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日記ロワイアルコミュのフ、 ┣ ぉ ヵゝ 了

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『ゆうこ、僕はいま、君のことを考えている。
考えても仕方のないことばかりを、とりとめもなく考えている。
僕にとって、君の存在は一体何なのだろう。
かわいい部下?妹?友人?それともー』


気色の悪いメールが入っていた。
持田からだった。『それともー』じゃねぇわ、そのどれでもねぇわ。携帯の画面に向かって、声には出さずに心の中だけで突っ込む。
持田なんちゃら(下の名前忘れた)は、以前勤めていた会社のシステム管理部にいた男だ。私が会社を辞めてからもう四年が過ぎるというのに、彼はいまだ、あけましておめでとうだのお誕生日おめでとうだのなんちゃらシステムが導入されて立ち上げメンバーリーダーの俺は心身ともにくたくただよだのと、知ったこっちゃないメールを不定期によこしてくる。(私はそのどれにも、ただの一度も返信したことはない。)いつだかは、『先日ガソリンスタンドでみかけたよ。綺麗になったね、恋をしているのかな?』なんてのもあった。ぎょへー!過ぎる。
ちょうど実家に帰ってきていた妹に、ねえねえ見てよこれキモイんですけどーとたったいま確認したばかりのそのメールを見せつけると、彼女はしばらく無言でそれを眺め、それからやたら深刻な表情を浮かべて言った。
「姉ちゃん、あたし、やばいことになっとるかもしれん。」
それが、序章。



妹は、県内の公立高校で教員をしている。
妹の勤務先は実家からは随分と離れているので、いまは3LDK(←!)の部屋を借りて、一人暮らしをしている。
彼女は教職員メンバーで構成されるテニスサークルに所属しており、そこに最近新しいコーチが指導にくるようになったそうなのだが、そのコーチの男がどうもみょうなのだという。
「みょうって、何が?」
私が聞くと、
「うーん、うまく説明できないんだけど…」
と妹は答えた。そして自身の携帯をバッグから取り出して操作しながら、あれー、こないだも変なメール来たんやけど、ないわ、消したんかな、と独り言のように言い、
「なんかね、その人に彼氏はおるんか?って聞かれたんよ。それで、います、ってふつーに答えたんやけど、それから何日かして、おまえほんとは彼氏がいるなんて嘘だろう、いないくせにいるって答えるなんてどういうことだ、おまえは俺のことばかにしてるのか、みたいなわけわからんメールがきて…。ね?変じゃない?怖くない?」
と続けた。
変と言われれば確かに変な気はしたが、実際のメールも見ていないし、状況がよくわからなかった。妹も「まぁ気にしすぎかもしれんし…」なんて言っていたので、その時はなんとなくうやむやに終わった。

その後、しかし事態は急速に深刻化する。

日に日に回数が増え、やがて一日中鳴り止まなくなった電話とメール。そこで囁かれつづける歪んだ愛の言葉。

そしてある日、アパートの妹の部屋の玄関先に魚の残骸が撒き散らされるという事件が起きた。
頭、くりぬかれた目玉、骨、鱗、心臓、血。異臭。そして彼からの着信。『プレゼントだよ。』
怯えて実家に電話をかけてきた妹は、「気味が悪いけどとりあえず掃除はした」と言い、それから「あの人、おうちが魚屋さんなんよね・・・。だからなんかなぁ。」となんだか間の抜けた感想を漏らしていた。
また別の日には、職場からアパートに帰宅すると、妹の駐車スペースに男の車が止まっていたこともあった。男は車外に出て、車にもたれかかるようにして妹の部屋の方向を眺めていた。その日妹はそっとその場を離れ、友人の家に泊めてもらったそうだ。

父と妹の二人で、警察に相談に行った。
電話の内容は全て録音するかメモをとるかし、メールも保存しておくようにと言われた。それらは証拠になるからと。
けれど対応してくれた若い警察官は、男を逮捕することは可能だが拘留できるのはせいぜい数日でしかないこと、いまの法律は妹を守ってはくれないのだということを熱心に説明した。
「そのうえでどうしたいか、どうするのが一番いいのかを一緒に考えましょう、だってさ。親切な人だったよ」と、妹は私と母に報告した。
親切な人だったよ、解決はしてくれないけれど、と。



妹の恋人も交えての、緊急家族会議が開かれた。
といっても別にそんな大層な話し合いがなされるわけでもなく、とりあえずしばらくは恋人が妹の部屋で一緒に暮らすことになった。ちなみに彼の住まいはうちの実家のすぐ近所にある。それまで十数分程度ですんでいた通勤時間も、妹のアパートから通うとなれば毎日高速で片道二時間かけなければならなくなる。ご面倒おかけしますねえと、両親は恐縮しっぱなしだった。

「ベランダに出て洗濯物とか干してるだけでね、胃がぎゅってなるんよね。電柱の影にあいつが見えるん。でも、目を凝らしてよく見たら誰もおらんのんよ。人の心って、こうも容易く壊れるもんなんだなって、思い知った。」
休日に実家に泊まった妹が、布団に頭からすっぽりと潜り込んだまま言った。
「…ていうか、あんたが彼氏んちに引っ越せば?」
「通勤片道二時間とか無理ぃぃぃー」
私は布団越しに彼女の頭をぽんぽんと叩きながら、またもや受信した持田からのメールを開く。

『ゆうこ。きみに冬の海を見せたいな。特に夜がいい。冬の夜の海は暗い。その闇がすべてを塗りつぶしてくれる。俺はなんてちっぽけなんだろうって思う。そしてそれでいいんだって思える。』

なんのこっちゃ。
携帯を閉じる。そして昔のことを思い出す。

妹はなんでも器用にこなす子だった。
小学生の頃に習っていたピアノも習字もそろばんも、私は二つも年下の妹に何一つかなわなかった。
ヘ音記号がどうしても読めずにいつまでもバイエルで足踏みしていた私に対し、妹はテレビで流れる流行歌を耳で聴いただけで自分のアレンジで演奏したし、毎月どこかに提出していた習字の作品はいつも妹が皆の中で一位で、審査員の先生から「いつもながらお見事!」などと評されていた。
一緒に受けたそろばん検定二級に妹だけが合格してしまった翌日、そろばんの先生と習字の先生がそろってうちにやってきて、母親と何か話をしていたのを覚えている。
「姉妹に同じ事をやらせるのは姉の人格形成上よくない。同じものを与えることだけが平等な教育ではない。お姉ちゃんには、なにか別のチャンスを与えてやるべきだ。」そんなようなことをその日母は言われたのだと、けれど母は「あの姉は妹と比較されて傷つくようなタマではない」と一蹴したのだと、ずいぶん後になって笑い話として父親から聞かされた。
たしかにその通りだったかもしれない。
能力を妹と比較されて傷つくほどに、私は向上心など持ち合わせてはいなかった。

谷崎まさる、
服部貴弘、
小西賢二郎、
中田修、
本田章悦、
名簿に並んだ文字を読みあげるように、記憶の中の彼らの名を反芻する。皆、かつて妹に好意を寄せていた男たちだ。
谷崎まさるは中学一年の時に妹と同じクラスにいたヤンキーだ。学校の廊下ですれ違えば私にまで「お姉さぁぁぁん!」と無意味にでかい声で叫んできて、睨みつけてやったらみょうに人懐っこい笑顔を返された。服部貴弘もやはり中学の同級生で、卒業式間近に妹に告白して振られた。小西賢二郎は高校の時で、誕生日の日の夜遅くにプレゼントだと言ってオルゴール(オルゴール!)をうちまで持ってきた。中田修は妹がはじめてつきあった男だ。彼のことをそんなに好きじゃないかもと、当時あのこは言っていた。その後の本田章悦とは長く交際していたようだったが、大学卒業後、就職で距離が離れて結局別れることになった。

そのひとつひとつを、私は全部思い出せる。
私には、なにもなかった。
いつもあの子ばかりだった。

既読の持田からのメールを、また開いて眺める。
持田は五十手前のくたびれた男だ。既婚で、たしか中学生くらいの娘さんが二人いる。
私と持田の間にはもちろん何もない(し、「ゆうこ」だなんて下の名前で呼ばれたことも一度たりともない)。
彼がいたシステム管理部と私の部署とはフロアも離れていたし、たまに顔を合わせる程度の関係だった。会えば世間話をするくらいのことはあったけれど、それだけだ。なぜ彼がこれほど私に執着するのかまるでわからない。
薄っぺらい男だった。喋る内容もそうだが、顔も体つきも、なんかペラペラしていた。
彼に対する感情は、むしろ嫌悪しかなかった。声も、口をすぼめる癖も、ふひひ、というざらついた笑い方も、全てが不快だった。
それでも彼からの数々のナルシスティックで一方的なメールを着信拒否しなかったのは、妹のストーキング対策のような記録のためではないし、面倒だからでもない。
だいたい冬の海なんて寒いだけで、ちっとも行きたいとは思わない。
それなのに私は彼の車の助手席にいる自分を夢想した。
求められるということ。望まれるということ。
それは私の拠りどころだった。彼からのメールが届くたびに、私の中の何かが華やぎ、そして満ちた。彼の独りよがりな文面のその先に、たとえ生身の私自身の姿なんてこれっぽっちも見当たらなくても。



妹は勤務先の学校に事情を話して、新年度から別の学校に異動させてもらえることになった。
四月まではまだ数ヶ月あったけれど、やはりこれ以上あそこに住み続けるのは精神的にきついということで、引越しは先に済ませた。少しでもストーカーの目を逸らせるようにと、念のため車も母親と交換した。

「ああー、広々3LDKともお別れかー。あそこ気に入っとったのにー。」

アパートを解約する数週間前に妹が嘆き、じゃあ最後にいまの部屋を存分に味わっとこうとかなんとかいう話になって、ちょうど恋人が出張で帰ってこられなかった金曜日の夜、妹の部屋に泊めてもらうことになった。
妹は上沼恵美子のおしゃべりクッキングでやっていたという唐揚げを梅肉で和えたものと、コンソメスープとサラダをこしらえてくれた。「上沼恵美子のレシピは使えるよー」とほがらかに彼女は笑う。テーブルの真ん中には透明のグラスに名前のわからない小さな紫の花が挿してあって、「どっかの道端で摘んだん?」と聞くと、「なんでよ(笑)お金出して買ったのー!」と言われた。
そういう細やかなことができる妹がうらやましかった。
私は造花しか飾らない。
私たちはまるで違う。
私が持たないすべてを、私が欲しかったすべてを、彼女が持っている。私が母の胎内に置き去りにしてきてしまったすべてを、妹がその手に掴んで生まれてきたのだと思う。

「でも悔しいよねー」と妹がぽつりと言った。
「あたしの人生、いままでけっこう順調だったのにさー。テニスだってやめないかんなったし。この間の試合もし出とったら、あたしたぶんええとこまでいけたと思うんよね。あんなわけわからんおっさんにじゃまされるとか、ほんと人生何が起きるかわからんわー。」
少し驚いた。
言われてみれば、たしかに彼女の人生はこれまで疑いようもなく順調だった。
そうか、世の中には自らを「順調」と捉えている人が存在するのか。そんなこと考えもしなかった。
妹の膨らんだ足元に視線を落とす。彼女は五本指の絹の靴下と綿の靴下を交互に重ねばきしている。冷えとりと、あと絹にはデトックス効果(?)があるのだそうだ。ほんまかいな。
それから、シンク傍に設置されている突っ張り棒とワイヤーネットを駆使した手作り棚。埃ひとつない階段。ラックに並ぶ無印で色を統一したファイル。生徒から贈られたものらしい寄せ書き。ああこの子はこれまできちんと生きてきたのだろうなあ、なんて思った瞬間、リビングの固定電話が突如鳴り響き、妹の表情がさっと強張った。やばい、絶対あいつだわ、と唇の端を小さく歪ませて泣きそうな顔で笑う。
「そういや、録音とかしよるん?」私が聞くと
「やってない(笑)」と妹は答えた。
「…ねえ、私、でてみてもいい?」
妹の返事を待たずに、私はいそいそと立ち上がって受話器を掴んだ。「…はい。もしもし?」
ばくばくと乱れる心音を抑えながら、受話器の向う側に耳を澄ます。 しばらくの沈黙の後、
『   …チャン?』
電話の向こうの声が妹の名を呼んだ。間違いない。ストーカー男だ。私を妹だと思っているのだろう。私たちは唯一、声だけは似ている。
『   …ブッ…   ブッ…    』
「え…?なに?なんですか?」
何をいっているのかよく聞き取れない。
『  アンマ レヲ ナメン ヨ…   』
どうやら、何か罵倒しているっぽいことだけはわかった。…あんまり俺を舐めるなよ?
男はなおも続ける。
『 ヤメロヨ ソンナイイカタシタラ  …チャンガ オビエルジャナイカ  ニバンハアヤマレnky…  』
「…?」
『オレジャナイ ハチバンガカッテニシャベッテry ソウジャナイ…  ソウジャナクテ、ダtレ  』
『  ハチバンハ ランボウダカラ ‥チャンオビエルンダ チガウノニ チガウノニ タダ  …ダケナノニ 』
にばん?はちばん?この男は何を言っている?一体誰と喋っている?
『ハチバンノセイダ』
『ハチバンハイツモ』
『ハチバンgt…』

…やばい。想像をはるかに上回る、というか、ちょっと違う種類の怖さだった。得体が知れない。

『 ﺢ‎‎‎‎‎‎‎ﺱ‎‎‎‎‎‎‎ﺱ‎‎‎‎‎‎‎ﺲ‎‎‎‎‎‎‎ﻂ‎‎‎‎‎‎‎ﺓ‎‎‎‎‎‎‎〄ﻁ‎‎‎‎‎‎‎ﺰ‎‎‎‎‎‎‎ﺱ‎‎‎‎‎‎‎ﺡ‎‎‎‎‎‎‎ﻒ‎‎‎‎‎‎‎ﻓ‎‎‎‎‎‎‎ﻐ‎‎‎‎‎‎‎  』
『 ﺰ‎‎‎‎‎‎‎ﺑ‎‎‎‎‎‎‎ﺲ‎‎‎‎‎‎‎ﺲ‎‎‎‎‎‎‎ﺴ‎‎‎‎‎‎‎ﺤ‎‎‎‎‎‎‎ﺴ‎‎‎‎‎‎‎ﺴ‎‎‎‎‎‎‎ﻒ‎‎‎‎‎‎‎ﻂ‎‎‎‎‎‎‎ﻂ‎‎‎‎‎‎‎ﺒ‎‎‎‎‎‎‎ﺓ‎‎‎‎‎‎‎ﺴ‎‎‎‎‎‎‎   』
『 ﻑ‎‎‎‎‎‎‎ﺣ‎‎‎‎‎‎‎ﺣ‎‎‎‎‎‎‎ﺱ‎‎‎‎‎‎‎ﺱ‎‎‎‎‎‎‎ﺒ‎‎‎‎‎‎‎ﺐ‎‎‎‎‎‎‎ﺡ‎‎‎‎‎‎‎ﺰ‎‎‎‎‎‎‎ﺡ‎‎‎‎‎‎‎ﺐ‎‎‎‎‎‎‎ﺁ‎‎‎‎‎‎‎ﺤ‎‎‎‎‎‎‎ﺲ‎‎‎‎‎‎‎ﺲ‎‎‎‎‎‎‎ﺰ‎‎‎‎‎‎‎  』
『 ף‎‎‎‎‎ּ‎‎‎‎‎‎‎‎‎‎‎‎‎ﺵ‎‎‎‎‎‎‎‎‎‎‎‎‎ﻂ‎‎‎‎‎‎‎‎‎‎‎‎‎ﻃ‎‎‎‎‎‎‎‎‎‎‎‎‎ﺳ‎‎‎‎‎‎‎‎‎‎‎‎‎ﻵ‎‎‎‎‎‎‎〠‎‎‎‎‎‎£%ﺃ‎‎‎‎‎‎‎ﺄ‎‎‎‎‎‎‎ﺡ‎‎‎‎‎‎‎ﺱ‎‎‎‎‎‎‎ﻂ‎‎‎‎‎‎‎ﺳ‎‎‎‎‎‎‎  』
『 ﺤ‎‎‎‎‎‎‎ﺴ‎‎‎‎‎‎‎ﺴ‎‎‎‎‎‎‎ﻒ‎‎‎‎‎‎‎ﻂ‎‎‎‎‎‎‎ﻂ‎‎‎‎‎‎‎ﺒ‎‎‎‎‎‎‎ﺓ……     』
『 ………        』
『            』
『            』
『            』
『       ♯&@…  』
『  \\ …       』
『            』
『            』
『            』

男の言葉がまるで理解できず、しだいに思考能力が停止してくる。さっきから言っているはちばん、とは八番の意味だろうか?番号?男につけられたタグみたいなものか。ああ、数えればいいのね、ええと、谷崎まさるが一匹、服部貴弘が二匹、小西賢二郎が三匹、中田修が四匹、それから、あとだれだっけ。本田、、、そうだ、本田章悦だ。違う。なに言ってんのあたし。狂ってる。 狂ってる?誰が?「…狂ってるんですか…?」
ぼうっとする意識の中、脳みそに浮かんだ単語を半ば投げやりにそのまま発したら、クル?と男が繰り返した。
『クル?ヤッパリキテホシカッタンダネ?ボクヲアイシテイルンダヨネ? …ブツ…  …ブツ… ウレシイヨ… 』
『 …ブツ…  ウレシイヨ…  …ブツ…  ウレシ…  …ブツ…  …ブツ…  』
妹の方にちらりと視線を向ける。静止したまま不安そうにこちらをじっと見ている。
ーああ。
受話器から伸びるコードを指で弄りながら、私はゆっくりと、小さく、声には出さず、唇の形だけを変えてその名を呼んだ。ーモ チ ダ。
持田はどうしてここまでしてくれないんだろう。
どうして中途半端に気色の悪いメールを気まぐれに送ってくるだけで、それ以上踏み込んでこようとはしないのだろう。あいつは私なんかいなくても、不便なく生きてゆけている。まっとうな大人みたいなふるまいで、社会的存在として、ちゃんと世間に溶け込んでいられている。
どうして私には誰もいないのだろう。
どうして、いつも、あのこばっかり。

『… ウレシイヨ… ホラネ、ダカライッタジャナイカ …バンハ…キカナイ r… 』

相変わらず男は何かわけのわからない言葉をつぶやいている。うるさい。黙れ。なんですか、用事がないならもう切りますね、そう言って受話器を置こうとしたら、ヨウガアルンダ、と男が答えた。
『…ワスレモノ…』
『…ワスレモノ …ナクチャ…トテモタイセツナ …』
「はぁ…?」

『ワスレモノヲ  …クチャ』

忘れ物…?

『ワスレモノヲトリニキマシタ』

『ワスレモノハ』

ピンポンピンポーン、とインターホンが鳴る。

『アナタデス』

ピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポン
ピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポン
途切れることなく部屋中に流れるその音と受話器越しにも聞こえているその音が不協和音となって脳内に大音量で鳴り響き、男がいま狂おしいほど欲している人がしかし私ではないという現実に、私は心底絶望する。

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