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日記ロワイアルコミュのケニーがくれた、プレゼント

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 仕事を終えたピーターが家に帰ると、六歳になる娘のケニーがクリスマスツリーの横で泣いていました。

「どうしたんだい?」

 ピーターは肩にのっていた雪をはらい、ネクタイをゆるめながら、腰をかがめて、両手で顔をおおっているケニーの頭をなでました。

「えーん、えーん」

 なにが悲しいのか、ケニーは一向に泣き止む気配をみせません。「やれやれ」とそっとため息を吐き、ピーターは彼女の横に腰をおろしました。

「いつまでも泣いてたら、パパも泣いちゃうぞ」

 そう冗談を言うと、いつもは泣きながらもすぐに笑い出すというのに、今日のケニーは違いました。しゃくりあげ、いつまでも肩をふるわせています。ピーターは、「おいで」と、ケニーを引き寄せ、足の上に座らせました。彼女はピーターの胸に顔をうずめ、泣き続けました。

 ピーターは、そのまま、そっと彼女の背中をなでつづけました。外の空気で冷たく、赤くなっていた手が、ゆっくりと温まっていきます。やわらかい光を放ちながら燃えている暖炉の薪が、パチパチと鳴り、音を立てて崩れました。

 やがて、すこしずつ泣き止みだしたケニーが、ぽつりぽつりと、今日あった出来事を話し始めました。


◆◆


 今日はクリスマス。あたしは毎年サンタさんからクリスマスプレゼントをもらっているけれど、パパがもらっているところを見たことがない。もしかしたらパパはよい子じゃなくて、悪いことばっかりやってるからサンタさんが来ないのかもしれないけれど、それじゃあ、なんだかかわいそうだ。

 よし、今年はもらったおこずかいもいっぱい残っていることだし、わたしがパパになにかプレゼントを買ってあげよう――そう、ケニーは考えたそうです。



「でもね、でもね……」

 と、ケニーがまた泣き出してしまいました。鼻をぐすぐすと鳴らし、しゃくりあげながら、話を続けます。



 財布を持って、ケニーは街へと出かけたそうです。いったい、なにをプレゼントしたらいいかなあ――ケニーは悩みながら、てくてくと店を見てまわりました。

 一件目に入った本屋さんで、ケニーはお気に入りの絵本の新作を見つけました。それは、毎月新刊が出ているシリーズ物で、パパが、寝る前にケニーに読んでくれる本でした。パパも大好きらしく、「今月のコロリンちゃんはどんな冒険をしたのかな?」と笑顔で訊ねてきます。

 これを買おう! ケニーは思いました。でも、パパへのプレゼントというよりは、じぶんへのプレゼント、という気がします。いままでの本も、ぜんぶケニーの部屋の本棚に並んでいるからです。

 どうしようかしら。ケニーは悩みました。パパへのプレゼントを買わねばなりませんが、ケニーは今日、どうしてもこの本を読みたくなってしまったのです。

 ケニーは財布を覗き、決めました。まだお金はいっぱいあるから、本を買ってもだいじょうぶ。パパもきっと、本を見たらわくわくしてくれるに違いないわーー。

 会計を済ませ、本を入れてもらった紙袋を持ち、ケニーは再び、街を歩き始めました。

 いったいなにを買おうかしら。いろんなものが浮かんでは消え、消えては浮かんでいきます。

 とことこ歩いていると、さみしい路地裏から、キャンキャン鳴く声が聞こえてきました。なんだろうと思ってそちらに進むと、ダンボールの箱に入れられて、子犬が捨てられていました。丸まったり、尻尾を振ったりしているのが四匹ほどいます。ケニーが腰を下ろして手を出すと、白い毛の子犬が、ぺろぺろとその手を舐めました。

「ごめんね」

 ケニーは謝りました。

「うちではペットを飼えないの」

 以前、捨て猫を拾って帰ったとき、ママに、「ダメよ」と注意されたのです。

「もっとわたしがおおきくなったら飼えるんだけど、いまはだめなの。ごめんね」

 頭をなでると、白い子犬は舌を出し、喜ぶように尻尾をふりました。ケニーは目をつぶり、もう一度、謝りました。

「そうだ、ちょっと待っててね!」

 ふと思いつき、ケニーは走っていきました。十分ほど経ったでしょうか。彼女は息をはずませ、大きな紙袋を持って帰ってきました。

「これ、食べて!」

 ケニーは、肉やミルクなどを袋から取り出しました。子犬たちがうれしそうに、その肉に飛びつきます。

「これ食べて、元気だして。きっと、そのうち、すてきなひとがお前たちを拾ってくれると思うから」

 ケニーは立ち上がり、「バイバイ」と小さく手をふって歩き出しました。しかし、なにか忘れ物でもしたのか、路地裏から出る前に急に立ち止まり、パタパタと走って、戻っていきました。

「ちょっとそのまま大人しくしててね!」

 声をかけ、ケニーは、「うんしょ、うんしょ」とダンボールを引っ張り始めました。中で子犬たちが、びっくりしたように丸まります。

「うんしょ、うんしょ」

 ずるずると引きずり、大きな通りに面した歩道までダンボールを出しました。このほうが目立ち、拾われやすいだろうと考えたのです。

「これで、よし!」

 バイバイ! と声をかけ、今度こそケニーは歩き出しました。やがてそれは早歩きになり、小走りになって、ケニーは、遠くの交差点を走って曲がっていきました。


◆◆


「いったい、なににしようかなあ……」

 パパへのプレゼントをずっと考えていますが、なかなか思いつきません。歩き続けたせいもあって、すこし、足が痛くなってきました。

「そうだ、ちょっと公園で休んでいこうっと」

 近くにあった公園で、ケニーはぶらんこに乗りました。いつも遊んでいる仲間達はどこへ行ったのか、今日は誰もいません。きこきこと音を響かせながら、ケニーはぶらんこを揺らしました。

「ごほっごほっごほっごほっ!」

 すると、後ろの茂みからとっても苦しそうな咳が聞こえてきました。なんだかとってもひどい風邪をひいているようです。ケニーはそっと近づき、木のあいだから声のするほうを覗いてみました。

「ごほっごほっごほっ」

 そこにはダンボールで作られた家があり、ぼろぼろになった自転車などが転がっていました。咳の主は、どうやらダンボールの中にいるようです。

「ごほっごほっごほっ」

 とっても苦しそう……、ケニーは思いました。でも、こういう場所に近づいてはいけないとママから厳しく言われているのを、ケニーは思い出していました。

「ごほっ、ごほっ、ううぅぅぅ」

 外はとっても寒いのに、こんなところで寝ているなんて、風邪をひいてあたりまえです。ケニーは考えました。

「そうだ!」

 ケニーは閃き、走り出しました。やがて十分ほどして、彼女は帰ってきました。買ってきた紙袋をそっとダンボールの家の前に置き、すこし離れ、ケニーは大きな声を出しました。

「おじさん、あったかいコーヒーを飲んで、元気だして! あと、あったかいパイも食べてね!」

 そう言うと、ケニーは走り出しました。後ろからがさごそと、ダンボールの家のドアが動く音がしましたが、ケニーは振り返りませんでした。そのまま走り続け、公園から出ても、走り続けました。遠くの交差点を曲がるまで、走り続けました。


◆◆


「そうだ、パパには手袋を買ってあげよう!」

 公園から去ってしばらくしたのち、ケニーは閃きました。すこし前にパパは、手袋をどこかに忘れてしまったらしく、いつも真っ赤な手をして仕事から帰ってくるのでした。たまに、本を読んでいるケニーに後ろからそっと近づいて、「ただいま!」と、その冷たい手を首につけたりします。そのたび、ケニーはキャー! と悲鳴を上げ、逃げまわりました。

「そうだ、手袋にしよう!」

 思いついた途端、ケニーは走り出しました。3ブロックほど行った先に、洋服屋さんがあるのです。

「手袋、くーださい!」

 お店に入り、ケニーは大きな声で言いました。太っちょのおじさんが、「はいはい」と大きな身体をゆすり、カウンターから出てきました。

「おじさん、パパの手袋をください!」

「はいはい、どんなのがいいかね?」

「あったかいやつがいいです!」

「はいはい」

 そういうと、おじさんは色んな手袋を見せてくれました。そのなかで一番あったかそうな、真っ赤な手袋を、ケニーは選びました。

「これ、くーださい!」

「はいはい」

 おじさんはレジを打ち、値段を告げました。ケニーは、驚きました。そんなお金、持っていません。

「すいません、おじさん、もっと安いのありますか?」

「はいはい、ありますよ」

 しかし、そうして見せてくれた手袋も、ケニーには買えない値段でした。ケニーは、「一番安いの、どれですか?」とおそるおそる訊きました。

「一番安いのは、これだよ」

 おじさんは不機嫌そうに、薄いぺらぺらの手袋を出してきました。しかし、その手袋の値段も、ケニーのお金では足りませんでした。

「そっか、いろいろ買っちゃったから……」

 ケニーはがっかりと肩を落としました。おじさんが、指でこつこつとカウンターを叩きながら、「買うのかね、買わないのかね?」と訊いてきます。

「実は、お金が……」

 そうしてケニーは訳を話しました。自分のために絵本を買ってしまったこと、そのほかにも、捨てられていた犬に食べ物を買ったこと、そして、知らないおじさんに温かい食べ物を買ってあげたこと。

「そんなことは、おじさんの知ったこっちゃないね。で、買うのかね、買わないのかね? えっ? どっちなんだね?」

 おじさんがむすっとして訊いてきます。ケニーは、「いえ、すいませんでした……」と言って、とぼとぼと店を出て行きましたーー。


◆◆


「だ、だ、だからね……、なに、なに、なにも……なにも買えなかったのっ」

 点滅するクリスマスツリーの横で、ケニーは再び泣き出しました。ピーターはだまって、その背中を撫で続けました。

 まだ雪がしんしんと降り続いているのでしょう。窓の外から、どさっと、雪の落ちる音が聞こえてきました。

 やがて、ケニーの泣きじゃくる声がおさまってきたころ、ピーターはそっと話し出しました。

「ケニー、本当にありがとう」

 優しい声でそう言うと、ケニーが顔をあげました。

「プレゼントは確かに買えなかったかもしれないけれど、ケニーがプレゼントを買ってあげようと考えてくれたことや、子犬たちに優しくしたこと、そして、パパのためにあっちこっち行ってくれたことが、パパはほんとうにうれしいよ。それがなによりの、クリスマスプレゼントだよ、ケニー」

 にっこりほほ笑むと、ケニーは、「でもぉ」と言いました。

「ううん、ケニー。プレゼントはときに物じゃないんだよ。物よりも大切なものもあるんだ」

 きょとん、とした顔で、ケニーがピーターを見ます。

「ふふふ。ケニーにはまだむずかしいかな。もうちょっと大きくなったら、わかるようになると思うよ。それにね」と、ピーターは両手を、ケニーの頬に当てました。「ほら、たしかにパパは手袋をなくしちゃったけれど、ケニーと一緒にいるだけで、こんなにあったかくなるんだよ。ケニーがパパの手袋代わりだよ」

 ピーターは、ケニーに、ほほ笑みました。

「でもぉ」とケニーが口をとがらせます。「パパの手、冷たくて『キャー!』ってなるんだもん」

「あはははは」

 笑っているうちに、ケニーも一緒に笑い出しました。すっかり涙は、乾いているようです。

「パパぁ」とケニーは言いました。「ごめんね、パパ。プレゼント買えなくて」

「大丈夫だよ、ケニー」ピーターは言いました。「本当に、最高のクリスマスプレゼントだったよ」

 そうしてピーターは、ケニーをギュッと抱きしめました。ケニーもピーターを、ギュッと抱きしめました。

「ところでケニー」ピーターは訊ねました。「今月のコロリンちゃんはどんな冒険をしたのかな?」
 
 ケニーが、にっこりと笑います。

「ケニーもまだ、読んでない!」

「よーし、じゃあ、ご飯の前に、ちょっとだけ読みにいこうか」

「うん!」

 ふたりは立ち上がり、手をつないで、ケニーの部屋へと向かいました。ぱちぱちと音を鳴らす暖炉の薪が、あたたかい光を放っていました。

コメント(87)

文句なしの一票!

私の子供達もこんな風に育ってほしいな。

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