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日記ロワイアルコミュの最悪な結婚詐欺師

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 俺は結婚詐欺師の翔。


 ある出来事の後から、人の為になる事などしないと心に決めている。


 それは小学校の頃まで遡る。
 

 上里小学校低学年の時、猫が轢かれたまま道路に放置されていた。それを怖がる人も居るだろうし、猫もかわいそうだったから、気持ち悪いけれど猫を運んで土に埋めて墓を作ってやった。


 それを近所のおばさんが見ていたみたいで、上里小学校の誰かは分からないがあの行動は中々できない素晴らしいものだった、と褒める内容の手紙が学校に送られ、それが校長先生によって全校朝会で発表された。


「とっても素晴らしい児童がこの学校に居て、校長先生も鼻が高いです。」


 俺はみんなの前で褒められた気分になり、嬉しかった。


 後で校長先生とすれ違う時に「あれ、僕がやったんだよ!」と誇りをもって言うと、「証拠もないのに、嘘をつくんじゃありません!!」と平手打ちをされた。


 褒められると思ったのに......訳が分からなかった。


 俺は痛くて、悔しくて、悲しくなった。なぜ良い事をしたのにこんな気持ちにならなければならないのだろうか、と思った。心の中はぐちゃぐちゃになって、愚直な自分を呪った。

 
 平手打ちをされたのをクラスメイトに見られたらしく、それからは、クラスで「嘘つき症の翔」というあだ名を付けられていじめられるようになった。


 誰も俺の言う事を信じなくなった。クラスみんなが無視をするようになった。小学校の遊び盛りの時に、誰も遊び相手がいないのは辛かった。誰とも話せないのは辛かった。毎日心の中で泣いていた。


 更に、あの時猫を運んだのが原因で感染症にかかってしまっていたらしく、一時期自由に走れなくなり、小学校が終わるまでずっと、大好きな体育は見学だった。感染症が原因で、常にだるくて勉強にも遊びにも集中できなかった。


 誰かの為にした事だったのに、こんな散々な目にあうのなら、やらない方がましだと思った。俺はもう誰かの為になる事なんてしないと心に決めた。


 俺はあの時から、人の為ではなく、自分の為だけに生きるようになった。自分の為に人を利用してきた。


 中でも女は馬鹿で騙されやすいから、騙してお金を手に入れようって考えだ。
 





 今、結婚を前提に付き合っているふりをしている女は本当にバカで、汚い女だ。


 名前は美香という。まあ、面倒だから呼び方は女でいい。花屋で働いている。


 あの女は結婚前だというのに、平気で俺の目の前でおならをするし、鼻の穴を思う存分ほじくり回す。


 俺はそんな彼女が大嫌いだ。


 ま、顔はかなりの美人なんだがな。でも嫌いなものは嫌いだ。

 今からこの女のプライドをズタズタのズタ袋にしてやるのが楽しみだ。


 それまでは我慢して、好きなふりをしていなければならない。そして、相手の喜ぶ事を研究して喜ばせ、女には俺の事を好きでいてもらわなければならない。全ては金の為だ。


 あの女はディズニーランドが大好きだから、誕生日に何も告げずに、目隠しをして車でディズニーランドまで連れて行って、入り口の所で目隠しをとってやった。すると、彼女は大喜びだった。あれはホントにバカみたいに汚ねえ喜び方だったなあ。


 ディズニーランドから帰ってから彼女の大好きなモンブランを2人で食べて、少し高めの彼女好みの香水を(その豚みてえにくせえ体につけやがれ、と思いながら)プレゼントして、嫌だけど節約のため一緒に風呂に入って(ガキ臭くてホントうんざりすると思いながら)ちょっとだけはしゃいだふりをして、その後、夜の営みをしてからどろどろの泥のように寝た。

 好きでもない女とこういう事をするのは本当に疲れる。
 
 
 今日はお散歩デートだ。なんでも女は俺と一緒に居るだけで楽しいらしい。勘弁して欲しい。俺はもう退屈で退屈で仕方がない。でも金の為だ。我慢、我慢。


 丘の上の公園のベンチで、俺達は寄り添って平凡な町並みを見下ろしていた。やがて、女は俺の膝の上に頭をのせてきた。重い、どいて欲しい。

 夕暮れ時だった。空はオレンジ。オレンジシャーベットの中のバニラアイスみたいな雲がゆらゆら揺れて、ブルブル震えるブルーな気持ちを、少し和らげてくれた。
 

 その後、帰ってから女が大好物のコージーコーナーの生クリームシューを食べさせた。女曰く、平凡な物が一番おいしいらしい。俺が買っておいたものだ。こういう所でもポイントを稼いで、俺をもっと好きにさせておかなければならない。女が食べ終わってからは夕食を食べ、その後、夜の営みをした。これはしておかなければ怪しまれてしまう。まあ、美人だし性欲の処理程度には役に立つ。性欲処理機だな。
 
 行為が終わってから女は俺に体を擦り寄せながら


「ねえねえ、どこにも行かないで。」


 と、はかなげな顔で言ってきた。残念ながらあんたの希望には応えらない。







 それから1ヶ月後、そろそろ結婚するから、俺の手で結婚費用を払う事にし、女が溜めた結婚資金400万円を手に持っていた。


 さて、これを持ち逃げすれば結婚詐欺が完成する。これで彼女ともお別れだ。今までの我慢の日々がやっと報われるんだ......


 せっかく2人のために今まで頑張って貯めたものが一瞬でなくなるなんて、あの女も哀れだな。


 花屋で頑張って、家では節約して、バカみてえ。



 ......なんか色々思いだしちまうな。



 ディズニーランドの前で大喜びする彼女。風呂ではしゃぐ彼女。俺と一緒に居るだけで楽しいと言う彼女。膝の上に頭をのせる彼女。平凡なものが好きな彼女。俺に体を擦り寄せながら「どこにも行かないで。」という彼女。


 なんで今更こんな事考えてるんだよ......










__________




 1ヶ月後......













 俺は今、女、いや美香との新婚旅行でハワイに来ている。



 あの時、美香の事を愛していたことに気づいた。そして、本当に結婚してしまったのだ。結婚式は盛大に開いた。2人にとって一生の思い出になる式だった。



 結局美香にとってなんの損害も出ていないのだから、俺が彼女を騙そうとしていた事は、一生秘密にしておく事にしている。その方が良い夫婦生活が出来ると思う。


 

 俺達は高級で、ムードたっぷりのホテルの一室に居た。


 そして、2人で他愛もない会話をしていた。


 ひとしきり話してから、沈黙が生まれた。それは気まずいものではなく、むしろ心地のいい沈黙だった。


 窓からは潮の匂いが漂ってきていた......


 どれくらい時間が経っただろうか、美香が不意に口を開いたかと思うと、驚くべき事を話し始めた。


「実はね.......



 私はあなたが結婚詐欺師で、私を騙そうとしてた事も知っていたわ。でも、翔を愛していたから、少しでも長く居たいと思って、騙されているふりをしていたの。でも、本当に結婚してしまったけど、どうしたの?もしかして、まだ計画の途中なの?もう私良く分からなくなっちゃった。」





 何?気付いていた?

 気付いていた?

 気付いていた?





 俺はパニックになった。

 騙されたふりをしながらも俺を愛していたなんて......俺が騙そうとしているのに、嫌な顔一つせずに俺と付き合っていたのか.....こんなにも俺の事を思ってくれていたのか。なんて優しい子なんだ。

 そんな優しい子に俺は.....


 俺は.......!!




 罪の意識で押しつぶされそうになった。これは、今までの事を全て謝るしかない、計画はもう終わった事を言うしかない、と思った。


 俺は胸から泉が湧き出るように、今まで隠していた事を話し、騙していた事を謝った。


 そして、俺は心をこめて言った。


「ごめんよ。もう計画なんてどうでもいいんだ。いつの間にか俺はお前の事を本当に愛していたんだ。

 俺はどこにも行かない。たから美香も俺と一生一緒に居てくれ!!俺がおじいさんになっても、ずっとずっとそばに居てくれ!!」


 すると、彼女は泣きながら言った。


「嬉しい。叶わないと思っていたのに。私だってあなたの事愛しているわ。ずっとずっと一緒に居たい!」


 そして、2人で強く強く絡み付くように抱き合い、激しく長いキスをした。


 .......


 唇を離すと、彼女はさらに驚くべき事を、優しく穏やかな声で話し始めた。


「実はね、私、翔と同じ小学校だったのよ。」


 何?それは初耳だ。なんで今それを言うんだ?


「あの時は私デブで引っ込み思案だったからあなたは気付かなかったでしょう。私ね、あなたが猫の死骸を埋めている所を見たのよ。とっても素敵で優しい事をしているなあと思ったのよ。その後、校長先生にビンタされたり、いじめられたり、病気になったのも知っているわ。でも引っ込み思案な私は何も言えなかった。助けてあげられなくてごめんね。あの時とっても苦しんだと思うわ。優しい事をしたのに酷い事になって、悔しかったでしょう。辛かったでしょう。」


 そうだ。苦しかった。悔しかった。辛かった。毎日心の中で泣いていたんだ。誰も分かってくれないと思っていた。でも、今初めてあの時の自分の気持ちが分かってもらえて、嬉しくて、悲しくて俺の目からは涙があふれてきた。


「でもね、見てる人はちゃあんと見てるんだから。確かにいずれは役所の人が死骸を片付けにやってくるわ。でも、その間に何度も猫は轢かれてぐちゃぐちゃになってかわいそうだし、怖がる人は、ずっと怖がる事になる。私も怖いし、通学路にあるから学校に行くのが嫌で嫌で仕方なくて早くなくならないかなって思ってた。そうしたら、翔が埋めてくれて、凄く助かったわ。周りには認められなかったけど、翔はとっても素晴らしくて、優しくて、人の為になる事をしたの。翔が結婚詐欺師だって分かった時はとても驚いたけど、そういう優しさがあるって知ってたし、小学校の頃からそんな翔の事がずっと好きだったのよ。だから翔から離れなかったの。」



 俺は目から大粒の涙をボロボロ流し、ボロぞうきんの様な顔になりながら泣いた。あの時、いじめられて苦しんだ事とか、感染症で辛い思いをした事とか、認められなかった事を思い出しながら。今、やっと認められたという事を噛み締めながら。そして、ずっと前から愛されていたんだという事に感動しながら。



「何で今更こんな事言うの?って思うかもしれないけど、あなたが本当に私の事を愛してくれるまで言わないつもりだったの。ずっと騙し続ければずっと言わないつもりだった。私を騙しているんだからそれくらいの罰は受けてもらわないとね。でもあなたはさっき、本当の意味で『愛してる』って初めて言ってくれたわ。騙した事も謝ってくれた。だから言ったの。これはご褒美。」


 美香は俺を胸に抱きながら、頭を優しく優しく撫でてくれていた。その手は温かかった。

 
 例えみんなに賞賛されなくても、与えた優しさは必ず返ってくるものなんだ。


 これからは、人の為になる事をして生きていける、と思った。






 俺は結婚詐欺師としては最悪だ。騙す相手に本気で惚れて結婚してしまったんだから。



 でも、美香を、今まで騙していた分よりもっともっとたくさん喜ばせて、最高に幸せにしてやるんだ。美香の好きなものや喜ぶものを知り尽くしている俺にはそれができる。






 この後、最高に盛り上がった俺達は、今までにないあつあつの熱い夜を過ごした。


 この熱は今後いつまでも続くだろう。

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