彦根藩主(井伊家各藩の物語)コミュの八代藩主・井伊直定

元禄15(1702)年～宝暦10(1760)年

井伊直興の十四男
母は側室・平石氏

兄の井伊直惟が彦根藩七代藩主に就任した時、直興の息子は三人しか残っていませんでした。

彦根藩七代藩主・井伊直惟(十三男)
与板藩初代藩主・井伊直矩(四男・直勝系井伊家五代当主・49歳で没)
そして井伊直定(十四男)

三人の内、二人までが藩主の座にあった事を考慮した直興は、直定に彦根藩の支藩として彦根新田藩を立藩し1万石を分与しました。

彦根新田藩主となった直定は、享保17(1732)年に、奏者番(江戸城中における武家の礼式を管理する役職で、老中に出世するための登竜門ともなる仕事)に就任。
このまま彦根新田藩主を続けていたら幕府の要職にまで出世した事が考えられます。

しかし、奏者番就任の2年後に兄･直惟が病弱を理由に直定を養子として隠居する事を幕府に願い出て受理された為に奏者番を辞任し、彦根新田藩領を彦根藩に戻します。
彦根藩に支藩ができたのは、彦根新田藩があった正徳4(1714)年～享保19(1734)年のたった20年間のみで、この前にも後にも支藩はできていません。

33歳で八代藩主に就任した直定でしたが、直興の息子たちの中でこの年まで生きていたのが不思議なくらいでしたので、家臣の期待も大きかったようです。
また、現在残っている甲冑から考えると、歴代藩主の中で一番身体つきが大きかった事もわかっています。
そして冑には5本の菖蒲をあしらった前立の付いた一番派手なモノになっています。

そんな派手な甲冑を残す直定ですが、藩の財政が逼迫している時で、藩士の給与も半分しか出せないような時代でしたから、質素倹約を旨とし食事は毎日一汁一菜で毎月1日と15日のみ魚を食べたのでした。

藩内では領民も苦労をしている事を知っていた直定は、自分が贅沢をする事を禁じていたのです。

これは江戸城に登城している時でも同じで、持参する弁当は握り飯でした。
心無い大名は、譜代大名筆頭の当主がそんな弁当を持ってくる事を陰で笑っていたそうですが直定は気にしなかったと言われています。

また、珊瑚を自慢している大名が居ると「我が庭にある草の実より採れた珊瑚也」と藜蘆（りろ）の実を贈って、大名が贅沢をする事を諌めました。

他にも、藩の風紀の関わるエピソードとして、
槻御殿(玄宮楽々園)から遠眼鏡(望遠鏡)を使って大洞弁才天の辺りを見ていると、弁財天の麓の茶店で酒を飲んで暴れて、そのまま松原内湖を渡る為に船に乗ろうとする数人の藩士の姿が見えました。
直定はこの事に気が付かない様なそぶりで傍に居た近習たちに遠眼鏡を渡してよく覗くように言ったそうです。
近習たちは、船に乗っている藩士たちの名前を挙げると、後でこの藩士たちに罰が下る事が分かっていて、藩内に余計な波を立てない為に風景に対する賞賛を口にしました。
しかし、近習の一人の多田某は、「あそこで酔っているのは某と誰と彼である･･･」と自慢げに名前を口にしたのです。
直定はこの言葉が聞こえなかったかのようにその場から立つと、一番近くに居た近習に「多田は藩主の傍に仕える者ではないな」と囁いたのでした。
直定は、大局を読まずに自身の出世のみを考える家臣を試したのです。

こんな生真面目な直定でしたが、藩主の激務に身体を壊したようで、53歳の時に兄・直惟の子・直禔に後を譲って彦根で隠居生活に入ろうとしますが、直禔が藩主就任2ヶ月で亡くなってしまったために二度目の藩主に就任します。

翌年に、直禔の弟・直幸に藩主の座を譲って彦根で隠居生活に入り5年後に亡くなりました。

直興の息子の中では一番長命の59歳だったのです。