎の中から
羊のやうな声で鳴いてよこすだけ
雪は間断なく降り積もり
白樺は今 深々と詰めてくる天の被ひに
癒されつつ 眠りに入つていく



 霊


眩しい雪野の木立に 影が倒れてゐる
雪の面に染みつくやうにくつきりと。
すらりとした幹には 素直な影が
意固地にねぢ折れた木には
ひねくれた影が
雪にしるしをつけてゐる

いくら靴先で蹴つても
叩き割らうと杖を振り回しても
影はびくともしない
まさにこれは霊の見本のやうなものだ
肉体は土となつても 霊は残る
せめて命あるうちに
正しい養分を吸つて
すつくりと美しく伸びておきたい



 空の下の情景


重たい石を運んで行くよ

ひとりひとり 運んでいくよ

さうやつて みんな

どこへ行くんだらうか

鉛色の空の下                       



 つる


つるが啼いたよ

裏山で

ここにつるなんか

棲むはずはないのに

つるが啼いたよ



 ひばり


ひばりのやうに
広い心で歌ひたい
愛を!
ひばりのやうに
天心に輝きたい
一点の光となつて―――



 鳥は知つてゐる


庭のナナカマドにキレンジヤクの一群が来て
 赤い実を啄ばむやうになつた
けれども 一本の樹にだけは寄りつかない
 実は撓むばかりについてゐるのに―――
どうしたことかと 飼鳥インコに聞くと
こんなふうに キレンジヤクの言葉を通訳してくれた
――あの樹には 悪霊が棲み着いてゐるんだつて――
さういへば いつだつたか 樹の下に
 死んだ猫を埋めたつけか



 落下傘


落下傘が開くように
その人の心に
信仰の花が開けば
新しき地にも
安全に
着地するだろう



 宝物


夜になると私の思いは
いつも山に向かって行った
山の大きな木に
奥深い 神秘の懐とでも呼べる
私の心を置く場所があった
そこは暖かくほのぼのとした
安心の出来る
私のねぐらだった

私はそこに
大切なものを持っていた
私の財産――
それが何かなんて
訊かないでくれ
訊かないで信じてくれ
それなしには
済ますことのできない
いのちの基本のようなものを
確かに持っていたと



 浜茄子


浜茄子は
海と空をほしいままに
砂をかぶって
小刻みに震えている

あまりの広さと自由

そのせいか
実は堅くしまって
意志は強固



 人間の羽根


人間は一人一人羽根を持って
生まれてきていると
信じていた時期がある
今もって信じていないわけではないが
もっとも軽いはずの羽根が
こんなに重いとは

羽根には血が付いているわけではない
付根に血が付着しているのでもない
それでも 重くて重くて
飛び立つには
相当の勇気と断念が必要だ
いつかそのうちに
新しいいのちに生まれると

羽根を持っていると
信じないわけではないが
あまりにも奥深くしまい込まれた
仄かな信仰のように灯っている


  ☆

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