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【大正浪漫RP】月の民の拠所コミュの誤解、そして<ヨシノ+薔薇>

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その日、いつものように街角の花屋へと足を運んだ赤い髪の剣士は、しかし店の中に足を踏み入れることはなかった。

「私は……私は貴方を愛しています!」
良く通る、凛とした印象を聞く者に与える、少女の声。
その声には、真に迫る強い響きが込められている。

何事か?と男装の少女剣士が訝しみながらも花屋へと歩を進める。
すると、まだ遠目ではあるが2人の男女が向かい合っているのが見えた。

そして、男が女を抱き寄せて……
「私も貴女の事を愛しています。 もう二度と、離したりはしません……」
そう、言った。

耳に優しく響くその声を発したのが、この花屋の若い店主だと言う事に剣士はすぐに気付いた。
少女の声と同じように強い意志を感じる、真剣さをはらんだその言葉。 その眼差し。


『愛しています』


その言葉が、耳の奥でリフレインする。
何故かは解らない。 ただ、その言葉と薔薇色の瞳を持つ少年店主の微笑みだけが、頭の奥でぐるぐると回り続ける。

そしてその声を耳にした剣士は踵を返し、駆け出していた。
自分でも、どうして引き返したのか解らない。
ただ、何故か其処から逃げ出したくなったのだ。

赤い髪を振り乱し、剣士は走った。
何故、こんなに胸が苦しいのだろう。
そう、思いながら。


その日、久しぶりに道場の門下生が師範代から一本をとった。


********************


「……どうかしましたか? 何やら虫の居所が悪そうなお顔をされているようですが……」
いつものように花を選びながら、薔薇の瞳の店主が心配そうに剣士の顔を覗き込む。
「……詮索するのは、あまり良い趣味とは言えないな」
努めて平静を装っているつもりだが、どう見ても動揺しているように見える。
ついでに彼のその仕草が、剣士の脳裏に先日の光景を呼び起こさせた。

ここ数日、なるべく花屋の目に付かぬように学園と道場を繋ぐ道を行き来していたのだが。
今日、偶然にも店の軒先に水を撒いていた店主に見つかってしまい。
剣士は今こうして、色とりどりに咲き乱れる、舞踏会で優雅に舞い踊る淑女達のように美しい花々に囲まれた花屋の店内へと、彼女が来るのを待ちかねていた店主により半ば強引に店内に招きいれられていたのだった。


バツが悪そうに苦笑しつつ、店主は花束に包む為の花を丁寧に一本ずつ手にとっていく。
その様子を横目に見ながら、自分でもどうしてこんなに動揺してしまうのか、それが剣士には解らなかった。
胸の奥にまるで鈍色に光る鋼鉄の塊でも鎮座しているかのような、不快な重み。
花屋の見せる爽やかな微笑を目にする度に、その重さはどんどん増していく……燃える様に赤い髪が、今日は不思議と燻っているように見えた。

「それでは、少しお待ちを」
ようやく花を選び終えた店主は、暖かい色で咲き誇る薔薇の花を数本手にし、花束を作る為に店の奥へと下がっていく。
そして一人残された剣士はいよいよ居たたまれなくなり、店の奥でいつも通りに花を包んでいる店主に一声かけてから退散しようとした。

と、その時。

「あの……」
背後から、良く通る少女の声が聞こえてきた。
その声にビクッ! と音がしそうなほどに驚いた剣士は慌てて振り向く。
視線の先に居たのは先日、店主と愛を囁きあい抱き合っていた少女だった。
予想外の遭遇に、剣士は「え、あ、う……」と意味不明な言葉を発することしか出来ない。
どういうわけか鼓動は更に激しくなり、そして胸の奥の鋼鉄の塊は胸を突き破らんばかりに更に重くなっていた。

剣士の動揺に気付いているのか気付いていないのか、少女はにっこり微笑んで彼女に訊ねる。
「えっと……店主さまはいらっしゃいますか? 先日のお礼がしたくて……」
ぴくり。 ある単語に反応して、剣士の細く長い耳が揺れる。
「……お礼?」
一体何のお礼なのか。 そう訝しんでいると、薔薇の花束を携えて店主が奥から戻ってきた。
「おや、いらっしゃいませ……先日はあまりお役に立てず、申し訳ありませんでした……」
薔薇色の瞳を僅かに揺らし、店主は少女に謝罪をする。

その様子をぽかんと見ていた剣士。
店主と少女のやりとりを憮然としつつも黙って聴いていたところ、どうやら少女は店主に『演劇の練習相手』を頼んでいたらしい。
しかし、少女が迫真の演技をしていたのは納得いくが、薔薇色の店主もあそこまでする必要はなかったのでは……と思ってからふと、少し胸の重さが軽くなったような気がしていた。


少女が帰った後、赤い髪の剣士は薔薇色の店主からいつものように花束を受け取った。
今日も橙色のものを含んだ、色鮮やかな薔薇の花束。
風に揺れる薔薇の香りを感じ、剣士は道場へと向かう。

それにしても、あの胸の痛みはなんだったのだろう?
道場への路を辿りながら、そんな事を考えていたが。
その手の中に感じる小さいけれど大きな存在を確かめると、もはや気にならなくなっていた。

夕暮れの橙に、剣士の頬が染まる。 その色は、花束でドレスアップされた薔薇の色とよく似ていて。
それに気付いた剣士の足取りは、心なしかいつもよりも軽く踊っているように見えた。

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