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文芸の里コミュのカケスの五郎、九郎探し終了の巻き 〈児童文学〉

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          フォーレ:組曲《ドリー》から 第1曲 子守歌 Op 56 1

 ☆カケスの五郎、九郎探し終了の巻き 


 山のカケスの飛び回る生活圏内には、一郎からはじまって、次郎、三郎、四郎がいて、五郎がいないかと探していると、カケスは自分に五郎という名前がつけられていると分った。
 あるとき、魚屋が、
「カケスの五郎、来い」
 と呼ぶので、行ってみると、ドジョウを一匹口に入れて、ひょいと頭を撫でてくれたので、自分は「カケスの五郎」という名前だと承知したのだった。道理で五郎がいなかったわけだよ。
 それからだ。一郎、次郎、三郎、四郎と、毎日欠かさず挨拶回りをするようになったのは。みんな「郎」がつくので兄弟のような気がしたからだ。
 けれどもそのうち、村人の話の中に「六郎」という名前が出てきて、兄弟がもっといたことに気がついた。つづいて、七郎が出てきて、八郎もやってきた。
 その八郎などは、五郎を呼び止めて、
「お前か、カケスの五郎つうのは? 俺より後から生まれてきやがったくせして、八郎さんを出し抜いて五郎かよ」
 そう言ってカケスの頭をぽんと、指で弾いた。
「勝手につけたわけじゃないよ。魚屋のおじさんが、そう呼んだんだ」
「え! あの魚屋のデブおやじがか? ま、あの魚屋はジュウロウってんだから、その重郎が、お前のことを五郎と呼んだのであれば、しょうがないか」
「八郎さんどまりかと思ったら、十郎さんもいたの?」
「じゅうろうは、じゅうろうでも、デブの重郎だけどな」
 魚屋は確かに太ってはいたが、そんな漢字の遣い分けをされても、カケスに判るはずはなかった。後ろにロウがつけば、みんな仲間であり、兄弟だと思っていた。
「うへー!」
 明日から挨拶回わりが大変だと、カケスは嬉しい悲鳴を挙げた。
「いま変な声がしたけど、何か言ったか?」
 八郎が五郎の留まっている、八郎の肩ほどの高さの枯木の枝に目をやって訊いた。
 五郎は嬉しさは包み隠して、新たに気になっていることを口にした。
「八郎さん、ジュウロウさんはいても、その間の九郎さんはいないよね」
「うーん、それはなあ。苦労が多いと困るからなあ。苦労、苦労じゃなあ、親がさんざん苦労してるっていうのに、生まれてくる子供に、クロウなんて負わせたくねえのよな」


 それから一週間ほどして、カケスの五郎は村役場前の、電柱のてっぺんに留まって、忘れてしまった七郎の家の方角を思い出そうとしていた。そこへ村長が役場から出てきて、村道をポンコツ車で通りかかった村人に声を掛けた。
「やあ、いい日和になりましたなあ、これからどちらへ?」
「ちょっくら、市街地まで。種物の品評会をやっとるってもんでな」
「それはそれは、ゴクロウさんですな」
「いた、クロウさんがいた!」
 カケスの五郎は、降って湧いたような感激に、そう叫ぶやいなや、飛び立っていた。目指すは八郎さんの家だった。あのときはクロウさんはいないと否定したのは、口にはできない理由があったのだろう。村長さんが「ごくろうさん」と言ったのだから、間違いないと、八郎さんに迫れば、白状するだろうと思った。

 カケスがあまりにも素っ頓狂な声を出して、飛び立ったものだから、立ち話をしていた二人にも、気づかれてしまい、
「あの鳥が、村の有線でも、時々紹介しておる、カケスの五郎だっけが」
 とポンコツ車の村人が言った。
「そうですわい。一昨年だったか、村山花さんが山で親にはぐれたカケスの子を拾ってきて育てていたけど、村山さんが息子夫婦の住む都会へ行くというので、山に行って放したんですな。ところが、いくら追っ払ってもついてきてしまって、村山花さんも最後は、鳥の目の見えない夜に、バスで出て行ったらしいですな。はじめのうちは、村山さんを探し回っていたようだが、そのうちどういうわけか、下にロウがつく名前に執着して、魚屋の岩居重郎さんに、五郎と呼ばれてからは、ますます下にロウとつく名に執心して、毎日挨拶回わりをしているとか」
「奴は女に興味ないのかねえ。下にロウのつく野郎ばっかり追いかけて」
 とポンコツ車の村人が言った。
「そんなことないでしょう。ロウが一段落したら、女に移るでしょう。ロウでないとしたら、今度は何に絞ってくるか。子ですかな。
といっても、一子、ニ子、三子、なんてわけにいかないとすれば、花畑でもじっと見つめて、考えるんでしょう。拾って育ててくれたのが、村山花さんだったから、花畑に行く可能性はありますね」
「んだね。ならおら家も、花畑の手入れでもしておくか」

 間もなくカケスの五郎は、八郎さんの家に着き、得意になってまず九郎発見の報告をした。
「馬鹿だな、お前は。あんだけ言っただろうよ、苦労はもうたくさんだって。ご苦労さんというのは、その苦労と同じ意味合いで、労いの言葉なんだ。ネギライ、分るかな。お前はネギは嫌いだったか。
それなら、よけいに分るよな」
「ご苦労さんは、九郎さんじゃないの?」
「まったく違う。分らないんだなあ、お前の頭では。違うのに、同じように受け取ってしまうから、九を避けたんじゃねえかよ。もう男はいいから、これからは女を探せ。そしてその中から俺に合う嫁さんを見つけて、ここに連れて来い。そしたらたっぷり褒美をやるぞ。魚屋みたいに、しみったれたどじょう一匹なんてもんじゃないぞ。俺が出すのは、もっとでっかい、うなぎの蒲焼だ」
 カケスの五郎は、うなぎと聞いただけで、怖気立ち、さっとばかり八郎さんの家から逃げ出した。あんな蛇みたいな魚は、ゴメンこうむる。飲み込むどころか、逆に飲み込まれてしまう。

 そもそも五郎の苦しみは、そこから始まったといってもよかった。卵から孵って、まだ日も浅い頃、巣に兄弟が固まって、母鳥が餌を運んでくるのを待っていた。そこに現われたのが蛇だったのだ。目が開いたばかりでよく見えない雛たちは、母親と勘違いして、ピーピー鳴きたてて、嘴を開いた。いつもと様子が違うし、開いた口に餌が入ってこない。変だと思っているところに母親が帰ってきて、大騒ぎになった。母鳥はけたたましく鳴きながら、蛇を突付いて追い払いにかかった。雛たちは逃げ回わった。そのうち五郎は巣の外へ落ちてしまったのだ。まだとても飛べるほどではなかったけれど、とっさに翼を開いたので、地面に落ちたときの衝撃が少なくてすみ、たすかった。といっても、飛んで巣に戻ることもできず、途方にくれて歩き回っているところを、村山花さんに拾われたのだった。
 母親と兄弟たちがどうなったのか、その先を考えようとすると、チロチロ舌を出して覗き込んでいた蛇の怖ろしさが目に浮かんできて、思いがストップしてしまうのだった。
 けれども心の奥では、母親と兄弟たちは、どこかでちゃんと生きていると思っていた。あの逞しく、優しい母親のことだ、蛇を追い払って、五郎以外の子供たちを立派に育て上げたに違いないと考えていた。それでも五郎には心の傷が残って、山の奥までは入っていけなくなってしまった。そしてカケスの兄弟を探すより人間の兄弟を探すようになっていた。

 逃げ出した五郎の下で、八郎さんが「生きたうなぎじゃなく、うなぎの蒲焼だ!」と叫んでいたが、煮ても焼いても、うなぎはうなぎだった。蛇とうなぎはまったく別だと言われても、同じに見えてしまうのだ。
 その点ではドジョウを口に入れて、五郎と名前をつけてくれた魚屋の重郎さんにしても、あまり好きになれないのは、いくら小ぶりとはいえ、ドジョウはくねくねしていて、蛇と似ているからだった。
 それは八郎さんに対しても、やがて八郎離れがはじまる理由にもなった。
 八目うなぎと言って、目が八個ある、ドジョウでもうなぎでもない、やはり蛇みたいにくねくねした生きものがいることに気づいたからだった。そいつが群れて、日のあたる川底をつついていたのだ。 魚屋に聞くと、
「それは八目うなぎっていうんだ。目が八つあるからな」
 と言った。
「八つって?」
「八郎の八の字だ」
 と魚屋の重郎さんは教えてくれた。「あいつは俺より、二つ足りねえんだ。俺は十だからな」
 とも付け加えた。すると彼が五郎という名前をつけてくれたのも、
自分より下の数字だから、半ば馬鹿にしてつけてくれたことになる。
カケスは癪にさわったから、
「八郎さんは、デブの重郎だって言ってたよ」
「八め、そったらこと言ったのか。重郎だって、発音して一〇と聴こえれば十よ。俺より下はみんな、ノータリンだ。ノータリンて判るか。脳が足りない、つまり馬鹿ってことよ」
「八郎さんはね、数字が下ほど偉いんだって。だから八郎さんは、おいらに先を越されたって、怒っていたんだ。八郎より五郎のほうが、少ないからね。誰が五郎とつけたのかって訊くから、魚屋さんだっていったら、あいつは百貫デブの重郎だって」
「俺は確かにお前の名付け親だ。その俺がどうしてカケスなんぞに
俺より立派な名前を付けるはずねえだろうよ。よーく分った、もう八郎には、うなぎを売ってやらない。いくら頭下げたって売ってやるもんか。うなぎはあいつの大好物なんだ」
 カケスは、言葉もなく魚屋から飛び立っていた。どっちもどっちで、男の世界が厭になっていた。明日からは女の世界にいって、そこで仲間を探そうと思った。自分が男なもので、巣の中にいたのも
男とばかり考えていたが、姉や妹もいたかもしれないのである。
 花には雌しべと雄しべがあることだし、花畑に飛び交う蝶や蜜蜂が全部雌なんてはずはなく、雄もいるに違いなかった。声を良くするために、花の蜜を吸いに来る鳥だっているだろう。いい人間の女性を見つけても、八郎さんの家に連れて行くとは限らなかった。たぶん連れて行かないだろう。彼女は自分で探せばいいのだ。                             

                              了

   ☆


 


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