したり映画帖コミュの２０１３年１２月下半期①

１２月１５日（日）
『天国の口、終りの楽園。』０１
アルフォンソ・キュアロン監督。
結論から先に言うと、この映画のような展開は苦手である。
オチに悲しさが用意されてはいるが、若気盛んなふたりの青年が傷心の既婚女性ひとりを乗せて３人で旅をする。
時折女性とはそれぞれファックする、というストーリーにまったく乗れないのだ。
この話を信じさせるにはそれなりの工夫が必要なんではないでしょうか？（４０点）

『飛行士の妻』８０
“喜劇とことわざシリーズ”と銘打たれているとおり、登場人物が、本人たちは真剣なはずなのに、そうであればある程妙に滑稽に見えてしまうという点が持ち味の連作喜劇。
観ている者が真剣にスクリーンを見つめれば見つめるほど喜劇の妙味が味わえる、という粋な構造は、Ｅ・ロメールの真骨頂である。
かと言って、終盤の女主人公の部屋で延々と続く痴話喧嘩には途中でだれる。
つきあいきるには困難である。
『緑の光線』でも感情の昂ぶりから突然泣きだしてしまうという役どころが得意となっている女主人公に、ある種のクライマックスが展開されるが、やはり事情は変わらない。
大きな問題や事件が起こる訳でもない、その分日常を取り巻く何でもない事に視線を向けるというのが特徴のＥ・ロメールの作風であるが、そのロメール的世界では風や水、音などが重要となる。
だからロケ場所も緑豊かな公園や池の畔、バイクや車の騒音が響く街のカフェ等が多く登場し、その特徴を際立たせる。
ドラマ中盤までは面白い。
悲劇と表裏一体の世界が喜劇として描かれる。
そこで終盤の展開である。
室内で登場人物が二人のまま。
このシチュエーションの息苦しさが今までの解放感を殺ぐようになってしまう。
ラストの男主人公が、新しい恋の予感を思わせた少女に恋人がいた事を知って、その後を尾けてしまうように見えるショットはオカシイ。面白い。
やはり喜劇なのだ。（８０点）

１２月１６日（月）
『孤独な惑星』１２
筒井武文作品。
音響が非常に奇妙で地上ではない惑星だと強調される。
まるでホラーまがいの音響だ。
ホラーといえば、演出上でも人と人の間に遮蔽となる何かが常に存在するという、初期アルジェント作品と同様のテーマが語られる。
ディスコミニュケーションなのである。
ラストの綾野剛の演技も相当変で、ホラーになっている。
主人公女性の身長の高さは周囲への孤立を際立たせている。（７７点）

『美しい結婚』８１
当時は喜劇として消化できた問題が、現在の日本では婚活という笑ってられない問題にまで深刻化している。
主人公のサビーヌはやや褐色の肌に小柄で細身の体躯、２０代ぐらいの女の子。
既婚男性との不倫に疲れて、思わず周囲に結婚する事を宣言する。
問題は、まだ相手はいないことだ。
それが本人も含め周囲をさまざまなトラブルに巻き込んでゆく。
狂言廻し役として自動車や電車が重要な乗り物として機能する。
無機物にも役割が担当できる事に気づく。
生活と密着していることが判る。
サビーヌが務める古美術商は、パリ郊外の田舎町にある。
そこでは石畳や田園風景が広がり、ハイヒールの立てる音や小鳥の囀り等が響く。
サビーヌは暴走する。
結婚条件では眼中になかった男性弁護士を勝手に結婚相手と決めて邁進する。
その男性とのゆきさつがクライマックスとなって終幕へと向かう。
自主制作で、ロメール的世界が学生たち（自主映画作家）に多いに活用されてしまうのは、ロケ中心で更にロケ場所が公園や川、湖沼といった大よそが無償で使用可の自然・天然物だから、学生たちが我先に参考にしたのも頷ける。
だが、容易に近づいてはいけない事は、本作が如実に示している。（９０点）

１２月１７日（火）
『友だちの恋人』８７
ストーリーは何て事ない通俗的としか呼びようのないメロドラマ。
主人公は地方の役所に勤める平凡なＯＬ。
知り合いになった美人の女友だちは開放的で、主人公とは正反対の行動パターン。
主人公が最近気になっている男性は、男前で洒脱なプレイボーイタイプ。
女友だちは、主人公とは釣り合わないと忠告しながらも、応援を惜しまない。
ウィンドサーフィンやテニス等風俗史的な側面を持つのは、主人公やその友人たちの生活感と密接に関係しているからだろう。
リアリティはわれわれ生活者側にあるという事を、かなり強く主張している。
恐らくフランスの観客たちは、主人公たちをその辺によくいる登場人物だと理解しているのだと思う。
こんな方法でアンチ・ブルジョアの思想を潜りこませる、その手腕に老獪さを感じる。
終盤は、友人のカレシと恋に落ちた主人公が、どのように友人に告白できるかという点がサスペンスとなる。
友人との会話から誤解して告白につながる何でもなさ加減がここに至って極致に達する。
劇伴もなく、劇中音楽として流行歌等が流れるのみである。
ラストの緑と水色で合わせる普段着の平凡さも今作を象徴する。
主人公が自然に囲まれた環境で、草木を揺らす強風に感情昂ぶらせ不意に泣きだすシーンが印象に残る。
『緑の光線』と同じだ。
冒頭とラストに流れる音楽がダサい。
その点まで普段着感覚が溢れる。素敵だ。（９８点）

『クリスマス・キャロル』７０
ロナルド・ニーム監督。
文豪ディケンズの代表作。その原作をアレンンジしたミュージカル。
原作の持つ図式性が活かされているのか知らないが、そこが世界で一番有名なディケンズ作品とならしめている要因のひとつだろう。
どこまで本気でこの物語を信じたのだろうか。
守銭奴で吝嗇家の老人が主人公の本作品が、幽霊と一夜を共にする事で改心するという設定を微笑ましく受け入れるのは難しい。
主人公の老人とおなじようにひねくれている現代人に対しての皮肉をディケンズはテーマに込めたのだろうか？
２人目の幽霊と窓を突き破る場面が良かった。（４５点）