したり映画帖コミュの２０１４年２月上半期①

２月３日（月）
『トゥルーナイト』９５
ジェリー・ザッカー監督。
襲撃を受けて小屋の中から戸外を伺うシーンは、フレーム内フレームの効果が出ているが、そこから続いて村人が惨殺されるシーンを１カットで描かない点に映画魂の有無を疑う。
親切で優しく、飽きなくて判り易い編集だ。
唾棄すべき。
アーサー伝説を独自アレンジでリチャード・ギア扮するランスロットを主役として描く。
ランスロットってアーサー王の妻を寝取った男として不倫テーマの象徴のはずなのに、本作のように都合良く美談としてまとめるには無理がある。
悲恋の物語として描くならすっきりするけど。
敵役も敵役然としていてかなり図式的。
痴呆的。
冒頭にギアと練習試合していたはずの青年が、後に活躍するはずのウリだったと推測したが、まったく活かされていない。
アーサー王扮するショーン・コネリーが登場する場面と葬送される場面は、登場シーンの松明の炎と葬送シーンの弓矢で棺を燃やすという演出が、炎の主題で通底する。
だが、色男としてギアを描くなら、やっぱり悲恋で終幕して欲しい。
にやつくギアは嫌いだ。（４０点）

２月４日（火）
『ストレンジャー・コール』０６
アメリカの都市伝説の映画化。
『夕暮れにベルが鳴る』のリメイク。
『プロフェシー』のモスマン伝説のようにはアレンジする幅が広くはない。
狭い。
だからなのか、犯人にキャラクターづけする事なく、最後まで“ある犯罪者”扱い。
それはそれでいいのだが、襲われる主人公だけでは話が持たないと気づいたのか、舞台となる高級住宅に特殊性を出すことでその弱点を補っている。
その分都市伝説の一般性を失う事となる。
本来、通り魔的な存在である犯人の行動原理が恐怖を盛り上げるはずなのだが、舞台の特殊性があってこそ恐怖だ、という風に見て取れてしまう。
そうなると、どうでもよくなってくる。
不条理な恐怖といった『正体不明ゼム』のような映画にまで盛り上がれれば良かったのにね。（４０点）

２月５日（水）
『プレデターズ』１０
開巻早々、落下する主人公で話は始まる。
グッドチョイス！
前半は勢いあって、文句はない。
拷問を受けたらしい打ち捨てられたプレデターの場面もいきなり俯瞰から始まる点がいい。
神の視点、もしくは謎の視点としてサスペンスの盛り上げに役立っている。
でも、ラリー・フィッシュバーンが登場するあたりから様相が変わってくる。
本来、いままで生き抜いてきたという経験がその存在を光らせるはずの役柄なのだが、時間稼ぎの登場だけに終始して死んでしまう。
まるで『宇宙戦争』でのティム・ロビンス的役割。
まったく役立たない。
その分日本代表の日本刀のヤクザが存在感を増す。
その立ち位置は、一作目『プレデター』のインディアン役（？）と通ずる。
終盤拷問を受けていたぶられていたプレデターがほんの少し活躍する。
これにも不満が残る。
敵プレデターを倒す事に大いに役立てて欲しかった（５５点）

２月７日（金）
『アジョシ』１０
イ・ジョンボム作品。
ヤク中の安藤勝に似ている美形のウォンビンが大活躍。
質屋のお兄さんが実は腕利き殺し屋だった。
韓国版『レオン』。
だから、われわれはこの物語を信じるほど無邪気でない。
女の子はかわいく上手だった。（２５点）

２月８日（土）
『インビクタス／負けざる者』０９
史実の映画化。
特殊メイク技術なのかＣＧ修正なのか、とにかくモーガン・フリーマンがマンデラ大統領に激似。
それだけあってパない肩の入れよう。
制作総指揮にまで名を連ねている。
初見の当時は、実話を題材にイーストウッドも及び腰の演出だ、と思ってしまったが、再見した今回、評価を改める。
映画というフィクションとして描くには何が必要か、それを初見時は考えた。
皆がよく知っている実話なのだから、きっとそれが枷となるはず。
試合結果は判っている。
よって、マット・デイモン演じるラグビー選手の視点から描く方がよりドラマチックだと思った。
白人であり、ラグビー選手でもあるマット・デイモンの視点なら黒人社会へと変化してゆく南アフリカに対する複雑な心境を描けるだろう。
だが、イーストウッドの選択は違った。
丁寧にマンデラ本人や黒人側を真っ当に描いた。
それが史実を扱う場合の正しい姿勢なのだと。
それは、実際間違いではなかった。
恐らくフィクションのメルハリつけたドラマでは史実をモチーフとした意味がなかった。
だがやはり、ラストのラグビーシーンは盛り上がりを欠いた。
映画がラグビーやスポーツをテーマとする時の盲点を忘れてしまったようだ。
基本、スポーツは真剣勝負なのだ。
映画のようにフィクションで固めていない。
だから、より劇的でもあり、またつまらなくもあるのだ。（７０点）

２月９日（日）
『ファイヤーウォール』０６
リチャード・ロンクレイン監督。
犯罪集団の間抜けぶり。
設定にもよるが、犯人側の失態により主人公たちの行動が有利になるストーリーは戴けない。
仲間を撃つなら、人質の妻子のどちらかを撃てと冷酷に思うのは、犯人側に加担し過ぎでしょうか？ポール・ベタニー演じる主犯の恐ろしさを表すためなら、殺人を犯すこともない。
ストップ・モーションやスロー・モーションの使い方が安っぽくＴＶ映画のようだ。
妻役にＶ・マドセンを迎えるにあたって、きっと官能的な場面があるはず、とこちらは期待したのに、家族愛がテーマなのでそういったサスペンスも期待できない。
登場しなかった。
減点。
チミノの『逃亡者』やハネケの『ファニー・ゲームＵＳＡ』みたいな精神的な残酷性は薄味。
ライヴァル役で邪魔をするロバート・パトリックが活躍し出すのはいい。
それにしても結束力のない犯罪者たちには辟易する。
ご都合度が強くなるのだ。
悪が悪であればこそ、最後は善が救われる事に喝采を送れるのだ。（４０点）

２月１０日（月）
『クーリエ／過去を運ぶ男』１１
ハニ・アブ・アサド監督。
ニューオリンズを舞台にしたノワールもの。
監督はアラブ系の名前なので、モハメッド・アリのように回教徒の洗礼名の黒人か。（※調べたら、パレスチナ出身と判明）
追跡シーンで登場するニューオリンズの路地裏や下町の風景は上手く捉えている。
ＥＶＥＬのアルファベットの並びとエルヴィスを関連づける手は面白い。
でも、すぐにオチが読めてしまった。
カメオ出演するミッキー・ローク。
彼の出演した『エンジェルハート』に本作は似ている。（４５点）

２月１１日（火）
『ダンテズ・ピーク』９７
ロジャー・ドナルドソン監督。
ゴリラ顔女優リンダ・ハミルトンがイケてた時代の作品。
対照のように美形のピアーズ・ブロスナンが主役だ。
クレーン等を利用したキャメラワークが面白い。
何故かシーンのファーストカットは長廻し気味。
主人公が舞台の町にやってくる際、クレーン撮影で運転する車を見送り、その後カットのないまま何故かキャメラはパンダウンして河原で遊ぶ子供たちまでを１カットで映す。
恐らく平穏な町の象徴としてのショットと推測されるが、それにしては手がこんでいる。
カット編集で見せればいいものを結構やっかいな撮影だ。
作家にこだわりがあるようだ。
最初の犠牲となるカップルがまぐわいながら湖に入ったら、火山活動で水が沸騰していたというのは、笑った。
火山が噴火を始めるなか、子供たちを励ますためにブロスナンが不意に唄いだす場面がいい。
火山という自然物を相手にどうやってオチを着けるのか気になったが、何とか生き延びたというラストで終幕した。
あっさりした終幕の編集はよかった。（７０点）

２月１５日（土）
『エスター』０９
不気味な子供、という古くは『悪い種子（たね）』、最近では『危険な遊び』（最近でもないか）という題材から読めるのは、どうやら大人たちは子供に怯えているらしいという事。
深層心理の現れである。上述の２本は、倫理に果敢に挑戦しているショッキングなラストを用意するが、本作はその困難からは危うく逃げ延びる。
そこがオチになるので解説は控える。
ちょっと楳図かずおの『洗脳』にも似ていて面白い。
ただ誰が見ても問題児そうな少女を孤児院の教師が易々と健全な夫婦に勧める理屈が判らない。
養子娘のライヴァルは義母だという理屈は、有史以来語り継がれる。
それが、物語構造のクリシェなのか、女性の本能のリアリティなのか。
その点に触れているのが個人的にとってもよかった。（６７点）

２月１６日（日）
『鍵泥棒のメソッド』１３
内田けんじ監督。
個人的には好きでない広末涼子が変人キャラでよかった。
『アフタースクール』でも裏社会の人が出てくるが、前作は汚職が絡むので納得できた。
だが、今回は「殺し屋」というフィクション性の高い人物が登場して、正直乗り切れないと思っていたら騙された。
いつもの編集と台詞を利用したトリックだった。脚本は監督本人が執筆しているが、どこか演出が小劇団っぽい。
小技が効きすぎている。
小技すぎる。
意味のないような実存を感じさせるシーンがないのだ。
すべてに意図や意味が備わっている。
脚本は上手いのかもしれないが、映画って机上だけでは成立しないのだ。（６４点）