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日記ロワイアルコミュの犯人は、あなた

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前略

 白露の候、皆様におかれましては益々ご清栄のこととお慶び申し上げます。




 このたびは、私の遺体を発見してくださって、ありがとうございました。あまり腐乱していないことを願いますが、まだ、形は保っているでしょうか。お盆が終わったばかりで、まだまだ暑い日々が続く季節でございますし、私が息を引き取ってからどれだけの日数が経過しているか判りません。娘息子は、たまにしか連絡をよこさない親不孝者です。近くに住んでいるというのに、孫の顔もたいした見せにきてくれません。枕元に立って恨みつらみを言いたいところですが、そんなことをしても、彼らはいびきをかいて寝ているような気がします。



 こうして冷静な文章をつづっておりますが、包丁でざくりと刺された背中から、いまもどくどくと赤い液体が流れ出ております。A型です。ずきずきして痛いです。あと数十分もしないうちに、出血多量で私の意識はとおくなるでえええええええええええええええええ




 ……あ、危ないところでした。意識がふらりと遠くなったので、手元にあったバファリンを飲んで、何とか意識を回復することができました。さすが、薬の半分が優しさでできているだけはあります。

 
 はじめに申し上げておきますが、おそらくこの文章を読み返して推敲している時間は、わたひには残されていないでしょう。ですので、多少の誤字脱字があっても、寛容な心で許していただければと思いましゅ


 

 さて、こうして死に行く瀬戸際でパソコンを立ち上げ、文字通り、一生懸命タイピングしているのにはわけがあります。

 なんとわたくし、とある人に包丁で背中を刺されてしまったのです。

 いやん。

 後ろ指をさされたり、殿方のエロチックな視線にさされたりと色々なことがありましたが、まさか72歳という、まだまだ老後を楽しみたい若さで殺されるとは夢にも思っておりませんでした。先日購入した、「水戸黄門の全て! ビデオテープ600巻セット」もまだ見終わっておりません。非常に残念です。



 ちなみに文章の書き方が若いのは、日ごろから出会い系サイトでサクラのバイトをしていたからでございます。そのときの源氏名は、「愛莉」でした。実際の名前は「ハル」です。でも、11月生まれです(季節のあいさつでは、晩秋の候などと申します。私、俳句をやっておりましたので、季語には詳しいのでございます)。

 顔も見たことのない殿方に好きな飲み物を訊ねられて、「梅昆布茶」と素直に応えてしまったときには、サクラ失格かと思ったものでした(何月生まれと訊かれて、霜月と答えてしまったこともあります)。いまではおしゃれに、「ジャワテーストレート」と言えることができmmmmmmmmmmm












 ……あ、あぶないところでした! 三途の川の向こうで、数年前に亡くなった夫が「ゴール」と書かれた旗をふっているのが見えました。意識が朦朧とするなかで、何とか手元にあったオロナミンCを飲むことができました。おかげでファイト一発です!

 さあ、はりきってダイイングメッセージを書きますよ!

 

 そうですそうです、こうしてパソコンを立ち上げたのは、ダイイングメッセージを書きたかったからでした。ご存知でしょうか。推理小説や刑事モノのドラマで、殺害された人間が、犯人を示すヒントを書き記す、あれです。難解なヒントに、時には探偵などが四苦八苦しつつも、最後には犯人を推定していくあれです。

 わたくし、出会い系のサクラをしているときに、殿方から「名探偵コナン」という漫画を薦めてもらって、読み始めたのです。そしたらそれが、おもしろいじゃありませんか。

 すっかりはまってしまって、「私もいつか、ダイイングメッセージ、書いてみたいなあ」なんて思っていたんです。幼少のころからなぞなぞなどが好きで、

『おいたうたさぎ、このうたらみはらさでたおくたべたきたか!!
  たぬき』

 という問題に夢中になったり、自分でも、

『クラスメイトの内田くんに好きな女優を訊いたら、照れ屋の彼は、ハガキに「母はりん」と書いてよこしました。誰でしょう?』
 
 なんて問題を作ったりしたものでした。

 だから、自分でも作成してみたいと思っていたのですが、そしたらなんと、ばっちりざっくり刺されたじゃありませんか。日ごろから恨みを買うようなことをしていた覚えはありませんが、刺されてしまったものは仕方ありません。これは逆に、千載一遇のチャンスです。

 そこで、刺された台所から這って進んで、なんとかちゃぶ台の上にあったノートパソコンを立ち上げ、汗だくかつ虫の息になりながら、タイピングを続けている次第です。



 これを読んだあなたは、

「なんてアホなんだ。そんなことする前に、病院に連絡すれば、助かったかもしれないじゃないか」

 とおそらく思っていることでしょう。しかし、こんなことは、一生に一度しかできません。この機会を逃したら、私は死んでも死にきれません。事実、私はこの文章を作成しながら、実に満ち足りた気持ちになっております。おだやかな、まるで、天にも昇るような心地です。
















































 どぅわーーーー!!!

 危ないところでした。本当にふわふわと昇りかけておりました。もしも手元にあった仁丹を服用していなかったら、どうなっていたか判りません。光に包まれて気持ちよかったですが、帰ってくることができて良かったです。
 

 もしかしたら、残された時間が少なくなってきたかもしれません。うっかり傷口に触ってしまった指でタイピングしているので、キーボードが真っ赤に染まっております。さらに、うっかり吐血までしてしまいました。モニターに血しぶきが飛んで、若干見づらいです。

 それでも私は、がんばります。



 さて、まずは私が必死になって考えた、犯人を示す暗号から発表したいと思います。

 じゃじゃん。



※※※

『前略+穴』『後略+次』『前略+仁』『後略+次』『後略+ハ』『後略+た』『前略+穴』『後略+草』『後略+仁』『後略+沢』『前略+雪』『前略+仁』『後略+加』『後略+仁』『どっちか略+多』

※※※



 うふふ。いかがでしょうか。簡単すぎましたかね? 暗号を解くヒントとしては、「どっちか略」の部分でしょうか。


 ほんと、刺されて死にそうになっている虫の息で、必死に呼吸し、必死に一分でも長く生き延びようとしながら、考えました。

 ところで、「必死に生きる」っておもしろい表現ですね。「必死」は「必ず死ぬ/死ぬ覚悟でやる」という意味ですから、「死ぬ覚悟で生きる」というと、死ぬんだか生きるんだか判然としません。

 とりあえずいま、私は必死に生きています。


 
 それではここで、容疑者について記したいと思います。推理小説でもなんでも、必ず容疑者が登場しますからね。

 もちろん、私は犯人のことをわかっておりますが、ただそれを記すだけでは面白くありません。名探偵コナンのように、あなたに推理してもらって当ててもらいたいのでございます。それが、ダイイングメッセージの醍醐味です。私はそれを演出したいのです。


 一人目は、となりに住む山田聡子さん(74歳)です。

 彼女とは、老人会でも犬猿の仲で、殺人の動機があったかと問われれば、真っ先に浮上するご婦人かと思います。

 先日のことでした。町内のカラオケ大会があり、私は自慢の喉を披露して、優勝を飾りました。三位だった山田さんは悔しかったのでしょう。私が、審査員だった町内会長(63歳)に身体を売って優勝を得たんだと、彼女は2chの「巣鴨板」に書き込んだのです。しかも、「メガネを外したのび太顔のくせに生意気だ」とまで、辛辣な文章をつづっておりました。74歳のくせに、やることが陰険です。

(町内会長と肉体関係にあるのは本当でしたが)私は悔しかったので、翌日一緒に行ったカフェで、彼女が注文したパフェの一番上に載っているサクランボをすばやく奪って、食べてやりました。

 彼女は猿のように悔しがり、「この恨み、晴らさでおくべきかっ。ウキ!」と、持ち前の明るさで場を盛り上げていました。

 食べ物の恨みは、殺人の動機として充分かと思います。



 二人目は、穴田裕子さん(38歳)です。

 彼女は保険のセールスマンで、よく私の家にきておりました。契約したのがきっかけでしたが、面倒見がよく、私のことを本当の家族のように慕ってくれていました。

 だから、私は彼女に、よく言ったものです。めったに遊びにきてくれないうちの子供たちより、あんたのほうがよっぽど身近に感じる。保険金の受取人も、あなたにしちゃおうかしら(笑)――という感じで。

 家族のひとりのように思っていると私が言ったことを、彼女は照れくさく思ったのでしょう。穴田さんは蛇のような無垢な表情で、「まあまあ、おばあちゃんったら、そんな冗談、言っちゃいけませんよ」と、恥ずかしそうに舌をなめずり回していました。涙が浮かんだのか、目がギラリと光っていました。

 そういえば、彼女は私の失くした物を探し出す名人でした。印鑑や通帳が家の前に落ちていたといって、よく拾ってきてくれたものでした。なんて親切なんだろうと、会うたびに違う指輪をしている手を握り、礼を述べたものでした。

 そんな彼女にも欠点がありました。料理がとても苦手らしいのです。

 昔ながらの家庭料理を教わりたいと、たまに台所で一緒に料理をしていたのですが、彼女が包丁を握って野菜を切ろうとすると、とたんにそれの軌道が変わり、私の袖口を切ったり、背中の服を切ってしまったりしていたのでした。なんてぶきっちょうなのでしょう。私はよく笑ったものでした。

 そんな彼女が、先日、町内会長さん(63歳)と手をつないで、ラブホテルから出てきたのを目撃してしまいました。彼女は驚いていました。そのとき、誰にも言わないよう約束させられたのですが、もしかしたら口封じのために殺された可能性があります。彼女には旦那さん(79歳・金持ち)がいるのです。殺人の動機としては、充分です。

 というわけで、二人目の容疑者は穴田さんです。

 

 さて、三人目の容疑者なのですが、みなさま申し訳ありません。わたくし、意識が朦朧としてまいりました。目がちかちかし、モニターがしっかり見えません。それなのに、亡くなったはずの夫の姿がはっきりと隣に見えます。私の横に座って「まだー?」という顔で、サンデーを読んでおります。

 本来であれば、容疑者の名前、その人柄、殺人の動機などを書きたいところですが、おそらくその体力は残されていないでしょう。いまも完全に、ブラインドタッチの状態でタイピングしております。文字通り、目が見えなくなってきているのです。

 というわけで、三人目は、名前だけ記しておきます。

 どうか警察のみなさま、私の念願だったダイイングメッセージ、解いてくださいね。

 
 
 というわけで、三人目は、北瑠奈(11歳)です。






 最後に、俳句詠みとして、、、辞世の句をおおおおおおおおおおお


























追伸










 じいさまと、水戸黄門が、観たかった









 ◇◇◇







 ハルは満足だった。念願のダイイングメッセージを脱稿して、思い残すことなく、天国へと旅立つことができそうだった(水戸黄門以外は)。

 最後の力を振りしぼり、ワードのファイルを保存する。名前は「ダイイングメッセージ」。はたして、警察、もしくは探偵のひとがこれに気づいて犯人を特定してくれることを、ハルは願った。

 だが、彼らが暗号に首をかしげ、解いて一喜一憂していく姿を見届けることができないのだけが、悔やまれる(水戸黄門も)。

 血だらけの手をパソコンからおろし、畳に横たわる。となりに座っていた夫が、「そろそろかい?」という顔でハルを見、サンデーを閉じた。

――そうですよ、お父さん。これからもまた、よろしくお願いしますね。

 意識が遠くなるにつれて、痛みが薄くなっていく。うるさい蝉の声も、どんどん遠ざかっていった。汗ばんでいた身体も、すっと冷たくなっていく感じがする。これが死なのかと、ハルはその感覚を受け入れた。

 目を閉じながら、じぶんが作った暗号を頭の中で確認する。おそらく問題はない。一つ目はすぐに判るだろう――。

 漢字の暗号は、こうである。


※※※

『前略+穴』『後略+次』『前略+仁』『後略+次』『後略+ハ』『後略+た』『前略+穴』『後略+草』『後略+仁』『後略+沢』『前略+雪』『前略+仁』『後略+加』『後略+仁』『どっちか略+多』

※※※


 前略、後略というところから、まずは「あな」や「つぎ」という読みを分けてみたくなるだろうか。しかし、それでは「ハ」や「た」が分けられないことに気づくだろう。

 ヒントは「どっちか略」の「多」という漢字である。よく見ると……両方とも「タ」と「タ」を組み合わせた漢字だと気づく。「どっちを略しても同じ」ということからも、そうに違いない。そうすると、カタカナがあやしいと思い至る。

「穴」は「ウ」と「ハ」に分けることができ、「次」は、「ン」と「欠」に分けることができる。これを、「前略」「後略」などと合わせていくと、


ハンニンノナハサイシヨニカイタ
 ↓
犯人の名は最初に書いた


 となる。

 最初といえば「題名」である。

 つまり、「犯人は、あなた」だ。

「えっ!? 犯人、おれ??」

 と思ったあなたは、そんな覚えはないだろうし、

「そうか! 穴田裕子が犯人だ!」

 と思ったあなたは、ハルのいじわるに引っかかっている。

 実は冒頭で、おかしな表現がある。

 ダイイングメッセージの中にもあるように、ハルが刺されたのは「お盆が終わったばかり」の、八月のことである。

 しかし冒頭で、ハルはこう文面をはじめる。


「白露の候、皆様におかれましては益々ご清栄のこととお慶び申し上げます。」


 ここに違和感がある。

「白露の候」は九月につかわれる時候のあいさつで、八月ではない。季語に詳しいとわざわざ記すハルが、ここで間違っているのは不自然だ。

 つまり、「九月」に何か意味があると感じられる。

 九月。

 くがつ。

「く」が「つ」。

 自分でも、

「ハガキに書かれた『母はりん』」→「は」が「き」→「はははりん」→「きききりん」→「樹木希林」

 という問題を作っていたとあるので、これは、いいところをついていると思われる。

 しかし、あいにく「犯人は、あなた」のなかに「く」という文字はない。だが、「九月」はおおいにあやしい。

 そこで、「九月」を他の呼び方にしてみようと考える。

 September、9월、أيلول――。

 いや、もっとハルにとって身近な呼び方。……それは、旧暦ではないだろうか。「霜月」の話題が突然出てきたことも考慮しても、あやしく感じる。

 九月の旧暦の呼び方は、「長月」だ。

 長月。

 ながつき。

『「な」が「つき」』。

 つまり、犯人を示す「あなた」が、「あつきた」になる。

 ここで忘れてはいけないのが、冒頭にある「前略」である。漢字の暗号もそうだったのだから、ここでも「前」を削る必要がある。

 つまり、「犯人は、きた(北瑠奈)」となる。





 北瑠奈が誰のことかは、わからない。それは、警察が解明するだろう。



 ハルは息をひきとった。満足そうに笑みを浮かべて。警察がこのダイイングメッセージを解明し、犯人が特定されることを願いながら。静かに死を迎えた。

















 それより10分前に、犯人が自首したことも、知らずに。

コメント(126)

こんな古いのサルベージしてくれた111さん、ありがとう。
お陰で面白いものに出会えました。
一票〜

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