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ショートストーリー(SS)、お題話等さまざまに。
本編に関係あるようで、ないような、やっぱりあるような。
物語っていくことで登場人物と世界を整えていく場所です。
よろしくお願いします。

コメント(5)

 ジル幼少時(SS)

「猪を夕飯用にといって素手でとってきた母さんを持つ俺は、なんだろうか…」
「でもジルって本当に母さんそっくりだ。ああもうかわいいかわいい!」
 十二歳くらいの少年は、苦悩の表情でかわいいなあ、と自分の頭を撫でる青年を見る。
 顔はいいんだけど、性格は父さん最悪だ。とか思って。
「浮気すんなよ。馬鹿親父、母さんまた怒るぞ?」
「してないよ。僕は母さん一筋さ!」
 いや、なんというかお前のいうこと信用できんぞ。といったように粗末な木の椅子に座った少年は思う。
「僕と愛しい母さんとの愛の結晶! もうかわいいかわいい!」
 いや、これはいわないでおくか。とジルは思う。
 あんまり鬱陶しい発言やめろと。母さんは最初すごく鬱陶しいやつにつかまったっていってたぞとか。
 ため息をついてかわいいなあ、と頭をくしゃくしゃする父をジルは見上げた。
本編のその夜のクロエ、下宿先(SS) その1



「・・・ただいまー」
いつもなら、ごく静かに帰ってくる声が、今日は違った。
「クロエ! 今日、ジルに会った!?」
待ちかねたようにアンジェが二段ベットから顔をつきだしてきた。
「会ったよ〜、お店に来たの。アッシュさんもいてね、髪型似合うねって誉められちゃった」
きゃあ、とアンジェはベッドの柵を持ってはしゃいで「いいなー」を連発する。
「私もジルに誉められたい〜。今日ねえ、買い物に出たカレッタが見かけたって言ってたのよ〜。ジルは? ジル、背伸びたんだって?」
「うーん」背中のボタンを外してワンピースを脱ぎながら思い出す。「どうだったかな、座ってるとこしか見てないや」
「もう、クロエはアッシュさんしか見てないんだから」アンジェは口を尖らせる。自分より二つも年上とは思えない顔。「チェック所でしょう、それは」
「ごめーん」
謝りながらパジャマに着替える。「でも今回はちょっといるみたいだから、たぶんアンジェも会えると思うよ」
「えー、どうしよう〜。明日、何着ていこう〜…って、クロエ! もう寝ちゃうの〜?」
ごそごそと髪をボンネットに押し込んで下の段の寝床に潜り込む。
「うん、もう寝る。明日早いもん」
アンジェが上の段から覗き込んで来る。ボンネットをはみ出した長い黒髪がゆらゆらしてる。
「え〜、もうちょっと起きて話聞かせてよ。話ししよーよー」
「あ、あのね。明日、あたし学校行けないから先生に言っておいてね。お願い」
え?とアンジェが真顔になる。「珍しー。ブライアンさん、店空けるんだ」
「アッシュさんたちと出かけるんだって。それで明日、早起きしてお弁当作らなきゃ」
「やだ、それを早く言いなさいよ。ジルの分は私が作るからね、おやすみ」
「おやすみ〜」
ぱっと黒髪が引っ込んだのを見送って、クロエも目を閉じる。
絶対に店を空にしない。このブライアンの方針のお陰で、クロエはあの店で働いているようなものだ。規模から言ったら使用人なんていらないのだあの店、実は。
10歳の時から厄介になって、もう3年にもなるんだ、そう思うとちょっと自分でびっくりする。
さすがに若い男のいる家に少女が住み込むのは宜しくないからと、この総菜屋に下宿まで世話してもらって、アンジェとも出会えた。そのうえ学校にも行かせてくれる。故郷にいたら文字を読むことさえ多分出来なかったろうから、たまにブライアンが出掛ける間学校を休むことくらいなんてこともない。
「…リーランド…って、何なんだろう…?」
天井を見ながら、久し振りに呟いてみる。ブライアンがたぶん、待っている人。その人が戻ってくるかもしれない、だから。

ブライアンは、店をいつも開けている。
本編のその夜のクロエ、下宿先(SS) その2


あれは奉公に来て最初の降誕祭の日。
店の台所で、洗い物をするブライアンの横に置いた台の上、その上に乗ってクロエは食器を拭いていた。いつもでは考えられない皿の枚数。
「あたしこんなにたくさんのお皿洗うの初めて」
うん、と流し一杯泡だらけにしながらブライアンは皿を洗っている。「私も初めてだ」
総菜屋で降誕祭のお祝いがあり、ブライアンが店を開けられないからと集まりごと店に移動したのだ。皆は今、店を片づけた臨時の会場でまだお祝いの真っ最中。
「女将さんのご飯はおいしい?」
「はい! すっごくおいしいです。あたし、こっちに来て始めてプディング、あーんな大きいの見ました」
「へえ、そうなの」
「村じゃあ母ちゃん、プディング小さいのしか作らなかったんですもん。あ、あとあと、飾りもすっごく大きかったんですよ!」
「見られなくて残念だったなあ」
「だから最初から来てれば良かったのに。何で来なかったんですか?」
ブライアンが渡すのを受け取って、皿を重ねていく。それがなんだか楽しかった。誰かが持ち込んだオルガンとそれにあわせたステップと、今もまた、どっと笑い声が聞こえてくる。
「だって店を空ける訳にはいかないからね」
「ちょっとぐらいいいじゃないですか。降誕祭の日にお客さんなんて来ませんよ」
「わからないよ。来ないと思っている時に来るのがお客だからね。来た時に応対できないのが怖いんだ」
「変なの〜」笑って思いつく。「わかった。降誕祭の日に来る女の人なんじゃないですか?」
「こら。子供が何を言うか。そんなんじゃないよ」
「あ、女の人だ。会えないのが怖いなんて、ねえ、ブライアンさんの恋人?」「だから違うって、待ってる客はいるけど女の人じゃない。いいって、ほら、落とすなよ」
大皿を受け取って両手がふさがる。「なーんだ、男の人かあ。何か物を頼んでるんですか? 何て名前の人?」
「まあ、そんな訳で店は閉めません」
「あー、はぐらかした。名前くらい教えてくれてもいいのに〜。あたしひとり店番している時にその人が来たらどうするんですか」
「それはたぶん、ないと思うよ」
「わからないですよう。教ーえーて、おーしーえーて、教えて」
「あー、うるさい。名前だけだぞ。…リーランドだ」
「何を頼んでるんですか? どんなの?」
「名前を教えたんだから、大丈夫だろう?」
「同じ名前の人が来たらどーするんです? ブライアンさんがそんなに気にする物って何かなあ! あたしも見たいな〜」
「大した物じゃないよ。ただ、見つかりにくい物なんだろうってだけで、そんなに大事な物じゃない」
「気になるな〜。あたしもほし」
「クロエ」すっと泡だらけの指が唇の上に軽く置かれた。びっくりして皿を落としそうになる。「そこまで、だ」
置かれた時と同じように、唐突に指が離れていく。皿を持った手が震えた。震えは手から背に伝わって、膝に伝わった。
「慣れない酒を飲み過ぎちゃったな」流しの中で、再び皿がぶつかり合う。「だから祝い事は苦手なんだよね」
「…あたし!」言葉を発した途端、かあっと耳の後ろが熱くなった。大きな音をさせて皿を置き、慌てて台を降りる。
「あっちの洗い物、取ってきます!」
「クロエ! 待ちなさい」
はい!と返事をして、でも振り返ることは出来なかった。ため息を背中で聞いて、ごそごそとブライアンが手を拭いている気配がする。
「ちょっと待ちなさい」
かがみ込んできたブライアンは、ちょっと困ったような顔をしていた。白い布が顔に迫って、クロエはきゅっと目を閉じる。
「ほら、目を開けて」
恐る恐る目を開けると、ブライアンがにっこり笑っていた。「鼻に泡、付けちゃってごめんな」
咄嗟に答えられないでいると、ブライアンはふと、その眉をひそめて、

「クロエ? 顔が赤いよ?」
本編のその夜のクロエ、下宿先(SS) その2



ばっと目を開く。目の前にアンジェの逆さまな顔。「痛っ」飛び起きた拍子に壁に頭を打ち付けてしまった。
「大丈夫? 熱でもあるの?」
「ないよ〜、びっくりしただけ。なに、アンジェ、どうしたの?」
「やー、ジルって何か嫌いな食べ物あるのかな〜と思って…」
「…なんでも食べると思うよ、出したご飯残されたことないもん」
「ん、わかった。…大丈夫?」
「大丈夫〜。…おやすみ」
おやすみ、とアンジェが引っ込む。指で耳の後ろを触ってみると熱かった。頬をさわってみても、やっぱり熱い。
はあぁと、アンジェに気付かれないようにため息をついて布団の上に倒れ込む。目の上に置いた手の甲が冷たくて気持ちいい。
唇がむずがゆいような気がして空いた手で軽くこする。何だかそれがまた、あの指の感触を思い出させる。あの、洗剤の匂いみたいに。
「もう、なんで赤くなるのよぉ…」
思えば、ブライアンも自分で言っていたように少しお酒を飲んでいた。クロエの方も、一緒に働き始めて半年くらいでブライアンに慣れ始めて気安くなりすぎていた。
今だったら絶対、ブライアンはあんなことを漏らしたりしない。クロエもブライアンの前で、リーランドの名を出したことがない。
リーランドが、ブライアンの前の店主の名だと知ったのはそれからすぐのこと。けれどそれもブライアンに言ったことはない。名前を出せない気がしてる。
あの時、ブライアンが怖かったわけじゃない、と思う。でも手が震えた。足が震えた。……なんで、なんだろう?
「もう、いいや…」
明日のこと、あの二人と出掛けることを思い出せば、大丈夫かな?という心配心が頭をもたげてくる。リーランドを待たずに店を開けてまで、ブライアンは出掛ける。いったい何をしに行くんだろう?
考えるのは、やめにして、クロエは無理矢理に目を閉じた。明日は早起きするんだから。ブライアンに、おいしいお弁当を作ってあげよう。

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