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文芸の里コミュのストーブに載するは去年(こぞ)のものばかり

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          Gabriel Faure - Pavane (Bernard Herrmann conducts)

   ☆

 昔、北国の田舎では冬の食べ物が乏しくて、さまざまな物をスト
ーブに載せ、焼いて食べた。
 餅は餡の入ったものから、豆入りの餅、何も入らない餅、ジャガ
イモ、カボチャ等々。
 たまにスルメなどストーブに載せようものなら、猫が臭いを嗅ぎ
つけて寄ってきて、ストーブ近くにお座りする。
 家族の者がよそ見をしたりする隙に、さっと手を伸ばして掠め取
ろうとする。
 盛んに燃えているストーブの傍とあって、至難の技を必要とする。
うっかりストーブに近付き過ぎると、自分の毛を焼いてしまうし、
無理な姿勢から手を伸ばすので、肉球が鉄板に触れて火傷しない
とも限らない。
 そんなもたつきをしているうちに、家族の者に下心を見破られて
しまい、
「オコゲ、駄目でしょう。それはお前のものじゃないのよ」
 などと、お目玉を食らったりする。オコゲと呼ばれた猫は、いか
にも申し訳なさそうな顔になって、ニャーとなんとも遣る瀬無い声
で鳴き、スルメから逸らした目を細めて耐えている。
 オコゲというのは、たまたまそのときストーブに接触して、毛を
焼いてしまい、焦げた茶色をしていたからつけられた名前だ。
 オコゲとオがつくのは、一家が都会から入植したからだ。オをつ
けずにゴゲとでも呼ばれる猫がいたとすれば、そういう方言を用い
る場所からの開拓者ということになる。
 家人に咎められて、悪びれ反省したように見えたオコゲではある
が、その家人がちょっと席を外したとなると、一度細めた目を大き
く見開き、後足で立ち上がると、前足の片方をストーブの上に伸ば
してスルメを払い除けた。次にスルメの落ちた場所へと突進する。
 そこへ家人が戻ってこようものなら、猫は自分の収穫物にしがみ
ついて、決して放そうとしない。ついさっき咎められたときに見せ
た猫撫で声や悪びれた仕草はどこ吹く風。今や自分のせしめた獲
物を死守しようと、スルメの上に覆い被さり、牙を剥いて唸り声さ
えたてて敵を睨みつけている。
 神にもこんな猫の性質を好むようなところが、あるように思えて
ならない。博愛精神は尊いが、それは自分が神から授かったもの
を死守した上でのことであって、平均値で割り出せるものではない。
 最近私はそういうことを強く意識するようになった。神からのも
のに執着せず、恬淡としていたものはサタンをも愛するようになり、
サタンの餌食となり、その結果、神のそねみを買い、遠ざけられて
行った。
 そういう者に限って言うのだ。本当の神はもっと優しく広やかで
大きいと。しかし私は憚らず言う。私の神は狭小だ。ただそれだけ
では覆い切れないものが地上にはあって、それをマザーテレサの
ような英傑が補ってきた。

   ☆

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