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小説を書いてみよう!コミュの短編小説「自殺狂想曲」

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 えー、一応短編小説です。
原稿用紙にしたら、三十枚も無いかな。
初めての投稿の割りに、タイトルが物騒ですが、中身はコメディタッチのつもりです。
感想、批評、大歓迎ですー。


「自殺狂想曲」

「・・・もう、いいよ」
まもなく定年までのラストスパートが始まる僕の上司は静かにそういった。もはや僕のほうも見ていない。
「はい」
僕は静かにそう言ってデスクに戻った。正直かなり堪えていた。
 今月に入って三度目の失敗。今回はかなり大掛かりになってしまった。入社して早三年が過ぎたが、僕は未だに功績を挙げられず、どちらかと言えば会社に損失を与えているような気がする。同期で入ったやつの中には、時期に昇進試験を受けようかと言うやつもいるのに。
「お疲れ様、あんまり気にしちゃ駄目よ」
隣に座っている古参のОL、古木勝代が慰めてくれたが、その言葉が耳に入らない程にへこんでいた。

 それでもどうにか一日を乗り切った。こんな日は早く帰るに限る。僕は足早に会社を後にして、駐車場に向かった。黒い軽自動車に乗り込み、キーを回してアクセルを軽く踏む。ゆっくりと走り出した車の中で、僕は何度もため息をついた。
 付き合って三年になる彼女がいるのが唯一の救いだ。大原麻美という名前で、僕よりは一つ年上だった。非常に活発でさっぱりとした性格をしていて、僕が結構ふがいないので、よく呆れられているが、なんだかんだで仲良くやれていると思う。僕が落ち込んだときにもそれなりに元気付けてくれる。
こんな日には是非とも元気付けてもらいたい。そう思った僕は、片手でハンドルを握ったまま、もう片方の手で携帯電話を操作し、僕は彼女に電話をかけた。いつもなら二,三回で繋がるはずなのだが、今日に限って十回待っても出る気配が無かった。最後にはとうとう留守電に繋がったので、僕は諦めて電源を切ろうとした。
隣で赤いランプが回っているのに気が付いたのはそのときだ。慌てて電話を切ってポケットにしまいながら横を見ると、嫌な笑顔を浮かべた警官と目が合った。

「駄目だよー、携帯電話使いながら運転しちゃ」
パトカーから降りてきた警官は、開口一番こう言った。
「危ないからねぇ。事故も増えてるし。はい、免許出して」
台詞とは裏腹に歪んだ笑みを浮かべる警官。馬鹿が引っかかったとでもいいたそうだ。
全面的にこっちが悪い手前、そうとも言えず僕は素直に免許を出した。
「はいはい、あれぇ、君ゴールドじゃない。もったいない、本当にもったいないねぇ。これにこりて、また頑張ってね」
本当に嬉しそうだ。警官はいそいそと切符を切り、僕に手渡して帰っていった。心の中に寒風が吹き荒れ、僕はしばらく動くことが出来なかった。その時、ポケットの中から振動。事の発端となった携帯電話だ。八つ当たり気味に乱暴に取り出してみると、ディスプレイに麻美の名前が出ていた。慌てて通話ボタンを押し、耳に当てる。
「もしもし、俊介?」
「ああ、そう。あのさ、今日・・・」
「ごめんね、今、友達と遊んでいるの。また後でね。バイバイ」
プツッ、ツーツーツー。切れた。僕の手から携帯電話が擦り落ちた。それを握り直す気力も出てこない。携帯電話が車の床に落ちるのと、僕がシートに体を倒すのは同時だった。

 どれぐらい時が流れたのだろう。車の天井を見つめたままで僕は動けずにいた。
「・・・死のう」
 僕の口から呟きが漏れた。何もかもが嫌になった。上司は僕が嫌いなんだ。古木さんは僕を慰めながら蔑んでいるんだ。警官は僕を馬鹿にしていたんだ。彼女は浮気しているんだ。僕の頭の中をぐるぐるとそんな考えが駆け巡る。どう考えても死ぬしかない。死こそベストな選択だ。
「よし、死のう」
僕はもう一度呟いた。確実な決心が心に宿った気がした。
 どう死のう。どう死んだら奴らに打撃を与えられる?死に際の一太刀、いたちの最後っ屁を食らわせてやるのだ。僕の頭の中でぐるぐると計画が駆け巡った。
 交通事故?それは論外。確実に死ねるかどうかも怪しいし、事故扱いじゃ駄目だ。自殺だ、追い込んだ奴らを後悔させなければ。一生物のトラウマをプレゼントしなければ。
 遺書だ。遺書は絶対に要るだろう。つらつらと書くか?それともインパクトのある一言を残すか?誰にどんな仕打ちを受けてどれほど僕が傷ついたか。それを表すのが良かろう。特にさっきの警官や麻美の所は便箋三枚ぐらい使ってやる。いやいや、僕の字は汚すぎる。自殺とはいえ、ある程度の美学は必要だ。汚い死に様は見せたくない。こんなときこそパソコンだ。プリンターは無いけれど、画面に移った遺書というのは良さそうだ。テレビドラマでも良くやっている。確か、殺人を自殺に見せかけるときにあったな・・・。駄目だ。他殺だと思われたらお終いだ。それじゃあまるで僕が人様から恨みを買う人間だったと思われてしまう。それはいかん。いやいやいや、まてよ・・・。殺人だと思わせるのも手かもしれない。麻美だ。麻美がやったように見せかければいい。一瞬でもそう思わせて、新聞にでも書かれれば締めたものだ。一度落ちた社会的地位はなかなか元には戻るまい。
 しかし待てよ。麻美一人を恨んでいるわけではないから、これは拙いかもしれない。一度しかないチャンスだから、よく考えねば。全員を程よくやっつける方法だ。殺人見せ掛け作戦は悪くないが、対象が絞られるのがいただけない。やはり遺書あり自殺作戦が良さそうだ。麻美とは無関係の人間への恨みが書かれてあれば、警察も信用するだろう。
 とにかく一度家に帰らねば。僕はアクセルを踏み込み、車を発進させた。
 三十分ほどで帰り着いた我が家。安い賃貸アパートだが、今はミサイルの発射基地にでも見えてくる。ここから発射されたミサイルが四人の人間を破滅に導くかと思うと気分が良い。場所は部屋の中が良かろう。そう言えば、死ぬ方法を決めていなかった。
 首吊り自殺は・・・安普請だから無理かもしれない。首にかけたとたん屋根が抜けても嫌だしな。リストカット・・・は無理だ。僕は血が苦手だから。自分の血を見て吐いてしまうかもしれない。汚物まみれの死体にはなりたくないなぁ。飛び降り・・・ても死ねないかも。二回だし、庭みたいなのが下にあるからそんなに硬くない。アスファルトまでは若干距離がある。運動音痴の僕ではとても飛べそうに無かった。だいたい、すみやかに死に損ねて痛い思いをするのも嫌だし。九階ぐらいから落下しても生きていた人もいるぐらいだ。二階なんて駄目駄目。ガス・・・臭気で隣に気付かれるし、警報機からガス会社に連絡がいったら、それこそ死ぬ前に発見されるかも。たんなる死にぞこないは空しいな。止めておこう。睡眠薬・・・。それがいいかもしれない。その程度の薬なら常備薬の中に入っているし、眠るように死ぬなんて、ちょっとロマンチックだ。
 調度死ぬ方法を見つけたところで、僕は部屋の前に着いた。古い木製のドアだ。僕は鍵穴に鍵を差し込んでドアを開けた。ここがいよいよ戦略基地兼爆心地となるのだ。後悔しろ、俺を馬鹿にした奴等。
 僕は部屋の中に入り、鍵を閉めた。万が一にでも誰かに悟られるわけには行かない。速やかにパソコンを起動させ、部屋着に着替え、コタツに潜り込んだ。スイッチを入れたばかりなので中は冷たいけど、すぐに暖かくなるだろう。
 文章作成ソフトを呼び出し、早速僕は一行目に取り掛かった。まずはタイトルだ。「遺書」と打ち込んだ。うん、わかりやすい。
そこで、ふと僕は思い出した。そう言えば、このパソコンにはウェブから拾ってきたエッチな画像が沢山入っている。そんなものをさすがに見られるわけには行かない。お気に入りの娘もいたが、ここは消さねばなるまい。僕はエッチ画像の入っているファイルを、それごとゴミ箱に移動させた。さらば、そして今までありがとう。
 一応、他にやばいファイルが無いか調べておく。ゲームの類も一応消しておこう。どんな邪推をされるか分かったものではない。そういう意味では、この壁紙集も消してしまったほうがいいだろう。アイドルものだが、そっち系のオタクだなどと思われては目も当てられない。
 そうやって考えてみると、いろいろと見つかると良くないものが思い当たってきた。部屋の押入れの中だ。エロ本、AV、アニメのビデオ。本棚に目を移すと少女漫画が目に入った。これも、世の一般男性は持っていないだろう。アニメ化されたマンガも結構ある。アニメオタクだと思われたら、親がかわいそうだ。壁のポスターもマイナーなアイドルの水着写真だ。これも捨てたほうが良くは無いか?とにかく、僕がいたって普通の男だと思われなくてはいけない。有終の美を飾るには、この部屋にあるものはあまりにも邪魔になるものばかりだった。
 売れるものは今から売りに行こう。まだ古本屋は空いているし、ゲームショップも空いているだろう。売れないものは捨てよう。捨てる勇気。それが大事だ。人生の一大イベント、手抜きは許されない。
 それにしても、なんて散らかった部屋だろう。発見者はどう思うだろう。引きこもりの末に自殺、とか思わないだろうか?せっかく物の整理をすることだ。ついでに掃除をしてしまおう。発つ鳥跡を濁さずっていうしな。まあ、死体がある時点で濁りまくりだと思うけど。このあたりは気分的な、というか自己満足だけど。

「今回、お買取させて頂きました分、全て合わせまして一万三千四百円になります。よろしかったでしょうか?」
 古本屋の店員がにこやかにそういった。紙袋三つ分の漫画とビデオは大した金額に化けた。先に立ち寄ったゲーム屋でゲームを売り払ったときに八千円になったから、あわせて二万円以上の金が入ってきたことになる。元はもちろんもっと高かったけど、散々読んだり遊んだりした分だ。元は取れているだろう。
 僕は受け取ったお金を財布に入れて店を出た。結局片付けに二時間以上かかり、売り払うものを詰め込んだ紙袋は四つになった。それを車に積み込むころには八時を回っていた。今は九時近くになっている。それでも部屋は綺麗になったし、見られて危なっかしいものは処分した。いつでも死ねると言うものだ。
 一仕事終わらせたせいだろうか、ふと気がつくと腹が減っていた。そういえば、まだ夕飯を食べていない。これから死ぬと言うのに、我が胃袋は逞しい物だ。まあ、臨時収入もあったことだし、最後の晩餐は豪勢に行くとしよう。
 僕は、以前から気になっていたイタリア料理店に車を走らせた。本来なら一人で入る様な店ではないのかもしれないが、今更一つや二つ、非常識なことをしても構うまい。もうすぐ最大級に非常識なことをするのだから。

 町から少し外れたところにあるこじゃれた店。「ネーロ」と書かれた看板が出ている。イタリア語なのかな?僕には良くわからなかった。石を積み上げたような壁と、重そうな木製のドアがなんともいえない雰囲気を醸し出している。メニューが店先に出ていたので、一応目を通してみた。
「ディナー・コース・・・一万二千円」
なかなかのお値段である。相場的にはどうなのだろうか?こういうおしゃれな店はあまり来ないので、イマイチ相場が分からない。とりあえず、今、財布の中にある金なら充分に足りるようなので、僕は意を決してドアを開けた。
「いらっしゃいませ」
女性の店員が出てきて出迎えてくれた。外から見ていたときの印象どおり、洒落た内装の店だった。普段着で来ている僕は何となく場違いだ。
「お一人様ですか?」
「はい」
僕は勤めて堂々と答えた。
「こちらにどうぞ」
女性の店員はいぶかしむ様子もなく、僕を窓際の席に案内してくれた。
「ご注文がお決まりになりましたら、声をおかけください」
メニューをテーブルの上におきながら、店員はそういった。それから軽く会釈をしてテーブルからはなれていった。
 時間も遅いせいで、客は僕一人のようだった。貸切のようなこの雰囲気は悪くない。料理が来るまでの間に、遺書の文面を考えておこう。まあ、時間なんていくらでもあるのだけど、眠気で遺書の文章がでたらめになるといけないからな。
 出だしは・・・「お父さん、お母さん、ごめんなさい」だな。何はともあれ親には謝っておかないと。今は生活体系も別れてしまったといえ、僕を生み、育ててくれた人たちだ。多分悲しむだろうな。顔を見れば孫が見たいといっていたお袋の夢は、一生叶わなくなるわけだ。
 ふと、我に返り、僕は窓の外を見た。少し高いところにあるらしく、遠くに町の明かりが見えていた。百万ドルとは行かないが、なかなか綺麗な景色だと思う。そういえば、麻美をこんなところに連れてきてやったことが無いな。僕一人だけ食べるなんて申し訳ないなぁ。大体、あいつが浮気した証拠もないし、僕の思い込みだろう。
 なんだか心が落ち着いてしまった。時間が経ちすぎたかな?
「ごめんなさい、料理キャンセル」
僕は女性の店員にそう言って、足早に店を後にした。
それにしても、一時的な衝動でいろいろとやってしまった。漫画もゲームもエッチビデオも、全て処分してしまった。うう、劣情に身を任せるとろくなことが無いな・・・。車のハンドルを握りながら、僕はひとしきり後悔した。

アパートの駐車場に車を止め、やるせない気持ちを抱えたままに僕は車を降りた。どうしてこうも中途半端なのか。勢いで死ねればよかったのに、いろいろと考えているうちに結局冷静に戻ってしまった。失ったものは大きく、得るものは何も無かった。
階段を上がり、アパートの二階の廊下を歩いていると、うちの前に誰かが立っていた。
「こんばんは。さっきはごめんね」
麻美だった。
「麻美・・・どうしたの?」
友達と一緒にいたのではなかったのか?
「うん、友達とは八時ぐらいに別れたの。ちょっと買い物に行ってただけだから。で、電話したけど出てくれないし、怒ってるかなと思ってさ」
麻美の言葉を聞いて、僕は携帯電話を置きっぱなしで出かけていたことに気がついた。八時にどこで別れたのかは知らないが、一時間以上はここで待っていてくれたことになる。
「ごめんな、出かけてたんだ」
嘘をつくことに多少の後ろめたさはあったけど、まさか自殺の準備をしていたともいえず、僕はそう言ってごまかした。
「ううん、連絡がつかないのに、来ちゃったのは私だから」
麻美の殊勝な言葉に、僕は恥ずかしさでいっぱいになった。
「何か、聞いて欲しいことがあったんでしょ?ごめんね」
「いや、全然・・・。とにかく、中に入ろうよ」
「あ、うん、そうだね」
麻美は僕の言葉でドアの前から体を動かしてくれた。僕はドアの前に立って、ポケットの中から鍵を取り出して、鍵を開けた。
 その僕の背中に軽い衝撃。首を回してみると、麻美が寄りかかっていた。
「麻美?」
「良かった。嫌われたかと思っちゃった」
 僕はもう、穴があったら入りたいぐらいに恥ずかしかった。勝手に麻美を疑って、勝手に自殺しようとして・・・情け無い。

 「へえ、片付けたんだね」
 部屋に入って、麻美は驚いたようだった。確かに激変したからな。
「嬉しいな。ポスターとかも全部剥がして、凄く綺麗になったね」
 そう言う麻美の顔は、本当に嬉しそうだった。まあ、そういう点から言えば、あながち片付けも悪くなかったのかもしれない。
「あれ?パソコンつけっぱなし」
「ああ、出かけるときに消し忘れたかな?」
 キッチンでお茶を入れながら、僕は何の気なしに返事をした。
「切っとくね」
 本当に上機嫌な口ぶりだった。それが僕も嬉しくて、さっきまでの恥ずかしさと共に大事なことを忘れていた。
「・・・あれ、何か書きかけ?」
「あっ!!」
痛恨のミステイク。気付いたときには時、既に遅し。冷たい怒りの気配が部屋のほうからキッチンにゆっくりと流れ込んできた。
「ねえ・・・何これ?」
麻美の持つノートパソコンに出ていたのは、もちろんさっき書いた「遺書」の文字。
「・・・身辺整理ってわけ?」
とっさに言い訳を考えたが、思いつかなかった。僕は観念した。
「こんの、大馬鹿野郎ーー!!」
怒声が響き渡り、頬に信じられない衝撃が走った。渾身の平手打ちを喰らったらしい。目から火が出るかと思った。
「死ぬ度胸があるなら、他にやることがあるでしょうが!!ほんとに、信じられない馬鹿なんだから。今日という今日は、徹底的に言わせて貰うからね」
 さっきまでの笑顔はどこへやら、そこには鬼神と化した麻美がいた。

 それからたっぷり二時間以上に渡り、僕は正座させられたままで怒鳴られることになったのだった。それでも、少なくとも麻美は僕を好きでいてくれていたことが分かって、怯えながらもちょっと嬉しかった。

                                  了

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