日々こぼれ落ちる歌たち（童話）コミュの回想駅

僕は時々回想駅を利用する
というか気がつくとホームにうっかり立っている。
切符なんて買った覚えもないのに。回数券（25往復分）を一枚切り取って持ってるんだ。

なんだなんだこりゃ。

マモナク　カンショウ　ガ　マイリマス

コチラガワノ　ハクセン　ヨリ　ウチガワ　二

タニン　ヲ　イレヌ　ヨウ　ゴヨウジン　クダサイマセ

エー　ツヅキマシテハ　ゲンジツ　ゲンジツ　ゲンジツ　デ　ゴザイマス

オメザメノサイハ　リセイノ　オトシワスレ　センビキ　ノ　ユルミ　二　ゴチュウイ　クダサイ

腕時計を見て少しため息をつく
これから帰って家で仕事をしなきゃな
足取りが軽いのは
多分気のせいだろう

回想駅にはそんな効果があるなんて
知った日には降りられなくなりそうだもの

まいったな。
ポケットに手をつっこんだら
夢想駅→回想駅間の往復切符が出てきた。ん？
現実に降りてないじゃないか。

いや待てよ。
僕は道を引き返して
さっき降りた駅の名前を確認した。

列車がやってきたのであわてて飛び乗る。

ループ。

山の手線じゃないんだからさ。

列車の中で現実に降りる駅を探す

夢想駅→回想駅→天界入り口前駅→三途・ボートアリーナ前駅→天界検問ゲート前→天国

列車のポスターには
「君も天国で神様と握手！」とか
「イエスのサイン入り鉢巻プレゼント中」とか
そんな広告ばかり。

嘘だろ。

真実だろうとなんだろうと。

こんなふざけた広告がぶらさがった
電車に乗って天国に行けるか

僕は窓をあけて外に飛び出した

気がつくと家のドアの前に立っていた。確かな空気の冷たさや体の疲労感。
これだよ。現実の重み。

手には
妄想ワンダーランドフリーパス　のチケットを持っていた。

そうそう、そうだった。
僕は上機嫌でチャイムを鳴らし、ドアを開けて出てきた妻を抱きしめた。

「ねえあなた、はがきが届いてたわよ」

妻はふつうの顔ではがきを差し出す。

「移住した際は、移住届けを13月xx日まで提出ください。

　天国人員管理部門　ガブリエル」

そうそうそうだった。
僕はかばんから書類を取り出すと
パソコンに向かってメールを打ち始めた。

「本日人間としての体での調査によりますと、人間界から天界へのルートに異常は見られませんでしたが、多少のダイヤの狂いがあるようです。
調整はおまかせしますが、原因究明は後日行います。あと列車の広告はもう少し威厳のあるものにしたほうがよさそうです。

あと、引越ししましたので事務所兼自宅は100番街になります。
日時の詳細の連絡は秘書（ご存知妻でもありますが）がするかと思いますがどうぞよろしく。
では、これをもって報告と代えさせていただきます。

モーゼ様宛て

12月33日　

エルミエラ」