したり映画帖コミュの２０１３年１２月上半期①

１２月１日（土）
『ファウスト』１１
スタンダードのような真四角のスクリーンに四隅が直角ではなく丸味がある奇妙な画面サイズ。
映画は特殊造形からＣＧまでこなすが、いつものソクーロフ印の歪んだ映像と色あせたモノクロームのようなカラーは健在。
ＣＧはあまりうまくいってなかった。
以前のアナログな特撮の方がよかったし、ソクーロフの作風にも合っているように思う。
劇場で鑑賞した訳ではないので、スクリーン四隅の丸味はソクーロフのおふざけだと推測される。
陰鬱な心内語と喧噪なお喋りの会話に審美的とも呼べる独自の映像。
だが、審美的といってもキャメラは目まぐるしく動く。
編集も洗練されておらず、ぶっきらぼうで唐突だ。
どこかポーランド時代のズラウスキーの作品にも似ている。
これは、やはりハリウッドの作品ではない、と改めてつくづく感じる。
これはどこでロケしたのか、それともセットなのか？
飢えた兵士たちが彷徨う狭い町や路地は、作品の主題と通底して、人物同士の距離を非現実的に接近させる。
葬儀でのマドンナとの距離も現実的とは見えない。それどころか男同士ですら同性愛的ニュアンスが醸すほどに接近する。
鶴や梟の唐突な登場も面白い。
この愚鈍な立ち姿（ハリウッド的でない）立ち姿が美しく見える。
もしかしたら見た事のないスクリーンサイズもハリウッドに対するアンチテーゼなのかもしれない、という風に読み込む事は筆者の思い込みでしかないのか。
主人公が、祈るマドンナを抱き締めて水中に落ちる美しいシーンには、ハッと息を呑んだ。
ハンナ・シグラに似た狂女のオバサンが出ていると思ったら本当にハンナ・シグラだった。
調べたら、撮影のブリュノ・デルボネルは『ハリー・ポッターと謎のプリンス』を担当していた。（７２点）

１２月２日（日）
『ニーチェの馬』１１
タル・ベーラ監督。モノクロ作品。
強風吹きすさぶ荒涼とした田舎道を、疲れた馬が、荷の重さからか高齢からなのか、斜に傾げながら必死に駆けている。
初老の主人は馬への労りもなく、過酷に馬をこき使う。
家で待っていた無口な娘にも奴隷のごとく父である主人に従順だ。
だが、主人と娘の生活は決して裕福ではない。
それどころか、かなり困窮している。
食事は毎回茹でたジャガイモひとつだ。
では、主人の稼業は何なのか？
それは具体がまったく描かれない。
毎日何処に出かけ、何をして、時間を過ごしているのか、窺い知る事はできない。
手がかりも提示されない。
抽象的な空間で神話のように父娘の生活が描かれる。
かと言って、細部がない訳ではない。
ここには“清貧”なぞという余裕は許されない程、貧乏は逼迫している。
その問題に能動的に対処する活気は、主人や娘にはあるように見えない。
ふたりとも、酷使される馬のように生活に疲れ果てている。
地を這って生きているような徹底ぶりである。
単調な暮らしがただ描かれるだけである。
長廻しの撮影も含め、とにかく耐える必要性を求める映画なのだ。
それは、ハリウッドに背を向けた独特な作風を持つ作品の必然なのかもしれない。（９０点）

『メリンダとメリンダ』０４
一人の男が語ったある女性の物語を２人の作家がそれぞれ独自の解釈でストーリーを紡いでゆく構成。
まったく肩肘張らない語り口で作品に引きこんでゆく。憎らしい。
いつ頃からだろうかウッディ・アレンの作品がこんなに楽しい作品になったのは。
喜劇を目指している作風だからではない。
今回の悲劇パターンと喜劇パターンに分かれる構成も悲劇パターンの方が好ましい。喜劇パターンがつまらないのは、ウッディ・アレンの分身とおぼしき男主人公がうるさくていけない。
悲劇パターンのラストは何も解決されないで終幕するところが好ましい。（８０点）