ヘルムート=ヨハンネス=ジークフリート=レントはルフトヴァッフェの夜間戦闘機隊エースとして知られる人物です。彼の撃墜スコア113機は戦闘機パイロット全体では81位の成績に過ぎませんが、夜間戦闘機隊エースとしてはハインツ=ヴォルフガング=シュナウファー少佐の121機に次ぐ第２位の戦績です。なお、113機のうち10機は昼間戦闘に於けるスコアになります。
ヘルムートは第一次世界大戦最末期の1918年６月13日、プロイセン王国ブランデンブルク州ランツベルク=アン=デア=ヴェルテ郡(現ポーランド共和国ルブシュ県)のピレーネ(現ピルザニ)に於いてルター派牧師であるヨハンネス=レントとマリー=エリザベス(旧姓ブラウネ)の三男として生まれました。兄にヴェルナーとヨアヒム、姉にカーテとウルスラがいます。レント家は熱狂的なルター派信者で、ヘルムートの父方の祖父も母方の祖父もルター派牧師であり、二人の兄も牧師になりました。即ち、父はヘルムート少年にも牧師になって欲しいと願っていたんですが、ヘルムート少年は聖書には興味を示さず、幼い頃はグライダー飛行に興味津々でした。
ヘルムート少年は1924年４月に地元ピレネーの公立小学校に入学、父と長兄ヴェルナーがヘルムート少年の家庭教師を務め、1928年に小学校を卒業したヘルムート少年はプロイセン州ランツベルグの公立ギムナジウム(８年制)の入試試験に合格しました。
1933年１月にヒトラー内閣が成立した翌月、ヘルムート少年はヒトラーユーゲントの年少者向け下部組織であるユングフォルクへ入ります。1933年３月から、ヘルムート少年は少年団の指導者であるユングフューラーとなり、旗持ち役を務めますが、1935年４月１日にアビトゥーア(大学入学資格試験)受験対策のためにユングフォルクを退団、同年12月12日に17歳でアビトゥーアに合格しました。
1936年２月からヘルムート少年は国家労働奉仕団で８週間の奉仕義務を果たします。父はヘルムート少年に大学神学部へ進学する事を望んでいましたが、ユングフォルクでナチズムへの憧憬を強めていたヘルムート少年は父の勧めを振り切って同年４月１日に空軍航空士官学校に入学、三等士官候補生(Cadet)となったのです。
1936年４月21日、レント候補生は国家社会主義者として総統への忠誠宣誓を行いました。レント候補生が飛行訓練に用いたのは複葉機のHe72カデットでした。同年９月15日、レント候補生はFw44スティグリッツで初めての単独飛行をしましたが、この時までに彼は63回の飛行をしていました。
飛行訓練と平行して、レント候補生はオートバイや自動車の運転も学びましたが、その実習中に事故に巻き込まれ、上肢に重傷を負って５ヶ月もの間、空を飛ぶ事が出来なくなってしまいました。
しかし、大量のパイロット養成を必要としていたルフトヴァッフェは追加試験を行う配慮を成し、1937年４月１日にレント候補生は二等士官候補生(Ensign)になる事が出来ました。
同年10月19日にレント二等見習士官は飛行訓練を完了、同年11月15日に操縦士資格を獲得しました。1938年２月１日には一等士官候補生(Senior Ensign)に昇進、オーストリア併合直前の同年３月１日には少尉任官を果たしています。この時までに、彼は８種類の飛行機で434回のフライトを熟しており、飛行時間は112時間48分に登りましたが、これは主に日中のフライトで、訓練は単発機のみで行われていました。
一方、レント少尉の二人の兄ヴェルナーとヨアヒムは、当時ゲシュタポから目を付けられる厄介者になっていました。二人はマーティン=ニーメラー牧師によって導かれていた告白教会の成員でしたが、第三帝國がドイツにあるプロテスタントの教会をナチス化しようとしている事に対し、告白教会は頑なに反発していたのです。特にアーリア人種至上主義には強く反対する立場で、ナチス化されたドイツ福音主義教会を異端だと弾劾するバーメン宣言を出すなど、告白教会は露骨な反政府活動を行っていたのです。この結果、ヴェルナー牧師は反ナチスの訓話を述べた事で1937年に逮捕されてしまいました。
しかし、ユングフューラーの経歴を持つレント少尉は真の国家社会主義者と認めらており、兄の逮捕はレント少尉の出世には響きませんでした。
レント少尉は航空士官学校卒業後、ポンメルン大管区トゥットウにある重爆撃機パイロット養成学校(Große Kampffliegerschule)へ配属され、偵察士として1938年５月30日まで３ヶ月の訓練に身を置きましたが、この課程を修了する直前にレント少尉は又もや交通事故に遭遇、自動車に轢かれて下顎を骨折し、脳震盪と内出血も起こしてしまいました。
幸い今回は軽傷で済んだため、同年７月１日、レント少尉は帝都南方のクーアマルク大管区ラングスドルフ市に配置された第132戦闘航空団リヒトホーフェンの第３飛行隊第７中隊に配属されました。負傷からの復帰後の初フライトは７月19日です。
同年９月初頭、レント少尉の属する第７中隊はザクセン大管区ドレスデン市に近いグローセンハインに進出しました。当時、欧州情勢はズデーテン問題を巡って風雲急を告げており、対チェコスロバキア侵攻計画たるグリューン作戦発動に備えての措置で、レント少尉は何度もチェコ国境の警戒飛行任務に従事しましたが、ミュンヘン会談によってズデーテン問題が解決したため、９月29日に第７中隊は再びラングスドルフに復帰しました。
従来、第３飛行隊の機体は複葉機でしたが、ラングスドルフ復帰後は全金属引込脚低翼単葉機であるBf108タイフーンに切り替えられて行きました。但し、この機体は非武装の連絡機です。
1938年11月１日、第132戦闘航空団は帝都とフランクフルトアンデアオーデルの中間に位置するクーアマルク大管区フュルステンバルデに移され、第141戦闘航空団と改名されました。レント少尉の所属は第２飛行隊第６中隊です。
1939年５月１日、第141戦闘航空団はベーメンメーレン保護区(チェコ)のオロモウツに移され、第76駆逐航空団と改名、双発三座の重戦闘機Bf110への機種転換が行われました。レント少尉は第１飛行隊(隊長；ギュンター=ライネッケ大尉)第１中隊に所属、５月12日に大型空軍機操縦士(Erweiterter Luftwaffen-Flugzeugführerschein)証明試験に合格して、双発エンジンの航空機に熟達していると言う事が認められました。なお、当時のドイツ空軍ではBf110を主力戦闘機と考えており、駆逐航空団には最も技量の優れた最精鋭が集められていましたが、機数が充分に揃わなかったため、第76駆逐航空団は２個飛行隊のみからなり、司令も空席でした。
レント少尉が初めてBf110で飛んだのは同年６月７日で、機体番号はM8+AHとされましたが、ルフトヴァッフェは急激な拡張で人員不足が深刻だったため、後部座席の無線手兼飛行射手が容易に見つからず、三座機でありながら一人で飛ぶ事を余儀無くされていたのです。後部要員のヴァルター=クービッシュ上等兵が配属されたのは、第二次世界大戦勃発直前の1939年８月14日で、二人は生涯のコンビとなります。なお、当時は他のBf110も中央部座席は空席になっていました。
1939年８月25日、対ポーランド侵攻計画ヴァイス作戦の準備が本格化すると、第４航空軍(軍司令官；アレクサンダー=レール航空兵大将)に所属した第76駆逐航空団はポーランド共和国ヴロツワフ市の南東にあるベーメンメーレン保護区オストラヴァに配備されました。
同年９月１日金曜日0445時、ヴァイス作戦が発動されましたが、第76駆逐航空団はクラクフ市空爆に向かうHe111から成る第４爆撃航空団の護衛任務に当たり、レント少尉は0444時にオストラヴァを離陸、無事に護衛任務を果たしました。同月２日1630時、レント少尉はウッチ上空でポーランド戦闘機P.11を屠り、初撃墜を記録しました。
程無くポーランド空軍が壊滅したため、第76駆逐航空団は南方軍集団(司令官；ゲルト=フォン=ルントシュテット上級大将)第14軍(軍司令官；ヴィルヘルム=リスト上級大将)の直協任務に当たる事となり、爆装して地上攻撃を行いました。９月５日には地上の双発単葉機、９日にはやはり地上のP.24を破壊しています。
９月12日にレント少尉機はポーランド戦闘機の攻撃を受けて、右エンジンに被弾しましたが、そのままドイツ戦線の後方に不時着、負傷する事もありませんでした。
レント少尉はポーランド戦で五つ以上の作戦任務に加わり、１門の対空砲を破壊、９月21日に第二級鉄十字章を受章しました。
ポーランド戦が終了すると、９月29日に第76駆逐航空団はフランス国境の第３航空軍(軍司令官；フーゴ=シュペルレ上級大将)に転属となり、ヴュルテンベルクホーエンツォレルン大管区シュトゥットガルト市に配置されました。しかし、フランス軍との本格的空戦は起こらないまま12月16日には第２航空軍(軍司令官；アルベルト=ケッセルリンク上級大将)に転属となってヴェーゼルエムス大管区イェファーに移動、英軍の空襲に備えました。
その直後の12月18日、英国空軍がヴェーゼルエムス大管区のヴィルヘルムスハーフェン軍港へ24機のビッカース=ウェリントン双発爆撃機から成る３個飛行中隊を差し向けました。東フリースラント諸島のフレイアレーダーによって敵機接近を知ったケッセルリンク上級大将は第76駆逐航空団に邀撃を指令、レント少尉はボーフムの海岸上空で３機のウェリントンを撃墜したと主張し、そのうち浅瀬に墜落していた２機がレント少尉の撃墜として公式認定されました。なお、近くの砂丘に落ちていた機体がレント少尉の主張する３機目であった可能性が高いと思われます。
このレント少尉の活躍と端麗な容姿は宣伝大臣ヨーゼフ=ゲッベルス博士の目に留まり、宣伝省は海軍艦艇を空襲から守った空の英雄としてレント少尉を派手に取り上げたため、彼の下には若い女性からのファンレターが殺到する事となりました。レント少尉はそのうちの一人で当時25歳だったエリザベート=ピーターセンの手紙に感銘を受けて返事を書き、やがて二人はハンブルク市のホテルで逢引を楽しむに至りました。二人は1940年２月にはシュタイエルマルク帝國大管区ヒルシェグに於いてスキーを楽しんでいます。ところが、実はエリザベート=ピーターセンとは偽名で、彼女の本名はエレーナ=セノコスニコワ、1914年４月にモスクワで生まれた白系ロシア人だったのです。ヒトラー総統はスラヴ人を劣等人種として侮蔑していましたから、独ソ不可侵条約があるとは言え、彼女はその身元が暴かれることを恐れていました。しかし、レント少尉は全てを承知で彼女との結婚を前提とした交際を続けました。
1940年４月８日、第76駆逐航空団は北欧侵攻作戦“ヴェーザーユーブンク”発動前日にイェファーからシリト島のヴェーザーラントに展開されて出撃に備えました。作戦計画ではノルウェーの首都オスロと南北６ヶ所の主な港湾都市へ攻撃を仕掛けると同時に、オスロのフォルネブ飛行場を確保するためJu52輸送機が９日0845時に降下猟兵部隊を投下、その20分後には後続部隊を乗せた別のJu52が到着する予定になっていました。第76駆逐航空団はその双方を支援する任務を負っており、フォルネブへの降下猟兵投下と同時刻になるよう、第１飛行隊(隊長；ヴェルナー=ハンセン大尉)の８機が0700時に出撃しました。レント少尉は２機から成る小隊長です。しかし、Bf110はヴェーザーラントとフォルネブを往復するだけの航続能力を持っておらず、この計画は飛行場奪取に失敗した場合、帰還が不可能となる片道特攻作戦だったのです。
フォルネブへ向った第１中隊は、ノルウェー空軍ののグロスター=グラディエーター複葉戦闘機と交戦し、レント少尉機は敵１機撃墜に成功しています。降下猟兵部隊を輸送するJu52が激しい攻撃を受けながら飛行する一方で、レント少尉の小隊も敵地上部隊と交戦していましたが、レント機は右エンジンに被弾して不時着を余儀なくされてしまいした。レント少尉は可動式の後部機関銃を取り外して抱えたクービッシュ上等兵と共に、ノルウェー陸軍部隊と条件付降伏の交渉を始めましたが、その間にフォルネブ飛行場はドイツ降下猟兵によって制圧され、レント少尉は捕虜になる事を免れました。そして第１中隊はフォルネブ飛行場に着陸して燃料補給を行いました。
同日18時50分、英国空軍来襲の報を受けた第１飛行隊はフォルネブから邀撃のために離陸、レント少尉も別のBf110を与えられて出撃し、英第210飛行隊のショート=サンダーランド飛行艇と交戦しましたが、この時は戦果を挙げられませんでした。
同年４月12日、第76駆逐航空団は北欧戦域管轄のために新設された第５航空軍(司令官；エアハルト=ミルヒ上級大将)に移管され、４月15日にはヴァルター=グラブマン少将が航空団司令として赴任して来ました。通常、航空団司令は佐官が務めるポストですから、第76駆逐航空団が如何にエリート部隊として期待されていたかが判ります。
レント少尉は1940年５月13日に第一級鉄十字章を受け、その直後ノルウェー中部のトロンハイムへ移動しています。５月27日、レント少尉は英空軍第263飛行隊のグラディエーターを撃墜、これで公式スコアが５機に達してエースの称号を獲得したレント少尉は６月２日にグラディエーター、６月15日にはブリストル=ブレニム攻撃機も葬り、７月１日に中尉に昇格しました。
同年８月15日、第76駆逐航空団の21機のBf110がノルウェーからヨークシャーとニューカッスルへの空爆に向うHe111爆撃機の護衛任務のため出撃、レント中尉も作戦に参加しましたが、第76駆逐航空団は第３飛行隊長機を含む７機を失う大損害を受けてしまいました。レント中尉がバトルオヴブリテンに参加したのはこの一回の出撃のみで、戦果を挙げる事は出来ませんでした。
さて、ルフトヴァッフェが最精鋭主力戦闘機と位置付けていたBf110ですが、バトルオヴブリテンに於いては双発機故に機動力に欠ける弱点が露呈、スーパーマリン=スピットファイアやホーカー=ハリケーン等の英軍単発戦闘機に一方的に屠られ、戦闘機でありながら単発戦闘機のBf109の護衛を受けねばならぬ体たらくで、多くの俊英パイロットが無為に散華して行きました。この結果、Bf110は役立たずの屑鉄と見做されるに至ってしまいました。
一方、1940年６月頃から英国空軍によるドイツ本土空襲が本格化し、ルフトヴァッフェはDo17双発爆撃機を改造した“カウツ”を夜間戦闘機として用いていましたが、重武装三座機のBf110ならばマイナーチェンジで夜間戦闘機として用いる事が可能だと着目され、帝國議会議長兼航空大臣兼空軍総司令官ヘルマン=ゲーリング国家元帥は第１駆逐航空団第１飛行隊長ウォルフガング=フラック大尉にBf110から成る夜間戦闘部隊の組織を指示しました。従来空席になっていた中央座席が当時開発中だった機載レーダー担当乗員の座席になる予定だったのです。こうして同年６月26日に設立された第１夜間戦闘航空団に、レント中尉の属した第76駆逐航空団第１飛行隊が丸ごと移管される事となり、８月になって第１夜間戦闘航空団(司令；フラック少佐)第２飛行隊(隊長；コンラート=フォン=ボトマー大尉)が誕生する事となりました。しかし、“最精鋭部隊”の駆逐航空団から夜間戦闘航空団への転属をレント中尉は左遷と受け止め、不満を漏らしていました。極北のノルウェーにいてバトルオヴブリテンに於けるBf110の惨状を充分に理解していなかったようです。
レント中尉はミュンヘン・オーベルバイエルン大管区インゴルシュタット市で夜間戦闘訓練を受け、1940年10月１日に第２飛行隊第６中隊長に任じられました。第６中隊はオランダのアーネムから北へ13�卍�度に位置するデーレン空軍基地を本拠としました。しかし、当時は未だに機載レーダーは実用化されておらず、夜間の敵機撃墜はサーチライト照射のみが頼りでしたから、レント中尉は全くスコアを稼げずに憔悴し、同年末には駆逐航空団へ戻して欲しいと転属願いを出すに至りました。この時はフラック少佐に慰留されて留まる事になりましたが、その後も全く戦果を挙げられない状態が続いたのです。
しかし、1941年５月12日0140時に至って、レント中尉はハンブルク大管区スーダーシュタペル上空で英空軍第40飛行中隊のヴィッカース=ウェリントン双発爆撃機を撃墜、初の夜間戦闘撃墜を果たしました。同日0249時には同型機をノルトシュトランド上空でも葬っています。
レント中尉は同年７月１日にオランダのレーワルデンに基地をもつ第１夜間戦闘航空団第２飛行隊(隊長；カール=ハンリヒ=ハイセ大尉)第４飛行中隊長に転じました。この地はハンブルクやヴィルヘルムスハーフェンに襲来する英空軍に対する最良の邀撃ポイントであり、航続距離が短い単発戦闘機の護衛無しで飛来する英爆撃機迎撃はBf110にとって最適の任務でした。こうしてレント中隊は、夜間戦闘機エースを輩出し、ルフトヴァッフェ随一の夜間戦闘部隊の評価を得る事になったのです。同年８月30日、レント中尉はスコアが24機(うち14が夜間)に達し、騎士十字章を受章しています。
なお、レント中尉の恋人エリザベートは同年３月にドイツ国籍を取得、レント中尉からの結婚申請に対して、彼女の思想背景と人種的出自に徹底的な調査が行われました。ドイツ国防軍将校の結婚には当局の許可が必要だったのです。そして、エリザベスの出自は問題無しと判定されたため、同年９月10日に二人はハンブルクで挙式、後に二人の娘を得る事になります。
1941年11月１日、レント中尉は新たに組織された第２夜間戦闘航空団(司令；カール=ヒュルショフ中佐)第２飛行隊長に就任、11月７日夜にはニュージーランド空軍のウエリントン爆撃機をアックラム近郊で屠り、飛行隊長として初撃墜を記録しました。この結果、彼の撃墜スコアは30機(うち夜間が20)に達しています。この戦績によって、レント中尉は前線の戦況報告をしていたドイツ国防軍のラジオ放送「ヴェアマハト・レポート」で言及される事になりましたが、これは極めて名誉な事でした。彼は結局、六度に亙って同レポートに登場しています。
1942年元日、レント中尉は大尉へ昇進し、４月９日にはドイツ十字金章を受章しました。６月６日にはレント大尉のスコアが44機(うち夜間34)に達したため柏葉騎士十字章受章が決定、６月21日には全夜間戦闘航空団を統轄する第12航空軍団長ヨーゼフ=カムフーバー中将がフランスに於いて夜間戦闘機部隊の騎士十字章受章者を集めた式典を行っています。写真中央がレント大尉、左端がカムフーバー中将です。
同年６月28日にオストプロイセン大管区の総統大本営ヴォルフスシャンツェでヒトラー総統直々の柏葉騎士十字章授章式が行われましたが、その時にレント大尉は更に５機のスコアを上積みしていました。
この６月にはレント大尉の次兄ヨアキム牧師が、説教壇で「メルダースの手紙」を読んだ事でゲシュタポに逮捕され、二人の兄が共に前科者になってしまいましたが、既に英雄としての地位を確立していたレント大尉の出世には響きませんでした。メルダースの手紙とは事故死した空の英雄ヴェルナー=メルダース大佐(1919〜41)《http://
1942年末迄にレント大尉は56機を撃墜してドイツ夜間戦闘部隊のトップエースとなっていたため、1943年元日に弱冠25歳で少佐へ昇進、１月８日には夜間撃墜スコアが50に達し、８月11日にはオストハノーファー大管区シュターデに司令部を置く第３夜間戦闘航空団司令に任じられました。当時、米英軍によるドイツ本土空襲は激化する一方で夜間戦闘機隊は急速に拡充されており、同航空団は４飛行隊を持つ強力な部隊でした。さらに機載レーダー実用化によって夜間戦闘機隊は一気に多くの戦果を挙げる事になります。
司令就任後もレント少佐は自ら出撃を続け、撃墜数が73(うち夜間は65)に達した８月２日にはヴォルフスシャンツェで総統から剣付柏葉騎士十字章を受章、８月４日にはその様子がＴＶ放映されました。ドイツ第三帝國では既に1935年に世界初のＴＶ定期放送が開始されていたのです。
1944年１月、レント少佐は一晩のうちに３機の四発重爆を撃墜しましたが、彼の機体も反撃を受けて損壊があり、不時着を余儀無くなくされました。同年３月１日には26歳で中佐昇進を果たしています。
また、同年３月22日夜の戦闘に於いてレント中佐は、僅か22発の弾丸しか使用せずに２機の爆撃機を撃ち落し、６月15日には７分間で57発だけの射撃で３機のアヴロ=ランカスター四発爆撃機を屠ってスコアを110(うち夜間は100)に伸ばし、その技能には益々磨きがかかって来ました。
この結果、同年７月31日、レント中佐は宝剣付柏葉騎士十字章を受章しました。夜間戦闘機隊でこれを受勲したのは他にシュナウファー少佐のみです
1944年10月５日、レント中佐は第１夜間戦闘航空団長ハンス=ヨアキム=ジャブス中佐との作戦協議のためJu88G-6夜間戦闘機を自ら操縦してシュターデからヴェストファーレンノルト大管区パーダーボルン市の約５�卞遒砲△襯離襯疋椒襯悒鵑惴�かいました。４名の乗員の中には一貫してレント中佐の無線手兼機銃手を務めて来たクービッシュ軍曹もいました。
ところが、ノルドボルヘン飛行場への着陸態勢中に、レント中佐操縦のJu88の左エンジンが突如作動しなくなり、翼が傾いたのです。レント中佐は機体を安定させる事が出来ず、Ju88はそのまま高圧ケーブルに衝突して不時着しました。四人は瀕死の重態ながら、生きたまま救出されましたが、クービッシュ軍曹とヘルマン=クレッス中尉はその日のうちに亡くなり、翌朝にはヴェルナー=カーク少尉も亡くなりました。
そして、1944年10月７日、レント中佐も遂に息を引き取ってしまったのです。享年27。エリザベート夫人は次女を懐妊中でした。レント中佐は死去と同時に大佐に昇進しています。なお、レント大佐の四発重爆撃墜スコアは61に達しており、昼間戦闘機隊の四発重爆トップキラーのヘルベルト=ロールヴァーゲ中尉の44機を大きく上回っています。
夜空の英雄の呆気無い事故死は敗色濃厚な第三帝國首脳に大きな衝撃を与え、11月11日には、帝都ベルリンの総統官邸に於いてレント大佐は国葬に処されました。ゲーリング国家元帥が敬礼したレントの棺には第三帝國の軍旗が纏わせられており、鉄兜を被った６名の騎士十字章受章将校が、棺を運びました。翌日、レント大佐と三人の乗員にはシュターデの戦没者墓地に一つの墓碑が用意され、そこに共に埋葬されたのでした。
1964年７月18日、ドイツ連邦共和国陸軍航空隊ローテンブルク基地が、レント大佐の名誉を称えてレント基地と改名されています。
1966年７月18日、レント大佐の娘が手術費用捻出のため母エリザベートの合意を得て、サザビーのオークションにレント大佐の勲章を一括して出品しました。それらは匿名の入札者が纏めて£500で落札しましたが、その匿名購入者は、アドルフ=ガーランド元空軍中将《http://
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ヘルムートは第一次世界大戦最末期の1918年６月13日、プロイセン王国ブランデンブルク州ランツベルク=アン=デア=ヴェルテ郡(現ポーランド共和国ルブシュ県)のピレーネ(現ピルザニ)に於いてルター派牧師であるヨハンネス=レントとマリー=エリザベス(旧姓ブラウネ)の三男として生まれました。兄にヴェルナーとヨアヒム、姉にカーテとウルスラがいます。レント家は熱狂的なルター派信者で、ヘルムートの父方の祖父も母方の祖父もルター派牧師であり、二人の兄も牧師になりました。即ち、父はヘルムート少年にも牧師になって欲しいと願っていたんですが、ヘルムート少年は聖書には興味を示さず、幼い頃はグライダー飛行に興味津々でした。
ヘルムート少年は1924年４月に地元ピレネーの公立小学校に入学、父と長兄ヴェルナーがヘルムート少年の家庭教師を務め、1928年に小学校を卒業したヘルムート少年はプロイセン州ランツベルグの公立ギムナジウム(８年制)の入試試験に合格しました。
1933年１月にヒトラー内閣が成立した翌月、ヘルムート少年はヒトラーユーゲントの年少者向け下部組織であるユングフォルクへ入ります。1933年３月から、ヘルムート少年は少年団の指導者であるユングフューラーとなり、旗持ち役を務めますが、1935年４月１日にアビトゥーア(大学入学資格試験)受験対策のためにユングフォルクを退団、同年12月12日に17歳でアビトゥーアに合格しました。
1936年２月からヘルムート少年は国家労働奉仕団で８週間の奉仕義務を果たします。父はヘルムート少年に大学神学部へ進学する事を望んでいましたが、ユングフォルクでナチズムへの憧憬を強めていたヘルムート少年は父の勧めを振り切って同年４月１日に空軍航空士官学校に入学、三等士官候補生(Cadet)となったのです。
1936年４月21日、レント候補生は国家社会主義者として総統への忠誠宣誓を行いました。レント候補生が飛行訓練に用いたのは複葉機のHe72カデットでした。同年９月15日、レント候補生はFw44スティグリッツで初めての単独飛行をしましたが、この時までに彼は63回の飛行をしていました。
飛行訓練と平行して、レント候補生はオートバイや自動車の運転も学びましたが、その実習中に事故に巻き込まれ、上肢に重傷を負って５ヶ月もの間、空を飛ぶ事が出来なくなってしまいました。
しかし、大量のパイロット養成を必要としていたルフトヴァッフェは追加試験を行う配慮を成し、1937年４月１日にレント候補生は二等士官候補生(Ensign)になる事が出来ました。
同年10月19日にレント二等見習士官は飛行訓練を完了、同年11月15日に操縦士資格を獲得しました。1938年２月１日には一等士官候補生(Senior Ensign)に昇進、オーストリア併合直前の同年３月１日には少尉任官を果たしています。この時までに、彼は８種類の飛行機で434回のフライトを熟しており、飛行時間は112時間48分に登りましたが、これは主に日中のフライトで、訓練は単発機のみで行われていました。
一方、レント少尉の二人の兄ヴェルナーとヨアヒムは、当時ゲシュタポから目を付けられる厄介者になっていました。二人はマーティン=ニーメラー牧師によって導かれていた告白教会の成員でしたが、第三帝國がドイツにあるプロテスタントの教会をナチス化しようとしている事に対し、告白教会は頑なに反発していたのです。特にアーリア人種至上主義には強く反対する立場で、ナチス化されたドイツ福音主義教会を異端だと弾劾するバーメン宣言を出すなど、告白教会は露骨な反政府活動を行っていたのです。この結果、ヴェルナー牧師は反ナチスの訓話を述べた事で1937年に逮捕されてしまいました。
しかし、ユングフューラーの経歴を持つレント少尉は真の国家社会主義者と認めらており、兄の逮捕はレント少尉の出世には響きませんでした。
レント少尉は航空士官学校卒業後、ポンメルン大管区トゥットウにある重爆撃機パイロット養成学校(Große Kampffliegerschule)へ配属され、偵察士として1938年５月30日まで３ヶ月の訓練に身を置きましたが、この課程を修了する直前にレント少尉は又もや交通事故に遭遇、自動車に轢かれて下顎を骨折し、脳震盪と内出血も起こしてしまいました。
幸い今回は軽傷で済んだため、同年７月１日、レント少尉は帝都南方のクーアマルク大管区ラングスドルフ市に配置された第132戦闘航空団リヒトホーフェンの第３飛行隊第７中隊に配属されました。負傷からの復帰後の初フライトは７月19日です。
同年９月初頭、レント少尉の属する第７中隊はザクセン大管区ドレスデン市に近いグローセンハインに進出しました。当時、欧州情勢はズデーテン問題を巡って風雲急を告げており、対チェコスロバキア侵攻計画たるグリューン作戦発動に備えての措置で、レント少尉は何度もチェコ国境の警戒飛行任務に従事しましたが、ミュンヘン会談によってズデーテン問題が解決したため、９月29日に第７中隊は再びラングスドルフに復帰しました。
従来、第３飛行隊の機体は複葉機でしたが、ラングスドルフ復帰後は全金属引込脚低翼単葉機であるBf108タイフーンに切り替えられて行きました。但し、この機体は非武装の連絡機です。
1938年11月１日、第132戦闘航空団は帝都とフランクフルトアンデアオーデルの中間に位置するクーアマルク大管区フュルステンバルデに移され、第141戦闘航空団と改名されました。レント少尉の所属は第２飛行隊第６中隊です。
1939年５月１日、第141戦闘航空団はベーメンメーレン保護区(チェコ)のオロモウツに移され、第76駆逐航空団と改名、双発三座の重戦闘機Bf110への機種転換が行われました。レント少尉は第１飛行隊(隊長；ギュンター=ライネッケ大尉)第１中隊に所属、５月12日に大型空軍機操縦士(Erweiterter Luftwaffen-Flugzeugführerschein)証明試験に合格して、双発エンジンの航空機に熟達していると言う事が認められました。なお、当時のドイツ空軍ではBf110を主力戦闘機と考えており、駆逐航空団には最も技量の優れた最精鋭が集められていましたが、機数が充分に揃わなかったため、第76駆逐航空団は２個飛行隊のみからなり、司令も空席でした。
レント少尉が初めてBf110で飛んだのは同年６月７日で、機体番号はM8+AHとされましたが、ルフトヴァッフェは急激な拡張で人員不足が深刻だったため、後部座席の無線手兼飛行射手が容易に見つからず、三座機でありながら一人で飛ぶ事を余儀無くされていたのです。後部要員のヴァルター=クービッシュ上等兵が配属されたのは、第二次世界大戦勃発直前の1939年８月14日で、二人は生涯のコンビとなります。なお、当時は他のBf110も中央部座席は空席になっていました。
1939年８月25日、対ポーランド侵攻計画ヴァイス作戦の準備が本格化すると、第４航空軍(軍司令官；アレクサンダー=レール航空兵大将)に所属した第76駆逐航空団はポーランド共和国ヴロツワフ市の南東にあるベーメンメーレン保護区オストラヴァに配備されました。
同年９月１日金曜日0445時、ヴァイス作戦が発動されましたが、第76駆逐航空団はクラクフ市空爆に向かうHe111から成る第４爆撃航空団の護衛任務に当たり、レント少尉は0444時にオストラヴァを離陸、無事に護衛任務を果たしました。同月２日1630時、レント少尉はウッチ上空でポーランド戦闘機P.11を屠り、初撃墜を記録しました。
程無くポーランド空軍が壊滅したため、第76駆逐航空団は南方軍集団(司令官；ゲルト=フォン=ルントシュテット上級大将)第14軍(軍司令官；ヴィルヘルム=リスト上級大将)の直協任務に当たる事となり、爆装して地上攻撃を行いました。９月５日には地上の双発単葉機、９日にはやはり地上のP.24を破壊しています。
９月12日にレント少尉機はポーランド戦闘機の攻撃を受けて、右エンジンに被弾しましたが、そのままドイツ戦線の後方に不時着、負傷する事もありませんでした。
レント少尉はポーランド戦で五つ以上の作戦任務に加わり、１門の対空砲を破壊、９月21日に第二級鉄十字章を受章しました。
ポーランド戦が終了すると、９月29日に第76駆逐航空団はフランス国境の第３航空軍(軍司令官；フーゴ=シュペルレ上級大将)に転属となり、ヴュルテンベルクホーエンツォレルン大管区シュトゥットガルト市に配置されました。しかし、フランス軍との本格的空戦は起こらないまま12月16日には第２航空軍(軍司令官；アルベルト=ケッセルリンク上級大将)に転属となってヴェーゼルエムス大管区イェファーに移動、英軍の空襲に備えました。
その直後の12月18日、英国空軍がヴェーゼルエムス大管区のヴィルヘルムスハーフェン軍港へ24機のビッカース=ウェリントン双発爆撃機から成る３個飛行中隊を差し向けました。東フリースラント諸島のフレイアレーダーによって敵機接近を知ったケッセルリンク上級大将は第76駆逐航空団に邀撃を指令、レント少尉はボーフムの海岸上空で３機のウェリントンを撃墜したと主張し、そのうち浅瀬に墜落していた２機がレント少尉の撃墜として公式認定されました。なお、近くの砂丘に落ちていた機体がレント少尉の主張する３機目であった可能性が高いと思われます。
このレント少尉の活躍と端麗な容姿は宣伝大臣ヨーゼフ=ゲッベルス博士の目に留まり、宣伝省は海軍艦艇を空襲から守った空の英雄としてレント少尉を派手に取り上げたため、彼の下には若い女性からのファンレターが殺到する事となりました。レント少尉はそのうちの一人で当時25歳だったエリザベート=ピーターセンの手紙に感銘を受けて返事を書き、やがて二人はハンブルク市のホテルで逢引を楽しむに至りました。二人は1940年２月にはシュタイエルマルク帝國大管区ヒルシェグに於いてスキーを楽しんでいます。ところが、実はエリザベート=ピーターセンとは偽名で、彼女の本名はエレーナ=セノコスニコワ、1914年４月にモスクワで生まれた白系ロシア人だったのです。ヒトラー総統はスラヴ人を劣等人種として侮蔑していましたから、独ソ不可侵条約があるとは言え、彼女はその身元が暴かれることを恐れていました。しかし、レント少尉は全てを承知で彼女との結婚を前提とした交際を続けました。
1940年４月８日、第76駆逐航空団は北欧侵攻作戦“ヴェーザーユーブンク”発動前日にイェファーからシリト島のヴェーザーラントに展開されて出撃に備えました。作戦計画ではノルウェーの首都オスロと南北６ヶ所の主な港湾都市へ攻撃を仕掛けると同時に、オスロのフォルネブ飛行場を確保するためJu52輸送機が９日0845時に降下猟兵部隊を投下、その20分後には後続部隊を乗せた別のJu52が到着する予定になっていました。第76駆逐航空団はその双方を支援する任務を負っており、フォルネブへの降下猟兵投下と同時刻になるよう、第１飛行隊(隊長；ヴェルナー=ハンセン大尉)の８機が0700時に出撃しました。レント少尉は２機から成る小隊長です。しかし、Bf110はヴェーザーラントとフォルネブを往復するだけの航続能力を持っておらず、この計画は飛行場奪取に失敗した場合、帰還が不可能となる片道特攻作戦だったのです。
フォルネブへ向った第１中隊は、ノルウェー空軍ののグロスター=グラディエーター複葉戦闘機と交戦し、レント少尉機は敵１機撃墜に成功しています。降下猟兵部隊を輸送するJu52が激しい攻撃を受けながら飛行する一方で、レント少尉の小隊も敵地上部隊と交戦していましたが、レント機は右エンジンに被弾して不時着を余儀なくされてしまいした。レント少尉は可動式の後部機関銃を取り外して抱えたクービッシュ上等兵と共に、ノルウェー陸軍部隊と条件付降伏の交渉を始めましたが、その間にフォルネブ飛行場はドイツ降下猟兵によって制圧され、レント少尉は捕虜になる事を免れました。そして第１中隊はフォルネブ飛行場に着陸して燃料補給を行いました。
同日18時50分、英国空軍来襲の報を受けた第１飛行隊はフォルネブから邀撃のために離陸、レント少尉も別のBf110を与えられて出撃し、英第210飛行隊のショート=サンダーランド飛行艇と交戦しましたが、この時は戦果を挙げられませんでした。
同年４月12日、第76駆逐航空団は北欧戦域管轄のために新設された第５航空軍(司令官；エアハルト=ミルヒ上級大将)に移管され、４月15日にはヴァルター=グラブマン少将が航空団司令として赴任して来ました。通常、航空団司令は佐官が務めるポストですから、第76駆逐航空団が如何にエリート部隊として期待されていたかが判ります。
レント少尉は1940年５月13日に第一級鉄十字章を受け、その直後ノルウェー中部のトロンハイムへ移動しています。５月27日、レント少尉は英空軍第263飛行隊のグラディエーターを撃墜、これで公式スコアが５機に達してエースの称号を獲得したレント少尉は６月２日にグラディエーター、６月15日にはブリストル=ブレニム攻撃機も葬り、７月１日に中尉に昇格しました。
同年８月15日、第76駆逐航空団の21機のBf110がノルウェーからヨークシャーとニューカッスルへの空爆に向うHe111爆撃機の護衛任務のため出撃、レント中尉も作戦に参加しましたが、第76駆逐航空団は第３飛行隊長機を含む７機を失う大損害を受けてしまいました。レント中尉がバトルオヴブリテンに参加したのはこの一回の出撃のみで、戦果を挙げる事は出来ませんでした。
さて、ルフトヴァッフェが最精鋭主力戦闘機と位置付けていたBf110ですが、バトルオヴブリテンに於いては双発機故に機動力に欠ける弱点が露呈、スーパーマリン=スピットファイアやホーカー=ハリケーン等の英軍単発戦闘機に一方的に屠られ、戦闘機でありながら単発戦闘機のBf109の護衛を受けねばならぬ体たらくで、多くの俊英パイロットが無為に散華して行きました。この結果、Bf110は役立たずの屑鉄と見做されるに至ってしまいました。
一方、1940年６月頃から英国空軍によるドイツ本土空襲が本格化し、ルフトヴァッフェはDo17双発爆撃機を改造した“カウツ”を夜間戦闘機として用いていましたが、重武装三座機のBf110ならばマイナーチェンジで夜間戦闘機として用いる事が可能だと着目され、帝國議会議長兼航空大臣兼空軍総司令官ヘルマン=ゲーリング国家元帥は第１駆逐航空団第１飛行隊長ウォルフガング=フラック大尉にBf110から成る夜間戦闘部隊の組織を指示しました。従来空席になっていた中央座席が当時開発中だった機載レーダー担当乗員の座席になる予定だったのです。こうして同年６月26日に設立された第１夜間戦闘航空団に、レント中尉の属した第76駆逐航空団第１飛行隊が丸ごと移管される事となり、８月になって第１夜間戦闘航空団(司令；フラック少佐)第２飛行隊(隊長；コンラート=フォン=ボトマー大尉)が誕生する事となりました。しかし、“最精鋭部隊”の駆逐航空団から夜間戦闘航空団への転属をレント中尉は左遷と受け止め、不満を漏らしていました。極北のノルウェーにいてバトルオヴブリテンに於けるBf110の惨状を充分に理解していなかったようです。
レント中尉はミュンヘン・オーベルバイエルン大管区インゴルシュタット市で夜間戦闘訓練を受け、1940年10月１日に第２飛行隊第６中隊長に任じられました。第６中隊はオランダのアーネムから北へ13�卍�度に位置するデーレン空軍基地を本拠としました。しかし、当時は未だに機載レーダーは実用化されておらず、夜間の敵機撃墜はサーチライト照射のみが頼りでしたから、レント中尉は全くスコアを稼げずに憔悴し、同年末には駆逐航空団へ戻して欲しいと転属願いを出すに至りました。この時はフラック少佐に慰留されて留まる事になりましたが、その後も全く戦果を挙げられない状態が続いたのです。
しかし、1941年５月12日0140時に至って、レント中尉はハンブルク大管区スーダーシュタペル上空で英空軍第40飛行中隊のヴィッカース=ウェリントン双発爆撃機を撃墜、初の夜間戦闘撃墜を果たしました。同日0249時には同型機をノルトシュトランド上空でも葬っています。
レント中尉は同年７月１日にオランダのレーワルデンに基地をもつ第１夜間戦闘航空団第２飛行隊(隊長；カール=ハンリヒ=ハイセ大尉)第４飛行中隊長に転じました。この地はハンブルクやヴィルヘルムスハーフェンに襲来する英空軍に対する最良の邀撃ポイントであり、航続距離が短い単発戦闘機の護衛無しで飛来する英爆撃機迎撃はBf110にとって最適の任務でした。こうしてレント中隊は、夜間戦闘機エースを輩出し、ルフトヴァッフェ随一の夜間戦闘部隊の評価を得る事になったのです。同年８月30日、レント中尉はスコアが24機(うち14が夜間)に達し、騎士十字章を受章しています。
なお、レント中尉の恋人エリザベートは同年３月にドイツ国籍を取得、レント中尉からの結婚申請に対して、彼女の思想背景と人種的出自に徹底的な調査が行われました。ドイツ国防軍将校の結婚には当局の許可が必要だったのです。そして、エリザベスの出自は問題無しと判定されたため、同年９月10日に二人はハンブルクで挙式、後に二人の娘を得る事になります。
1941年11月１日、レント中尉は新たに組織された第２夜間戦闘航空団(司令；カール=ヒュルショフ中佐)第２飛行隊長に就任、11月７日夜にはニュージーランド空軍のウエリントン爆撃機をアックラム近郊で屠り、飛行隊長として初撃墜を記録しました。この結果、彼の撃墜スコアは30機(うち夜間が20)に達しています。この戦績によって、レント中尉は前線の戦況報告をしていたドイツ国防軍のラジオ放送「ヴェアマハト・レポート」で言及される事になりましたが、これは極めて名誉な事でした。彼は結局、六度に亙って同レポートに登場しています。
1942年元日、レント中尉は大尉へ昇進し、４月９日にはドイツ十字金章を受章しました。６月６日にはレント大尉のスコアが44機(うち夜間34)に達したため柏葉騎士十字章受章が決定、６月21日には全夜間戦闘航空団を統轄する第12航空軍団長ヨーゼフ=カムフーバー中将がフランスに於いて夜間戦闘機部隊の騎士十字章受章者を集めた式典を行っています。写真中央がレント大尉、左端がカムフーバー中将です。
同年６月28日にオストプロイセン大管区の総統大本営ヴォルフスシャンツェでヒトラー総統直々の柏葉騎士十字章授章式が行われましたが、その時にレント大尉は更に５機のスコアを上積みしていました。
この６月にはレント大尉の次兄ヨアキム牧師が、説教壇で「メルダースの手紙」を読んだ事でゲシュタポに逮捕され、二人の兄が共に前科者になってしまいましたが、既に英雄としての地位を確立していたレント大尉の出世には響きませんでした。メルダースの手紙とは事故死した空の英雄ヴェルナー=メルダース大佐(1919〜41)《http://
1942年末迄にレント大尉は56機を撃墜してドイツ夜間戦闘部隊のトップエースとなっていたため、1943年元日に弱冠25歳で少佐へ昇進、１月８日には夜間撃墜スコアが50に達し、８月11日にはオストハノーファー大管区シュターデに司令部を置く第３夜間戦闘航空団司令に任じられました。当時、米英軍によるドイツ本土空襲は激化する一方で夜間戦闘機隊は急速に拡充されており、同航空団は４飛行隊を持つ強力な部隊でした。さらに機載レーダー実用化によって夜間戦闘機隊は一気に多くの戦果を挙げる事になります。
司令就任後もレント少佐は自ら出撃を続け、撃墜数が73(うち夜間は65)に達した８月２日にはヴォルフスシャンツェで総統から剣付柏葉騎士十字章を受章、８月４日にはその様子がＴＶ放映されました。ドイツ第三帝國では既に1935年に世界初のＴＶ定期放送が開始されていたのです。
1944年１月、レント少佐は一晩のうちに３機の四発重爆を撃墜しましたが、彼の機体も反撃を受けて損壊があり、不時着を余儀無くなくされました。同年３月１日には26歳で中佐昇進を果たしています。
また、同年３月22日夜の戦闘に於いてレント中佐は、僅か22発の弾丸しか使用せずに２機の爆撃機を撃ち落し、６月15日には７分間で57発だけの射撃で３機のアヴロ=ランカスター四発爆撃機を屠ってスコアを110(うち夜間は100)に伸ばし、その技能には益々磨きがかかって来ました。
この結果、同年７月31日、レント中佐は宝剣付柏葉騎士十字章を受章しました。夜間戦闘機隊でこれを受勲したのは他にシュナウファー少佐のみです
1944年10月５日、レント中佐は第１夜間戦闘航空団長ハンス=ヨアキム=ジャブス中佐との作戦協議のためJu88G-6夜間戦闘機を自ら操縦してシュターデからヴェストファーレンノルト大管区パーダーボルン市の約５�卞遒砲△襯離襯疋椒襯悒鵑惴�かいました。４名の乗員の中には一貫してレント中佐の無線手兼機銃手を務めて来たクービッシュ軍曹もいました。
ところが、ノルドボルヘン飛行場への着陸態勢中に、レント中佐操縦のJu88の左エンジンが突如作動しなくなり、翼が傾いたのです。レント中佐は機体を安定させる事が出来ず、Ju88はそのまま高圧ケーブルに衝突して不時着しました。四人は瀕死の重態ながら、生きたまま救出されましたが、クービッシュ軍曹とヘルマン=クレッス中尉はその日のうちに亡くなり、翌朝にはヴェルナー=カーク少尉も亡くなりました。
そして、1944年10月７日、レント中佐も遂に息を引き取ってしまったのです。享年27。エリザベート夫人は次女を懐妊中でした。レント中佐は死去と同時に大佐に昇進しています。なお、レント大佐の四発重爆撃墜スコアは61に達しており、昼間戦闘機隊の四発重爆トップキラーのヘルベルト=ロールヴァーゲ中尉の44機を大きく上回っています。
夜空の英雄の呆気無い事故死は敗色濃厚な第三帝國首脳に大きな衝撃を与え、11月11日には、帝都ベルリンの総統官邸に於いてレント大佐は国葬に処されました。ゲーリング国家元帥が敬礼したレントの棺には第三帝國の軍旗が纏わせられており、鉄兜を被った６名の騎士十字章受章将校が、棺を運びました。翌日、レント大佐と三人の乗員にはシュターデの戦没者墓地に一つの墓碑が用意され、そこに共に埋葬されたのでした。
1964年７月18日、ドイツ連邦共和国陸軍航空隊ローテンブルク基地が、レント大佐の名誉を称えてレント基地と改名されています。
1966年７月18日、レント大佐の娘が手術費用捻出のため母エリザベートの合意を得て、サザビーのオークションにレント大佐の勲章を一括して出品しました。それらは匿名の入札者が纏めて£500で落札しましたが、その匿名購入者は、アドルフ=ガーランド元空軍中将《http://
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