ログインしてさらにmixiを楽しもう

コメントを投稿して情報交換!
更新通知を受け取って、最新情報をゲット!

文芸の里コミュの平原を快走する列車

  • mixiチェック
  • このエントリーをはてなブックマークに追加

      Grieg Piano Concerto A Minor Leif Ove Andsnes Leonard Slatkin



 ☆列車を停めた牛


 平原を走るその線は、運賃が高くて、車窓の風景が飛べば飛ぶほど、金を湯水のように遣っている気がした。
 いつも空席だらけで、客など数えるほどしかいなかった。高いから乗客が少ないのか、乗客がないから、高いのか。
 とにかく悪循環のど真ん中を、列車は軽快に飛ぶように走っていた。
 牛がその線路をのそのそ歩いてきて、列車を停めた。
「モー 走るのは止せ」 
 と言わんばかりだ。
 その牛の態度は実に様になっていた。

 半年後、Rがはじめて購入した車の試運転を兼ねて、はるばる出かけてみると、その線は廃止になっていた。
 牛が放牧されているところに出たので、Rは車を停めてしばらくその長閑な風景を眺めていた。
 一時停車にしては長すぎたようだ。
 近くにいた一頭の牛が寄って来た。
 柵はあってもないようなものだ。少し無理して跨げば、自由に出入りができるようになっている。動物にしろ人間にしろ、規則など無いほうがいいのである。
 Rは車の窓を開けて肘をついていたから、人間がいることは牛からも見えたはずだ。
 この牛は人が懐かしくて寄って来たのだろうか。人に牛乳を与えているという、自負が牛にあったのかもしれない。人間の側にも、肉を貪っているという罪悪感は、乳牛のホルスタイン種には抱かなくて済んだ。
 頭を振るだけで、人のこめかみに孔をあけるほどの鋭い角を持っているが、牛が人を殺めたなどという話は聴いたことがない。
 牛はRに口を寄せると、青草の匂いのする息を吐いた。おまけに涎で車を汚してくれた。
 そろそろ行かなければならない。いくら人がいいからといって、朴訥な牛ばかりを相手にもしていられないのである。
 Rは発車の合図にクラクションを鳴らした。牛に怯む様子はまったくなかった。それどころか、せっかく友人になれたのに、モー行くのかと、抗議の気色すらある。
「バイバイ」
 彼は牛を背景に押しやって車をスタートさせた。走って行きながら、列車を停めたのは、今の牛だなと確信に近い思いが迫ってきた。なるほど車道の傍らには、錆びた線路が雑草の下につづいている。
                         了

コメント(0)

mixiユーザー
ログインしてコメントしよう!

文芸の里 更新情報

文芸の里のメンバーはこんなコミュニティにも参加しています

星印の数は、共通して参加しているメンバーが多いほど増えます。

人気コミュニティランキング