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湯本高校野球部を追うコミュの夏の終わり

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 湯本は3回戦で田村に3−5と敗れた。目標としていた聖光学院戦を前にしての、思ってもみなかった敗戦だった。
 7月18日、平球場。その日は曇っていたが蒸し暑かった。試合は午前10時前に始まった。エースの芳賀智は快調に見えた。いつものように外角低めの直球を軸に、次々と三振を奪った。しかし4回ごろからフォームのダイナミックさが消え、ボールの威力がガクンと落ちた。
 試合も湯本ペースにはならなかった。4回に先制したがすぐ追いつかれ、5回に突き放して2−1とリードしたのも束の間、6回に3点を奪われて逆転を許した。勝負球を間違わなければ防げた失点だった。結局、芳賀は5回3分の2を投げて7つの三振を奪ったが9安打を許し、2年生左腕の椎名優にマウンドを譲った。翌日の新聞には「背番号1の重みを感じた夏だった」という談話が載った。 
 競り合いの重圧だろう。1、2回戦であれほど打った打線も沈黙した。相手投手の伸びのある直球と切れの鋭い落ちるスライダーに翻弄され、わずか5安打に抑え込まれた。ナインの心のなかには、一発勝負の怖さが刻み込まれた。
 相原は、ネット裏で見ていた。最後まで「何とかなる」と思っていただけに、負けた瞬間の気持ちは複雑だった。そして、この試合ほど、ベンチに入れないもどかしさを感じたことはなかった。

 思えば、昨年暮れに相原が湯本高校のグラウンドで教え始めたとき、チームは投手の配球によって守備位置を変えることさえしていなかった。真面目に練習はするのだが、何のための練習なのか、それを試合でどう生かすのかをきちんと理解してやっているのか、感じられなかった。まさに一からのスタートだった。
 ティー打撃、ゴロの取り方、ボールの投げ方、バントの仕方、守備のシフト…。基本を丁寧に教え、守備位置のコンバートを監督の清水にアドバイスした。清水はそれを聞き入れてチームづくりに生かした。まさに2人3脚で迎えた夏と言えた。
 グラウンドにはいつも、清水と相原の怒号が響き渡っていた。「ボールを呼び込め」「声が出てないぞ、聞こえない」「何回言えばわかるんだ」。そうしてうるさく言われ、戸惑いながらも、何とか食らいついてきたのが3年生たちだった。
 相原はミーティングをするたびに甲子園を意識させ、ただ口で言っているだけの甲子園出場を、具体的にどのレベルであれば夢をかたちにできるのか、繰り返し説いた。4強止まりのチームを決勝に導いて勝たせるには何が必要か、いつも行きつ戻りつの連続だった。それには、練習でやったことを、どれだけ徹底して試合でできるようになるのかがポイントだった。
 今年のチームは、練習でやったことを試合で試すことにも二の足を踏むようなところがあり、それが弱さといえた。より高いレベルをめざすために妥協を許さない相原イズムが浸透するには、もう少し時間が必要だったのかもしれない。でも、だれもが一生懸命だった。

 試合終了後、相原は「人生も野球もこれで終わりではない。要はこの経験をこれからどう生かすかだ」と言った。すると三年生一人ひとりが近づいてきて「相原先生、ご指導ありがとうございました」と心を込めて礼を言い、握手をした。相原の「野球はハートでやるんだ」という教えは、間違いなく生徒たちに伝わっていた。
 相原の脳裏にこの8カ月間のさまざまな出来事が蘇り、目頭が熱くなった。)

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