山崎方代コミュの山崎方代さんとの交友

漂白の歌人として知られる、山崎方代(やまざき　ほうだい)さんが亡くなってもう31年が経つ。健在ならば、100歳を過ぎておられる。晩年は鎌倉に定住されて、ぼくとも親交があった。ぼくは方代さんによく酒をおごってもらっていた。先日、詩人の髙橋睦郎さんにその話をしたら、「いい話ですね」と目を細めておられた。
方代さんは清貧のイメージがあるが、ぼくには「ぼくはお金持ちなんですよ。毎月、軍人恩給を30万円もらっているんです」と語っていた。方代さんは戦争で片目を失明した、傷痍軍人なのである。
毎日、100本の煙草を吸い(正確には煙草をあまりにも吸いすぎるので、本人も本数が数えられなかったのだが。とにかくチェーンスモーカーで煙草が途切れなかった)、一升の酒を飲み、70歳まで生きた。「少年のようだった」とは陳腐な表現だが、子供のように純真無垢のところがあった。天衣無縫、天真爛漫……どんな言葉を並べてもなかなか方代さんの人柄には迫れないのだが。由比ヶ浜を歩いていたら、方代さんが海岸の向こうからワカメを携えて現れ、ニコニコしながら「秋山さん、これ、浜で拾ってきた。今晩のおかずにするんだよ」といった笑顔をいまも忘れない。
　方代さんは小柄な方で、牛乳瓶の底のような眼鏡をかけていた。片方の視力も0.01しかなく、よく天眼鏡を使いながら、舐めるように本を読んでいた。物腰が柔らかく、いつも柔和な目をしていた。戦争で死の淵を垣間見たから、達観したのではないか、とも思っていた。陽気な酒で、ぼくは方代さんが愚痴をいったり、怒ったところは一度も目にしていない。
そこだけが黄昏れていて一本の指が歩いてゆくではないか　
さびしくて一人笑えばちゃぶ台の上の土瓶が笑い出したり
現在、執筆中の拙著『鎌倉物語』にも方代さんは主要人物の一人として登場する。亡くなってからのほうが有名になり、方代さんの歌は永遠となった。
写真は在りし日の方代さん。