去る1月14日は､ツイ･ハーク(徐克)製作､チン･シウトン(程小東)監督の香港映画『チャイニーズ･ゴースト･ストーリー』(87年､画像左)が日本公開されてから丁度30年目の日でした。
1987年の夏。日本で『幽幻道士(キョンシーズ)１』(86年)がＴＢＳの｢月曜ロードショー｣で放送され20％を超える高視聴率を獲得。子供たちの間で"キョンシー･ブーム"の兆しが見え始めた頃､『チャイニーズ･ゴースト･ストーリー』は､香港で公開され大ヒットを飛ばしました。"キョンシー･ホラー"は､1920年代の中華民国初期を背景としている作品が多いですが､それよりさらに前､明朝時代を舞台に､美女の幽霊と貧しい書生の悲恋を描いたこの作品は､中国版怪談ともいうべき短編小説集｢聊齋志異｣の一編を映画化しており､そもそもは1960年に発表されたショウ･ブラザース制作映画(『真説チャイニーズ･ゴースト･ストーリー』)を(当時の)最新映像技術を駆使してリメイクしたものでした。
特にヒロインの女幽霊が優美に衣を翻しながら､空中を飛翔するシーンなどでは､香港映画界が独自に培ってきたワイヤー･アクションがふんだんに使われています。今やハリウッド､そして日本の特撮ドラマでも当り前に使われるワイヤー･ワークですが､その技術が世界的に注目された端緒が『チャイニーズ･ゴースト･ストーリー』なのです。"キョンシー･ホラー"同様この作品にも道士が登場するのですが､いわゆるラム道士や金おじいさんのスタイルとは違います。大仰なポーズで印を結んだかと思うと､掌から光線のような衝撃波を次々発射し､その闘いもカンフー･アクションの枠を超えて舞踊のような流麗さと豪快さにあふれています。カメラはビュンビュン動き回りますし､時代劇なのにド派手な爆破シーンも多いです。
『チャイニーズ･ゴースト･ストーリー』オリジナル予告編動画↓
とまれ､『チャイニーズ･ゴースト･ストーリー』のヒットによって､ワイヤー･アクションや巧みなカメラワークと編集､そして最新の映像技術をふんだんに使ったファンタジー時代劇が量産されるようになり､香港映画界の主流のひとつとなりました。その流れは90年代前半頂点に達し､香港映画を大いに盛り立てたと同時に､過去不遇をかこっていたスターたちを劇的な復活へと導きました。ひとりは､ツイ･ハークが往年のカンフー映画シリーズを大胆にリブートした大作『ワンス･アポン･ア･タイム･イン･チャイナ/天地黎明』(91年)に主演したジェット･リー(李連杰)です。元々82年に『少林寺』で華々しくデビューしたにもかかわらず､86年の３作目『阿羅漢』の後はパッとせず"あの人は今"の一歩手前という状況でした。しかし『天地黎明』で実在した武術家･黄飛鴻を風格と人間味をにじませる芝居と変わらぬ華麗なアクションで熱演。新たな代表作としてシリーズ化され､後年のハリウッド進出への契機をも生み出したのです。この｢ワン･チャイ｣シリーズでは続く第２作『天地大乱』(92年､画像中)で悪役を演じたドニー･イェン(甄子丹)も注目を集めました。そして勢いの止まらないツイ･ハークが､武俠小説の大家･金庸の原作を映画化したシリーズ第２作『スウォーズマン 女神伝説の章』(92年)で､主演のジェット･リーらを向こうに回し立ちふさがる両性具有の怪人物･東方不敗を演じた女優ブリジット･リン(林青霞)が強烈なインパクトを残し､彼女を主演にしたスピンオフ作品『スウォーズマン 女神復活の章』(93年､画像右)が作られる程の盛り上がりを見せました。70年代半ば台湾でデビューし､そのずば抜けた美貌から文芸映画のヒロインとして台湾で国民的な人気を得たブリジットでしたが､80年代に入り台湾映画界の情勢悪化により粗悪なＢ級娯楽作への主演が増え､危機感を感じた彼女は､旧知の大スター､ジャッキー･チェン(成龍)の誘いもあり､満を持して香港映画界へ進出します。ジャッキーと共演した『ポリス･ストーリー』(85年)でハードなアクションやスタントに身を投じ､ツイ･ハーク監督の『北京オペラブルース』(86年)では男装の麗人役で観客を魅了しましたが､その後が続かず精彩を欠いた状況が続いていました。しかし､東方不敗という一世一代の当り役を手にしたことで､ブリジット･リンは"ファンタジー時代劇"ブームを象徴する存在となりました。同時に東方不敗というキャラクターは､東南アジアのクリエイターたちに大きな影響を与え､様々な映像分野でオマージュが形成されていったのです。
そうした『チャイニーズ･ゴースト･ストーリー』を発端とする空前のファンタジー時代劇ブームの陰で､残酷描写を含みかつ子供向けのレッテルを貼られた格好の"キョンシー･ホラー"は､過去のジャンルと扱われ､台湾を中心に細々と低予算の作品が制作され続けていました。しかし､似てるようで非なる､そして非なるようで共通項も少なくないふたつのジャンルは､互いに呼応する結果となり､台湾製のキョンシー映画では『チャイニーズ･ゴースト･ストーリー』の要素を積極的に取入ました。そのなかでエロティックな面を強調した作品群は"キョンシー･ピンク"というべき､独自の変化を遂げていくことになります。
そして今回の作品トピックですが…､当初は"ぷっつんホラー"最末期の作品としていささか安直な邦題でビデオ発売されましたが､実際には『チャイニーズ･ゴースト･ストーリー』の要素が強いちょっとＨな要素も入った大人向けのシリアス寄りな１本『骸骨キョンシー』(88年)と､美少女道士テンテンちゃんことシャドウ･リュウ(劉致��)現時点最後の主演作『霊幻少女』(92年)を取り上げて参ります。
※作品トピックについては鋭意準備中です。画像､資料など揃い次第順次アップしていく予定です。しばらくお待ち下さいませ。
1987年の夏。日本で『幽幻道士(キョンシーズ)１』(86年)がＴＢＳの｢月曜ロードショー｣で放送され20％を超える高視聴率を獲得。子供たちの間で"キョンシー･ブーム"の兆しが見え始めた頃､『チャイニーズ･ゴースト･ストーリー』は､香港で公開され大ヒットを飛ばしました。"キョンシー･ホラー"は､1920年代の中華民国初期を背景としている作品が多いですが､それよりさらに前､明朝時代を舞台に､美女の幽霊と貧しい書生の悲恋を描いたこの作品は､中国版怪談ともいうべき短編小説集｢聊齋志異｣の一編を映画化しており､そもそもは1960年に発表されたショウ･ブラザース制作映画(『真説チャイニーズ･ゴースト･ストーリー』)を(当時の)最新映像技術を駆使してリメイクしたものでした。
特にヒロインの女幽霊が優美に衣を翻しながら､空中を飛翔するシーンなどでは､香港映画界が独自に培ってきたワイヤー･アクションがふんだんに使われています。今やハリウッド､そして日本の特撮ドラマでも当り前に使われるワイヤー･ワークですが､その技術が世界的に注目された端緒が『チャイニーズ･ゴースト･ストーリー』なのです。"キョンシー･ホラー"同様この作品にも道士が登場するのですが､いわゆるラム道士や金おじいさんのスタイルとは違います。大仰なポーズで印を結んだかと思うと､掌から光線のような衝撃波を次々発射し､その闘いもカンフー･アクションの枠を超えて舞踊のような流麗さと豪快さにあふれています。カメラはビュンビュン動き回りますし､時代劇なのにド派手な爆破シーンも多いです。
『チャイニーズ･ゴースト･ストーリー』オリジナル予告編動画↓
とまれ､『チャイニーズ･ゴースト･ストーリー』のヒットによって､ワイヤー･アクションや巧みなカメラワークと編集､そして最新の映像技術をふんだんに使ったファンタジー時代劇が量産されるようになり､香港映画界の主流のひとつとなりました。その流れは90年代前半頂点に達し､香港映画を大いに盛り立てたと同時に､過去不遇をかこっていたスターたちを劇的な復活へと導きました。ひとりは､ツイ･ハークが往年のカンフー映画シリーズを大胆にリブートした大作『ワンス･アポン･ア･タイム･イン･チャイナ/天地黎明』(91年)に主演したジェット･リー(李連杰)です。元々82年に『少林寺』で華々しくデビューしたにもかかわらず､86年の３作目『阿羅漢』の後はパッとせず"あの人は今"の一歩手前という状況でした。しかし『天地黎明』で実在した武術家･黄飛鴻を風格と人間味をにじませる芝居と変わらぬ華麗なアクションで熱演。新たな代表作としてシリーズ化され､後年のハリウッド進出への契機をも生み出したのです。この｢ワン･チャイ｣シリーズでは続く第２作『天地大乱』(92年､画像中)で悪役を演じたドニー･イェン(甄子丹)も注目を集めました。そして勢いの止まらないツイ･ハークが､武俠小説の大家･金庸の原作を映画化したシリーズ第２作『スウォーズマン 女神伝説の章』(92年)で､主演のジェット･リーらを向こうに回し立ちふさがる両性具有の怪人物･東方不敗を演じた女優ブリジット･リン(林青霞)が強烈なインパクトを残し､彼女を主演にしたスピンオフ作品『スウォーズマン 女神復活の章』(93年､画像右)が作られる程の盛り上がりを見せました。70年代半ば台湾でデビューし､そのずば抜けた美貌から文芸映画のヒロインとして台湾で国民的な人気を得たブリジットでしたが､80年代に入り台湾映画界の情勢悪化により粗悪なＢ級娯楽作への主演が増え､危機感を感じた彼女は､旧知の大スター､ジャッキー･チェン(成龍)の誘いもあり､満を持して香港映画界へ進出します。ジャッキーと共演した『ポリス･ストーリー』(85年)でハードなアクションやスタントに身を投じ､ツイ･ハーク監督の『北京オペラブルース』(86年)では男装の麗人役で観客を魅了しましたが､その後が続かず精彩を欠いた状況が続いていました。しかし､東方不敗という一世一代の当り役を手にしたことで､ブリジット･リンは"ファンタジー時代劇"ブームを象徴する存在となりました。同時に東方不敗というキャラクターは､東南アジアのクリエイターたちに大きな影響を与え､様々な映像分野でオマージュが形成されていったのです。
そうした『チャイニーズ･ゴースト･ストーリー』を発端とする空前のファンタジー時代劇ブームの陰で､残酷描写を含みかつ子供向けのレッテルを貼られた格好の"キョンシー･ホラー"は､過去のジャンルと扱われ､台湾を中心に細々と低予算の作品が制作され続けていました。しかし､似てるようで非なる､そして非なるようで共通項も少なくないふたつのジャンルは､互いに呼応する結果となり､台湾製のキョンシー映画では『チャイニーズ･ゴースト･ストーリー』の要素を積極的に取入ました。そのなかでエロティックな面を強調した作品群は"キョンシー･ピンク"というべき､独自の変化を遂げていくことになります。
そして今回の作品トピックですが…､当初は"ぷっつんホラー"最末期の作品としていささか安直な邦題でビデオ発売されましたが､実際には『チャイニーズ･ゴースト･ストーリー』の要素が強いちょっとＨな要素も入った大人向けのシリアス寄りな１本『骸骨キョンシー』(88年)と､美少女道士テンテンちゃんことシャドウ･リュウ(劉致��)現時点最後の主演作『霊幻少女』(92年)を取り上げて参ります。
※作品トピックについては鋭意準備中です。画像､資料など揃い次第順次アップしていく予定です。しばらくお待ち下さいませ。
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コメント(1)
日本公開30年と謳いながら､地元香港の影響ばかりで肝腎の日本での状況をお伝えしないのは､片手落ちというモノですよね(笑) 『チャイニーズ･ゴースト･ストーリー』は主演ジョイ･ウォン(王祖賢･画像左右側)とレスリー･チャン(張國榮･画像左左側)がＰＲで来日したにもかかわらず､日本での封切時はさほどのヒットとはなりませんでした。しかし当時世界的に普及していたレンタル･ビデオで人気を博しました。コレは本作より前に日本で公開された香港映画『霊幻道士』(85年)や『男たちの挽歌』(86年･画像中)と同じ現象です。この３本の香港映画のレンタル･ビデオでのヒットにより､これまでのブルース･リー(李小龍)やジャッキー･チェン(成龍)中心のイメージから､様々な要素を内包したジャンルとして日本での香港映画人気は大きく様相を変えていきます。ジャンルでいえばブルースやジャッキーたちが培ったカンフー映画に､『霊幻道士』(85年)から始まる"キョンシー･ホラー"､『男たちの挽歌』(86年)で提示された過激なガンファイトと骨太なドラマの"香港ノワール"､そして『チャイニーズ･ゴースト･ストーリー』で認知された"ファンタジー時代劇"という３つのジャンルが加わり､各ジャンルがレンタル･ビデオの台風の目となっていきます。そしてスターで言うと『霊幻道士』に主演したラム･チェンイン(林正英)や"キョンシー"というキャラクター､『男たちの挽歌』(86年)のチョウ･ユンファ(周潤發)､そして『チャイニーズ･ゴースト･ストーリー』のジョイ･ウォンとレスリー･チャンが､日本のマスコミやファンから熱い注目を集めました。
ジョイ･ウォンは､別トピでもご紹介しているように､未公開作品が日本でも大量にビデオ化され､フォトジェニックな美貌､漆黒のロングヘアと美脚がまぶしいバツグンのスタイルで人気を博し､日本の映画やＴＶドラマでも主演を務めたほか､ＣＭ出演や歌手としてCDデビューまで果たしました。
｢永遠に抱きしめて｣(『チャイニーズ･ゴースト･ストーリー３』日本公開版EDテーマ曲､歌ジョイ･ウォン)音源動画↓
一方のレスリーは､ジョイほど出演映画本数が多くなく､ブレイクのきっかけが山口百恵や吉川晃司の広東語カバー曲だったり､ブレイク前東京音楽祭にも複数回参加するなど､どちらかといえば歌手のイメージが先行していました。しかし『チャイニーズ･ゴースト･ストーリー』来日当時､レスリーは､その歌手活動に関して悩んでおり､この直後歌手引退を宣言しカナダへ渡ってしまうのです。しかし半年後香港へ戻り俳優として復帰。『欲望の翼』(90年)や『ブエノスアイレス』(97年)といったウォン･カーウァイ(王家衞)監督作や中国のチェン･カイコー(陳凱歌)監督と組んだ『さらば､わが愛/覇王別姫』(93年･画像右)などに出演し国際的な名声を獲得し､94年には満を持して歌手業も再開。日本でも大都市圏を中心に精力的にコンサートを開催し､映画俳優と歌手双方で人気実力を認められた香港スターとしてファンに愛されました。
ジョイ･ウォンは､別トピでもご紹介しているように､未公開作品が日本でも大量にビデオ化され､フォトジェニックな美貌､漆黒のロングヘアと美脚がまぶしいバツグンのスタイルで人気を博し､日本の映画やＴＶドラマでも主演を務めたほか､ＣＭ出演や歌手としてCDデビューまで果たしました。
｢永遠に抱きしめて｣(『チャイニーズ･ゴースト･ストーリー３』日本公開版EDテーマ曲､歌ジョイ･ウォン)音源動画↓
一方のレスリーは､ジョイほど出演映画本数が多くなく､ブレイクのきっかけが山口百恵や吉川晃司の広東語カバー曲だったり､ブレイク前東京音楽祭にも複数回参加するなど､どちらかといえば歌手のイメージが先行していました。しかし『チャイニーズ･ゴースト･ストーリー』来日当時､レスリーは､その歌手活動に関して悩んでおり､この直後歌手引退を宣言しカナダへ渡ってしまうのです。しかし半年後香港へ戻り俳優として復帰。『欲望の翼』(90年)や『ブエノスアイレス』(97年)といったウォン･カーウァイ(王家衞)監督作や中国のチェン･カイコー(陳凱歌)監督と組んだ『さらば､わが愛/覇王別姫』(93年･画像右)などに出演し国際的な名声を獲得し､94年には満を持して歌手業も再開。日本でも大都市圏を中心に精力的にコンサートを開催し､映画俳優と歌手双方で人気実力を認められた香港スターとしてファンに愛されました。
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