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文芸の里コミュの「メルヘン」 黄色いパン (連載第五回) 完

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                     Malena Ernman - Solveig's Song





   ◇黄色いパン


「それは私だって同じよ。もしあなたに買われていなかったら、どんなことになったと思う? もっと値をたたかれて、子供のペットとして買われていき、庭に繋がれて餌もろくに与えられずに、餓死したかもしれない。それともサーカスに貰われていき、大きな看板を背負わされてピエロと一緒に客を呼び込むくらいしか、道はなかったのよ。それをあなたは人間として扱ってくれたわ。居間にまで寝かせてくれて。しかも私の話をまともに聞いてくれたじゃない」
「居間に上げたといっても、馬小屋と変わりはないだろうがね」
 五助さんは苦笑して言いました。「とにかくメグ子は、何ものにも換え難いものを与えてくれたよ。黄色い木の実パンなんて高価なものまでね」
「それは私が与えたわけじゃないのよ。奇しき御業とも言えるものだわ」
「ぼくには深いことは分からないがね。メグ子が今、せっぱつまって祖国に帰ろうというのも、人に与えることと無関係じゃないんだろうよ」
「エチオピアの難民は、お腹だけじゃなく心も渇ききっていると思うの。その両方を満たしてあげられるものが、向こうにもきっとあると思うのよ。私はまた石臼を碾いて、聴き出すわ。飢え渇きを癒してくれる水と木の実のありかをね。日に何十人と死んでいくっていうんだから、生きているうちに与えなければね……」
「最初から、そんなことと思っていたよ。しかし、たとえぼくが、行かせないと言ったところで、メグ子の心はアフリカに飛んでいるだろうよ。ぼくはメグ子をそんな奴隷にはしたくないんでね」
「……」
「メグ子はぼくが独りになって、どうやって生活していくか、心配しているんだろう。君との二人の生活にあまりに慣れてしまっているんでね。しかし、木の実パンの製造はちゃんと続けていくよ。さっき電気店で見たんだが、手頃な製粉機もあったし、これからはそれに頼るとするさ」
「嬉しいわ。あなたがパンの製造を続けてくれなければ、私は祖国を取って日本を犠牲にすることになるんだもの」
 メグ子は眉をしぱしぱと振って、瞳を輝かせました。
「そうと決まれば、早い方がいいんだろう。船でアフリカまでとなれば、随分月日もかかるだろうしね。アフリカまで船賃はいくらするかなあー。さっそく調べてみなければ」
「私これから、三時間睡眠で粉碾きをするわ。たくさんパンを売れば、早くお金がたまるもの。それを私の船賃につかってしまうのは、申し訳ないけれど」
「いや、メグ子にそんな苦労はさせないよ。農協にわずかながら定期預金があるんだ。それを解約すれば、船賃と、製粉機を買うくらいはあるだろうさ。余ればオーブンもふんぱつして」
「解約すれば、損なんでしょう。悪いわ。せっかくためたお金なのに」
「いや、人の命にはかえられんよ。メグ子に言わせると、肉体の命だけじゃなく、霊の命も含まれているようだけど」
 二人は夕食をとりに丘へ向かいました。五助さんは、畑から大根一本とニンジン四本を抜いていき、牧草でぬぐってメグ子にやりました。
 メグ子は牧草を食みつつ、ニンジンを食べ、また大根をかじりました。五助さんは、野苺や、グスベリをあさって食べました。
「私がいなくなったら、ちゃんとした食事をしなきゃ駄目よ」
 メグ子が目を細めて言います。「私に付き合って、そうやって粗食に甘んじてきたんだもの。私としては、粗食じゃなかったんだけど」
「これも今となっては、いい想い出になるね。蜜蜂が飛び、蝶の舞う中で、ロバのお嬢さんと会話をしながら食事をするなんて、夢みたいじゃないか」
 五助さんは、あまりじめじめした話にならないように気をつかいながら、そう言いました。
 二人は家に帰ってからも、とめどなく話をしました。メグ子は製粉機がくるまで(農協の購買部から買うため、取り寄せるのに時間がかかる)の分を、石臼を碾いて粉にしておくと言いましたが、五助さんはその必要はないと聞き入れず、これがこの家での最後の夜となったのです。したがって、眠れるはずもありませんでした。
 メグ子はずいぶん難しい話もしました。話は哲学とか心理学にも及びました。
「でもそれらは、所詮、人間の考えの域を出ないと思うの」
 とメグ子は言いました。
「するとメグ子は、神はあると信じているのか?」
 五助さんが身を乗り出して訊くと、
「それなのよ……」
 メグ子は待っていたとばかりに、四肢を折っていたのが立て膝になって、口を五助さんの耳に寄せてきました。「私が石臼を碾いていて、聴いたのが、神様の声だったのよ」
 メグ子の言葉は、口を近く寄せてきただけに、びしりと重く響いてきました。多分にメグ子の思い入れもあったのでしょうが、五助さんには、彼女の残していった忘れ得ぬ言葉となったのです。
 淡淡しい白い蛍光灯の光は、語り明かす二人に花を添えてくれたようなものでした。


 早朝四時になると、メグ子は木の実を碾き、五助さんはパンを焼きました。これは売るためではなく、メグ子の道々の食糧でした。
 日が昇ると、農協の開く時間を見計らって山を下りて行きました。このまま定期預金の解約ができ次第、二人はアフリカへ向かう船の出る港を探して行くのです。
 農協で手数は取りましたが、何とかメグ子の出発の手筈はととのいました。
 重い足取りになるのは、やむを得ません。寝ていないのと、何といっても友だちと別れる旅であるからです。
 二人はいくつも山を越え、森を突き抜け、川を渡って行きました。車の多い道は避け、山径や自然歩道を選んで進みました。疲れると、草原に坐って木の実パンを食べました。
 五助さんは、そうやって休む間、傍らの草花を摘んでは、手まめに何かを編んでいました。
「何を編んでるのよ。あなたらしくもなく、器用に手を動かして。私今になって見直しちゃったわ」
 メグ子は、五助さんの心が、手を動かす方にいっているのが、小しゃくにもなっていました。これで最後なのだから、とことん二人だけの時を持ちたかったのです。
「何であるか、それは最後のおたのしみ」
 五助さんは、イグサやエノコログサの中に、黄色い山吹や紫のウツボグサの花を編み込みました。
 歩いているときも、新しい花を見つけると、摘んでベルトやシャツのポケットに挟んでおきました。
 夕方になって、ようやく一つの港に着きました。中国や東南アジアからの船が入っていますが、アフリカの船はありません。
「この港にアフリカの船は入りませんかね」
 五助さんは、一人の船員をつかまえて聞きました。
「アフリカのどこ。アフリカといっても広いんでな」
 中年の船員は、五助さんと傍らのロバを交互に見て言いました。
「エチオピア。いや、その近くならどこでもいいんですが」
「ないね。ここにはアフリカは入らん。アフリカなら、ガンビ港に行かねばなるまい。あんたが行くんかね」
「いや、ロバが単身で」
「ロバ一匹、アフリカまで送って、まかたするのかね。ばかにならんと思うがな、船賃が。それとも、背に何か金になるものでも積んでるんかな?」
 船員は赤黒い顔に白い歯を浮かせて、メグ子の荷物をのぞきこみました。
「じゃ、ガンビ港まで行ってみるとするか」
 五助さんは、独りごとのように言って歩き出しました。メグ子が気分を害したのではないかと思い、
「あいつの言ったことなんか、気にするなよ」
 と慰めました。「それとも、あの男にこそ、パンを食べさせてやるべきだったのかな」
「駄目、まだその時に至っていないのよ。何事にも時機というものがあるでしょう。『愛のおのずから起こるときまでは、ことさらに呼び起こすことも、さますこともしないように』って言うわ。あの人、袋をのぞきこんで、黄色いパンを確かに見たはずなのよ。それなのに、においも感じた気振りはなかったもの。
 パンと知って、愚弄する目付きさえしたわ。あの人はさんざんな目にあって、少しおちこめばいいのよ。その時パンを見て、欲しいと思うようならしめたものね。私なんだかあの人に、アフリカでパンを与えるような気がする」
「港から港へ渡り歩いているうちに、巡り合うというわけか。それをぼくは知らない。ちょっと寂しい話ではあるね」
「大きな懐にいだかれて生きていくって、そういうものなのよね……」
 メグ子は言って、沖に目をやりました。そこには大きな客船が、客席いっぱいに灯りをともして、外洋へと向かっていました。
「あれ、ひょっとして、アフリカ行きの船じゃないかしら。でもそれにしては、明かる過ぎるわね。暗黒大陸とは言えないもの」
 五助さんは、ハマナスの蕾を摘んで、ポケットにしまいました。

 二人は海にそって砂浜を歩いて行きました。日は暮れていき、生あたたかな風が頬や首筋をなでて通ります。灯台の灯が、波頭を白く照らし出し、波を愛撫するかのように、はるかかなたへと明かりを移していきます。
 二人は浜辺で波の音を聞きながら眠りました。
 空が白むと歩き出し、お昼頃、ガンビ港に着きました。
 停泊する船の中に、アフリカ行きの船は見当りません。アフリカへ寄港する日本の貿易船はあるかもしれませんが、それは避けたのです。もしメグ子がうっかり日本の言葉をつかってしまい、珍しいロバだというので、闇から闇へと売られる羽目になっては大変だからです。外国の船なら、たとえメグ子が、
「船の長旅は退屈ね」
 と独りごとを言ったとしても、
「このロバ、船酔いしたらしいぜ」 
 ぐらいですむでしょう。
 五助さんは、メグ子を埠頭に待たせて、港湾事務所に行って聞きました。この港には入港の予定はないが、この先のトイトイ半島の向こうのトイ港には、アフリカの各港に寄って行く船があるとのことでした。
 二人はまた歩き出しました。なかなかアフリカ行きの船にぶつからなくても、気落ちしたりはしませんでした。船がなければ、それだけ友だちとの別れが長びくからです。またこんな最初にして最後の旅も、二人にとって望ましいものでした。
 トイトイ半島を横切って、山道を歩いているときでした。潅木の木の間隠れに、ひっそりとついてくる動物がいるのです。警戒しつつも鳴る草木の騒めきからして、野兎や狸ではなく、もっと大きな動物のようです。
 熊か猪ではないかと、立ち止まって目をこらしたとき、木立の中からどこか親しみ深そうにこちらをうかがっていたのは、一頭の雌鹿でした。形の似ているメグ子を、同じ仲間と見たのでしょうか。
 メグ子が、動物にだけ分かる声で呼掛けると、のこのこ寄って来ました。しかし後ろの片方の足が、どういうわけか曲がったまま、地面についていないのです。したがって、三本足で跳ねて、寄って来たのでした。
「パンを一つあげて」
 とメグ子が言いました。五助さんは、半分逃げ腰の鹿に、容赦せぬとばかりに接近して、パンをやりました。鹿はにわかに色めき立ってパンをかじり取り、あっさり一つを平らげてしまうと、体の中で異変が起こったかのように、ぱっと全身が輝きました。実際そんなふうに見えたのです。次に鹿の後ろ足は伸びて、地面についていました。鹿は、しずしずとその足をつかって進み出ると、メグ子の鼻の頭を桜色の舌でぺろっとやりました。
「あなた、これで群れに帰って行けるわね。さ、行きなさい。元気を出して」 
 この言葉は、鹿にも伝わったようでした。二人が山道を歩きだして、振り返ると、鹿はこちらを振り返えりつつ茂みの中に入って行ったのです。


 二人はさらに歩きつづけ、山を越えた麓の丘で一泊すると、眼下に広がる海に向かって下りて行きました。いやにドラがやかましく鳴ると思っていると、何とそれが、アフリカへ向かう貨物船だったのです。
 すでに積荷を終えて、出航の準備も完了している船に、五助さんは無理に頼んでメグ子を乗せて貰いました。極めて温和なロバなので、空いたところに置いてくれればいいと言ったのです。
 五助さんは、道々編んできた草花の首飾りを、メグ子の首にかけてやりました。二、三日もすれば萎れてしまうに違いないのですが、たとえ真珠やオパールの首飾りをふんぱつしたにしても、メグ子の残した木の実パンにはかないはしなかったでしょう。
「もっとゆっくり、お別れができると思ったのに、こんな慌ただしい結果になってしまったのね。いろいろありがたう。何もしてあげられなかったわ。暮らしには十分気をつけてね。できるだけ早く、結婚したらいいわよ。私の前足が、こんな棒みたいでなく、五本の指がついていたらって、どんなに辛かったか……」
 メグ子は《アフリカ・エチオピア・シブチ》の荷札をつけられ、船員に押されて船に乗り込んでいきました。
 船は桟橋を離れ、メグ子はタラップに立って、じっと岸壁に目をはりつけていました。
 五助さんは、何か言わなければと思うのですが、言葉が浮かんできませんでした。それで、心がかきむしられるままに、いきなり天を突き刺すように指さしてから、両腕で大きな丸をつくりました。さらに一の数字を、指を立てて示しました。やみくもにとった合図だったのですが、「天は一つ」という意味であったらしいのです。
 メグ子はそれが分かったのか、しきりに顎をひきながら遠くなって行きました。


 それからの五助さんについては、要点だけを述べるとしましょう。
 農協に注文した製粉機が届くと、黙々とひとりでパン作りを始めました。そして電車に乗り、よその町までパンを売りに行きました。
 夏はたけなわとなり、暑さがうなぎのぼりに上がっていきましたが、腐らないパンであることが、この上もない魅力でした。それでも何日分もまとめて作ったりはしないで、毎朝パンを焼きました。
 あの狸たちは、パンができる頃になると、庭の隅にきちんとお坐りをして待つようになりました。形のよくないパンを与えると、彼等はそれをくわえて、申し訳なさそうに庭を一巡りし、笹やぶの奥に消えて行くのでした。
 ある日、パン売りの帰りに、ひとり住まいのおばあさんの家に寄ってみました。また寝こんでいるのではないかと、はらはらしていたのですが、家の中はからっぽで、裏の猫の額ほどの畑で草むしりをしていました。
 五助さんは呼び掛けるのをよして、パンを二つテーブルに載せると、そそくさと山の家に帰って来たのでした。
 メグ子がどうしているか気になって、ニュースの時間にラジオを入れるようにもなりました。二度ほど難民についての報道が流れましたが、同じアフリカでもニジェールとかチャドで、メグ子の行ったエチオピアではありませんでした。そしてそのどこにおいても、ロバが活躍しているなどという話はないのでした。
 ここでメグ子がパンを売り歩いたときも、マスコミに取り上げられたりはしなかったのですから、しごく当たり前のことなのです。そして、もともとパンを作って売り歩くなどというのは、ひっそりとした営みのはずなのでした。五助さんはそこに気づくと、ほっとしてメグ子の安全を確認したのです。

 そんな明け暮れのある午後でした。五助さんが町から帰って居間に大の字になっていると、玄関に誰かが訪ねて来ました。
 五助さんが跳ね起きると、若い女がボストンバックを一つさげて立っているのです。
 娘の顔を見て、五助さんは身震いしました。メグ子とそっくりなのです。しょぼしょぼっとした目、色の薄い唇、黄褐色の髪、従順さというものを抜きにしたら、他に取り柄のなさそうな見目形……。着ているものも、洗いざらしてくたびれかけており、この家にやって来たてのメグ子のぼさぼさの毛並みのようでした。
 五助さんは、まどろみから覚めきれずに、メグ子が娘に化けて来たのではないかと思ってしまいました。
「君はどこから来たの」
 確かめるためもあって、そう訊きました。
「トマ村から」
 と娘は答えました。
「トノトノ島じゃないかね」
 と五助さんは訊きました。トノトノ島はメグ子がやって来た所です。
「違います。ここから二つ先の駅です」
 二つ先の駅なら、昨日パンを売りに行っているのです。
「それで用件は何でしょう」
 五助さんは、まだぼんやりしたまま尋ねました。
「私、このパン工場で働きたいんです」
「パン工場といっても、ごらんの通り、何もありはしないんだよ。庭に小さな製粉機と、かまどがあるだけだ」
 五助さんは呆れ返って言います。
「パンは豊かさと味です。それが何よりのしるしです。パンがあれば、工場はあるんです。なくてもあるんです」
 娘はどうしてか、泣きそうになって主張しました。
「そもそも、ここを誰に聞いてきたんだね」
「パン屋さんが来たとき、私は留守だったけど、家の人がこの村から来た木の実パン屋さんて言ったんです。それでこの村を尋ねてきて、農協で聞いたら、教えてくれました」
 五助さんは、頷きはしたものの、どうしたものかと考えてしまいました。まだどこかに釈然としないものがあって、
「名前は?」
 と聞いてみました。
「土浦恵です」
 娘は、はきはきと答えました。
「めぐみ?」
 五助さんは息をのみ、一呼吸の後、そう言いました。娘は五助さんの驚きを不思議そうに見て、ゆっくりとうべないました。
「君はロバが好きかね」
「好きだわ。のろまで、融通がきかないようだけど、重い荷物を背負わされても、文句も言わないで耐えていくわね」
 五助さんは、恵を縁側に案内しました。恵はボストンバックを下ろして、縁側に腰掛けます。
「そのロバがここにいたんだよ。ロバの背にパンをつけてね、売り歩いたんだ」
「あら、そのロバはどうしたの」
「エチオピアに送り出したんだ」
「惜しいことしたわね。ロバなんかめったに見かけないもの。私前に一度乗ったことがあるの。私その頃は、今より重かったのよ。その重い私を乗っけて、ふらつきながら歩くのよ。友だちは馬に乗って行く後から、おくれまいとして、必死につけて行くのよ」
「それはどこで乗ったんだい」
「観光地、あれはトノトノ島だったかしら」
「トノトノ島?」
「あら、行かれたんですか。さっきもそんなこと言ってましたね……」
「……」
 五助さんは絶句してしまいました。それはメグ子に違いなかったのです。

(メグ子、君は島での生活が何であったのか分からないと嘆いていたね。しかしまったく反応がなかったようでいて、実際はあったんだよ。そのしるしに、こうして今、君に乗ったという娘が、君の作ったパンに導かれてやって来たじゃないか。君が自分の人生で何もできなかったといって、最後の夢を託すように公園裏の杭に星を彫っただろう。でも君という星は、島で立派に輝いていたんだよ。これをどうやったら君に伝えられるだろう。でも決して、メグ子がここに来て、さらにエチオピアに飛んだのを、間違っていたなんて言うんじゃないんだ。ぼくはいったい、何を言いたいのだろう。……そうそうメグ子に導かれてきた土浦恵という娘を、ここで働いて貰うことにするよ)

「土浦さんが、ここの現状を承知の上で働いてくれるというのなら、私としては歓迎しますがね」
「私はじめからそのつもりで来ました。断られても住みつこうって」
「住みつく?」
「だってパン屋さんは、朝が早いんでしょう。電車もバスも通らないうちから、どうして通えるの」

 この日から、五助さんはメグ子ではない恵と一緒に暮らすようになりました。恵はパン作りだけでなく、食事の支度から掃除まで、なんでもやりました。手分けしてパンを売り歩くようにもなりました。

(メグ子、そんなわけで、ぼくは恵と結婚したよ。君もそれを望んでいたからね。パン工場も少し大きくしてね、木造の小屋を建てたんだ。今では、包装紙もちゃんと作ってね、『メグ子の黄色いパン』としたんだ)
                                   
                              ーおわりー

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