ナチス・ドイツ空軍コミュのHs293

　Hs293は、ドイツ軍が開発した世界初の動力付き誘導爆弾で、現在の空対艦・空対地ミサイルの始祖と言える兵器ですが、動力を持たない滑空誘導弾FritzX《http://mixi.jp/view_diary.pl?id=1860188233&owner_id=250900》と混同される場合が多く、実際の戦果についても、終戦時にドイツ軍の資料が処分されてしまったため、どちらによるものか判別困難なケースが多いのが実情です。
　1939年９月、強大な艦隊を有する大英帝國との交戦状態に入ったドイツ第三帝國は、海軍力の不備を空軍の対艦攻撃で補うしかない情況に追い込まれました。このため、航空省技術局長エルンスト=ウーデット空軍中将は、航空魚雷のような肉薄攻撃を必要とせず、遠隔操作によって艦船を撃沈可能な兵器の開発をヘンシェル社に依頼したのです。
　これを受けて同社のヘルベルト=ヴァーグナー博士は、小型機の機体下部に過酸化水素を使用する液体ロケットエンジンを装備し、母機より投下した後、無線誘導により目標に到達命中させる兵器の設計を始めました。
　1940年春にはグライダーの形をした試験モデルが製作されましたが、ロケットモーターの開発が遅れていたため、取り合えず標準兵装であるSc500爆弾に主翼と尾翼を取り付けて開発が進められました。但し、この時点では方向舵が取り付けられておらず、滑空実験に近かったようです。
　その後、推進装置の完成を受けて、それを取り付けた最初の型が1941年11月に量産開始され、1943年８月にHs293Aの名で実戦配備されました。
　Hs293Aの要目は以下の通りです。
・全長:3.58ｍ
・全幅:3.14ｍ
・直径:0.48ｍ
・重量:785kg
・翼面積:1.98㎡
・推進装置:ヴァルター109-507Bロケットモーター(推力5.88kN)
・最大速度:725 km/h[4]
・射程:16km
・爆薬:330kg

　Hs293AのロケットはT剤およびZ剤を燃料とする液体燃料ロケット(ヴァルター機関)で、18チャンネルの周波数で誘導する事が可能でした。アメリカ軍が開発したAZONがわずか５チャンネルしかもっていなかった事からすれば、この兵器が如何に先進的だったかが判ります。
　戦場へは母機に吊り下げられて運ばれ、高高度で投下されます。母機からはHs293が凍結するのを防ぐために加熱空気が送られます。高度1400ｍで投下した場合、最大到達距離は３kmとされ、誘導方式は目視方式です。母機は投下後に目標に対して設定された一定のコースを飛行し続け、この間に照準手はミサイルを目視で追尾、小型の操縦桿(ジョイスティック)が付いた制御ボックスを使って誘導します。このとき目視の助けをする赤いフレアーがHs293から出ており、それを参考にして目標まで到達させるのです。
　母機についてはHe177やDo217が使われましたが、それぞれ搭載可能なように改造されており、Do217ではDo217E-5やDo217K-3、派生型試作機であるDo317をさらに改良したDo217Rがあｔりました。
　He177では、He177A-3/R3が代表型ですが、He177A-5タイプにも搭載可能に改造されたものがあります。
　外にもHe111を元にしたHe111H-12型や、計画のみに終わったHe111Z-2のほか、Fw200の改良型であるFw200C-8も搭載能力を有していました。また、型は未確認ですがDo17でも搭載可能に改造されていた機体が存在したとする資料もあります。
　Hs293Aの実戦初参加は1943年８月25日でした。この日、ビスケー湾で対Ｕボート哨戒をしていた英海軍第40支援戦隊のショアハム級スループ艦バイドフォード(基準排水量1105ｔ)にHs293Aが命中しましたが、不発弾だったため小破させたに留まりました。
　続いて、同月27日、第18爆撃航空団のDo217がビスケー湾に出撃して３発のHs293Aを発射、英海軍第１支援戦隊のイーグレット級スループ艦イーグレット(基準排水量1200ｔ)を撃沈、第40支援戦隊のカナダ海軍トライヴァル級駆逐艦アサバスカン(基準排水量1850ｔ)を大破する戦果を挙げ、イーグレットでは198人、アサバスカンでは194人の戦死者が出ました。もう一発は第40支援戦隊の英海軍Ｕ級駆逐艦グレンヴィル(基準排水量1777ｔ)を狙いましたが外れています。
　さらに同年９月14日のイタリア戦艦ローマ(基準排水量41650ｔ)撃沈、９月11日の米軽巡洋艦サヴァンナ(基準排水量9700ｔ)中破、９月16日の英戦艦ウォースパイト(基準排水量33410ｔ)大破もHs293Aの戦果だとする説がありますが、徹甲弾でない通常爆風爆弾Sc500を用いたHs293Aは装甲貫通力が低く、命中しても戦艦の甲板を貫通出来ない筈で、ローマとウォースパイトへの命中弾はFritzXだった可能性が濃厚です。一方、サヴァンナは中破に留まっており、被弾の瞬間の写真を見ても、着弾と同時に爆発してる感じで、Hs293Aの戦果の可能性が強そうです。
　以後、Hs293Aは終戦までに1900個が生産され、連合国艦隊に多大な損害を与えました。ドイツ空軍の撃沈した艦船の実に40％は、このHs293Aによるものと言われ、戦果は440000ｔに及ぶとされていますが、FritzXとの戦果区別が難しい以上、この数字は余り意味を持ちませんね。対地任務では、1945年初頭にソ連軍の進撃を阻止するため、オーデル河の橋を一撃で破壊した例があります。　
　実写映像です。

　こちらはイメージ画像。

　Hs293は連合軍艦船に対して一定の戦果を挙げたものの、貫徹力が低くて対艦攻撃に威力不足であったほか、運用上の数多くの問題点も明らかになりました。
　まず第一に、母機が誘導のために一定のコースを直線飛行する必要があるので、対空砲火に捉えられ易くなってしまいます。
　次に、ミサイル氷結問題の根本的解決が出来ておらず、母機から加熱空気を送る程度では氷結を完全に防止する事は困難でした。
　また、敵艦の艦体下部を狙ってHs293が水中に入ると、多くの場合軌道が変わってしまい、命中率が極端に低下してしまいました。
　これらの問題解決のためドイツ空軍は以下のような派生型の開発を進めましたが、何れも終戦に間に合いませんでした。
・Hs293D:テレビ照準装置型。生産開始前に終戦。
・Hs293F:翼をデルタ翼に変えたタイプ。計画のみ。
・Hs294A:形状を大幅に変えた無線誘導式準派生型。実戦投入前に終戦。
・Hs294B:Hs294Aのワイヤリンク制御版。実戦投入前に終戦。
・Hs294D: テレビ照準装置型。開発中に終戦。

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