ログインしてさらにmixiを楽しもう

コメントを投稿して情報交換!
更新通知を受け取って、最新情報をゲット!

文芸の里コミュの看板娘

  • mixiチェック
  • このエントリーをはてなブックマークに追加

Daybreak in Santa Barbara-Ravel 'Daphnis et Chloé'

☆看板娘


 彼が無人駅に降り立つと、駅舎の屋根で鶯が得意気に美声を張り
上げていた。バスもタクシーもないような田舎町で、これからどち
らへ足を向けたらいいものか迷っていると、空がにわかに掻き曇っ
て、間もなく雨がふりはじめた。
 駅舎に入って雨宿りをしていると、空から木の葉のように舞い込
んで来たものがある。鶯だ。
 鶯は窓の桟に留まり、駅舎の中に向かって鳴きはじめた。まるで
人間に聴かせようとしているみたいだな。透き通るようないい声だ。

 外が明るくなって、じき雨は止んだ。鶯も屋根に移って、本格的
な歌を開始した。
 彼は行先に困って、とにかく駅を背にして歩き出した。豆腐屋と
か雑貨屋の看板はあるものの、他にこれといった店もなく、ここが
林業を中心とした町なのか、農業の町なのかも分らなくなる。
 「鶯の宿」という看板が眼に留まったので、入ってみる。
「鶯の宿なんて、変わった名前だね。駅でしきりに鶯が鳴いていた
よ」
「あれは、家の看板娘よ」
 宿のおかみさんが言う。
「じゃあ、客を迎えに来てたのか。道理で、駅の中に向かって鳴く
から、変な鳥だと思ったよ」
 彼がそう言ったとき、外に翼の影がひらひらして、鳥が飛び込ん
で来た。あの鶯だ。
「ご苦労さま」
 と宿のおかみさんが迎えた。


コメント(0)

mixiユーザー
ログインしてコメントしよう!

文芸の里 更新情報

文芸の里のメンバーはこんなコミュニティにも参加しています

星印の数は、共通して参加しているメンバーが多いほど増えます。

人気コミュニティランキング