ログインしてさらにmixiを楽しもう

コメントを投稿して情報交換!
更新通知を受け取って、最新情報をゲット!

文芸の里コミュの森の湖

  • mixiチェック
  • このエントリーをはてなブックマークに追加

     ORIGINAL - Polina Semionova (HD - Ballet - H. Gronemeyer - instrumental


 ☆森の湖



 その森には、涙をためて耀いてゐる湖がある。
 湖の畔には、女が独りで住む家があつた。女はピアノ弾きだつた。
 湖の水は冷たく澄み、犠牲の涙によつて生まれた湖には、傷ついた水鳥がきて羽を休めた。
 女の負つてきた苦しみも相当のものだつたから、犠牲の涙の中には女の分も含まれてゐた。
 悲嘆に暮れた人はそこを訪れ、湖の耀きを見ると、魂の安らぎを得た。
 女は毎日ピアノを弾いてゐた。女の生業はピアノ弾きだつた。
 湖の水はピアノの音色を浮かべて、きらきら輝いてゐた。その美しい輝きも深いところから癒しに作用した。
 湖には多くの傷ついた水鳥が来て、羽を休めてゐた。美しい音色の漂ふ水に浮かんでゐると、癒しにもなつた。
 女はさうやつて、傷ついた水鳥の世話もしてゐるのだつた。
 水鳥といふ言葉には、水で汚れを洗い清めた鳥といふ意味があつたのであらう。
 女は癒やされた水鳥を、一羽一羽天へと還してやつた。
 〜ここにゐるみんなの傷が治つたら、私も行くからね、元気でゐるのよ〜
 と女は水鳥に言ひ聞かせて、天国へ送り出してゐた。
 翼を傷めた水鳥は次々ひきもきらずにやつて来て、女の家に近いピアノの調べの快く漂ふ辺りに寄つてゐたから、女はその水鳥たちを残して天国へ旅立つわけにはいかなかつた。
 それは女が齢を重ねることでもあつたが、女はいつまでも若く、歳をとらなかつた。
 噂を聞いて旅人はやつてきたし、羽根を傷めた水鳥も絶え間なく訪れた。傷なく浮かんでゐる水鳥も多くゐた。また旅人も体の病より心の癒やしを求めてくるもののはうが多かつた。心の病はこの国を席捲する勢ひで広がつてゐた。
 さうやつて集まつてくる水鳥や旅人たちのために、女は飽かずピアノを弾いた。病を癒やされたものには分かつた。女が天から遣はされたピアノ弾きだと。

   ☆

コメント(0)

mixiユーザー
ログインしてコメントしよう!

文芸の里 更新情報

文芸の里のメンバーはこんなコミュニティにも参加しています

星印の数は、共通して参加しているメンバーが多いほど増えます。

人気コミュニティランキング