日記ロワイアルコミュの問１（※怖い話）

タカヒコは大工さんです。

地方で家を建てるために、アパートに泊まり込みで仕事をしていました。

建てる家の高さを４ｍ、タカヒコの仕事量を１日１０ｃｍとすると、働き続けて４０日で完成します。
タカヒコが泊まり込みをしていた２階の部屋には、前の住人がことごとく２週間以内に出ていってしまうという噂話がありました。
タカヒコがアパートに引っ越しをしてから３日目の晩のこと、タカヒコはある音に気が付きました。

カン　　カン　　カン

というアパート横の階段を上る音。

その音は次の日も、そのまた次の日も、だいたい決まった時間に聞こえてきました。

最初はただの住人だろうと思っていた勘の悪いタカヒコも、流石に１週間も過ぎると不思議に思うようになりました。
住人であれば階段の一番上まで上って来るはずが、その音はいつも途中で止まるのです。

しかし勘の悪いタカヒコのこと、さすがに１週間で何かに気付くことはありませんでした。

引っ越しをしてから１０日目の夜、階段を上る音を数えてみると、ちょうど１０カンでした。

その次の日の朝、階段を数えてみると、１４段。

このときタカヒコはある話を思い出しました。

前の住人がことごとく２週間以内に出ていってしまうという話を――。

ここでタカヒコは直感したのです。

「２週間？　それってつまり日数にすると１４日か１５日。ってことは２週間してあの足音が上がってきたときに俺の身に何かが起こってしまうのではないか。だからみんな２週間を待たずに出て行ってしまうのではないか」

そう考えると恐ろしくて仕方がありません。しかし彼は職人です。一旦引き受けた住み込みの仕事を他のアパートに引っ越して行うなんて考える知恵がありません。

タカヒコはそのままその日の夜を迎えました。

また深夜の十二時です。

カン　　カン　　カン　　カン　　カカン　　カン　　カン　　カン

また階段を足音が上がってきました。この日は１１段まで来ました。

次の日は１２段、そしてその次の日は１３段。

そして何も出来ないまま最後の１４段の日を迎えました。

余談ですがタカヒコはビックリマンシールでは第１４段のゴーストアリババがすきでした。少年時代はそんな無邪気だった彼に、無常にも１４日目がやってきたのです。

タカヒコはその日、早めに仕事を終えました。階段を上る音が聞こえるのはいつも深夜です。

早めにアパートに戻ってきたタカヒコは

階段を増築することにしたのです。

もともと職人気質だった彼には階段の増築などお手のもの、夜１０時を過ぎる頃には立派な１５段目が出来上がっていました。

その晩、タカヒコが緊張して待っていると、やはり深夜に音が聞こえてきました。

カン　　　　カン　　　　カン　　　　カン

その音はいつもよりゆっくり上がってきているように感じました。

カン　　　　カン　　　　カン　　　　カン

一段一段音が聞こえるたびに、タカヒコの心臓の音が大きくなります。

カン　　　　カン　　　　カン　　　　カン

９…　１０…　１１…　１２…

２階の廊下までは、あとわずかしか残されていません。
「上れ…　上れ…」タカヒコは祈るような気持ちで祈りました。

カン　　　　カン…

ついに１４段まで上ってきました。このまま廊下を進まれては完全にアウトです。
タカヒコは声を潜めて次の音を待ちましたが、なかなか聞こえてきません。１５段目を上る音も、廊下を進む音も聞こえてこないのです。
タカヒコはもう生きた心地がせず、死んだような心地になりました。

幽霊も躊躇しているのでしょうか。

その間は数秒だったかもしれませんが、タカヒコには数十秒にも感じられました。

カン

そしてついに１５段目を上る音が聞こえてきたのです。

「聞こえた！　間違いない！　１５段！　１５段上った！！」

タカヒコは喜びのあまりテンションがおかしくなって叫びながら部屋を飛び出していました。
そして、首をかしげながら階段を下りようとする幽霊と目が合ったのです。幽霊の表情は微妙にはにかんでいましたが、すぐに慌ててタカヒコを睨みつけてきました。

タカヒコは一瞬何が起きているか分からずに、その場に固まってしまいました。

ズリ…　　ズリ…

先に動いたのは幽霊の方でした。

さっきまであんなにカンカンカンカン言っていたのに、足をひきずりながら近付いてきます。

幽霊とタカヒコの距離は３ｍ、幽霊が秒速１０ｃｍの速さでタカヒコに近付いていき（幽霊の手の長さは２８ｃｍとします）、２７秒後にタカヒコが光の速さで逃げたときの――

幽霊の気持ちを答えなさい。