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MistlarougeコミュのCHAPTER1-2 月夜の天使

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 八杯目の蒸留酒をグイと空けたアタシは、華麗なる想い出に茶々を入れたシーダの顔をジッと見つめた。
「何だ、コニー?」
 あくまでクールに食事を進めるシーダにちょっとカチンときたアタシは、意趣返しとばかり、こう切り返した。
「そういえばさぁ、出会った頃のシーダってさぁ、可愛かったよねぇ」
 ブホッ!
 ちょうど口に含んだ水を噴きだし、ゲホゲホとむせるシーダ。
「な、な、何を言うか!」
 あ、狼狽してる。
「だってさぁ、あのときのシーダってさぁ、変なところで頑なっていうか、ヘンだったよね」
「私のどこがヘンだというのだ!?」
 あくまでクールにつとめようとするシーダ。だからこういうところが可愛いんだって。
「あの日もこんな満月だったっけ…」
 アタシは九杯目の蒸留酒に手をかけ、窓の月を眺めた。



 あれはかなり前のこと。
 深夜、人けのない村外れを長く大きな布包みを肩に担いで、よたよたと千鳥足でアタシはご機嫌に歩いていたっけ。
「♪ふんふふ〜ん、ふっふ〜ん?」
「それ」に気づいたアタシは、大地を踏みしめて止まった。
「…アタシに何か用? 隠れてないで出てきなよ」
 当然、返事はない。
「ま、いいけどね」
 背中の布包みをブンとひと振りする。
 すると炎が噴き出し、周囲の地面を焦がした。
「次は本気でいくよ」
 そう言って、焼け落ちた包みの中から現れた巨剣『グラン・イグニスタ』を掲げた。
 やがてモソリモソリと、地面の下や岩の陰から黒い人影が五人ばかり姿を現す。
「………!」
 けど、姿を現した潜伏者たちが目を向けたのはアタシじゃなく、少し離れた岩山の上だった。
「あん?」
 つられてアタシも月光に照らされた岩山を見上げた。
 そこには、月を背にたたずむ少女がいた。
 逆光の中で、両の目が爛々と光っている。
 風にたなびくマフラーと見えたものは、よく見れば少女の顔の左半分を覆う包帯がほどけたものだ。
「…え〜っと、おジャマなのは、アタシのほうだったみたいね」
 睨み合う少女と潜伏者たちのただならぬ様子の中、アタシはお邪魔モンだ。
「じゃ、そういうことで」
 ポリポリと頬をかき、踵を返したアタシの前に、潜伏者の一人が立ちはだかる。そいつは、濡れた光を放つ短剣を向けた。
「いかにも毒を塗ってますって感じだね。目撃者は消す、ってこと?」
「………」
 潜伏者は無言で間合いをつめてきた。
「しょうがないか。なんてね、実はアタシもやる気満々だったりして」
 刹那、背後で爆発が起こった。
 衝撃波とともに女の悲鳴のような奇妙な爆音が響く。精霊砲の発射に付随するバンシー効果だ。
 精神の弱い者はその音を聞いただけで失神するか、下手をすると神経を破壊されてしまう。
 爆風の中、アタシは、かろうじて受け身をとって痛む耳をさすった。
 バンシー効果の影響がこの程度で済んだことは、日頃の鍛錬のおかげ。
 でも、こんな至近距離で撃たれると、アタシでもすぐには回復できなかった。
 霞む目で空を見上げた。
 岩山の上から、少女がフワリと宙に舞う。
 その小柄な体から犬の形をした影が離れ、先に地面に降り立った。
 それは確かに犬の形をしていたが、明らかに普通の生き物ではない『何か』だった。

「何、アレ?」
 それがローガンツ帝国の開発した機甲具の進化形である『機獣』だとアタシが知るのは、もう少しあとのこと。
「ウオオォォォン!」
 機獣が吠え、大地を滑るように疾走した。
「うわああぁっ!」
 機獣は、生き残っていた潜伏者の首に噛みついた。
 相手が倒れると、機獣は血に濡れた牙をアタシに向けた。
「グルルルルゥ〜ッ」
「ちょっとちょっと待ちなさいよ!!」
 後ずさりながらグラン・イグニスタを構える。
「待て、ブラス」
「うわっ!?」
 いつの間にかアタシの背後に立っていた少女が、機獣を制止した。
 ブラスと呼ばれた機獣は牙をしまい、しかし臨戦態勢のままおとなしくなる。
 それなりの修羅場をくぐってきたと自負してきたアタシの首先に、気づかれることもなくナイフを突きつけるなんて…何者?
「キサマは、ローガンツ軍の者か?」
「へ?」
 少女の問いに、アタシはふるふると首を振った。
「やはりそうか。失礼した」
 そういって、少女は背を向けて歩き出した。そのあとを、機獣ブラスが追う。
「ちょっと待ちなさいよ! あんた、いったい何者?」
 少女は足を止めて振り返った。
「…私は、元ローガンツ帝国南部第十方面軍突撃天使兵団所属シーダ・ヤマザキ少佐」
 彼女シーダ・ヤマザキは、淀みなくそう名乗った。

「ふぅん、脱走兵だね? だから追われてるんだ?」
「そうだ。だから、一緒にいるとキサマも危険だ」
「それはまあ、言われなくてもわかるけどさ」
 アタシは、無愛想に立ち去ろうとしたシーダを強引に引き留めて、その場にドカッと座り込み、とっときの蒸留酒の小瓶を振る舞った。
「わかっていて、なぜ避難もせず酒など振る舞う?」
 二人の周りには、先ほどの戦闘の跡が生々しく残っている。
 シーダはアタシの行動自体が信じられないらしい。
「酒っていうのは、一人で飲んでもおいしくないのよねぇ。まあ、女の子と差し向かいってのは本来趣味じゃないんだけど…」
 不思議と笑みがこぼれる。
 シーダは、コニーの笑顔から目をそらした。
 そして、傍らに座って周囲を警戒しているブラスの頭を、そっと撫でる。
 その瞳に寂しげな光が揺れているのを、アタシは見逃さなかった。
(話題を変えるか…)
「ところで、その顔は? 怪我でもしたの?」
 コニーは、シーダの頬にそっと手を伸ばした。
「さわるな!」
 反射的に、手を払われた。
「あ、ゴメンゴメン」
 はたかれた手がジンジンする。
「いや、こちらこそすまん。これは…そうか、キサマ!」
 シーダは包帯に隠された左頬をさらに手で覆い、素早く立ち上がって身構えた。
「目的はなんだ? 私の監視か? それとも、私を油断させて寝首をかくつもりだったのか?」
 いきまくシーダにアタシは一瞬驚いたが、すぐに肩をすくめた。
「…あんた、いま油断してたのかい?」
「!」
 シーダは目を見開いた。
「そ、そんなことはない!」
 その顔に、さっと朱がさす。
「大丈夫、アタシは敵じゃないよ」
 酒をチビリと飲んで両手を広げた。
「まあ、座んなよ。まだ酒は残ってるんだからさ?」
 瓶を振ってみせる。
「いや、もう失礼する」
「つきあい悪いなぁ…」
「キサマといると、どうやら私のほうが危険なようだ。そもそも、素性の知れない人間と関わった事が間違いだった」
「自己紹介ならしたじゃん。アタシは、コニー・マクロード」
「そうではない。名前など無意味だ。私が知りたいのは…いや、いい」
 シーダは背を向け、ブラスとともに歩き出した。
「そうやってずっと張りつめてると、いつかプツンと切れちゃうぞ?」
 厚い雲が、月を隠した。周囲の闇が濃くなる。
 その瞬間を狙って放たれた黒い短剣を、シーダは間一髪かわした。
「ワアゥッ、アウッ!」
 ブラスは、隠れた敵に向かって駆けだした。
「キャウゥゥンッ」
 その途端、闇の中からブラスの悲鳴が聞こえてくる。
「ブラス!?」
 月がふたたび顔を出すと、二十人近い黒ずくめの男が、シーダの周りを取り囲んでいた。ブラスは、金属のネットに絡めとられて倒れている。
 シーダはブラスに近づこうとするが、男たちが二重の陣を張り、動きを封じている。
「ブラス、ドリルモード!」
 シーダはブラスにコマンドを送った。ブラスの頭と首がねじれ、円錐形に変化する。だが、変わったのはそこまでだった。
「クウゥゥゥン」
 元に戻ったブラスは、か弱く鳴き、動きを止めた。
 ネットに流れる高圧電流が、ブラスの機能を狂わせているようだ。
「チッ」
 シーダは舌打ちした。さっき倒したのは、偵察隊に過ぎなかったようだ。
 考えてみれば、突撃天使兵を相手に何の手段も講じないはずがない。
 味方からも恐れられる突撃天使兵といえども、精霊砲を使えなければその攻撃力の大部分を封じられたことになる。
「ねえ、助けてあげよっか?」
 アタシはグラン・イグニスタを担いで無警戒にトコトコと歩みを進めた。
「………!」
 男たちは目で合図し、外側の輪の中から二人がアタシに向かってきた。
そのタイミングを見計らったように、輪の薄くなった部分にシーダは突進した。
 たとえ精霊砲がなくとも、突撃天使兵の戦闘能力を持ってすれば少人数ずつなら撃破できると考えたようだ。
 しかし、敵もさるもの、シーダを中心にすえたまま人の輪全体が移動する。
「くっ!!」
 シーダが足を止めると、ふたたび均等な包囲網が形作られた。

「ぐわっ!」
「ぎゃあっ!」
 悲鳴が上がった。
 アタシの足元には、グラン・イグニスタで両断され炭化した死体がふたつ転がっている。
「あんたらには悪いけど、アタシはそのコが気に入っちゃってね。加勢することに決めたんだ」
 アタシは啖呵を切った。
「不要だ」
 アタシの仕業に驚愕しながらも、苦々しい顔でシーダは言った。
「これは、私の戦いだ」
「自分の戦いだからって、自分一人で戦わなきゃならないってことはないでしょーが?」
「しかし…」
 シーダは戸惑った。
 これまでは、たとえ軍の同胞であっても、命令でなければ助け合うようなことはなかった。
 それをコニーは、誰の命令でもなく自分を助けるという。
「人の厚意は素直に受けろって、子供の頃に教わらなかった?」
 シーダは首を振った。
 軍人となるべく生まれ、育てられてきた彼女の子供時代は、コニーとはかけ離れたものだった。
「それじゃ、いま教えてあげる」
 大地を蹴り、グラン・イグニスタを振り上げた。
「えいやあぁぁっ!」
 気合いとともに刀身から炎が噴き上がり、男たちを薙ぎ払った。
 シーダを囲んでいた輪が、大きく崩れる。
「ちょっと熱いけど、我慢しててよぉ」
 炎をまとった刃身は、あっけなくブラスを覆うネットを断ち切った。
「ウワオォォ〜〜ンッ!」
 ブラスは雄叫びを上げ、シーダの元に駆け寄った。
 人質もなく、本気を出したシーダにかなう敵なんかいないわけで。
 精霊砲を使うまでもなく、勝敗は決した。

「ふうっ…」
 一仕事済んだアタシは、グラン・イグニスタを地面に突き立て、どっかりと腰を降ろした。そこに、ブラスがすり寄ってくる。
「おお、よしよし。ご主人様と違って、おまえは素直だな」
 ブラスの頭を撫でながら、本来のご主人様を見てニヤリと笑う。
「…くっ」
 シーダは不機嫌そうに顔を歪め、戦闘中にほどけてしまった包帯を巻き直そうとした。
 その下の素顔には傷などなく、かつての所属部隊の紋章がマーキングされていた。
「それ…ああ、思い出した。そうか、突撃天使兵団といえば、ローガンツの死神…」
「…やっぱり、私が恐いか?」
 おずおずと、シーダが聞いてきた。
「なんで? こんなにかわいい顔、隠しちゃもったいないぞ」
 アタシは立ち上がると、悪戯坊主のようにシーダの包帯を取り上げ、空へと放り投げた。
「あっ!」
「あらためて自己紹介。アタシは、コニー・マクロード」
 シーダに手を差し出した。
 シーダの視線は、コニーの手と顔を何度も往復した。
「あんたの名前は?」
 コニーが優しくうながす。
「…私は…私は、シーダ・ヤマザキ。シーダ・ヤマザキだ」
 シーダは、恥ずかしそうにそうにアタシの手を握り、ニッコリと微笑んだ。



「…って聞くも赤面モノの物語だというのに、忘れたなんて悲しいわぁ」
 すると、アタシの飲んでいたジョッキを奪い取り、一気飲みしたシーダがポツリとつぶやいた。
「アレは一生の不覚だった…! そのせいでこんなトラブルメーカーと徒党を組まねばならなくなるとは!」
「あ、ひっどー!」
 アタシはブンむくれた。
「なになに? 何の話ィ?」
 買い出しに行っていたヴァンたちが興味津々にテーブルに集まってきた。
「あのねぇ…」
「うわぁ〜! ヤメロ〜!!」
 満月に照らされた酒場にシーダの焦る声がいつまでも響いていた…。

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