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日々こぼれ落ちる歌たち(童話)コミュのはじまり

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空には青空が。

そこはビルと芝で覆われた日がさんさんと差し込む川でした

その川を、今日も引き舟が何艘もの組んだいかだをゆっくりと引いてゆきます

そんな川原に、一軒のブルーシートを張った簡易小屋がありました

この川原には、距離を開けて何軒もの小屋が建っていました

でも、町の人たちは、都心の大川の川原に住む彼らを、

よくは思っていませんでした。

しかしそこの川原は昼間は憩いの場所でもありました

ある日、子供がこの川に遊びに来て芝生でおもちゃを滑らせてあそんでいました。

川原のおじさんはそれを見ながらニコニコ微笑んでいました

そのうち、子供のおもちゃは芝生をすべり、そのまま川に落ちてしまいました

子供はお気に入りらしく火がついたように泣いています

その光景を見ていたおじさんは、ビニールハウスから棒を出すと

一生懸命水をかいておもちゃを取ろうとしていました

そこに、子供の母親が来て、いぶかしがりながら子供の頭ををたたいて

「あんたがわるいんでしょう 川に落ちて汚いじゃない」といって戒めています

おじさんはその光景を尻目にやっとの思いでおもちゃを取り上げると

振り返りました。

しかし、そこに親子はもういませんでした。

おじさんはポケットからタバコを出して火をつけると、目を細めて、

そのおもちゃを大切にビニールハウスにしまいました。

狭いハウスの中には、子供たちの置き去りにされた心が一杯残されていました。

凧に電子銃 お人形にロボット 変身セットに

車輪の壊れて走らなくなった自動車・・・・

「子供かぁ。」

おじさんはそうつぶやくと、大空の下、思い切り背伸びをしました。






ブルーシートでの生活は朝日とともに始まり、夕日とともに終わる

隣の小屋で飼われていたちゃぼの鳴き声で目を覚ましたおじさんは小屋からでると、
川に向かって小用を足していた。

まだ日も昇らぬうちに起こされたことに戸惑っていると、

ポケットの中で何かが振動していることに気がつく

おもむろに手を突っ込んで取り出すと、

それは家を出る前に息子がよこした携帯電話だった。

番号をみると、やはり息子の名前が書かれていた

着信取るかどうするか迷ったおじさんは、そのまま放置しました。

(おれはお前たちにすべてを託したんだ、もうこんな老いぼれに用はないだろう)

おじさんはつぶやきました。

そして、釣り針にミミズを引っ掛けていくつか仕掛けを沈めると、

再び小屋に戻っていきました

翌朝、また携帯が振動している。ポケットから出してみると息子からだった。

仕方なく携帯を開くとショートメールが届いていた

「父さん、連絡ください。お話したいことがあります」とかかれていた

(俺はお前たちを捨てたんだぞ、なのにいまさらどの面下げて帰れるって言うんだい)

おじさんは再び外に出ると、仕掛けを確かめに行った

何本か仕掛けたうちのいくつかにうなぎがかかっていた

おじさんは隣のチャボを飼ってる小屋の住人に自分で捌いたうなぎをおすそ分けをすると、

一緒にどんぶり飯を駆け込んだ

「おじさん、いつもすまんね」

「ああ、良いってことよ、俺はこれしかできない人間だから」

「うなぎやさんかい?」

「前から言ってるだろ?何で毎回わすれるかね」

おじさんは物覚えの悪い隣人に苦笑いをした

そのときまた携帯が小刻みに揺れた。

自分のことを隣人に知られたくはなかったので無視していたが、

とうとうポケットから外に落っこちてしまった


「おや?あんた、けいたいなんかもってるの?」



「ああ、朝からうるさくてね。息子からなんだよ」



「出ないのかい?」



「ああ」



「だってもう何回もかかってきているんだろ。何か用事があるんだよ」



「いいんだよ、俺のことはもう忘れろっていって出てきたんだから」



「でも、あんたは縁が切れないんじゃないか?

こうして携帯を手放さないでいるんだろ?」



「でも、いいんだよ。緊急の用事でもあればと思って、

息子が無理やりよこしたんだから」



「なら、今が緊急の用事だろ。でなよ」



おじさんは意表を突かれた顔をした



「あんた、家に電話しなよ。きっと緊急だよ」



「俺は・・家族捨てて出てきたんだ。あんたにもわかるだろ」



「いいや、あんたは家族のことを忘れちゃいない。

あの小屋のおもちゃはいったいなんだよ」



「あれは・・」



おじさんは絶句してしまった。



「あんた、この世の中で面倒かもしれないけど、

切れない絆ってもんがあるんだ。どんな葛藤があったのか俺にはわからない。

でも、俺はあんたが、

こうして親切にしてくれるあんたがなんでここにいるんだか俺はわからない。

最初ここに来たあんたは、浮浪者の目じゃなかった。

その目つきは今も代わりはしない。

あんた、家族捨てきれないんだから電話してやれよ」



「おせっかいだな。あんさんも」



「おせっかいか、そうかもしれないな。でも、肩を押してやるくらい、

俺にもできるぜ」



しばらく考えた末、おじさんは川に向かいながら息子に電話をすることにした。



「どうだった?」



「ああ、嫁に行った娘が子供生んで、面倒見てくれる人がいないから帰ってくれって」



「帰ってあげなよ」



「俺は事業に失敗し、多額の借金を残して姿をくらましたんだ。

家族と縁切ってね。俺が戻れば、またみんなに迷惑がかかる。

それを考えると」



「なに言ってるんだい。あんたはもう自分の身の程、

十分わかってるじゃないか。誰だって、あのバブルのときの異常には、

経営者なら翻弄されたよ。あんたは正常だよ」




「おれは・・」




「それに、家族だってあんた一人がなぜ家を出なければならないのか

おそらくは、今までずっと心に引っかかってたと思うよ」




おじさんは言葉に詰まってしまった

目にいっぱいの涙を浮かべて・・・




「あんたは十分反省したんだろ。そのためにここで暮らしていたんだろ。

俺はあんたが子供を見ている姿がずっといたたまれなかった。

本当は今すぐにでも家族の元に帰りたいってことがいやと言うほどわかってた」





「もういいよ、何も言わんでくれ!」





翌日、土手に黒塗りのベンツが止まっていた

中から若夫婦と白髪の品のいいお上さんが河原に下りて

ぼろをまとっただんなさんの身なりを整えていた

そして、

隣のチャボを飼っている小屋のおじさんに深々と

挨拶をすると4人は小屋をたたんでその場を去っていった

隣のおじさんはいつまでも見送っていた。




そして、姿が見えなくなって、

ポケットに手を突っ込むと自分の携帯を取り出していた。  



俺もそろそろ潮時かな

そう、つぶやいた



その日はいつになく空がとてもも澄み切っていた

遠くに飛行機雲が

銀色に輝きながら何処までも何処までもまっすぐに伸びていった。



新たなときの流れが、いま始まる


おしまい

コメント(2)

男と言うものは何処までも体裁を気にするものでやんす(カックイイ〜〜)
そんな親父さんと以前河原で話したことをヒントにかきやしたウッシッシ
コメントアリガトさんでやんす

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