コア・拓郎！コミュの独善的楽曲解説

「人間なんて」
　有無を言わせぬ拓郎の代表曲。かの“中津川フォーク・ジャンボリー(ウッド・ストックを模し、中津川の山中に数万人の観客を動員して行われた日本初の大規模な野外音楽イベント。ステージはメインとサブに分けられていてアーティスト・サイドの、それに対する反発も多かったようだ。主宰は高石友也)”ではP.A装置のトラブルの為マイクが使えず、拓郎の肉声の絶叫によって2時間近く唄い続けられ、当時フォークの神様とされていたメイン･ステージの岡林信康をクッた、という伝説を持つ。スタジオ録音版としては拓郎の実質2枚目のアルバム「人間なんて」のショッパナに収められているが、ここではギター一本の弾き語りで唄われ、フェイドイン、フェイドアウトという録音手法が取られている。おそらく本人や制作サイドもこの３コードによる単調な曲の持つ予想外のイメージの広がりを処理しかねたのではないか。僕はこの曲にこそ日本初の、いわゆるウエスタン・カーニバル的な、外見、スタイルのみを踏襲したロックンロール(内田裕也的な、と言ってもいい。日本では以降、ロックンロールといえばこのイメージが奔流となり、その影響は現在に至るまで日本のロック・シーンの大いなるトラウマとなっている)ではない、本質としてのロックンロール的な痙攣を感じて止まない。その虚無的なタイトルのリフレイン、「人間なんてラララー…」はピストルズの“ゴッド・セイブ・ザ・クイーン”の「ノー・フューチャー」を彷彿とさせるが、言うまでもなく、それはやみくもなニヒリズムではなく、無目的な“生の奔流”の顕現なのだ。

「どうしてこんなに悲しいんだろう」
　初期の拓郎作品の中で最も美しいバラード。中でもピアノのイントロに鋭利なギターのカッティングが重なるパートは秀逸である。“人は所詮、独りである”という、拓郎が繰り返し述べている自身の人生観をストレートに表現した佳作。間奏のハモンド・オルガンはプロコル・ハルムの「青い影」を思わせる。

“人の心は温かいのサ／明日はもう一度ふれたいな／独り言です、気に止めないで／時にはこんなに思うけど／明日になればいつものように／心を閉ざしている僕サ”

「春だったね」
　瀬尾一三のオルガンが際立つ、ダリの絵のような幻想的な作品。“曇りガラス”“時計”“埃”といった部品から成る伊庭啓子の漠然とした詞が不思議絵のような効果を醸し出し、拓郎のぶっきらぼうな唱法が全体の、ニジんだイメージをぐいぐい引っ張って絶頂に至らしめる錯乱的なロックンロールとなっている。アレンジは拓郎自身が心酔していたボブ・ディランの「メンフィス・ブルース・アゲイン」風でもある。最近、ザ・グルーバーズというバンドがこの曲をリメイクしている。

「祭りのあと」
　放浪の詩人(?)岡本おさみが詞を書き、拓郎が曲をつけた。このラインナップは初期拓郎作品の要であり、後に同ラインナップによる「襟裳岬」を森進一が唄い、レコ大を獲っている(歌謡界に身を売ったと非難されたフォーク・ゴッド拓郎はジーンズの上下で由緒あるレコ大の授賞式に現れるという英雄的な行為によって多少の面目を躍如した)。多くの岡本おさみの詞に顕著な東洋的無常感が、拓郎というフィルターを通すと一種の清清しさを感じさせることに注目したい。それは虚無主義と似ていて非なるものなのである。

「おきざりにした悲しみは」
　「祭りのあと」の姉妹作的な楽曲。この頃、拓郎バンドで髪を七色に染め分けるというド派手なイデタチでギターを弾いていた高中正義による、ディストーションを目一杯効かせたギターのテーマはまったく素晴らしい。この和製“クリーム”の如きフレーズを高中が考え付いた時点で、当作のクオリティは約束されたと言えよう。ただ、当時完全なオルタナティブであったフォーク・ソングが日本の歌謡界を圧巻した一曲「旅の宿」に続いて発表されたこの曲は、制作陣営も予想したと通りまったく“売れなかった”らしい。同じ作詞家によるものとはいえ、「旅の宿」が男女の旅の一夜を綴った叙情的な作品だったのに対し、「おきざり～」のテーマは余りにも重かったのだろう。そこには明らかに全共闘世代の挫折が唄い込まれているが、ここでも拓郎は岡本の詞の持つ暗澹たるテーマを独自のキャラによってカラリとした、悟りの境地とでも言えそうな世界にまで昇華しているように見える。

“政(ﾏﾂﾘｺﾞﾄ)などもう問わないさ／気になることと言えば／今をどうするかだ／そうさ、あいつと上手くやらなければ／ああ、またあの悲しみをおきざりにしたまま”

「落陽」
　数ある拓郎作品の中でも最も人気の高い曲の一つ。イントロのぶっきらぼうなギター・カッティングと、ツー・コーラス目後の印象的なブレイク以降、それに重なる高中正義の、彼がサディスティック・ミカバンドの“黒船”で発明したバイオリン奏法での、落日の海をドラマティックに表現したリフが鮮烈である。岡本おさみが、北海道の旅の途中で実際に出会ったフーテンとの交流を描いた詞に拓郎が思い入れたっぷりに曲を付けた。特筆すべき点はこの実は演歌じみた楽曲が、それが収められているライブ・レコードにおいては完璧なロックとして鳴らされていることだろう。その拓郎の、通算5枚目のアルバム「ライブ'73」は、かなりバッドな録音状態であるにも関わらず、個々の拓郎ファンの間では今以てベスト3に入れられる程の人気作である。また、拓郎と岡本おさみという黄金ユニットの完成型を提示したアルバムであり、有名な“金沢事件(当時、金沢でのコンサートが終わった夜、拓郎が泊まっていたホテルに遊びに来ていたファンの女のコの一人の狂言で、拓郎は婦女暴行未遂の嫌疑で金沢警察に逮捕、拘留された。結局、不起訴に)”の直後にリリースされ、拓郎自身にとっても大きなターニング・ポイントとなった作品でもあるが、ここでの拓郎にはかのボブ・マーリーや中国ロックの雄、ツイジェンと同質の存在感とパワーで、まさに日本のロックをしょって立っているといった佇まいがある(実際この当時の拓郎のような、民族代表とでも言うべきカリスマ性を持ったアーティストは以降現れていない)。「ライブ'73」以降の拓郎は岡本から離れ、自分でほとんどの詞を書くようになるが、これまで岡本と共に旅を唄った拓郎は、彼の愛して止まない“街”を唄い始める。このことは拓郎をセント・クリストファー(旅の神様)のように思っていた僕の如きファンにとって少なからずショックではあった。
　
「望みを捨てろ」
　前出の「ライブ'73」の最後を締めくくる曲。やはり、岡本おさみとのコラボレーション。「望みを捨てろ」というシニカルなタイトル自体が当時としてはセンセーショナルであったし、淡々と唄われる個人的な存在の苦悩は聴く者の胸を衝く。最後にフェイド・アウトしていく辺りの拓郎の絶叫はジョン・レノンにそっくりだ。(拓郎のシャウトはディランと言うよりもレノンの影響を受けていると思う。というか、ディランは余りシャウトしないのだ)

「ペニー・レーンでバーボン」
　放浪の詩人、岡本おさみと袂を分かった拓郎の新機軸とでも言うべき佳曲。岡本との旅を終え、住むべき“街”へと帰って来た拓郎は、現実の生活と真摯に向き合い、その中で泣き笑いしつつ曲を作って行く。これを一曲目に持ってきた7枚目のアルバム「(今はまだ)人生を語らず」は、朗々たる電気オルガンを全編にフューチャーした、それまでの拓郎のアルバムと比べるとかなり異質な音作りになっていて賛否両論を呼んだが、このアルバムを聴いて去っていった、いわゆる“フォーク”ファンはかなり多かったようだ。しかし、おそらくこのアルバムの持つ“力”はそれ以上の新しい拓郎ファンを惹き付けたと思われる。個人的にもこのアルバムは絶対的なフェイバリットであり、日本のロック(ンロール)・レコードの中では最高の部類に入ると確信している。聞くところによると岡本と別れた拓郎は岡本には絶対に書けないであろう、という詞を書くよう心掛けたそうだ。実際、このアルバムは詩人としての拓郎の面目躍如にも一役買っている。「ペニー・レーン～」は辛辣で愉快な言葉が唄われる現代のトーキング・ブルースであり、おそらくこの曲によってファンは等身大の“街に棲む”拓郎に初めて出会ったのではないか。何度も言うが拓郎の、嫌世的な旅は終わったのである。

“どうせ力などないのなら／酒の力を借りてみるのもいいさ／こうして今夜も原宿ペニー・レーンで／原宿ペニー・レーンで飲んだくれてる”

「人生を語らず」
　どこか漢詩的な風格の漂う作品。拓郎はこの曲をザラついた声で唄いたいが為に2日間徹夜したという伝説が残っているが、成果は充分に現れている。ここでもまるでジョン・レノンのように叫ぶ拓郎は、彼自身の、ジョン・レノンへの憧れを超えて、レノン以上にカッコいいと思わせるパワーを醸し出している。何にでも、誰にでもそういう瞬間があるものだ。最悪のオリジナリティより、素晴らしいイミテーションの方がいい。これは光に満ちた新種のロックンロールである。眩しさに目を細めてしまうような唄、なのだ。(余談であるが、これをアルバム・タイトルに使った「(今はまだ)人生を語らず」のジャケ写が僕は、数ある拓郎のレコード・ジャケの中でも一番気に入っていて、そこに写り込んでいたハイライトの箱が以降の僕が吸うタバコの銘柄を決定した、というのは紛れもない事実である。ちなみにキース・リチャーズの真似をしてマルボロを吸うロックンロール・バカより、拓郎の真似をしてハイライトを吸うフォーク・ソング狂いの方がコアでカッコいい、と僕は思っている。

「知識」
　稚拙な反逆、だがそれ以外にロックンロールの効用はない。稚拙な反逆は知識の天敵でもある。

「僕の唄はサヨナラだけ」
　今現在までを視野に入れても、これほど悲惨で誠実な別れの唄を作り得たアーティストを僕は他に知らない。このように別れを唄える拓郎はやはり天才なのだ、としか言い様がない。一つの計算もなく、計算されたものなど及びもつかぬような高みから、この張り裂けるような音楽は聴く者に突然襲い掛かって圧倒する。濃密なブラス・セクションと難解なリズム・アクセントが拓郎の絶叫と相まってキナ臭さに拍車を掛ける。第一夫人、四角佳子との確執を仔細に描いたシャレには成り得ないヒリヒリとした緊張感のある楽曲。これが発表される少し前に二人は離婚しているが、当時、深夜放送のパーソナリティをやっていた拓郎は番組のショッパナで突如「こんばんわ、吉田拓郎です、僕達は離婚することになりました。タクローのオールナイト・ニッポン、最終回です!!」とブチ上げ、ファンやマスコミの度肝を抜いた。

“二人でどこへ行っても／一人と一人じゃないか／ふれあいは言葉だと／口癖だね”

「贈り物」
　亡我的な陶酔、「僕の唄は～」にも通じる、自身や相手に対する憐れみの否定。つまり“演歌的な別れ”への決別。余計なものを剥ぎ取った後に残るある種の気持ち良さ、ということ。

「水無し川」
　拓郎は希代のメロディ・メーカーでもある。古き良き(?)和製ポップスから引き継いだと思われるメジャー、マイナーの入り交じった拓郎お得意のコード進行は、どれも湿ってはいるが大いなる覇気に満ちている。本作もいかにも拓郎らしい、メジャーなAメロ、マイナーなBメロ、入り交じったCメロという構成。作詞は“田舎から都会へ出て行く恋人”という定型を延々と使い回す流行作家、松本隆。その中でもこの唄が一番良い。松本は後に拓郎の「ローリング30」というアルバムのほとんど詞を手掛けているが当時拓郎はそのアルバムを評して「オレが松本を強姦して孕ませたような作品だ」などと言っている。が、2枚組にしてはイマイチ、という感も否めない。もちろん「爪」「白夜」「虹の魚」等、いいものもある。

「あの娘に逢えたら」
　この曲を含むアルバム「大いなる人」リリース時、拓郎はフォーライフ・レコード(フォーク界に群雄割拠していた拓郎、井上陽水、泉谷しげる、小室等の四人が出資して立ち上げた、アーティストの、アーティストによる、アーティストの為のレコード会社。初代社長は小室氏)の社長であった。要するに“街に棲む拓郎”はここに極まった訳だ。このアルバムもまた前作「人生を～」をも凌ぐ昔からの拓郎ファンの踏み絵として機能したと思われる。髪を切り、ジーンズを脱いでスーツを着こなし、白のエナメル靴の踵を踏む拓郎もまた一興か、と思えたファンのみが踏み留まった。決して藤竜也ではない、まったく新しい不良中年像の域にこの頃の拓郎は達していたのではないか。80年以降、[city]という、ややオシャレな街のイメージが巷に流布されたが、拓郎の唄うそれはもっと現実の、雑踏の街、[town]であろう。しかし見渡してみると[city]を唄った歌は数あれど、[town]をリアリスティックに描いた作品は少ない。クリスタル・キングは言うに及ばず、かのダウン・タウン・ブギウギ・バンドやクリエイションの唄う街でさえが架空の物語じみた、どこかよそよそしいものであった中で拓郎のこのような街の唄い方が、僕には“大人っぽく”思えたものだ。

「おいでよ」
　美しいバラッド。数ある拓郎のラブ・ソングの中でもかなりの秀作の部類であろう。中西康晴のピアノが気持ちいい。泣け。

「大いなる」
　質素なアレンジで展開される“大いなる”曲。拓郎の歌詞によく見受けられる“漢詩風”のキレが、この曲においては重要な位置を占めている。

「熱き想いを込めて」
　ロサンジェルスのシャングリラ・スタジオに旧友、岡本おさみと共に滞在し作詞と同時進行で制作された通算12枚目のアルバム「シャングリラ」の中の一曲。但し、僕がこのアルバムから選んだのは次の「街へ…」も含めて拓郎自身が作詞を手掛けたもので、2曲共が街を唄ったものだが、岡本はあくまでも旅の人であり、やはり街を描かせれば実際街の只中で暮らし、呼吸してきた拓郎に断然分があるのだ。もちろん、この久々のラインナップによる名曲も何曲かは生まれている。「熱き～」は外人スタジオ・ミュージシャンの早引きに乗って炸裂する独特の字余りソングが痛快な和風ロックンロール。よく、日本語は英語に比べてメロディーへのノリが悪いとか何とかいう話を聞くが、何故そんなことが問題になるのかさっぱり分からないし、まったく的外れなコンプレックスの様な気がしてならない。そんなのどーでもいいと思うのだが、これも僕が初期ロック体験において拓郎一色で育ってきた所以か。また、拓郎は自分の音楽のルーツはR&Bだと事あるごとに明言しているが、このアルバムには大御所、ブッカー・T・ジョーンズが参加しているのみならず、拓郎の往年のアイドルであったザ・バンドのリック・ダンコが何曲かでアコーディオンを弾いている。

「街へ…」
　名曲である。まさに80年代版「どうしてこんなに悲しいんだろう」とでもいうべき作品。劇的なイントロに続く映画のワン・シーンのような導入部から、70年安保闘争・学生運動の挫折が自身の青春時代や恋愛経験などとオーバー・ラップして語られ、軽い諦観と希望が交錯する。何度も言うが“このように”街を唄えるアーティストは拓郎以外には見当たらない。「シャングリラ」が発売されたのは僕が大学に入った春であったが、四十路となった今、改めてこの曲を聴いてみると尚、一層感慨深いものがある。

“時代を変えるのは常に青春で／老いた常識よりはるかに強く／例えば嵐に飲み込まれても／歴史はそれを見逃さないだろう ”

“あなたの人生はいかが?／若さはホロ苦いね／時には訪ねておいで／逢えたら笑顔で答えよう／変わってしまったのは／街だけではないはずさ”

「うの一夏／by高杉」
武田鉄也の坂本龍馬好きは有名であるが、その武田が自身で監督・主演した映画「ローニン」において、コンサート時に拓郎がオーディエンスに投げかける「いくぞぉーっ!!」という掛け声が、高杉普作をイメージさせるというので、拓郎を高杉役に抜擢したという話は有名。拓郎は高杉に興味はなかったらしいが、役づくりのために高杉に関する資料を読み漁っている内にその気になり、この歌を作ったらしい。この曲は映画「ローニン」とは関係ないが、焼け付く長州の夏のギラギラした雰囲気に満ちていて、海峡が見える気さえする。

裏窓／
吉田拓郎「挽歌を撃て」の著者・石原信一とのコラボレーションによって誕生した、後期拓郎の隠された名曲。拓郎の人とナリを知りつくしているからこそ提供できたと思われる石原氏の詞がまず、素晴らしい。野坂昭如が“深くて暗い河がある”としか表現し得なかった男と女の“隙間”に艶めかしくもザクザクと切り込んでくる詞の鮮烈さと、ミスター・ボー・ジャングル風ワルツのリズム＆コードの軽快さをもって、この曲は、90年代版「どうしてこんなに悲しいだろう」とでも言うべき覇気を放っている（80年代版「どうしてこんなに悲しいだろう」は言うまでもなく「街へ…」であった）。～朝目覚めて跳ぼうとすれば／ハダカの女がしがみつく～というヴァースの導入部分から～お前だけが形あるものよ／ものみな壊れ風吹く街で～というコーラスまで、新曲を耳にした時、拓郎の威に打たれる瞬間があるが、この曲はまさに数年に一度あるかないかのそれを実感させてくれた。ヒッチコックの「裏窓」の、仔細に構成された窓の中の一つに、朝っぱらからベッドで絡み合う一組の男女が見えるような気がした。

俺を許してくれ。／
ボブ・ディランさながらに抽象と具体を継ぎ接ぎにしながら、177.5cmの等身大の葛藤を綴ったこの曲は、拓郎後期の数少ない（失礼）名作の一つに数えられることだろう。打ち込みを多様したアレンジは、クール過ぎていただけないが、その点を差し引いても詩と楽曲の良さは際立っている。コーラス部分の2文節のコード進行の微妙な違いがファンの間で物議を醸していたことを思い出す。ちなみに後期の拓郎が打ち込みを多用していたという事実は、一時期シーンから孤立していた彼の特異なパーソナリティを垣間見せてくれる。「ひまわり」「うのひと夏by高杉」「ミスターK」等は打ち込み作品の中でも悪くなかったが、やはりどの曲も、生バンドで血を流すように演奏した方が興が乗るであろうことは想像に難くない。

虹の魚／
拓郎お得意の♭進行エンドの醍醐味が味わえる楽曲。アルバムで拓郎に強姦され、孕まされた松本隆の作詞であるが、その赤裸々な例えをナルホド、と納得させられる仕上がりとなっている。松本レベルではおそらく環境破壊云々を意識したエコロジカル・メッセージを込めたのかも知れないが、拓郎のメロディー、ボーカルの覇気はそんな邪心をとてつもなくチッポケに感じさせる程の躍動感をこの曲に付与している。「環境破壊?バカ言ってんじゃねえよ、破壊されかかってんのは他でもない、オレだぜ」とでも言わんばかりだ。ニジマスはまさにボロボロになった拓郎であり、“泳ぐ／しか／ない”という♭進行エンドは、泳げない拓郎の自嘲にも聞こえるが、それは底抜けのオプティミシズムとして鳴らされてしまう。全編を覆うエッジの尖ったアコギのカッティングが心地よい異色作。