大学院「中国政治論研究」コミュの中国政治論報告（08年5月2日）

中国政治論研究報告

第１章毛沢東時代の政治プロセス
１、社会主義の選択―過渡期の総路線
・１９４９年人民政治協商会議が開かれ、共同綱領・中央政府組織法などを採決、毛沢東を主席とする人民共和国の成立を決めた。
・新中国は、新民主主義の国家だったが、「帝国主義・封建主義・官僚資本主義に反対し、独立・民主・平和・統一および富強な中国」を目指すもので、社会主義をすぐ実現しようとしたわけではない。
・５１年７月に毛沢東は、農業集団化を進めようとする山西省当委員会を支持し、党東北局の高崗を支持して農業集団化を進めようとした。
・五反運動が終わった５２年９月には、毛沢東は、はじめて社会主義への移行の決意を他のリーダーたちに漏らした。以降、書記処レベルでしばしばこの問題を議論したといわれている。
・５３年６月の政治局会議で毛沢東は「党の過渡期における総路線と総任務は、１０年から１５年あるいはもっと長い時間をかけて、国の工業化、農業・手工業・資本主義工商業の社会主義改造を基本的に完成することである」と述べた。この考えが中央のリーダーたちの暗黙のコンセサンスになるのは、全国財政経済工作会議である。
・毛沢東は、５２年夏から秋、周恩来や劉少奇をソ連に送り社会主義への移行についてソ連の同意を取り付け、土地改革と三反五反の勝利や朝鮮戦争の事実上の勝利という国内外の状況を見極めて決断した。
・その後社会主義工業化（第１次五カ年計画）が進み、息つく間もなく５５年から農業の集団化、工商業の社会主義改造（公有化）が行われた。１０～１５年かかると予想された改造はたった３年間で終わった。
・５３年の毛沢東の決断は中国のその後をほとんど決定づけた。現代中国の道は５３年に決まったといってもよい。中国のある研究者は「過渡期の総路線は、主要矛盾についての不正確な判断に基づく戦略転換だった。…　新民主主義を誤って否定し、資本主義とすべての市湯経済をあわてて一掃してしまった」というのである。
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２、社会主義の国家機構―全国人民代表大会と憲法
・１９５４年９月、第１回全国人民代表大会が開かれ、新しい国家機構と憲法を決めて政治制度でも社会主義中国が出発した。
・憲法草案は、1954年4月に党中央の憲法起草委員会の下に草案ができ、第1回人民代表大会で採択された。
・前文、4章106条からなる憲法は、過渡期の総路線、第1次5カ年計画を法制化した社会主義憲法である。「労働者階級が指導し、労農同盟を基礎とする人民民主主義国家」と国家の性格を規定し、「民族の区域自治」で統合する「統一した多民族国家」であって、諸民族の分離、自決の権利は否決された。
・つぎに、「国家機関と社会の力に頼り、社会主義工業化および社会主義改造を通じて一歩一歩搾取制度をなくし、社会主義を打ち立てる」が国家目標となった。国家所有が「国民経済の指導的力であり、社会主義に移行するための物質的基礎である」とされ、社会主義改造で57年には資本家的所有はほとんどなくなった。
・ 18歳以上の公民の選挙権・被選挙権、言論・出版・集会・デモ・信教の自由、労働および教育を受ける権利、国家機関職員の違法行為摘発の権利が規定された。公民の義務は法の遵守、納税および兵役である。
・ 54年体制の国家機構は、全国人民代表大会、国家主席、国務院、最高国務会議、国防委員会、中央司法機関などが主要な国家機関である。
・全国人民代表大会は唯一最高の国家権力機関。一院制で任期は4年。年1回開催。常務委員会が休会中の代行機関。人民代表は県レベルで間接選挙。解放軍と帰国華僑だけは代表枠をもつ。全人代の職権は、憲法の改正、法律の制定、国家主席の選出、国務院人事の決定、国民計画経済の決定、戦争と平和の問題の決定などである。
・国家主席は、国家元首として国家を代表する。国務院総理の指名権、軍隊の統率権を持ち国防委員会主席を兼ねる。最高国務会議を招集でき、戒厳令・動員令・戦争状態の宣言が固有の職権である。
・国務院は最高の行政機関であり、全国人民代表大会の執行機関である。全人代とその常務委員会から監督と指導を受ける。
・最高国務会議は、人民共和国の主席が必要なときに招集し、国家の重大問題を協議研究する。国家主席の諮問機関といえる。
・国防委員会は、国家主席が国防委員会主席を兼ねるとあるが、軍の統一戦線組織ともいえる。
・中央司法機関は、最高人民法院と最高人民検察院である。その長は全人代で選出され、全人代の監督と指導下にある。法制機関としては、国務院に司法部、公安部がある。
・中央と地方の関係は、建国直後は、東北・華北・西北・華東・中南・西南の大行政区を取っており、軍政委員会が党と政を一体化させた臨時権力機関を作り、地方分権的であった。
・ 1954年6月に、中央に直属する省・自治区・直轄市の制度を採ることによって、中央地方の関係は確定された。省・自治区・直轄市の下に地区・自治州・県、末端に区・郷・鎮という3つのレベルの地方がある。
・各レベルの地方は、権力機関としての人民代表大会、行政機関としての人民委員会（政府）をもつが、地方政府は「国務院の統一指導化の国家行政機関」であり、国務院に直属している。

３、中国共産党八回党大会（５４～５６年体制）
・５６年９月共産党が建国後初めて党大会を開き、組織を固め、国家の中の党の地位を確定した。「５４～５６年体制」である。大会では、副主席の劉少奇が政治報告、鄧小平が党規約改正の報告、周恩来が第２次五カ年計画案の提案を行った。毛沢東は開会の挨拶だけであった。
・大会は次の３つを決めた。?経済建設については、「わが国の農業手工業資本主義工商業の社会主義改造はすでに決定的勝利を収め」「わが国のプロレタリア階級とブルジョア階級の矛盾は基本的に解決し」「社会主義の制度が基本的に打ち立てられた」いま、「進んだ制度に対して生産力のレベルが依然遅れていること、これが現在の主要矛盾である」と判断した。?政治体制では「人民民主主義独裁はすなわちプロレタリア独裁である」とし、「プロレタリア独裁は不可欠で、それはプロレタリア政党である中国共産党の指導を通じて実現される」（党の指導制）といい、また、「プロレタリアートはその前衛である共産党を通じて、何の妨害を受けずに権力という武器を行使し社会主義を実現する」（党の代行主義）とはっきり断言した。?党規約では、「毛沢東思想」を削除し、「マルクスレーニン主義をその行動指針とする」とした。さらに、党会議の正規化、党組織の整備、組織原則としての民主集中制を確認するとともに、日常活動を処理する中央書記処を新設し「中共中央は必要とみとめた場合、名誉主席１名をおくことができる」とした。大会はまた、主席＝毛沢東、副主席＝劉少奇・周恩来・朱徳・陳雲、総書記＝鄧小平の新指導部を選んだ。
・当時の党と国家の関係（党政関係）は、ⅰ国家機関その他の指導部に設けた党グループ（党組）、ⅱ行政部門に対応して設けた党の行政担当機構（対口部）ⅲ行政のあるランク以上の幹部の党による任命と管理の三チャンネルの国家管理が確立していた。
・「５４～５６年体制」は、共産党が排他的に権力（政策立案と決定）を独占していること、全人代に権力を集中させていること、中央地方の関係が中央にすべて集中していること、などの基本的特徴を持つ。

４、百家斉放・百家争鳴から反右派闘争へー毛沢東型社会主義その一
・１９５６年４月２８日の党中央政治局会議で、毛沢東は「芸術分野では百家斉放、学術分野では百家争鳴を行う」と述べ、次いで最高国務会議では「憲法の枠内なら、さまざまな学術思想は、正しくとも間違っていても、彼らに言わせ、干渉しない」と明言した。
・５７年の２月には、「人民内部の矛盾を正しく処理する」という有名な講和や、４月２７日の「知っていることは何でもいい、洗いざらい言う。いうものに咎めがなく、聞くものはそれを戒めとする」等のアピールに、知識人たちは、自由な発言・自由な批判を決断させた。
・５月から６月はじめの党中央統一戦線部と民主党派・無党派との座談会は、党に対する率直な批判を聴く会となった。
・しかし、「党の天下」という状況がすべての問題の元凶だという儲安平『光明日報』編集長の批判、「政治部門では設計院がない」という章伯鈞民主同盟副主席の主張などは毛沢東を怒らせたといわれている。
・５月座談会をきっかけに毛の反撃が始まった。５月１５日の党内指示で「彼らが社会主義や共産党を擁護するというのはインチキで信じてはならない」と述べた。
・１９５７年６月８日の『人民日報』社説が「少数の右派分子が、共産党と労働者階級の指導権に挑戦し、共産党は下野せよと公然とわめいている」と述べてから右派狩りが始まった。職を追われ、農村で労働改造され、あるいは長い沈黙を余儀なくされた「右派」とその家族は１００万人にものぼる。
・反右派闘争は階級闘争、社会主義革命にレベルアップしていった。７月の青島会議で、毛沢東は「ブルジョア右派批判闘争を過小評価してはだめだ。これは政治戦線、思想戦線での偉大な社会主義革命なのだ」と述べた。また反右派闘争で使った大衆動員方式を、「壁新聞、座談会、弁論会は矛盾を暴露し克服し、人々を進ませるいいやり方」、「われわれの革命にふさわしい形式だ」と自賛している。

５、大躍進運動―毛沢東型社会主義その２　（8回党大会の反故）
・大躍進運動が公式にスタートしたのは５８年５月、８回党大会やり直し会議で、「多く、早く、立派に、無駄なく」をスローガンに「社会主義の総路線」が定められたときである。
・５８年１月に、毛沢東は「工作方法６０条」をまとめ、鉄鋼業などでイギリスに追いつくという高い目標を掲げ、政治と思想こそ統帥者であり魂だと訴えた。
・この「６０条」には、大躍進、文化大革命につながる毛の戦略、イデオロギーがほぼ全面的に出てきている。５７年の反右派闘争を「思想戦線および政治戦線での基本的勝利」とみなし、「不断革命論」を提唱する。生産関係の社会主義的改造、思想政治戦線での反右派闘争に続き、今度は技術革命を行うというのが毛沢東の考えであった。
・この「不断革命論」は、「不均衡は客観的普遍法則だ。不均衡から均衡へ、循環はやまず、永遠にそうだ」という彼の哲学から来ている。ソ連の理論と戦略とは異質な、毛沢東戦略であり、イデオロギーである。
・５８年３月の成都での中央工作会議では、合作者の大型化を中心とする構想、「大躍進、苦闘３年」の精神が確認された。
・大躍進運動には２つの目標があった。１つは経済の高度成長（特に、鉄と穀物）で先進国に追いつくこと。もう１つが集団化と協業化によって、共産主義に１日でも早くたどり着くことである。
・８回党大会２回会議で二年前の党大会の決定は反故になった。
・８月の政治局会議（北戴河）は、１億人の労働者・農民を動員した鉄鋼大生産運動、人民公社の設置を決めた。穀物生産が前年度比の１・９倍、鉄鋼が前年比２倍という驚くべき目標が立てられた。
・「工業・農業・商業・文化教育・軍事を互いに結びつけた人民公社を作る」こと、「人民公社は社会主義を完成し、次第に共産主義に移行する上での最適な組織であり、未来の共産主義社会に移行する上での最適な組織であり、未来の共産主義社会の基礎組織に発展するだろう」とこの会議の決議は述べている。人民公社は、58年末にはチベットをのぞく全国の農村で99％の農家が人民公社に加入し、2万6千の公社ができた。
・これほど主観的で強引な経済運動が長続きするはずがない。年末から調整政策、翌年夏には目標の下方修正を余儀なくされた。それだけではなく経済の均衡性が失われ、重大な党内抗争が生まれた。国防省彭徳懐らの反党運動である。
・６２年はじめに危機打開のために開かれた中央工作会議（７千人集会）で、毛沢東は建国以来始めて自己批判を行った。
・７８年に胡喬木（社会科学院院長）が７７年の国民１人あたりの穀物生産量は、５７年と同じだと明らかにしたとき、人民公社方式が国民の職の問題を何も解決しなかったことが歴然となった。
・大躍進運動は経済法則を無視した「プチブルの熱狂」であり、経済のバランスを狂わせ莫大な浪費を生んだという国防省彭徳懐の「意見」が廬山会議で毛沢東の逆鱗に触れ、「右翼日和見主義の反党グループ」として解任された。
・ 8期8中全会のさなか、右よりの傾向に反対するキャンペーンが始まり、社会主義の総路線・大躍進・人民公社に反対するもの、彭徳懐を弁護するもの、党の方針を執行しないものは「右翼日和見主義分子」であるとし、党の幹部、党員専門家、富裕中農がたたかれた。このキャンペーンで右傾分子とされたのは結局365万人も上ったという。
・ 1958年6月中共中央に、財経小組（陳雲）、政法小組（彭真）、外事小組（陳毅）、科学小組（聶栄臻）、文教小組（陸定一）ができ、5つの小組が行政、国家、経済などすべての国家機関を掌握する体制ができたのである。
・反右派闘争の中で、国務院の国家監察部・司法部は、ともに党の機構に吸収されてしまった。また人民公社化に伴い、人民公社内にできた政法公安部が裁判所・検察・公安のすべてを一手に引き受けることになった。0
・こうして、中央では党の政法工作小組が、省レベルでは公安部門が、末端では人民公社政法公安部が、法にかかわるすべてを取り仕切ることになった。
・農民は人民公社に入る中で、衣食住、学校、安全にいたるまで保障され、失業と飢えと病気から解放された。公社主任は最末端の国家幹部である。党は彼を通じて政治・経済・行政・軍事（民兵）文化のすべてを管理できる。
・人民公社は20年しかもたなかった。だが社会的効能、そして政治的な効能はきわめて大きかった。

６、文化大革命―毛沢東型社会主義その３
・公式党史である「建国以来の当の若干の歴史問題についての決議」（81年6月）は、文化大革命について「指導者が誤って引き起こし、反革命集団に利用されて、党と国家と各民族人民に大きな災難をもたらした内乱であり、いかなる意味でも革命でも社会進歩でもない」という。
・ 1962年9月当時は、劉少奇と鄧小平の指導下で飢饉と経済破綻を乗り切るための「３自１包」政策（自留地、自由市場、損益の自己負担、請負）などの現実的な調整政策が採られていた。
・ 66年5月の中央政治局会議で幕が切って落とされる文化大革命は、3年後に9回党大会を開いて毛沢東・林彪の「プロレタリア司令部」を作り上げるまでは次のように区分される。?66年5月に毛沢東が「文化大革命の司令部」（中央文化大革命小組）を作ってから8月の8期11中全会で文化大革命が党中央のコンセサンスとなるまで、?66年末までの紅衛兵運動の時期、?67年2月の「逆流」から解放軍による事態の掌握まで、?68年秋の劉少奇国家主席の除名から、9回党大会で文化大革命を収束させるまで。
・文化大革命で見られた2つの突出した特長は、?毛沢東が自らの社会主義論、継続革命論を実践するために、出来上がった党機構に見切りをつけ、自分のカリスマ性を最大限使って非体制の大衆運動を動員した、?毛沢東は大衆運動が分裂し崩壊してからは、毛沢東思想にもっとも忠実な、しかも最大の物理力である解放軍に依拠した、ことである。
・紅衛兵運動は66年5月末、精華大学付属中学で、18歳の少年がビラに「紅衛兵」と書いたことから広がった。8月18日には1500人の紅衛兵が天安門広場に集まり、『毛沢東語録』を掲げ、「造反有理」を叫んで世界にその英姿を示した。地方からも続々集まり、11月までに毛沢東は述べ、1400万人の紅衛兵を接見したといわれている。
・北京大学の紅衛兵グループは、劉少奇・鄧小平の退陣を要求、11月には劉少奇・王光美夫妻を大衆集会でつるし上げ、解放軍の羅瑞卿参謀長をつるし上げた。
・すべてがなんだかわからない大衆的熱狂の中で行われた。この熱気も紅衛兵組織が分裂し、内部闘争に明け暮れだすと下火になり、67年1月に解放軍が文化大革命に参加し、68年夏労働者毛沢東思想宣伝隊が、大学に進駐したとき紅衛兵の役割は完全に終わった。
・ 1966年から10年文化大革命イデオロギーが支配し、混乱と悲劇が繰りひろげられた。
・ 1967年1月31日に、黒龍江省紅色造反者革命委員会が保守派や造反組織を軍の力で弾圧し、最初の革命委員会を作り出した。同年2月2日の『人民日報』は、「資本主義の道を歩む実権派の手から党権、政権、文権を奪え返した」と祝い、「革命的大衆組織の責任者、軍の現地責任者および党・政府機関の革命的な指導幹部3つが結合した臨時権力機構を組織した」と賞賛した。
・一方、上海では2月5日、造反労働者を中心に「上海人民公社」（上海コミューン）が樹立された。元の上海市党委員会、人民委員会（政府）のすべての権力を奪ったこの組織は「地方国家権力の新しい組織形態」と自賛した。
・毛沢東は、上海コミューンには懐疑的であり、2月12日「コミューンは党に取って代わることができるか。」と張春橋に伝えた。2月13日毛の指示で結局「上海人民公社」は上海市革命委員会に改称した。本来完全な選挙制で生まれるコミューンでは、党の指導が貫徹できないという不安が考えられる。
・大衆組織・党政府機関・軍の3者からなる革命委員会は、1967年4月に北京でも成立、そのごぞくぞくとうまれ、68年9月にはチベット、新疆にもできて、一級行政区すべてに揃った。
・革命委員会は、当初は権力奪取のための臨時権力機構、その後は軍による一元的な支配を可能とする権力機関だった。文化大革命は多くのリーダーを追放し、官僚機構を粉砕した。

７、問題点
・ 54年体制と毛沢東の戦略の対立点は何か。
・反右派闘争の成果と限界。
・文化大革命は必要だったのか。