日記ロワイアルコミュのベテルギウスが爆発しても。

ふたりで並んで空を見上げる。
この場所で一緒に星を見るのは、もう何度目になるだろうか。

「お！あの三つ並んでるの、オリオン座だろ？」

そうだよ、と答えると嬉しそうに笑う彼の笑顔は、昔あれがオリオン座だよと教えてあげたときと変わらない。
目がなくなっちゃう、くしゃっとしたかわいい笑顔。

「この前会社の先輩たちとメシ行くとき、ちょうどオリオン座が見えてさ。あれオリオン座ですよねって言ったら、お前が星の名前を知ってるとは思わなかったって言われた。…まあ、俺もお前から習ったのがいくつかわかる程度だけどさ。」

そうだった。当たり前のようについてきてくれるけれど、彼は別に星に興味があるわけではない。各シーズンに一度は観測…と言うと大げさだけれど、星を見に行くワタシに付き添ってくれている。夜中に山道をひとりで行かせられないだろ、と。

「今日は何の話をしてくれんの？」

うーん…そうだなあ。
じゃあ、オリオン座の話をもう少し詳しく。
さっき言ってた三ツ星はtristarと呼ばれててね、オリオンのベルトなの。

「ベルト？オリオンって人間なの？」

オリオンは狩人だよ。イケメンでね、とっても身体が大きいの。
三ツ星の右下に大きな星が見えるでしょう？あれはリゲルって名前の一等星なんだけど、意味は「巨人の左足」ひねりがないよね。

「なるほど、三ツ星のあたりが腰で、あのでっかいのが足か。じゃあ三ツ星の上にあるのが肩ってこと？」

そういうこと。三ツ星から左上に大きくて赤い星があるでしょう？あれはベテルギウス。これもとっても大きい一等星なんだけどね、名前の意味は「巨人の腋の下」。

「腋の下！！！センスねー！」

ベテルギウスはね、2012年に爆発しちゃうって言われてるんだよ。

「2012年ってすぐじゃん！爆発したらどうなるんだ？」

さあ…こんな近くでこんな大きな星が爆発するのははじめてらしく、いろんなことが言われてる。
太陽が二つみたいな日が何日も続くとか、夜がなくなるとか、人類に有害なものが降り注ぐとか、それはないとか…。
爆発するまで誰にもわからないから、話題になってるんじゃない？

「地球から近いんだろ？わからないとか言ってないで対策とかしなくていいのか？みんなで地下のシェルターに隠れたりしてさ。」

…きっと、大丈夫だよ。

近いって言ったって、他の星に比べてというだけで、実際は640光年も離れてる。もちろん爆発してしばらくは、すごく明るかったりして、少しは影響があるかもしれないけどさ。
いつのまにか落ち着いて、オリオン座を見上げても左上に「巨人の腋の下」がないことが当たり前になるんだよ。
なくなる前はすごく不安で、なくなったら生きていけないんじゃないか、なんて思うことも、なかったらなかったでそれに馴染む日が来る。
すぐ隣にいるような気がしても、本当は手なんか届かないようなとっても遠いところなのかもしれないしね。

「…？」

何の話かなんて全くわからないという顔をしていた。
そうだろう。

…ベテルギウスの話をしていたのに、途中から私情を挟んでしまった。

彼がワタシじゃない女の子に惹かれていることを、知ってしまった。聞くつもりなんかなかったし、聞きたくなんかなかったけれど、彼と彼の友人の話を立ち聞きしてしまったから。

いなくなることなんて考えられない。

ずっとずっと、隣で笑っていてくれるものだと思っていた。

だけど、

どれだけ近くにいるつもりでも、それは相対であって、実際はやっぱり他人同士。

知らないこともたくさんあるし、知れないこともたくさんある。

離れてしばらくはツラいだろう。大きくて綺麗な星がいなくなるんだから。

それでも、しばらくすればきっといないことに馴染む日が来る。

ワタシは小さくても恒星でありたい。

彼がいなくなっても、ちゃんと光ることができる。

浮気をしたことを本当は少し怒っているの。彼を「腋の下」に例えたのは、最後の意地悪だった。

大好きだったけれど、もうお別れです。

誰よりもベテルギウスの爆発に脅えているのはワタシなのかもしれない。

どうか、どうか、

たいしたことありませんように。