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 スターバックスでカフェラテを注文し、出来上がるのを待っていた。すると、奥にいた大学生くらいの女性店員がちょこちょこっと小走りにやって来て、わたしに小声で質問した。

「お砂糖はお入れしなくて、いいんですか?」

 すこし気恥ずかしそうだった。わたしは、あはは、と心の中で笑いながら、にこりとして答えた。

「じゃあ、お願いします」

 彼女は、「わかりました」と微笑んで、来たときと同じように小走りでカウンターの向こうへと戻っていった。わたしは嬉しい気持ちになりながら、出来上がるコーヒーを楽しみに待った。




 この店に通うようになって四ヶ月になる。職場で仕事の疲れが溜まったとき、ほっと一息を入れたくて、コーヒーを飲む。一時は一日に二度三度と、足を運んだこともあった。

 わたしの好みは、ホットカフェラテ、砂糖一つ。注文するときにいつも、「砂糖一つ入れてください」とお願いする。

 お店によって、「砂糖は向こうにありますので、ご自分で」と断られるのだが、この店は違った。最初から快く、引き受けてくれた。

 お願いする理由は、ふたを開ける作業が面倒だから――ということもあるが、オーストラリアのカフェで働いていたとき、お客の注文に合わせて、砂糖を入れて作るのが普通だったからだ。

 店長はいったい、何百人分の好みを覚えていたのかと思う。彼は常連客の車が駐車するのを遠くに見るだけで、もうコーヒーを作って、入店するのを待っていた。

 興味深かったのは、そこのカフェで働いているひと同士が話すとき、「ジェームスっているじゃん?」、「カプチーノに、砂糖ふたつのひと?」、「そうそう」となることだった。顔や他の印象よりも、コーヒーの好みが先に出てくるというのがおもしろかった。

 それまでコーヒーを外で飲む習慣の無かったわたしは、日本でははたして砂糖を入れてもらえるのか知らなかった。帰国してから実際に頼んでみると、自分で入れるようお願いされたり、入れてもらえたり、どちらかと言えばセルフサービスになる確率の方が高い事を知った。日本では無い習慣なんだろうなあと思いながら、自分で砂糖を混ぜた。

 そんななか、わたしの職場の近くにあるスターバックスでは、快く砂糖を入れてくれる。だからずっと、「トールラテ、砂糖ひとつ入れてください」と注文している。

 おそらく、お店の人はわたしのことを「砂糖のひと」として認識しているだろう。最初のころは、「こちらの砂糖でよろしいですか?」と確認されていたが、最近はそれもなくなった。「トールラテ、砂糖ひとつ入れてください」と頼めば、「はい。まだ仕事ですか?」、「そう、終わらなくてねー」、「いつも大変ですねえ」なんて会話をするようになった。すっかり顔なじみになっており、何人かの店員さんとは、少ない時間のなかで、軽く雑談をするような仲になった。

 店員さんのひとりに、「お前はジュノンボーイか」と思うほど爽やかなハンサム青年がいる。スタイルもよく、彼を目当てに来ている女性も多いのではないかと思う。

 あれはいつごろだったか忘れてしまったが、まだそれほど店員さん達と言葉を交わすようになる前、注文をしたとき、レジで対応してくれた彼が、「いつもありがとうございます」と一言添えて、おつりを渡してくれた。

 マニュアル通りの台詞なのかもしれないが、他の店員さんから言われたことがなかったので、「おおっ……」と嬉しくなった。もしもわたしが女なら、ひざから崩れて、カウンターに片手を置いたまま、「好きです……」と告白してしまったかもしれない。それほどまでに、なぜかわたしの心に触れた。

 確かにずいぶんと、「いつも」通ってしまった。

 昨年の11月に就職して以来、コーヒーを飲むことだけが息抜きの時間になるほど、「This is Japanese Salaryman!!」という日々を送っている。リゲインと友達になり、眠眠打破と恋人になっている。仕事仕事の日々に精神がリセットされず、疲れが溜まる。

 そんななか、見つけたリフレッシュの時間が、スターバックスのコーヒーを飲むことだった。さすがは、恋を忘れた哀れな男をウキウキさせるほど刺激的な飲み物だと思う。

 昨夜も、八時くらいに集中力が切れたので、コーヒーを飲むことにした。いつものスターバックスに行くと、レジにいたのは初めて見る顔のひとだった。

 そのとき何となく、「今日は砂糖抜きがいいなあ」と思い、「トールラテひとつください」と注文した。他にも、会社のひとから頼まれたチャイラテとキャラメルマキアートを頼み、受け取る場所へと移動した。

 そのとき、冒頭の出来事が起こった。レジの奥で、コーヒーを持ち帰るときに使う型を整えていた顔なじみの彼女が、わたしの注文に気づき、わざわざ訊ねに来てくれたのだ。その気遣いに、わたしのこころは満たされた。

 覚えてもらえているということは、嬉しいものである。

 カフェラテを作ってくれたのは、ジュノンボーイだった。ミルクを温めている様を見ながら、「今日は忙しかった?」と訊ねてみた。

「今日は、一時間前くらいが忙しかったですねー」

「そうなんだ。いつもそのくらいが忙しいの?」

「いえ、いつもはお昼が混みますねえ」

「へえ」

「いつも、仕事帰りに寄られるんですか?」

「いや、仕事の途中なんだ」とわたしは苦笑した。「なかなか終わらなくて」

「遅いんですか?」

「だいたい地下鉄最終とか」

「うわっ、大変ですね。職場は近くなんですか?」

「そう、斜め向かい」と、わたしは指をさした。

 そんな簡単な会話をしているうちに、コーヒーが出来上がる。「お待たせしました。いつもありがとうございます」という言葉に、わたしも「ありがとう」と礼を述べた。

 レジにいた彼女にも、「ありがとう」と伝えた。彼女からも、「ありがとうございました」と返事があった。

 コーヒーを飲むこと以上に、彼らとの会話が、わたしを癒すひとときになっている。それを彼らは、知っているだろうか。

 オーストラリアのカフェで働いていたとき、どんなに忙しい状態でも、店長はカウンターのそばに来る常連客とおしゃべりをしながら、コーヒーを作っていた。その器用さに驚き、ぞんざいにしない態度に、「すごいですね」と感心すると、彼は、「まあ、お客はあのおしゃべりもしたくて、この店に来ているわけだからな」と話してくれた。

 いまなら、あのときの台詞が、ものすごく理解できる。



 職場に戻り、いつもと同じ甘いコーヒーを飲みながらほっとする。そして、「そのうち、『いつもありがとうございます』ってこっちから言ってみようかな」と思いながら、わたしは仕事に精を出した。

コメント(146)

まさに素敵な飲み物、コーヒーモカ・マタリ。
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