【主人の朝は５紙の新聞に目を通すことから始まる。
生ハムサラダと自家製酵母のパンのトースト。
挽きたてのコーヒーを飲む主人を優しく見守る。
このルーチンは５年間崩れた事がない。】
という理想を抱く私の朝は、寝癖頭を掻きながら起きてくる旦那に、５０円引きのシールが貼られた食パンと、パックの野菜ジュースと一緒に出す事から始まる。
ちなみにパンの賞味期限は昨日だ。問題ない。
【軽いキスで主人を送り出せば、子供達を送る番。
お受験に成功し、この春から名門私立幼稚園に通い始めた末娘の初々しい制服姿が誇らしい。】
という理想を抱く私は、「そんなに持てねーよ！」と文句を言う旦那にゴミ袋を押し付け、次はダラダラしている子供達をガミガミ急かす番。
あ、やべ、園服まだ乾いてないや…まっ、着てるうちに乾くか！と、生乾きの園服を末娘に着せ、「冷たい！」と文句を言われる。
どいつもこいつも一言多いんだよ。
【最近始めたフラワーアレンジメント教室までの時間に、手際よく家事を済ませる。
全自動の洗濯機だけど、私は敢えて外に干す。
お日様のニオイ！と喜ぶ子供達の顔を思い浮かべながら、真っ白のシーツを広げる時間が好きだから。】
という理想を抱く私は、最近始めたママさんバレーの時間迄に適当に家事を済ませる。
ゆうべ洗濯機に放り込んだ洗濯物を干す為に、昨日の分を取り込む。
うっ！部屋干し特有の生乾き臭が！ …ファブリーズぶっかけとくか…。
【愛車はメルセデスのＳクラス。
Ａクラスでも良かったのに、「君は昔からドジだろ？少し大きめの車に乗ってくれないと安心できない僕の為に、ね？」と主人が選んでくれた。
そんな風に言われて嬉しいのは秘密。
もう…いつまで経っても子供扱いなんだから…。】
という理想を抱く私の愛車は、実家の母のお下がりのマーチ、１２年落ち。
マッチのマーチがあなたの街にマッチする、というＣＭが分かる私は３５年落ち。
旦那に「お前がデカイからマーチが軽に見えるわw」と言われてケンカになってから更に２キロ太ったのは秘密。
いつまで経っても「ダイエットは明日から」の明日が来ないのはお約束。
【（先日はごめんなさい。もう二度と気持を口にしません。貴女に振り向いてもらえないより、貴女に嫌われる事が怖いから。）と、次男の家庭教師からメール。
１０歳も若い独身男性の好意は不愉快ではないけれど…私は貞淑な妻なのだ。】
という理想を抱く私の専らの楽しみは、よく仏壇に供える仏花を買いに行く花屋のバイトの若いお兄さんがイケメンな事。
「やっぱ花より男子よね〜」なんて懐かしい漫画を思い出す。
ちなみに実写版と言うと井上真央じゃなくて内田有紀が浮かぶ年代ですが何か？
大きな花束を作るお兄さんを見ながらニヤニヤしていると（今日は早く帰るよ〜）と、旦那からメールが。
ちっ、貴重な目の保養タイムが…。
【午後は末娘のオヤツにマカロンを作る。
色が可愛いからか、最近の一番のお気に入り。
「今日はパパ早くお帰りになるから一緒にお外でお食事しましょうね。お行儀よく出来るわね？」と言うと、「うん！良い子に出来るよ！」と笑顔で応えてくれる。
主人からディナーを予約したとメールが来たのだ。
こういう私への気遣いは結婚前からずっと変わらない。】
という理想を抱く私は、ママさんバレーで疲れて居眠り。
垂れたヨダレで目を覚ましたらもう娘のお迎えの時間という体たらく。
おやつは焼き芋だな。
栄養、コスパ共に最高。鉄板。
最近いつも旦那の帰りが遅いから、今日も実家に夕飯を食べに行って楽するつもりだったのにな。
まぁ「まったく図々しい娘ね〜アンタは」なんて母親に嫌味を言われたばっかだから丁度いいか。
こういう実家への気遣いの無さは結婚前からずっと変わらない。
【恋人時代によく来たレストラン。思い思いの料理に舌鼓をうつ。
「覚えてる？今日は二人で初めてこの店に来た日。あの頃よりも綺麗になった君
と、あの頃の二人が夢見た宝物達に…乾杯」
少しキザだけど、私も覚えていないような小さな記念日を大切にしてくれる優し
い主人とシャンパンを傾ける。
「パパとママ仲良しね！」なんて冷やかすオマセな娘。
そんな様子を見て照れ臭そうに笑う長男と次男。
主人のリクエストで、ＢＧＭも当時のものにしてくれたらしい。
私は本当に幸せ者…。】
という理想を抱く私は、独身時代にバイトしてたスーパーで、パートのオバチャンに頼んでちょっと早めに２割引のシールを貼ってもらった牛肉で牛丼を作る事にした。
丼ものは汚れる食器が少なくて助かる。オバチャン感謝！
正月に商店街の福引で当たったビール券で珍しく発泡酒じゃない方を買ったけど、それは私が飲むつもり。
旦那は質より量だからね。
夕飯まだー！？と騒ぎながら、長男がＡＫＢのＤＶＤを観ている。
興味が無くても頻繁に聴くと覚えちゃうもんで、最近気付くと「ふらいんげぇっとぉ〜ん」と口ずさんでる。
「Ａ！ＫiもいＢaばあ、でＡＫＢだなw」と旦那と息子達に言われると、息切れしようともダンスも真似してやる事にしてるのだ。
「ただいまー！」と、いつになく威勢の良い声で旦那が帰って来る。
「すぐご飯にするからチビお風呂おねが〜い」と旦那の方に目をやる。
「ほらっ！結婚７年目！」
花束をドサッと渡された。
結婚記念日…。
そうだ。
忙しい毎日に追われてすっかり忘れていた。
今日は私達の１４回目の結婚記念日だ。
「ほら！ちゅーするぞ、ちゅーだ！w」
「ちょっ…こらっ！花が潰れるし！子供ら見てるし！」
ニヤニヤした旦那がくっついてきて、慌ててそれをかわす私。
「ぶっはwwおかん照れてやがるwww」と冷やかす長男。
「やめろマジきもいw」と笑う次男。
末娘は「ずるいずるい！あたしもちゅーしたいー！」と騒いでいる。
ムードも無けりゃあ品も無い。
ジャンルで言えば月９ドラマの筈が、これじゃあコントじゃないか！
しかもこれ、今日の夕方にイケメンお兄さんが作ってた花束じゃないのよ…いや
ん…///
おっ…おっといかんいかん。
しぶしぶ旦那にちゅーをしてやる。
「んっ？なんか肉グツグツ煮えてんけど？」
「んあああああっ！アンタがちょっかいかけてくるからでしょーっ！！」
「ちょっかいも失敗もいつもの事だろ？wwおいチビ〜風呂いくぞー♪」
「はぁーい！」
お風呂場から聞こえる動物園みたいな騒音をＢＧＭに、旦那の分も発泡酒じゃない方を用意した。
いつの間にか鼻歌はＡＫＢから、昔二人で良く聴いたtrfに変わっている。
今夜は、
理想よりもずっとずっと退屈で、平凡で、
理想よりもずっとずっと安っぽくて、かっこわるくて、
でも、理想よりもずっとずっとずっと素敵で、愛おしい私の毎日に、乾杯したいと思う。
ま、花束買ったから金欠！って言ったって臨時お小遣いはナシだけどね！！
おしまい★
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