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日記ロワイアルコミュのねこまた

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僕の実家の引き戸はどれもほんの少しだけ開いている。
それは、ちょうど拳ひとつ分のすき間。
効かないエアコンの部屋の中、誰もそのすき間を閉めなかった。

僕が中学生の5月、二匹の仔猫が拾われてきた。黒猫の雌と茶トラの雄だ。
真っ黒の毛並みに尖った耳の雌猫は少し不気味な印象を与えて、対して愛くるしい茶トラくんは大人気だった。
生来の天邪鬼で僕は黒猫に構った。
黒猫は僕に全く懐かなかった。
撫でようとする指を噛み、抱き上げようとする腕の中で暴れて、僕は傷だらけだった。
それでも僕は黒猫に構った。
可愛い子猫に群れる人たちの横を飄々とすり抜けていく気位の高さに見惚れた。
自分勝手な振る舞いに憧れた。
気まぐれな態度に振り回されて、餌をねだる声になびいた。そして、漏れなく差し出した指を噛まれた。
絆創膏を貼った指を摩りながら震える寒い夜、部屋の引き戸が少しだけ開いた。猫は自分の頭が通れば、どんな狭い所へも入れるという。すきま風を背負いながらトテトテと歩いてくる黒猫は僕のお腹の上へ収まって、何も言わずに丸まった。コイツのそういう所が好きだった。

茶トラが早くに逝って、その代わりとばかりに黒猫・メイは永く生きた。
何度も春が来て、僕たち兄弟が順番に家を出ても、メイは残された両親と共にゆっくり年を重ねていった。
実家に帰る度に僕はメイの尻尾を確かめた。
『長く生きた猫は尻尾が二股に分かれて猫又と言う妖怪になる』
なってもおかしくないくらいに生きた。
すっかりお婆ちゃんになったメイはもう僕の指を噛まなくなっていたし、相変わらず尻尾は一本だけど、人の少なくなった実家を守ってくれていた。

「今年の秋は暖かいね」親父が湯飲みを置いて扉の方を見る。
きちんと閉じられた部屋の暖房は設定温度通りに僕らを温めている。
「今年の秋は暖かいけど」湯飲みを流しに運びながら親父が続けた。「なんだか寂しいな」
メイが化けて出れば良いのに。指先で疼く古傷が厳しい冬を呼んでいるみたいだった。

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